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第66話 蠢く者達

 アルトニアエデン本部入り口の前で一人、バランは携帯電話を手に持ちある人物と会話をしていた。

「おいおいぃ、そういうのは事前に話しといてくれよなぁ。これで漸く繋がったぜぇ……っと、悪ぃ、電話切るぞ」

 そう言って電話を切ったバランは、遠くから近づいてくる龍馬と汐咲を見て携帯電話をしまうと、腕を組み呆れた様子で龍馬を見つめていた。

 その視線に気付いた龍馬はにこりと微笑むと、バランは二人を見つめながら口を開く。

「それで、デートは済んだのかい?」

「ええ、とても楽しい一時を過ごす事が出来ました。汐咲さん、ありがとうございました」

 汐咲にお礼を述べる龍馬だが、汐咲はまだ兄について殆ど教えてもらえずつい暗い表情になってしまう。

「あ、いえ。こちらこそっ……」

 そんな浮かない顔をしている汐咲を見たバランは思わず龍馬を細目で見つめながら呟いた。

「お前さん、まさか俺の大事な部下に如何わしい事とかしてねぇだろうなぁ……?」

「私は彼女に指一本触れていませんよ。それよりどうでしたか、会議の議題については」

 軽くバランの言葉を流し龍馬は話を摩り替えると、バランは不満な面持ちで応え始めた。

「まぁ、最近現れた物騒な組織についての対応を話し合うぐらいだったな。先日の件、お前さんも知っているだろう? あの世界の半分が抉れた映像、一体何と何が戦えばあんな事になるのやら検討もつかねえよなぁ」

「……そうですね、是非戦ってみたいものです」

 表情は何時もと変わらずにこやかだというのに闘志を剥き出しにしている龍馬の言葉に思わずバランは呆れてしまう。

「やぁれやれ、お前さんはいつもソレだ。俺ぁ物騒なのは御免だぜ、アディンを担ってはいるが平凡かつ平和に生きて軍辞めた後の余生もまったり過ごしていきたいからなぁ。あーあ、世界ぶっ壊す化物級の奴となんかと戦いたくないねぇ。ま、精々出会わない事を祈るしかねえなぁ」

「おや、『機神』と恐れられている貴方からそのような言葉が出てくるとは意外ですね」

「俺ぁお前さんとは違って臆病なんだよ。じゃーなぁ」

 バランはそれだけ言い残しふらりと本部の中に戻っていく、それを見た汐咲は龍馬にお辞儀をした後バランの後についていきはじめる。

 龍馬はその二人の後姿を暫く見つめた後に振り返ると、ある人物に会うべく本部を後にした。


 本部の中庭にある通路を横に並んで歩くバランと汐咲。するとバランは汐咲の方を見て口を開き始める。

「なあ汐咲、薙とどんな話をしていたんだ?」

「えっ!? そ、それは……薙さんが私の事をき、気に入ってくれて。また今度一緒にお茶でもしないかって、誘われて……!」

 犯罪者である兄の行方を捜している事は隠したままの汐咲、下手に目をつけられては貴重な情報も手に入らないと分かっていたからであり、当然先程まで龍馬と話していた会話の内容は二人の秘密になっている。

「……そうかい、野暮な事聞いてすまねえなぁ」

 バランは特に気にもせず視線を戻すと、前方から歩いてくる一人の女性を見て軽く手を上げた。

「いようエルフェル、久しぶりだな」

「お久しぶり、今年も新兵の教育を任されたのでしょう? 大変ね」

 エルフェルと呼ばれた女性は眼鏡を掛けており、藍色の長髪を伸ばした女性だった。

 バランに声を掛けられ軽く挨拶を済ませると汐咲を見つめるように視線を向ける。

「なぁに戦場でドンパチするよりはマシだ、にしてもお前さんまで本部に戻っているってことは『アディン』のメンバーが全員集ってるのかねぇ」

「そうね、『咏憐(えいれん)』ちゃんに『ボルクス』、あと信じられないと思うけど『ニャロメナ』と『喰滅(ぐめつ)』も来ているわ。アディンが全員集合していると言っても過言ではないわね」

