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第55話 猶予の一時

 思いがけない出会いで鈴、桜、ヴォルフの三人と再開を果たした美癒達。

 施設のリビングに皆が集まり情報交換をしていると、どうやら鈴達もこの世界に来て間もないらしくヴォルフの臭覚を頼りにここまで来たという。

 一通りの話を聞いた後、美癒は思わず三人に尋ねてみた。

「あの、ベリーチェさんは近くにいませんでしたか……?」

 もしかして同じ世界に飛ばされたのは自分達だけでなく、ベリーチェも飛ばされているのではないかと思ったが、桜と鈴は残念そうに首を横に振った

「いや、私は見ていない」

「うちも見てないなぁ」

 そう言ってリビングで椅子に座っている二人に対し、ヴォルフは壁に凭れ掛かりながら美癒の話を聞いた後、その二人の言葉に付け足すように説明しはじめた。

「あの女の匂いは無かった、恐らく俺達とは別の世界にでも飛ばされたんだろう」

「そうですか……」

 ヴォルフの言葉を聞き美癒は残念そうに俯いてしまうと、空はこの場の雰囲気を少しでも良い方へと変えるべく話を振ってみた。

「それにしても、皆さんが無事で本当に良かったです。偶々飛ばされた世界が同じだなんて奇跡ですからね」

 確かに空の言うとおり、無限とも言える世界が有るにも関わらず美癒達が出会えた事は奇跡と言っても過言ではないだろう。

 それに賛同するようにヴォルフも話し始めると、椅子に座り一口お茶を飲んだレインへと視線を向けた。

「同感だ、それにまさか俺の知っている世界に辿り着くとは……」

 その視線に気付いたレインはヴォルフを見つめながら瞬きをした後、周りにいる美癒達の方を見ながらある疑問を訪ねてみた。

「ヴォルフ君、天百合さん達とはどういう関係なの?」

「えっ、ああ……そ、それは……っ……」

 ヴォルフにとって言い辛いのか、思わず口篭ってしまうのを見て鈴が尻目に元気良く話しはじめた。

「元々ヴォルっちは美癒っちを狙う刺客やったんよっ!」

 その言葉にヴォルフは凭れていた壁から離れ手をあわあわとさせながら動揺していると、鈴の言葉を聞いたレインが鋭い視線でヴォルフを見つめ始める。

「刺客……? ヴォルフ君、もしかして貴方まだ傭兵なんてものを続けているの!?」

「か、金を稼ぐ一番手っ取り早い方法だからな……あと女、その呼び方止めろ。殺すぞ」

 若干レインに怯えながらも『ヴォルっち』と言われた事に対しそう言うと、その言葉を聞いたレインが更に強い口調で口を開く。

「こらっ! 鈴音さんの事をそんな風に言ってはいけません!」

 レインにお叱りを受けヴォルフは何も言えず固まっていると、そんなヴォルフをフォローするように美癒が席を立ち話しはじめた。

「でもヴォルフさんには前の世界でも私達を助けてくれました、ありがとうございます」

 そう言って美癒は感謝の意を籠めて深々と頭を下げると、以前から気になっていた事を空が聞いてみた。

「ヴォルフさん、良かったら聞かせてください。どうして貴方はあの世界にいたのですか……?」

 ヴォルフが空の質問に答えようか迷っていたが、レインの視線も気になり渋々答え始める。

「……孤児院、あっただろ。そこに金を寄……預けていた。それだけだ」

 それだけ言って再び腕を組み壁に凭れかかろうとした瞬間、美癒、鈴、桜の三人が思い思いの事を口に出し始めた。

「やっぱり! ヴォルフさんは心優しい人だったんですね!」

「うち等を襲った時の事が嘘のようやな~」

「ふむ、所謂ツンデレと言う奴か」 

 美癒は両手を合わせて喜びを露にすると、鈴は腕を組みながらヴォルフの優しい心をしみじみと感じ、桜はヴォルフがどういった人格の持ち主なのかを勝手に想像しはじめていた。

