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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百七十四話 さようならアスク

50万アクセスを達成しました。これも皆様のお陰です。これからもどうぞよろしくお願いします。

 今日は忙しい。防具探しで食った時間を取り戻さないといけない。


 朝、朝食を詰め込んで部屋の散らかった荷物を拾って虚ろの鞄に詰め込む。僕の脱いだインナーやダニエラのパンツなんかも纏めて突っ込む。今度、川とかで綺麗に洗うしか無い。一通り詰め込んでしゃがんで床の上にゴミが落ちてないかの確認。それも済めば引き払う準備は完了だ。


「ダニエラ、行くぞ」

「ちょ、ちょっと待て。トイレ……」

「もー……」


 慌ててトイレに駆け込むダニエラに呆れの視線を送りつける。待ってる間に窓を閉じて鍵も掛ける。戸締まりも大丈夫。部屋の鍵も持ったし。


 最終確認が終わった所でダニエラが出てきたので2人で部屋を出る。短い間だったけれど、お世話になりました。




 エントランスには朝食を食べ終えてくつろぐ宿泊客が何人か居た。彼らを流し見ながらカウンターに行くとクラマスさんが待ってましたよと微笑みながら会釈をする。


「今日でアサギ様もダニエラ様も旅立ってしまうのですね」

「えぇ、お世話になりました」

「いえいえ、お世話するのがお仕事ですから」


 うふふ、と口元を隠しながら上品に笑うクラマスさん。だが本性はサディスティックな女性だ。


「あら、どうかしましたか?」

「いえなにも?」


 何事も無かったかのようにカウンターに鍵を置く。まぁ無いんだけどね。何も。


「じゃあ、行きます。また来た時は泊まらせてください」

「はい、いってらっしゃいませ。お二人の旅が良いものになりますように」

「ありがとう。世話になった」


 深々と礼をするクラマスさんに会釈を返して宿、『せせらぎ亭』を出る。最後まで小川のせせらぎが耳に心地良い宿だった。皆もアスクに来た時はこの宿に泊まるといい。居心地も良いし、女将も美人だ。部屋も綺麗だし文句なしだぜ。



  □   □   □   □



 宿を出た僕達はベーコンの居る港地区衛兵詰所へ向かった。何だかんだ言って最初に世話になった人だし、別れの挨拶はしておこうということになった。2週間も住んですっかり道も覚えたので近道を通ってさっさと詰所へと行く。

 カウンターでベーコンの名を出すと居場所を教えてくれる。なんでも、今は商業船が港に着いたので荷物と人員の検査の指揮を執っているらしい。此処には居ないのかと若干の面倒臭さを覚えたが、まぁ港まで距離は無いので許すことにした。




「ほう……立派な船だな……」


 ダニエラが港に着いた大きな船を見上げて驚く。確かに僕も驚いた。川幅は結構あるが、これほどの船が走っても川底を擦らないとは。見た感じ全長50mくらいだろうか。船の事は門外漢だけど、結構大きい方なんじゃないか?

 この町に来る途中で見たおっさんの船よりかは遥かに大きいしな。


「お、アサギにダニエラさんじゃないか。何してんだ?」


 と、2人で船を見上げていたらベーコンが寄ってきた。何だ此奴と思ったけれど、挨拶しに来たことを思い出した。


「やぁベーコン」

「ユーコンな」

「今日、僕達は町を出るからさ。別れの挨拶に来たんだ」

「スルーかよ……って、もう行っちまうのか。寂しくなるな」


 嘘言え。僕達が会話したのは最初の2日だけだろうが。


「ま、気を付けてな」

「あぁ。また来た時は顔出すよ。それとクラマスさん、脈ないから諦めた方が良い」

「えっ、嘘でしょ……そんな、マジかよ。いつも優しく微笑んでくれるから、俺……」


 残念ながらそれは猫被ってるだけだ。偽りの仮面だ。


「でも良い方法がある」

「な、何だ? おい、教えてくれ!」


 僕はベーコンの肩に腕を回して顔を寄せて小さな声で教えてやった。


「あの人、ドSだから虐めてくださいって言ったら虐めてくれるぞ」

「お前、嘘だったら追い掛けてとっ捕まえて檻に入れるからな」


 あ、此奴、信じてないな?