 エルフェルの口から出た『喰滅』という言葉を聞いた途端、バランは信じれなれないといわんばかりに驚いてみせる。

「ヒュ~、あの『喰滅』と言われている『アラフト・オルフェスト』まで来ているとはねぇ」

「『アディン』で出席していなかったのは『薙龍馬』と『ベラス・ヴィクトワール』ぐらいよ。ま、ベラスに至ってはどうせ寝坊でしょ」

 そう言ってエルフェルが空を見上げた途端、その空からまるで隕石のように向かってくる『何か』が地面に直撃すると、抉れた地面の上で跪く一人の女性が見えた。

「……噂をすれば何とやら、ね」

 エルフェルがそう言った途端、周囲にいた兵士達が銃を構えて上空から現れ地面に着地した『何か』に銃口を向けるが、それアディンの『ベラス・ヴィクトワール』と分かった途端に慌しく銃を下ろし敬礼をしてみせる。

 赤色と橙色の長髪を伸ばし、まるで下着のようなセクシーなプロテクターを身につけたベラスが立ち上がってみせると、大きな欠伸をしながら敬礼をしてみせる兵士を無視して眠そうに歩き始めるが、視界に『バラン』と『エルフェル』が見えた途端ダルそうに手を振り上げ声を掛けてきた。

