182『信長、『信長による福音書』計画を立案す!』
「――この儀式をもって、エヴァンゲリオン計画の開始とする!」
織田信長が、布を取り去ったトレーの上には、銀製のコップが何個か並べられている。あと、銀色のお皿の上に、皿と同じぐらいの大きさの何か“白いもの”が乗っている。
織田信長は、その白いものを持ち上げて、皆に見せながら言った。
「キリスト教の儀式では、『聖餅』という聖なる餅を使うらしいのであるが――」※聖餅=聖なるパン
信長は、皆を見渡し――
「……もちろん余はキリスト教徒ではない。
そうイエスのことはいにしえの偉人として尊敬しておるし、その起こした奇跡には大いに関心があるのではあるが――
――これは、《天下餅》である」
そういうと、皆に“天下餅”と呼ばれる、白くて丸い餅をよく見させてから、またいったん皿に戻して、信長は語り始める。
「――天下は余のものではあらず。
また、誰のものとも決まってもいない。
――ただ、万民のために泰平の世のために尽力する者だけが、
天下を治めるにたる資格がある者なのである。
――余は、天下統一目前になった今、あえて命を捨てる。
何故なら……
今の日の本では、ただ天下を武力統一しても、その安定は長くは続くまい。
平和安定の統治、何百年と続く万民が繁栄する泰平の世というのは――
いにしえの名だたる統治者たちでもついぞ、成し得なかったことであるからである。
……ならばである、
余がたとえ生きて天下統一を成し遂げても、それだけでは天下泰平にはなるまい。
余が統一したところで、余という絶対者がいなくなれぱ……
このままでは、また戦乱の世に戻ってしまう恐れが大いにある。
それでは、いつまでにたっても天下を泰平の世には導けぬ。
では、このままでは恒久的な平和な世にならぬのであれば……なんとする?
だからこそ、余は『聖書』にあるイエス・キリストの故事に習い、
この――信長による『福音書』計画を立案したのである。
そう、そうである――
数多くの奇跡に彩られし救世主イエスと、この余の運命が恐ろしいほどに似ているこの事実。
そしてその神の子が、自ら人々の為に命を捨てるという英雄的行為で――
世界を救済するという大いなる《奇跡》を成し遂げた。
そうだからこそ余は――
余は、この日の本で絶対的権力と絶対的権威をあわせ持つ、神にもっとも近い存在となったのである!
そう、その神にもっとも近い余がこの命を、
人々の為に自ら捨てることで――
神の子と呼ばれたイエスと同じように、
大いなる《奇跡》を起こす事が可能なのであると……
『聖書』を研究した結果――確信したのである!」
こうして、信長による『福音書』計画――
その計画意図を高らかに宣言した信長は、最後に――
おもむろに光秀の方を向き、言った。
「――光秀、本当は、余はお主に……
余の後の――天下を任せたかったであるぞ」
次回、その信長の真意と、あの天下分け目の合戦――
『山崎の戦い』の真相が、いきなり明らかになる!
乞う、ご期待!




