171『明智軍記、解読チャレンジ』
「なんであるか、この“薄味”は――!」
額に青筋をたてて突如怒鳴り声をあげた織田信長は、激怒しながら目の前の御膳を蹴り上げた。
宙を舞う御膳は、料理や汁を飛ばしながら放物線を描くかのように……
偶然というか、当然というか……ある者のもとへ……。
ガッ……御膳が、ある者に当たった音が……。
そう、そのお膳が当たった者の名前は、もちろん明智光秀であった。…………。
……。……。
……。……。……。
……器からこぼれた汁がぽたぽた頭にかかる……
「……。」
お膳にあった、鴨汁がかかった光秀は――
それを拭おうともせず、恥辱に耐えて震えている。
――その状況に何と信長はさらに一喝!
「侍は日頃鍛練で汗をかく、塩味は命である。
しかるにこの今日のお主の味付けは何じゃ!
“京風”ではないか!
こんな薄味の料理を出しよって、けしからん!
余は“貴族”という、利権をもとに働きもせず悠々とくらす――
“特権階級を無くす”ために戦っておるのであるぞ!
これではまるで、貴族文化に憧れているようではないか!」
「……」ただだだ無言で頭をさげ……何度も平伏する光秀。
――ここまでの話、全くのフィクションだと感じる方も多いと思いますが――
実は『明智軍記』の安土饗応の場面をもとにしている。
原文を以下に掲載しますが、かなり難解なので、次のページに拙者による『現代語解釈』がありますので、お急ぎの方はとばしてくださいな。
逆に原文を読むと、なんか解読しているみたいな楽しい気分にもなるので、正月休みとかで、時間ある方は読破チャレンジしてみても楽しいですよ。
『明智軍記』〈原文〉
織田殿ヨリ、日向守召ニ依テ登城シケルニ、信長公忿〈イカリ〉給ヘル御気色ニテ宣ヒケルハ、今度大君入来ニ付、配饌ノ儀云〈ヒ〉付シ処ニ、過分ニ山海ノ珍物ヲ集メ、或ハ箸木具迄モ金銀ヲ鏤ル条、以ノ外ノ奇怪ナリ。
徳川殿ハ初メ兄弟ノ契約ニテ、幕下ニ属スト云ヘトモ、吾今三公ニ至リ、天下ヲ執権スル身ナレバ、総シテ旗下ノ輩、左程ニハ有間敷事也。然レバ、汝不料簡ニ非アラスヤ。
左アレバ、箇程迄華美ヲ尽スニ及間敷事ゾカシ。
重テ主君ニ饗応スル事アラバ、如何致スベキヤ。
其段、一手無用意コソ僻事ナレ。
大君ニ対シ、左様ノ入魂ハ万ヅ無□〈ヲボツカ〉事ナリ。
以来ノ為、打擲セヨト被仰ケレバ、御前ナル小々姓四、五人立テ、扇ニテ光秀ガ頭ヲゾ打ニケル。其中ニ森蘭丸モ座席ヲ立テ、扇ヲ取直シ、銕ノ要ヲ以テ、健ニ打ケレバ、頂上破レテ血流落ケルヲ、
信長公御覧シテ、罷立候ヘト御意ニヨリ、則退出申ニケリ。
――次回、浅学の拙者ですが『現代語解釈』にチャレンジします!




