181『聖体拝領』
「光秀、信忠、蘭丸、お主たちの命を頂くにおよぴ――」
信長は、蝋燭に煌々と照らされながら立っている。
「余は、お主たちと今より別れの杯を交わす」
「――イエスは、『最後の晩餐』の時、弟子たちと別れの儀式を執り行った。
これを『聖体拝領の儀式』というのであるが――」
安土には、信長の尽力で教会や神学校を建設してあり、『イエスズス会日本年報』によると信長が神学校での《儀式》を見学したこともあるとの記述がある。
「この『聖体拝領の儀式』をもって、みなとの別れの契りとする」
そういうと――
信長は机の上に置かれた聖書を持ち――
『マルコによる福音書』を朗読した。
『一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、
祝福してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、
「取れ、これはわたしのからだである」
また杯を取り、感謝して彼らに与えられると、
一同はその杯から飲んだ。
イエスはまた言われた、
「これは、多くの人のために流すわたしの契約の血である。
あなたがたによく言っておく。神の国で新しく飲むその日までは、わたしは決して二度と、ぶどうの実から造ったものを飲むことをしない」』
信長は、そこで聖書を閉じて朗読を終えると再び――
皆の顔を見回して、
おもむろに銀製のトレーの上にかかっている布を勢いくよく取り払いながら、告げた――
「――信長による『福音書』を今より始める!」




