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189『【伝家の宝刀】“破邪の剣”倶利伽羅の剣』

○天正十年(1582)五月十五日

天主五階『仏陀と弟子達の間』


「光秀、あれをもって参ったであるか――」

深紅の布に覆われた机の前に立ち、

銀色の燭台にゆらゆらと照らせれる――織田信長の顔。

《本能寺の変》直前の信長の年齢は数えで四十九歳。


「はい信長様、――もって来ましたですじゃ」

六十七歳の明智光秀は、そうすぐ応えると腰にかけてある、脇差しを鞘ごと取り――

両手で端と端を持ち、信長に捧げるように掲げた。


「うむ、では秘められしその“破邪の剣”を……

――今こそ解き放つがよい!」

「はっ」

光秀は、脇差しの束と鞘を持つと、ゆっくりと引いていく……


そのとたん……

鞘と刀身の隙間から目映い光が走り――

一瞬、部屋を明るく照らした。

「……」

皆が息を飲んで見守る中――


光秀が、序々に鞘から刀身をゆっくり抜いていくと、

なんと……

刀身より突如“黒き龍”が現れ――

部屋中をぐるぐるっと縦横無尽に駆け巡るではないか……。

「おぉぉ……」

さすがの信長も、これには驚きの声を上げる。


そして、光秀が、完全に鞘から刀を解き放つと――

一瞬部屋が白い光で多い尽くされて、

その黒き龍は断末魔を上げるように……もがくように消え去っていった。


「……」

今信長の前には、蝋燭の灯りを浴びて輝く刃が、そのむき出しの姿を現している。


――その刃には、彫り物がされてある。

それは刃に巻き付く《龍》をかたどったものであり――

今にもその刀身を飲み込もうかとするような、そうまるで生きているように見事で迫力抜群の龍の彫り物であった。

その刀身が、部屋中の燭台の火の光に照らされて……

黒き龍の“影”を部屋中に走らせたのであった。


――蝋燭に照らされた刀身に、信長の顔が映る。

「……さすがは名刀『倶利伽羅(くりから)の剣』、

――黒き(よこしま)な龍をも撃ち破る、伝説の宝刀であるな」


実は信長が『倶利伽羅の剣』と呼んだ、光秀が持ち込んだ脇差しは――

言い伝えによると元々越前朝倉氏に伝わる伝家の宝刀であり、朝倉氏を信長が滅ぼしたあと、光秀に戦利品として授けた名刀なのであった。

しかも、この名刀のことは江戸時代の『享保名物帳』に記され、『川角太閤記』等にも登場する実在したといわれる刀である。


『享保名物帳』によると、この倶利伽羅の剣は――

南北朝時代の越中の人物で、

若くして死した『天下三作』と呼ばれる伝説の刀工の一人、(ごうの)義弘が作ったものであり――

その刀は『倶利伽羅“郷”』とも呼ばれる。

その後、朝倉氏の所蔵となり家宝一つとなった。


この名刀の『倶利伽羅』という名前の由来は、

『不動明王』がもつ、倶利伽羅の剣から来ている。


そもそも倶利伽羅とは、「黒き龍」のことを密教においてさす。

その黒き龍が巻き付いた剣を、不動明王が持っているという伝説である。


また、不動明王が持つ剣のように、

各仏が持つ《象徴物》を、密教で――

三昧耶形さまやぎょう』と言う。

これは、その持ち物自体が仏自身を表しているという意味で、つまりはこの『倶利伽羅の剣』自体が不動明王を指す場合もある。


ちなみに三昧耶とはサンスクリット語で――

「約束」、「契約」などを意味する「サマヤ」から転じた言葉である。


「なるほど、そう来たか!」と、ここで感じてくれた読者様、有り難うございます!


……そう何故、『倶利伽羅の剣』が、この場面で登場したのか?

その理由なんです。


「なんのこと?」とお感じの方、

――ヒントは『約束』・『契約』です。



次回予告――

『聖書』とは、人間と神との《契約の書》である。

イエスは神との契約を成就させ、人々を救うために――

その命を捧げた。


そして、信長は新たに契約を結ぶ――

この百年以上も続く戦乱を終わらせ、泰平の世を――

この日本に到来させるために。



次回、『契約の時』



乞う、ご期待!

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