「ふっわああ~……バランにエルフェルじゃん。おっひさー」

 声を掛けれたバランは軽く手を上げると、エルフェルは眠そうなベラスに話しかけ始める。

「ベラス、もう会議は終わってるわよ? 貴方はしっかりと寝坊癖を直すべきね」

「あーうるさいなぁ~、あたいはあんたの説教聞きたくて来た訳じゃないんだよ。で、ティアは何処にいるの?」

「ジャスティア王女なら王宮に戻られたわ」

「はあ~!? まーた一人で稽古かよッ、つまんねーことしてるなぁ。よお~しあたいが直々にタイマンしてやるしかねえな!」

 やる気になったベラスは目に炎を宿らせ気合を燃え滾らせるが、エルフェルは冷たい視線をベラスに送りながら口を開く。

「ジャスティア王女にタイマン張るとか言うのは世界中探しても貴方ぐらいね、精々殺されないように気をつけなさい」

「はあ~? あたいを誰だと思ってるんだい? 『戦神』ことこのベラス様が戦いで殺される事なんざ万に一つねーんだよこの厚化粧女!」

「だ、誰が厚化粧ですってぇ……」

 ベラスの一言にエルフェルの機嫌が悪くなると、二人の間に割ってはいるようにバランが声を掛けてきた。

「まぁまぁお二人さん、そういきり立たんな。せっかくの綺麗な肌が台無しになっちまうぜ」

 二人を宥めようとするバランに対しエルフェルは未だにベラスに対して不穏な殺気を漂わせているが、ベラスはバランの後ろにいる汐咲に興味を示した。

「相変わらず心にも無え事を言うなーバランのおっちゃんは。お、その子は誰? おっちゃんの彼女?」

「んな訳有るか、見て分かるだろ。本部に所属した新兵だよ」

 そう言われ汐咲は一歩前に踏み出すと、緊張した面持ちで頭を深々と下げる。

「か、風霧汐咲と言います……! よろしくお願いします!」

「お~! こちらこそよろしく! また今度模擬戦でもしような!」

「べ、ベラスさんと模擬戦!? む、無理です!! 私では相手にもなりませんよ!?」

「そんな事ねーさ! それに何事も経験! そうだろおっちゃん!」

 慌てふためく汐咲に対しベラスは満面の笑みを浮かべるが、幾らなんでも無茶な事を言っているのはベラスであり、バランは冷や汗を垂らしながら若干困ってしまう。

「いや、まぁ、何事も経験っつーのは同感だが……無茶を言うな、無茶を……」

 すると困っているバランを見たベラスは大きな笑い声を上げると、自分の体内に魔力を蓄えながら三人から少し離れるように歩き始める。

「はっはっは! 軽いジョークだって、それじゃティアの所にでも行ってくっか。またな!」

 そう言った途端、ベラスは強い衝撃波を回りに発したかと思えば高速で跳躍しその場から姿を消してしまう。

 そんなベラスの去った後を見つめながら思わずバランとエルフェルは呟いてしまう。

「相変わらずだなぁあのお譲ちゃんは……」

「ええ、そうね……」

 空の彼方へと消えてしまったベラスを見つめていたバランとエルフェルだったが、バランは徐に視線を戻すと軽く手を挙げエルフェルの横を通り抜ける。

「それじゃあなぁ、俺ぁ自慢の部下に基地を案内してやらなくちゃいけねえからねぇ」

「あらあら、それじゃまたね」

 バランの後に続き汐咲が歩いていくのを見ていたエルフェルはそう言って軽く手を振ると、少しだけ二人の後姿を見つめた後、視線を戻し再び歩き始めるのであった



 それから汐咲は一通り本部の中を案内してもらい、気付けば日が落ち夜を迎えていた。

「っと、もうこんな時間か。流石に一日じゃあ無理か。本部は広いからなぁ」

 本部の中を案内していたバランも窓から見える星空を見上げながらそう言うと、横にいた汐咲の方を見て更に言葉を続けた。

「しゃーない、今日はここまでだ。帰っていいぞ、出口は分かるな?」

「はい、今日は私の為にありがとうございました!」

「礼なんざいらねえさ。俺の代わりに次に来た新兵達に場所案内が出来る奴が欲しかっただけだしなぁ」

「え……?」

 思わず本音を零してしまったバランに汐咲は目を丸くすると、顔に冷や汗を浮かべるバランが腕を組みながら話し始める。

「いや、まぁ……ははは、晩いし俺の車で寮まで送ってやろうか……?」

「いえ、大丈夫です」

「そ、そうかそうか。それじゃ今日はここで解散だ。ご苦労さん、また明日な~」

「はい! また明日!」

 自分の言葉にも特に動揺していない汐咲の態度が逆に気になってしまうバランだったが、汐咲に背を向け手を軽く振りながらその場を後にしてしまう。

 汐咲もまた本部の出口へと向かうべく、まずは自分のいる建物の一階へと向かおうと歩いていたが、ふと後ろに振り返りバランの姿が消えているのを確認すると、先程のような落ち着いた歩き方とは違い小走りで通路を移動しはじめた。

(やっとバラン隊長から解放された! せっかく本部に来れたんだもん、空にぃについて何か情報が無いか探さないと……!)

 それはバランに本部を案内すると言われた時から密かに計画していた事だった。

(本部の端末に直々アクセスすれば何か分かるかもしれないし、確か資料や情報が保存されてある場所は……あっちみたい!)

 ポケットから取り出した端末には本部内の地図のデータが入っており、資料の保管庫が有る建物へと観葉植物が並ぶ通路を足早に移動していく。

 そして思ったよりも簡単にその保管庫へと辿り着く事が出来たのだが、当然扉にはIDカードを読み込む端末が付けられており、試しに自分のIDカードを通してみるものの扉が開く事はなく汐咲は途方に暮れてしまう。

(う~ん、本部の新兵級じゃまだ駄目なんだ……。せっかくここまで来れたのに……)

「ニャフフフ……」

「ひゃっ!?」

 すると、背後から不気味な笑い声らしきものが聞こえ汐咲は驚いて後ろ振り返る。

「何やらお困りようですにゃ~」

 そこに立っていたのは黒い猫耳のついたフードを被り、黒く細い尻尾をゆらゆらと揺らすニャロメナが

 立っていた。

(こ、この人はアディンの『ニャロメナ・メロニアム』さん……!?)

