復活くん!大活躍
固く閉ざしたまぶた・・・
「あっちゃーん・・・あっちゃん・・・・」
「あっちゃん!」
何度呼んでも返事は返ってこない。
もう、このまま・・・永遠に・・返ってくることはないのかもしれないと、彼の硬く閉ざされた瞼から感じた。
それでも、私は、
相づちも うってくれない・・・・
何も答えてもくれない・・・・
いつものように・・・・
「おぅ」と・・・・さえ言ってくれない あっちゃんと、 いろいろな話をした。たくさん、たくさん話をした。
「あっちゃん、もう起きないの?」
このまま・・・・本当に?終わりなの?
彼の、強張ったような顔を見ながら、この時「肝性脳症」と言う言葉を初めて知るのであった。
脳にアンモニアが入り、昏迷状態・昏睡状態に陥る。その状態から抜け出せる方法は、ただ一つ「アミノレバン」という点滴を注入することだそうだ。一日、二本と、決められていた。
その日から、私たちは、アミノレバンのことを、「復活くん」と、呼んで、どの点滴よりも敬愛することになる。
「起こしてよ。
復活くん! いえいえ、復活様!もう一度話をさせて下さい。復活様。」
あっちゃんには、この日以来、「友達一号」(尿袋)と、「復活くん」(アミノレバン)が、 何より大切な存在になった。
看護している私たちにとっても、 頼み綱・・・・・神様になっていた。
しかし、 復活くんは、なかなか力を発揮してくれなかった。 毎日、二本の復活くん(アミノレバン)。それが、2日間投与されたのに、あっちゃんは、眠ったまま・・・。
昏睡状態が続いていた。 一向に、復活する兆しが見えないことに苛立ちを感じていた頃、姉妹が、九州から来てくれた。兄も、友達も、親戚も、集まり始めた。
ユーモアたっぷりのあっちゃんの回りは、いつも笑いでいっぱいだった。今は、何も言わない、寝ているだけのあっちゃんの姿に、みんな言葉を忘れていた。
その夜、姉と妹が一緒に泊まってくれた。本当にありがたかった。
心が、少し和らいだのが分かった。
あっちゃんと二人だけの夜を語りながら過ごすのもいい。
だけど、時折襲われる恐怖感があった。
死に対する恐怖
これから私に起こるであろう
見えない恐怖
予想がつかない恐怖
毎日毎日、怯えて過ごしていたのかもしれない。と思った。
その夜、薄暗い病室の中で、姉と抱き合って泣いた。
泣けた・・
泣けてきた・・
悲しい?違う。
悔しかったし、怖かった。
そして、回復の見込みも見えないまま、あっちゃんは、次の日ICUに入ることになった。
「今日から24時間体制で、私達が管理しま す。」
ほっとした。
嬉しかった。
おかしいでしょう。ICUに入らなければならない状態なのに。ほっとしたなんて。
でも、私の第一声は、
「今日、家に帰って寝てもいいのですか。 」だった。
「家に帰っても・・・・」
次から次へ溢れ出る涙・・・・
「ごめんなさいね。もっと早く言って あげればよかったわね。」と、看護師と抱き合って泣いた。
疲れていた。
心が・・・・
体が・・・
安らぎを求め、
ただ、 ただ・・・家に帰りたかった。
その日、娘と二人で家に帰った。
「また、明日来るからね。明日は、明日は・・・目を開けてみつめてね。」
湯舟に顔をつけて大声で叫んだ。
「おい! 復活・・・真面目に仕事しろよ!」
1月14日 ICUに入って、2日目になった。朝来て、驚いた。
「えっ? えっ。」
「1, 2,3・・・6本!」
あっちゃんの体と6本の点滴が繋がれているではありませんか。
これが、全部体の中に・・・?
これじゃー、友達一号(尿袋)も溢れてしまうのではないかと心配になるほどだった。
それを知ってか知らずか、ベッドから
あっちゃんの声?
こ・・・え?
「あー」 大きく
「ぁー」 小さく
「あー」 呼んでるように。
「あー」 語りかけるように!
あっちゃんの声・・・・・?!
「あっちゃん!おはよう。」
「あー・・」と、答える。
嬉しかった。
あっちゃんが話をしてると思った。
目覚めたのかとと思った。
いつものように、顔拭いて、歯磨きして、髪のセットして・・・。久しぶりに心が弾んだ。笑った。娘と顔を見合わせて、思いっきり笑った。
「お父さん、目覚めてくれてありがとう。」
娘は、あっちゃんと顔をこすり合わせて喜んでいた。
三人で、話をした。
あっちゃんは、何を言っても、
「あー」と言うだけ・・・
娘が、
「お父さん、お母さんのこと好き?」
「あー」
思わず、涙がでる。
「本当⁇」
「あー」・・・また、涙。
馬鹿みたい!
午後を過ぎる頃 今度は・・・
大好きな矢沢永吉の歌に反応する。
特に、
逃亡者 イエスマイラブ
聞こえる。
聞こえる。
聞こえてるんだ!
首を振り出した!