「仕事をきちんとこなしてこそプロだからな、まぁお前達の件については失敗に終わったが……」

 好き勝手言われ若干呆れながらヴォルフはそう答えていると、今度は美癒がレインにヴォルフとの関係を尋ねてみる。

「あ、レインさんとヴォルフさんはどういった関係なんですか?」

「ペットですね」

「おいっ!?」

 笑顔で答えるレインに対しすかさず反応して見せるヴォルフに、レインはニコニコと笑みを浮かべながらくすりと笑ってみせた。

「うふふっ、冗談ですよ。ヴォルフ君はこの施設の卒業生です」

「そうだったんですか! どうりでお二人共仲が良いんですね」

「俺がからかわれる一方なんだけどな……」

 仲が良いのは確かなのだが、どうも納得がいかずヴォルフは複雑な心境で呟いてしまう。

 そんなヴォルフにレインは追い討ちを掛けるように更に言葉を続けた。

「ヴォルフ君、傭兵なんてもの今直ぐ辞めなさい。どうして天百合さん達を狙ったのかは知りませんが、危険な事は慎むようにしてくださいね!」

 その言葉を聞いた途端、ヴォルフはそっぽを向いてしまうと躊躇う事なく否定してのける。

「……いや、例えレインさんの頼みでもそれは無理だ。俺はあの世界を滅ぼした奴等を抹殺するまで戦うつもりだからな」

 先程まで和やかな雰囲気に包まれていたというのに、ヴォルフの言葉で急に思い空気へと変わってしまう。

「ヴォルフ君……」

 どうやら説得は一筋縄ではいかない、レインはヴォルフの心境を察していると、自分のせいで雰囲気を悪くしてしまった責任を感じたヴォルフがふと話しの内容を変えはじめた。

「それよりレインさん、こいつ等を元の世界に帰してやりたいんだ。力を貸して頂いてもいいですか?」

「元の世界に帰れるのですか!?」

 その言葉に思わず空が身を乗り出してしまう。

 まさかこうも簡単に元の世界へと帰れると思っていなかったからだ。

「ああ、俺の転移魔法は自身専用だが、レインさんの力を借りればここにいる奴等全員を元の世界に帰す事も容易いからな」

 そう言ってヴォルフは視線をレインに向けると、レインは自分の胸に手を当て快く頷いてくれた。

「任せてください、こう見えても魔法には少し自信が有りますから。早速準備に取り掛かりましょう」

 どうやら大人数を転移させるには準備が必要らしく、レインは足早に部屋から出て行ってしまう。

「レインさんの準備は直ぐに終わる。転移させるにはここじゃ狭いから外に出るぞ」

 ヴォルフの言われるままに美癒達は施設の外に出た後暫くレインを待っていると、服を着替えたレインが姿を現した。

 先程のようなワンピース姿ではなく、白い修道服を身に纏い、その衣服には所々綺麗な宝石がちりばめられている。

「お待たせしました」

 清楚なワンピースから気品に溢れた修道服に着替え終えたレイン、その見た目も雰囲気も先程よりも大人びており、その美しい姿に美癒と桜、そして鈴の三人は目を奪われていた。

「それでは皆様、これより転移魔法を発動しますのでなるべく一箇所に固まってください」

 レインに言われ丁度皆の中心に立っていた美癒に空達は近づくと、ヴォルフはレインに近づき手を翳した。

「レインさん、これがあいつ等の世界の位置情報だ」

 その手にレインもまた手を翳すと、一瞬柔らかい光が溢れ出たかと思えばレインはゆっくり頷き手を下ろしていく。

「ありがとうございます、この位置なら問題はありませんね」

 どうやら二人のとった一連の行動が他世界に飛ばす為の情報を送るものらしく、レインは両手を祈るように手を組み目を瞑りながら集中し始めようとした時、咄嗟に美癒が声を掛けた。

「あの! 色々とお世話をしてくれてありがとうございました! また来てもいいですか!?」

 するとレインは目を開け優しく微笑んだ後、真っ直ぐ自分を見つめてくれる美癒を見ながら口を開いた。

「是非入らしてください、今度はもっと美味しいお茶を用意しておきますから───」

 その言葉を最後に、美癒達は足元にある魔法陣か溢れ出る光に包まれていくと、次の瞬間には転移魔法が発動され既にこの世界からはいなくなっていた。



 丁度その頃、甲斐斗は美癒達を探しに行くべく家の前で転移魔法を発動しようとしていた。

 そんな甲斐斗の前には唯が立っており、今から美癒を探しに行くべく見送ろうとしていたが、突如甲斐斗の頭上に魔法陣が浮かび光を発すると転移に成功した美癒達が瞬く間に召喚される。

「ふぎゃっ!?」

 その事に甲斐斗が気づく事もなく当然のように召喚された美癒達の下敷きになり悲鳴を上げるが、四人も甲斐斗に気付かず無事元の世界に帰ってこれた事に喜んでいると、美癒達を見た唯が真っ先に声を上げた。

「美癒!?」

 唯に名前を呼ばれ美癒が顔を上げると、そこには目に涙を浮かべた唯が両手を広げて立っていた。

「お母さん!」

 無意識にその場に立ち上がり近づいていく、互いが互いを認識した時には既に二人は力強く抱きしめあっていた。

 言葉は要らない。ただただ抱きしめ合うだけで二人がどれだけ思いあっているのかが分かるのだから。

 その様子を桜と鈴が見守り、空もまた一安心して美癒を見ていると、三人の下敷きになっている甲斐斗もまた唯と美癒の抱き合う姿を見て緊張が解けたのか、大きな溜め息を吐くのであった。




 美癒達が無事に転移が完了した後、レインの横に立っていたヴォルフは腕を組みながらある人物について聞いてみた。

「なあレインさん、『あの人』は今何処にいるんだ? せっかくこの世界に戻って来たんだ、挨拶でもしておきたかったんだが……」

 ヴォルフから『あの人』と言われレインは直ぐに誰の事を指しているのか理解すると、少しだけ俯きながら呟いた。

「『ベル』は今、他の世界に行っています」

 その声の弱々しさに思わずヴォルフは呆気にとられてしまう。

 先程まで明るく元気だったレインはいない、気になってレインの方を見てみるとそこには先程とはまるで別人のように悲しい表情をしたレインが立っていた。

「ヴォルフ君、貴方に伝えておきたいことがあるの。いいかしら?」

「ああ、いいけど……」

 レインは左手の薬指につけてある指輪を見つめた後にそう言うと、寂しい表情で喋り始めた。

「実は最近、他世界の魔法使いが頻繁にこの世界に訪れるようになりました。それも先程の天百合さん達のようにではなく、私に敵意を持った人達が……」

「他世界の人間がレインさんを……?」

「ええ、現れた魔法使いは全員『ベル』が戦ってくれましたが。最後に現れた魔法使いに私はこう言われたの」

 レインは徐に左手を自分の胸元に当てると、ヴォルフの目を真っ直ぐ見つめながら呟いた。

「『可能性の候補者』、と───」

 その言葉がヴォルフの耳に入った瞬間、ヴォルフは確かに見ていた。

 レインの立っている後方に一枚の巨大なカードが出現したかと思えば、そのカードの中から無数のカードを漂わせながら現れる一人の男の姿を───。

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