 突然背後に『アディン』であるニャロメナが立っている事に驚きが隠せない汐咲は思わず一歩後ずさりしてしまうと、ニャロメナは落ち着いた様子で声をかけてきた。

「そんなに驚かなくていいにゃ、それより資料室に用があるのかにゃーん?」

 心配して声をかけてきてくれたニャロメナの言葉を聞いた瞬間、汐咲はこの資料室の扉を開ける方法を閃き咄嗟に嘘を吐いてしまう。

「えっ? あ、はい! そうなんです! でも私のカードキーが壊れてて……」

「……にゃる程ー、それならニャロが開けてやるにゃん」

 ニャロメナは暫く汐咲の顔を眺めた後にそう言うと、自分のポケットからカードキーを取り出してみせる。

 これで扉を開けてもらえると思った汐咲が安堵した瞬間、ニャロメナはカードキーを手に持ちながら汐咲を見つめ口を開く。

「但しッ……条件があるにゃ」

 その言葉に汐咲が動揺すると、ニャロメナは不適な笑みを浮かべながら指を指してみせる。

「膝枕してほしいにゃん」

 その指先にあるのは汐咲の足であり、そのニャロメナの言葉の意味が理解出来ずに汐咲が困惑していると、ニャロメナは汐咲の太ももをぺたぺた触りがら喋り始めた。

「この色白で細くてスベスベした足で膝枕してほしいにゃぁん」

「わわっ!?……え……あ……それで、扉を開けてもらえるのですか……?」

「ニャフフフ、開けてあげるにゃん」

 理由は不明だがたったそれだけ事で開けてもらえると言われては断る理由も無く、気づけば汐咲はその場に正座しニャロメナは被っていたフードを取ると黒くフサフサの毛が生えた猫耳をぴくぴく動かしながら嬉しそうにその膝上に頭を置き、満足した表情を浮かべはじめる。

「ふにゃ~癒されるにゃぁぁぁ~~~」

 猫耳フードの中に本物の猫耳があるのを見て不意に驚いてしまう汐咲だが、膝枕の上で寝る心地良さそうなニャロメナを見て思わず頭を撫でてしまう。

(あ、モフモフしてる……可愛い……。はっ!? 私は何を考えてるの、早くニャロメナさんに扉を開けてもらわないと……!)

 ニャロメナの気持ち良さそうな顔を見て思わず浮かんだ雑念を払うように汐咲は大きく首を横に振ると、ニャロメナは満足したのか徐に立ち上がり両手を高らかに上げて見せた。

「ふにゃああ~! 元気百倍にゃーん」

「あの、それで……」

「分かってるにゃ、開けてあげるにゃん……ただ───」

 カードキーを片手に扉の前に立ったニャロメナは徐に後ろに振り向くと、先程のような甘い表情ではなく少し鋭い目付きで汐咲を見つめてみせる。

「嘘は良くないにゃん。カードキー、本当は壊れていにゃいにゃん?」

「えっ? えっと、それは……」

 思わず目を泳がせ視線を逸らしてしまう汐咲は一気に緊張が高まっていくが、ふと扉の開く音が聞こえ視線をニャロメナに戻した。

「まぁいいにゃ、膝枕してくれたお礼に開けてあげるにゃ。それじゃあニャロはもう行くにゃん」

 資料室の扉を開けたニャロメナはカードキーをポケットに戻しながらそう言って汐咲の横を通り過ぎていくと、汐咲は後ろに振り返り大きくお辞儀をしながらお礼の言葉を言いはじめる。

「あ、ありがとうございました!」

 その言葉を聞いてもニャロは特に振り向いたり手を振ったりすることもなく通路を曲がり姿を消すと、汐咲は急いで資料室に入り部屋の奥へと進んでいくのであった。

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