185『光秀、一世一代の“就職活動”』
○永禄十一年六月二三日・岐阜
三十五才の織田信長は、
初めて会った光秀をじろじろ見ながらいった。
「ところで……お主はいったい何歳であるか?」
「はっ、五十三歳でごさいますじゃ」と、ちょっとドキドキしながら答える明智光秀。
「……なぬ?お主そんないい歳して、ただの……
――義昭公の伝令をしておるのか?」
「は……はい、お恥ずかしながら。足軽の身なれば……」
しかし光秀はそこまでいうと、キリッとした顔になり、信長を真正面に見据えて――
「されど信長様。
――儂はなんにも今後の人生に心配しておりませぬ!」
と何故か、自信満々に見える光秀。
(ふぅ、ここからが、勝負じゃ!)
実は光秀、役職も低くて貧乏暮らしの上に……
妻と娘が二人いて、生活がとても苦しい。
足利義昭に仕えたといっても、そもそも義昭自体、京都から逃亡した今は浪人のような者で、次期将軍に本当になるのかも解らぬ輩である。
つまり、この日――
織田信長に会えたのは、人生最後の大チャンスなのだ。
新進気鋭の前途明るい織田信長に仕えられるかどうか?
光秀の人生はこの日に決まるといっても、過言はない。
「……なぬ、お主、落ちぶれたりとはいえ武家の子として生まれたと聞くが、
……今のままで満足ということであるか?
……そんな向上心のない奴など、もう顔もみたくないであるな」
「――そうではありませぬじゃ」
光秀人生の勝負を賭けた演技で、かっかっと大笑いする。
「……何が面白いであるか?」当然、その笑いに気分を害す信長。
しかし、年輩の光秀の鬼気迫る勢いに押されがち。
「儂がさっき『なんにも今後の人生に心配しておりませぬ!』と申したのはじゃな……
――今日をもって信長様が儂を家臣にするから、
心配無いと申しているのですじゃ!」
光秀鬼気迫る迫真の演技。
(ついに、言ってしまった……。もう、引けぬじゃ)
「なに!?、余がお主を家臣にすると……」さすがの信長といえど、あまりの光秀の大言壮語にたじろぎ、
「なんの功績もない五十過ぎのお主を……」
「そうですじゃ、
織田信長は、実力があれば生まれも育ちも門閥も……
その他いっさいがっさい関係無く登用する、天下の英雄とと聞いておりますゆえ」
「なるほどのう……余を試すわけであるな?
しかし、例えばお主が、実力があるかどうか、どう判断する?」
信長も、なんだかんだで楽しくなってきた。
「信長様、面白いことを仰る。
こんな伝令の身では、実際……
実力があるかどうか、解るわけが、ございませぬじゃ」
「であるか。
……つまり、余がお主を大役に任命して、その実力を発揮させよと?」
「さようでございますじゃ。
しかし安心してくだされ私には、
――他の武将には無いものがあります」
次回、果たして光秀にしかないものとは……いったい?




