191『餞別の儀式』
「この倶利伽羅の剣は、契約の剣――」
信長は、そう言うと不動明王の如く片手で立てて持っていた倶利伽羅の剣を、両手で持ち直すやいなや、
「今この手にて契りを結ばん!」と台上の『天下餅』に降り下ろした。
「――今よりお主たちには餞別として……
――余の肉を与える」
銀製のトレーの上には、一口大に切り分けられた天下餅が置いてある。
イエスが『最後の晩餐』の時に、自らの肉を与えると言ってパンをちぎって弟子たちに分け与えたように信長は……
「まずは森蘭丸」
「はい、上様」蘭丸は最初に名前を呼ばれたので、緊張しながらも少し顔を赤らめながら列から一歩前に出て、信長と台を挟んで向かい合う。
「蘭丸よ、先程も述べたであるが……
本当はお前には祐筆の牛一と共に、余亡きあとの天下を見届けて欲しかったのであるが……」
「上様、私の気持ちは変わりません!
いかなる時も上様と共にあるのが私の幸せであります」
「であるか。では――」
信長は、銀製のトレーより切り分けられた餅を一つ掴むと、
「これは、余の肉である。これを食べたものは常に余と共にある」
と言って蘭丸に差し出す。
蘭丸は厳かにその餅を拝領すると、
ゆっくりと餅を口に運びゆっくり食べていく。
その瞳からは大粒の涙が流れ落ちていく。
「蘭丸には、これから本能寺の変前日の、『文化祭』の準備も手伝って貰わねばならぬ。そして、そうであるな……
変の時には、余の亡骸を誰にも渡さぬ役目を申し付ける」
「次は、信忠!」
「はい、父上」信長は、偉大なる父親に呼ばれかなり緊張しながら、一歩前に出て信長と向かい合う。
「信忠よ、お主が余の嫡男として生まれてきたことを、感謝しておるであるぞ」
「父上、そんなこと……今の私の年齢と同じ歳の時の父上と比べましても……全然至らないふつつかものでございます」
「お主が体を張って、武田攻めの先陣を切ってくれたお陰で宿敵を早急に滅ぼすことが出来た。
松永弾正を討った時もそうであった、その前の……」
信長は、我が子信忠の歴戦の勇姿を思い出して少し涙声に。
「それは、父上の軍略に則って……」信忠も声を震わす。
「余の後継者として、お主を継がせることも何度も考えた」
信長は、苦渋の表情を見せながら、
「……しかし、このエヴァンゲリオン計画には、余だけではなくお前のの命も……生け贄として……どうしても必要なのである」
何故、信忠の命もこの計画には必要なのか?
それはまた別の話で。
「もう覚悟はできております父上」
「であるか、では――
これは余の肉である。これを食べたものは常に余と共にある」
「これがなくとも、父上と私はいつも共にあります」
と信忠は言いながら、餅を食す。
「信忠、まずは愛宕神社での『天下創世』の儀式を頼んだであるぞ!
そして、変の前日には今生の別れの……
親子酒でもしようではないか」
――そして次回、ついに『光秀と信長、今生の別れ』
乞う、ご期待!




