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第67話 絡み合う目的

 本部で汐咲と別れた龍馬は、本部とは少し距離のある軍事基地の一室に来ていた。

「こんにちは」

 その部屋の一室で椅子に座りお菓子を食べている一人の女性に龍馬は声を掛けると、その赤い髪を伸ばしアルトニアエデン親衛隊の軍服を身に纏う女性は龍馬を見て軽く手を挙げ挨拶を返した。

「こんにちは龍馬くん、お菓子食べる?」

 そう言って串に刺さったみたらし団子を摘み龍馬に手渡そうとするが、龍馬は団子を受け取ることなく入り口のすぐ横にある壁に凭れかかりながら喋り始めた。

「いえ、お腹は空いていないので結構です」

「そっか、美味しいのに……もぐもぐ」

 残念そうに一人黙々と団子を食べていく女性だが、それを見ていた龍馬はふと気になる事を思い出した。

「所でテアータさん、二日前に『ダイエットをする』と言って甘い物は控えると私は聞いていたはずなのですが?」

 団子を頬張るテアータと呼ばれる女性は龍馬の言葉に思わず団子を噛み締める口が止まるが、団子を飲み込み終えると反論するかのように喋り始めた。

「ボ、ボクが食べてるお団子はダイエット食品でカロリー少ないから大丈夫なんだよ?」

「そうですか」

 そう言われて龍馬がふと横目でゴミ箱を見てみると、そこには沢山の団子を食べた残骸が残っており、その形跡を見た龍馬はこれ以上ダイエットについて触れないように別の話しをしはじめる。

「少しお伺いした事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ん? いいけど?」

「……私に風霧空の抹殺を命じたのは貴方でしたけど。貴方に『抹殺を命じさせた人物』、そして風霧空についての処罰を『止めさせた人物』が誰なのか教えて頂けませんか? 本来重罪を犯しこの私が直々に出向いた相手の処罰が今更『保留』になるのは余りにも不自然ではないでしょうか」

 本来直接自分の上司に当たる人間に聞く事は避けたかったのだが、これ以上独力で調べる事は困難だと察した龍馬はこの件に関わる人間に片っ端から話しを聞いて回ろうとしていた。

「はぁー……龍馬君はお利口さんだから分かるよね。今、軍の内部で不穏な動きがある事ぐらい」

「ええ、承知の上です」

「それなら余りボクを困らせるような事言わないでほしいんだけどっ! 色々面倒くさい事になってるんだから余り首突っ込まない方がいいよ」

 テアータは警告を籠めて強めに発言するが、龍馬は特に動じる事無く言葉を返し始める。

「貴方はどちらの人物も知っているはずですよ、何せアルトニアエデン親衛隊の副隊長でもあるのですから」

「それなら尚更ボクに聞くのは変だよね? ボクは全アディンの指揮を頼まれているし、その気になれば隊長のティアに君が色々探っているってチクってもいいんだよ?」

「私は直々に目を付けられているので今更どう思われようとも構いませんよ」

「はぁ~君は本当に面倒ごとばかりに興味を持つよねぇ……むしゃむしゃ」

 テアータは若干龍馬の対応に呆れながら机の上にあった一口サイズの饅頭を頬張ると、龍馬は不思議そうに首を傾げてしまう。

「その饅頭もダイエット食品ですか?」

「ううん、これは三日前に買った普通のお饅頭。消費期限今日だから食べておかないと勿体無いもんね」

「そうですか……」

 これ以上会話をしても有力な情報が得られないと判断した龍馬は凭れていた壁から離れ直ぐ隣にある出口を開こうとドアノブを握った瞬間、後ろから自分の名前を呼ばれその動きが止まる。

「龍馬君。……命令を出して君に風霧空を抹殺するように向かわせたボクにも責任がある。あの時君に頼むのではなくボクが直々に行けばよかったと思ってるよ。だから一つ……直に分かる事だと思うから教えるけど、『審判の日』と呼ばれる計画が進んでる」

