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137『眠れぬ夜を越えて』

『第六天魔王』に祈願した光秀のことを――

兼如43上と紹巴44下を合わせた一首が表している。


 とふ人もくれぬるままに立ちかへり

      心のうちに合ふやうらなひ


――第六天魔王に計画の成否を問うた光秀も、夕暮れまでには帰るであろう。

そう、おみくじ占いの結果を、胸に刻みながら。


45 はかなきも頼みかけたる夢語り   昌叱


解釈「夢物語になってしまうかもしれませんが、お頼み申し上げます」

44下「皆の願いと占いの結果が合えばいいのだが」


46 おもひに永き夜は明石がた     光秀


――この句は光秀が、『愛宕百韻』に臨む前に、明け方まで思いにふけっていたことを指していると解釈できる。

というのは、『改正三河後風土記』によると、愛宕百韻前日に、

光秀が愛宕神社に一泊した際に同宿した里村紹巴によれば――

光秀は終夜熟睡せず嘆息ばかりしていて、

「本能寺の堀の深さを問う」と紹巴に突然聞いて、

紹巴に怪しまれて、慌てて「良い句を思案中」と光秀が答えたというような逸話がある。


これをもとに、すでに信長が翌日二十九日に本能寺に投宿するのを予想して、謀反を思案していたのではないかという説がある。


いずれにしても、

謀反を成し遂げるにしても、

『福音書計画』を成し遂げるにしても、

真実がどちらであっても光秀をここまで出世させてくれた、主君である織田信長を殺すことになるのですから……

色々思い悩むことはあると感じます。


ということで45上と46下で一首となりーー


 はかなきも頼みかけたる夢語り

    おもひに永き夜は明石がた


「あまりにも壮大なる計画ですので……

夢物語になってしまうかもしれません。

……が、それでも恒久的な平和の到来のために、お頼み申し上げます」


――この皆の、信長様の、そして民たち皆の思いを願いを叶えたい。

しかし、信長様を討ち取ることが始まりだとは……

いくらそれが信長様の望みだとしても……

……ふぅ、……思いを巡らせていたら、もう夜明けか……。


47 舟は只月にぞ浮かぶ波の上     宥源


解釈「満月が水面に大きく映り、まるで月の上に舟が浮いているかのようだ」


47上と46下で一首となり、


 舟は只月にぞ浮かぶ波の上

    おもひに永き夜は明石がた


光秀の乗る舟が、満月=成功に満たされいる情景から――

「この計画は絶対に成功できる、いや絶対に成功させてみせる」


そう願うものの、大恩ある信長様を討ち取ることを考えると……

気づかぬ内にもう、朝になってしまった……。


――ということで、連歌は“詠む者の心情を写し出す鏡”ととらえると――

明智光秀が通説通り信長に謀反心があったとしても、逆に信長による『福音書計画』のために襲撃するのだとしても……

その行為のあまりにも大きさに、悩み思いを巡らせている様子が受け取れる。


読者の皆様に伝えたいのは、光秀の本心がどこにあったとしても、『本能寺の変』を起こす前に明智光秀は、

“眠れぬ夜を越えて”思い悩んでいたことを感じてほしいのです。


歴史は、“暗記科目”だと言われることもありますが……

――これはとんでもない間違いです!


確かに『1582年本能寺の変』、この年号だけ覚えているだけではそう感じてしまうのも、解りますが……


その『本能寺の変』の実行者の心情が、『愛宕百韻』によって解る推察できることによって、歴史は記号ではなく――

歴史とは、その時代その時代で私たちと同じように人生について思い悩み、必死で生きてきた人々の一人一人の物語が集まってできたものだということを感じることができるのです。


そういう意味で、この『愛宕百韻』は、歴史の――

いやそれだけでなく和歌等の日本文化を知る良い『教科書』だと、最近感じております。



――次回、

事の大きさに思い悩む光秀を、皆が心配して慰め癒します。



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