歌ってるように感じる。
やっと、やっと
復活くんが、いい仕事をしてくれたみたいだ。
一日2本のはずの復活くん(アミノレバン)が、3本にも4本にもなっていた。
どうしてたろう。
何本注入してもいいのだろうか。
「あー」と、声を出し始めた頃から、あっちゃんは、昏睡状態から 昏迷状態に入っていた。
昏睡状態からは脱出だ。
だけど・・・・24時間5本から6本の点滴。あっちゃんの体は、前にも増して、浮腫んでいた。腫れていた。異常に太くなっていた。
体が、破裂しそうなくらいに。
昏迷状態にはあったが、 顔をさわっても、手を握っても、肩をたたいても、反応はなかった。
目を閉じたまま。
時々「あー」と声を出す。
それだけでも、十分嬉しい!
あっちゃんは、心底疲れていたんだと思った。朝も夜もなく・・・・電話がかかってきて、1年・・365日・24時間!
心休まる日なんてほとんどなかった。
「知っていたのに、助けてあげられなくて、本当に、ごめんね。」
お酒の量が、増えたのも・・・
そんなしんどい思いから、
逃れるための手段!
眠れない夜を、寝るための手段!
忘れてしまいたいことを、
忘れるための手段! だったのよね。
私が、もっともっと寄り添っていたら・・、
真剣に耳を傾けていたら・・、 と、悔やまれてならない。
気づいていながら、目をつむってしまったから。
あっちゃん
ごめんね。と、心から詫びた。
退院したら、うるさい電話に悩まされないように、コンビニ辞めようね。と、動かない小指とゆびきりをした。
一緒に食べて
一緒にお風呂入って
一緒に散歩して・・・・・
楽しかった あの頃に戻ろうね!と、心に誓った。
それから、あっちゃんは、5、6本ある点滴の中で、やけに存在感を主張する「復活くんのおかげで、音楽に合わせて歌を歌うまで、意識を取り戻した。
奇跡? アミノレバン最高!!
あっちゃん!復活!!
夜、帰る頃になると、
「今日は、ココイチでカレー食べて帰れ。」て・・・・言うまでになっていた。
「明日もおしゃべり出来ますように!!」と、 病室を後にした。
1月16日・・・朝、6時半
携帯が鳴った。
EXILEの道・・・(いい曲だぁ)
あっちゃんだ!
「新聞買ってきてほしい。」
「はいよ」
「何時頃来るんか?」
「なるべく早く行くよ。」
ICUに入ってから、私と娘が夜遅くまで付き添うので、朝は、わりと早い時間から、義父母が、付き添ってくれていた。私達が行くと、しばらくして交代する。いつの間にか自然とできたサイクルだった。
彼の両親も、1日も欠かさず、あっちゃんを見舞った
今日は朝から絶好調!!
「早く、あいつの顔が見たい・・」なんて可愛らしいことを義母に言ったと聞いた。
嬉しいやら、恥ずかしやら・・
この日は、親子3人になった時、たくさんの夢を語った。
「退院したら、みんなで沖縄に行きたい。」と、娘が言った。
私は、「コンビニ辞めて、普通の生活がしたい。」と、言った。
あっちゃんは、「BMWが欲しい。」と、言った。
それから、しばらく車の話に花が咲いた。
あっちゃんのベッドの脇では、今日、2本目の復活くんが終わり、3本目の復活くんが吊るされている。
確かに、反応もいい。
友達一号(尿袋)の色が、ちょっと濃いのが気になるが、順調に溜まっている。
でも、でも違う。
あっちゃんの足が、2倍になっている。
お腹も、膨れ上がっている。
体を動かすことがしんどそう。
そして、手に力が入らないみたい。
携帯を押すのも、持つのも・・・・
それから、目の色・・・・
この体・・・・元にもどるのだろうか。
と、そっと心配していた。娘も同じだった。
毎朝、9時に友達一号の量を看護師が見て記録している。
尿の量と、便で、体の様子が分かるのはもちろんだか、命の長さも計れるらしい。すごと思った。だから、いい色のおしっこと、形のいいうんこが出た日には、毎日、お祝いしなければならないんだ。
普通の人は、1日1500mlの尿が出るらしい。
「今日もおしっこさんありがとう。」って。
だけど、あっちゃんは、点滴のオンパレード・・・
パンパカパーン
今日は、何本?
いっきに、5本。
最低でも3000mlは、出ないと、体に溜まるはずだ。
手の親指の下辺りに「尿のツボ」があるとネットに書いてあった。
おしっこさーん!おしっこさーん!
たくさんでーて くださいよ。
出たなら、ほうびをたーんとあげるー!(作詞作曲・・わたし)
繰り返し歌うのです。そのツボとやらを、押しながら。歌うのです。これが、効果を現すと、友達一号は、満タンです。
うんこが、大変。
点滴だけの生活なのに、出なくてはならないみたいで。便意は、もよおすのだけれど、なかなか出ない。
「うんこがでた」
「やったー!
「おまえが、拭いてくれ」
嫌とは言えません。命ですから。
だけど、だけど、身体が2倍なので、一人では、無理でした。
それでも、いつも、
「おまえが、してくれ・・・・」って。
やっぱり、夫婦なんだね。
ま、さ、か、隠し事なんか・・・
な、い、よ、ね,・・・?!
夫婦 だ、か、ら・・・・
私二人には、隠し事なんて無縁なものだと思っていた。