「『審判の日』……?」

「そう、そしてそれが今のティアの目的だけど。正直ボクは嫌な予感しかしないよ……はいおしまい! もうボクに何も聞かないでよね!」

 テアータはそう言って腕を組みこれ以上何も喋らない事を意味するようにそっぽを向いてしまう。

 龍馬は握っていたドアノブから一度手を離し後ろに振り返ると、そんなテアータを見て御礼の意を籠めて微笑みながら軽く頭を下げた。

「ありがとうございました、貴方にはご迷惑のかからないように動きますよ。それでは」

 そう言って龍馬は部屋から退室すると、テアータは不安な表情を浮かべながら机の上に置いてあった最後の饅頭を頬張るのであった。



 その頃、風霧汐咲はニャロメナに資料室の扉を開けてもらい部屋の置くにある装置の端末に触れると、装置からホログラムが浮かび上がり汐咲はそのホログラムに触れながら必要な情報を探し始める。

 知りたい情報はたった一つ、それは兄である風霧空がどの世界に転移したかを調べる事。

 空がこの世界から去った日付を入れ、その日にあった数万にも及ぶ全ての転移記録を調べていく為、兄の名前を入れて検索を掛けてみる。

 しかし『風霧空』という名前の人物は検索しても『0件』と表示され思わず汐咲の手が止まってしまった。

「そんなっ、空にぃが転移したのは確かにこの日で間違いないはずなのに。どうして……?」

 その前後の日付に同じように名前を入力しても検索には掛からず、汐咲は別の方法で手掛かりを掴もうと端末にある事を入力しようとした……その時だった。

 ふと一人の足音が汐咲の耳に届くと、端末の電源を強制的に落とし近くの机の下に身を隠す。

 暫くして足音は止まるが、それが先程まで自分のいた端末の前だという事に気付いた汐咲は恐る恐る覗いてみると、そこにはアルトニアエデンの軍服に身を包んだ一人の女性が立っていた。

 その女性は慣れた手付きで端末を起動させホログラムを出すと、何かを調べるように幾つもの情報に目を通していく。

 しかも明らかにパスワードを入力する画面が次々出てきているが、躊躇い無く高速でパスワードを入力しており重要な資料を閲覧している事が分かった。

(あの人、何を調べてるんだろう……?)

 巧みな手付きで次々に情報を出す女性に汐咲は興味を示し見つめていると、ふと女性の指が止まり情報が映し出されたホログラムを見て呟いた。

「風霧空……既にアルトニアエデンの刺客が唯に接触してるなんて……ん? 『風斬』……?」

(空にぃ!?)

 女性の口から『風霧空』という言葉が出た事に汐咲が動揺した瞬間、突如辺りの警報が一斉に鳴りはじめる。

 その音に汐咲は驚いたが、女性は少し面倒くさそうに口を開きながら自分の胸元に手を当てた。

「あーあ、遂に気付かれちゃったか……まぁいいや、唯のいる世界も分かった事だし行ってみよ」

 その言葉と共に女性は軍服からメイド服へと姿を変えると、カチューシャを少し触り位置を正した後に両手を向かい合わせて魔力を集め始める。

「待っててね、唯。今直ぐリーナが助けに行くから」

 それと同時に女性の足元に魔法陣が浮かび上がると、汐咲はこの女性が他世界への転移を試みようとしている事に気付いた。

(この人は空にぃの居場所を知ってる!? それなら……っ!)

 この女性は今、『唯』と飛ばれる女性のいる世界へ飛ぼうとしている。

 その女性と接触したとされる『空』、ならば自分もその唯の居る世界に行けば兄に会えるかもしれない。

 ここでこのまま固まっていては何れ警報に気づいた兵士に捕まる、そうなればもう空と会える機会が無くなってしまうかもしれない。

 大胆な考えだったが、汐咲は女性が他世界へと飛ぶ転移魔法を発動する直前に机の下から出て女性の元へ飛び込むと、女性の魔法を利用して転移しにかかった。

「っ!?」

 突如現れた汐咲の存在に女性は驚きつつも転移魔法を発動してしまい、二人は光りに包まれると共にその場から姿を消してしまう。

 転移魔法の発動、だがその魔法を発動した魔力は一人分であり、汐咲は世界と世界の狭間にある亜空間にいた。

 それでも汐咲は決して諦める事は無く、ただただ兄に会いたいと願いながらその亜空間の中へと消えていくのであった。



 こうしてリーナ、そして汐咲がアルトニアエデンから姿を消した。

 そして二人が転移して数分も立たない内に、本部には既に軍隊はおろかアディンの面々が集結する事態となっていた。

 それもそのはずだろう、本部にある資料室による警報、そして他世界への転移の後が確認されたのだ、兵士達が慌しく周辺の捜査をする中、資料室のある建物を眺めながら一人青ざめる少女が立っていた。

