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105『神に最も近い男、信長』

「――であるなら、余も唯一絶対神ということである!」

 

織田信長の衝撃の言葉に一瞬たじろいだが……

「そうでありません!」

さすがにこれは肯定する訳にはいかないと、はっきりとした口調で否定するフロイス。

「……なぜであるか?」

「神は、唯一無二でありますから、信長様が神であることはありませんので」

「余は第六天魔王信長である」

「そうですね」

「つまり余は他化自在天信長である」

「そうですね」

フロイスは、邪教の神ならどうでもいいという感じで答えている。

「そして、余はキリスト信長である」

「そうで…」

フロイスが、返答する前に信長は言葉を続ける――

「つまり、第六天魔王と他化自在天とキリストという、

三つの“ペルソナ”をもつ余は――

つまり、三位一体によりて――唯一で絶対の神と成ったであるぞ!」


「そうでは、ありません!」

さすがにこれも肯定できる訳にはいかない、フロイス。

「……何故である?キリストとは、救世主の意味ではないか?」

「そうですが、世界の、でございます」

「なるほど……しかし、余はそれで十分である。


……そう今はな。


さしずめこの地の全てを救えば、余も唯一無二の存在ということであるな」

「そ、そうなるかとは思いますが……」

どうせそんなことはむりなので、話を合わせておくフロイス。


「はは、であるな、ということは――

――余が、神に一番――……」


……ゴ、ゴゴコゴォォォ……

信長が、決め台詞?を言おうおとした時――

突然の空気をつんざくような轟音が辺りを多い尽くした。


そしてその時、数日間夜空を照らしていた長く尾を引く彗星が……

轟音とまばゆい光を放ちながら、安土城天主をかすめ――

なんと、大音響と共に琵琶湖に落ちた。


――天主最上階にいる織田信長であったが、その彗星が落ちた時の衝撃で巻きおこった、閃光と水しぶきに……覆い尽くされてしまった。


「信長様、大丈夫ですか?」

さすがにあまりの事に、心配の声を上げるフロイス。


「……い、いえ、イエスさま」

何故か、イエス様と呼び直す……フロイス。

なんと、それもそのはず……

閃光と水しぶきが無くなり目の前に立っていたのは、

正に―――


――イエスその人であった。


「なに、イエス……?」その者が、尋ねる。

「はい、……いえ、イエス様……」フロイスは、驚嘆の声を上げる。

「あ……あぁ……我が、我が神よ……!」

そして、とっさに胸の前で十字を切るフロイス。


その者が笑いながら――

「まだであるぞ、フロイスよ、余が神に成るのは――」


「まだで…あるぞ……?!」

少し目を擦りながら、その聞き覚えがある”である”調の台詞に、ようやく我に返ったフロイス。


……実はなんと、信長かいつもしている(もとどり)、ようはチョンマゲの紐が彗星の落下した衝撃でとれてしまい――

落武者みたいに、髪が全て垂れ下がった状態の髪形になった信長は、その白い寝巻き姿と相まって……

一瞬フロイスの知っている、心の中でいつも思い描いていたイエス様の姿と……たまたまそっくりだったのであった。

それで信長が一瞬、イエス様に見えてしまってのであった。


「そう、まだであるぞ、フロイスよ、余が神に成るのは――」

織田信長は、まだ呆然としているフロイスに向かって――

彗星が落ちる前に言おうとした決め台詞を、ようやく宣言する――


「……さしずめ今の余は、この日本で――



――《最も神に近い男》、信長であるぞ!」



『……四月二二日の夜の九時に、彗星が現れて甚だ長い尾を引いたので人々は恐怖した。


……そしてその彗星は数日後、安土に落ちた。』

            フロイスの『日本史』

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