 まぁ信じるか信じないかはベーコン次第だ。僕は道を示しただけだ。


「ま、そういうことだから頑張れ。達者でな」

「おう。なんか、腑に落ちないが、お前達の旅の無事は祈ってるよ。ニコラでの件、本当にありがとうな」

「良いって。成り行きだ」


 手を振り、別れの挨拶を済ませてダニエラと2人で歩きだす。次に向かうは職人街。『白百合服飾店』だ。挨拶を済ませたらその足で東門を出る。


「……でも、自分から虐めてくださいって来ることほど興醒めなことってないよな」

「そうだな。アサギみたいにさり気なく誘っておきながら受けに回るくらいなら可愛げがあるが、ぐいぐい来られるとちょっとな」

「待って、僕、別にそんなことしてないんだけど?」

「ははっ。あはははは」

「何笑ってんだ! おい、ちょっとお前そこ座れ!」


 僕がまるで誘い受けみたいなこと言ってイメージダウンさせておきながら、ダニエラは笑って先へと歩いて行く。これは由々しき問題だ。早急に否定してイメージアップに繋げなければいけない。なのに、ダニエラときたらまるで何事もなかったかのように歩いて行く。僕は結局、白百合服飾店に到着するまでダウンしてしまったイメージを回復することは出来なかった。



  □   □   □   □



 

「すみませーん」


 店に入って声を掛けるが、また奥に引っ込んだまま出てこない。泥棒入っても知らんぞ……。


「仕方ない、行ってくるか……」

「いやちょっと待てアサギ。私が見てこよう」

「え? いいよ。前に行ってもらったし」

「いや大丈夫。それにほら女性同士だから何かあっても安心だから」

「そう? まぁそれもそうか。じゃあ僕は此処で待ってるよ」

「あぁジッとしてろ。ずっと居ろ」

「いやずっとは居ないけど」


 ダニエラは何だか慌てて店の奥へと入っていった。僕は前と同じ椅子に座って待つことにした。



 それから数分、ドタバタと大きな足音を立てながら2人が走ってきた。別にそんなに急ぐことないのに。走った所為か、顔も真っ赤になっている。

 トゥリアさんが椅子を引っ張り出して真っ先に座った。


「お、おま、たせっ、はぁ……はぁん……」

「大丈夫か?」

「えっ、えぇ、だいじょぶよ……ナニも問題ないわ……んっ……」


 だいぶ辛そうだけどな。ちょっと心配だ。セグラさんも何だか落ち着かない様子で椅子に座る。その後ろからダニエラが何かを拾いながら歩いてくる。ハンカチかな。


「はふぅ……えっと、今日はどうしましたか?」


 セグラさんが一息ついたのか、顔を上げる。


「うん。今日アスクを出るからその挨拶に来たんだよ。2人にはお世話になったから」

「そ、そう……いえ、仕事だったし、私も久しぶりに高品質な竜種素材を扱えて楽しかったわ」

「そう言えばトゥリアさんは竜種素材が扱えるんだな。防具も造りたかったんだけど、この辺の職人は皆、お手上げだったからさ。服と防具は違うのか?」


 ダニエラの防具探しが長引いてしまった大本の原因がこれだった。ここを上手くクリアしていたら、ダニエラの防具は多少時間は掛かったかもしれないが、立派な物が出来ていたはずだ。


「そうね。服と防具の一番の違いは、その素材の扱い方よ。服は布で、防具は金属。金属として扱うには火が必要ね」

「確かに。服に火を使ったら燃えちゃうからな」

「えぇ。で、この町の施設に竜種素材が求める温度にまで上げられる炉が無いのよ」


 あー、なるほど。それで駄目だったのか。てことはニックの店には高温に出来る炉があったってことか。実は肉球防具店、優良店?


「そういう訳で、此処じゃ竜種防具は無理ね。帝都に行かないと駄目」

「なるほどね。納得した。僕達の目的地も帝都だから安心出来た」


 帝都に行って駄目でしたじゃ話にならないからな。


「ふふ、今度会う時は竜種素材で可憐で強いダニエラが見られるのかしら?」

「そうだな。立派な装備を携えて会いに来よう」

「楽しみにしてますよっ」


 ダニエラがトゥリアさんとセグラさんと握手をして別れの挨拶をする。セグラさんと握手した時にハンカチを返していた。優しいな。セグラさんは慌ててポケットに突っ込んでたが。

 なんだか女の子同士、仲睦まじい雰囲気が実に良いね! 店名も白百合だし……ん? 何か違和感を感じる。


「さ、そろそろ行こうか。アサギ」

「ん? そうだな。じゃあお暇するよ」

「また今度来た時は可愛い服を作ってあげる」

「お安くしておきますよぉ!」

「そこはきっちりお金取るんだな」


 僕のツッコミに4人で笑い合う。はぁ、此処は楽しくて良いな。


「じゃあ、また」

「世話になった」

「えぇ。服、大事に着てね」

「お元気でっ!」


 店の前で別れる。東門へ続く道を歩きながら手を振り、最後まで名残惜しく別れを惜しみながら、でも足だけは止めずに僕達は東門へと向かった。


 目指すは帝都。目的地まで、もう少しだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなにナニばかりしててこの先やって行けるのだろうか
[気になる点] 何か「黒兎」って呼ばれる事にあれだけ嫌悪感を示してたアサギ君が他人の名前弄りを別れ際まで続けてた事に違和感を覚えました。 一気読みしてるからかも知れませんが、性格変わり過ぎじゃない?っ…
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