(マ、マズイにゃ……この件、もしあの『少女』が関与していたとしたら……知らなかったとしてもニャロは共犯になってしまうにゃ……)

 慌しく動く兵士達の中でニャロメナが一人突っ立っていると、騒ぎに駆けつけたバランがニャロメナに気付き声を掛けてきた。

「お、ニャロメナか。お前さんも来ていたんだなぁ」

 そう言って軽くニャロメナの肩を叩いた途端、ニャロメナ激しく動揺しながら涙目で慌て始める。

「ふにゃあああ゛!? バランのおっちゃん!? ニャロは何も関係無いにゃっ! 無実にゃん!!」

「はあっ? ど、どうした急に……それより、本部に侵入した連中について何か分かったかぁ?」

 それに答えたのはニャロメナではなく、緑色の髪をしたパジャマ姿の小柄で幼い少女『咏憐』だった。

「女の人! 二人とも軍服着てたって!」

 サンダルにパジャマ姿と言う何とも気の抜けた格好だが、バランとニャロメナは咏憐がどのような少女なのか知っている為それほど動揺する事もなかった。 

咏憐えいれん、植物に聞いたのか?」

 バランがそう尋ねたのには理由がある、資料室前に監視カメラなどは無く目撃情報も無い、しかし本部の通路には観葉植物が飾られている為咏憐の能力を使えばどのような人物が付近にいるのかが把握出来る。

「うん! あとね、その扉の前でニャロ───んむっ!?」

 咏憐は植物から聞いた全ての情報をバランに伝えようとした途端、ニャロメナは大きな声を上げて咏憐に飛びつくとその咏憐の口を両手で大きく塞いでみせる。

「んにゃああああ!? 咏憐っ! 今日は特別にニャロをモフモフしていいにゃっ!!」

「えっ!? ほんとに! わーい! ニャロちゃんモフモフー!」

 ニャロの言葉に咏憐は満面の笑みで喜びこれみよがしにニャロを抱きしめ頬を摺り寄せているが、バランは本部の方に視線戻し大きな溜め息を吐いた。

「内部の人間の犯行か……やぁれやれ、どうすっかねぇ」

 すると、バランの後ろから聞き慣れた女性の声が聞こえてくる。

「どうやら資料室から本部に有る極秘データに手を出そうとしたみたいね。それと、この件に関しては私が引き受けるわね、テアータにも既に伝えてあるわ」

 そう言ってバランの横に立つ女性、エルフェルは本部の特殊部隊に指示を出し本部にある資料室へと向かわせた。

 するとエルフェルが来たのに気付いた咏憐が嬉しそうに右手を大きく上げて挨拶をしはじめる。

「エルちゃん! こんばんは!」

「こんばんは、咏憐ちゃん。ニャロメナを抱きしめたままでいいから今日はもう晩いし帰りなさい、本来ならもう寝ているじかんでしょ?」

「うん、分かった! お家に帰るね、おやすみなさい!」

 素直な咏憐はエルフェルに言われたとおり家に帰ろうとするが、その間もニャロメナの手を握り締めたまま決して離そうとしない。

「……ニャロももう帰っていいにゃ?」

 モフモフしても良いと言ったが咏憐の家まで行く気など更々無かったニャロメナだが、咏憐は更にニャロメナの手を強く握り締め笑顔で歩き始める。

「だーめ! お家でもっとモフモフするもん!」

「んにゃぁぁぁ~……」

 気だるそうなニャロメナは逃げられないと観念したのか重い足取りで咏憐と共に本部を後にすると、エルフェルは腕を組んだまま横に立っているバランにも声を掛ける。

「バラン、貴方も戻って良いわ。時機に連絡するから待機していなさい」

「時機にって……ああ、了解」

 エルフェルの言葉の意味を察したバランはそう言って後ろに振り返りその場を後にする。

「怖い程に、順調ね……」

 その場からバランが去った後、か細い声でエルフェルは呟くと、自身もまた本部の資料室へと向かうのであった。

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