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第24話 本心の心配

 鈴に料理を教える為に鈴の家に来ていた美癒だったが、その家には桜も同居しており二人暮しをしている事を知る。

 その後、桜の提案にあり美癒は鈴の家に泊まることとなり、その許可を母である唯に貰おうとしていた。

 美癒は唯に電話で事の一部始終を伝えていくと、スマホからは嬉しそうな唯の声が返ってくる。

「勿論良いわよ! お友達と楽しんできなさい!」

 上機嫌の唯はガッツポーズを取りながら嬉しそうに許可を出すと、美癒は嬉しそうにお礼を言って喋り始める。

「ありがとうお母さん! それでね──」 

「着替えなら心配しないでいいわよ、今から荷物纏めてお泊りセットを作ってそっちに持っていかせるから! それじゃあね!」

「あっ、着替えは桜さんが……切れちゃった」

 美癒の言葉を最後まで聞かずに唯は電話を切ってしまう、余程美癒が友達の家に泊まると聞いて嬉しいのだろう、唯はリビングで鼻歌を歌いながら早速お泊りセットの準備をしはじめていた。

 着替えや日用品等を旅行用の大きな鞄に一通り詰め込むと、そのバッグをソファで寝そべっている甲斐斗に向かって放り投げる。

「ちょっ!?」

 不意に投げられた鞄を受け止めた甲斐斗は困惑した表情で唯を見つめていると、唯は玄関の方に指を指す。

「はい、準備出来たから届けに行ってきてね」

「準備? なんの?」

「美癒は今日友達の家に泊まるの」

「友達の家に泊まるだとッ!? 何処のどいつだその友達って奴は!?」

「ほら、よく美癒が話してくれてる鈴ちゃんと桜ちゃんよ」

「ああ、あいつ等か……んで、何で俺が鞄を持っていかなくちゃいけないんだよ、空に頼めばいいだろ」

「空君は美癒のボディーガードで忙しいの、甲斐斗は暇なんだからちゃちゃっと持っていってよ!」

「ぐぬぬ……暇と言われたら返す言葉も出やしねえ、分かったよ……」

 唯に言われ甲斐斗は渋々鞄を手に持ちリビングを後にすると、唯からある言葉を聞いた後、靴を履き嫌々玄関の扉を開け鞄を届けに向かった。

「だっるぅ、早く家に帰ってダラダラしたい……」

 夕暮れの中、淡々と歩き続けていた甲斐斗だが、ふとある重要な事に気づき足を止めてしまう。

「あれ……俺……場所知らないんだけど……」



 日が沈み、辺りが暗くなり住宅街には点々と明かりが点き始めていた。

 そんな住宅街の光景を一人鈴の家の屋根に座り静かに見渡している空がいた。

 空は今、美癒を守る為に家の屋根の上で待機し何時刺客が来てもいいよう警戒していたのだ。

 するとその時、空に目掛けて一個の石が放り投げられると、空は石が視界に入っていないにも関わらず投げられた石を掴み取ってしまう。

「っ! ……あ、甲斐斗さん」

 石の投げられた方を見下ろしてみると、そこには不貞腐れた様子の甲斐斗が気だるそうに空を見上げていた。

「お前の魔力を頼りに来てみたはいいが……今のお前、美癒のストーカーにしか見えないぞ」

 甲斐斗にそう言われ空は苦笑いを浮かべると、屋根の上から颯爽と飛び降り甲斐斗の目の前に着地してみせる。

「そ、そうですか? でも、仕方ないですよ、これも美癒さんの為ですから」

「美癒の為ねぇ、言っとくけど美癒は今日この家に泊まるらしいぞ。お前は一日中屋根に乗ってるつもりか?」

「はい、そのつもりです」

「美癒がそれを許してくれると思うか?」

「それは……」

「守りたい気持ちは分かる。だが、その影でお前が苦労しているのを知ったら美癒は悲しむぞ」

「はい、なので気づかれないように気をつけようと……」

「駄目だ、もし刺客が現れた時に都合良くお前が現れたらそれでバレるだろ。とりあえずこの鞄を美癒に渡してくるか、お前も来い」

 そう言って甲斐斗は無理やり空を引き連れながら鈴の家に付いてあるインターホンを押してしまう。

 空はまだ心の準備が出来ておらず少し焦っていると、玄関の扉を開け中から美癒が現れた。

「甲斐斗、それに空君も。荷物を届けに来てくれたんだね、ありがとう」

「おう、それより美癒。お前は気づかなかった思うが空はずっとお前をストーカーしてたぞ」

「え?」

 甲斐斗の言葉にきょとんとした表情の美癒、空はすかさず慌てながらも甲斐斗の言葉を訂正していく。

「ちょっと甲斐斗さん! 誤解を生むような言い方はやめてください、僕はただ美癒さんを見守っていただけですよ」

「見守ってたの? ……何時から?」

 美癒はただ純粋に聞いた言葉だったが、空からしてみれば美癒に不振に思われていると思い正直に告白してしまう。

「それは、その……すいません美癒さん、僕は貴方に嘘を吐きました」

 もうこれ以上美癒に隠し事をしたくなかった空は、放課後に用事などなく美癒の為を思いわざと身を引き見守り続けていた事を全てを白状した。

 その空の言葉を聴いていた美癒は少しだけ頷くと、思いつめたような表情で視線を落としている。

 美癒に嫌われてしまった……そう思った空は肩を落とすと、美癒に向かって深々と頭を下げた。

「勝手な真似をしてすいませんでした!」

 すると、突然空が謝ってきたのを見て美癒は戸惑うと、慌てながら喋りはじめた。

「えっ!? 空君が謝ることなんてないよ! 私の為を思っての事だもんね、色々と心配かけてごめんね」

「み、美癒さん……」

 美癒の暖かい言葉に空は心を打たれ、隣に立っている甲斐斗は少し不満気な表情を浮かべていた。

 すると、美癒が玄関に行ってからリビングに戻ってくるのが遅い為に桜が心配して玄関に向かってきていた。

 だがその時、美癒はある事を思いつくと空に話しかけ始める。

「あ、そうだ! 今日のお泊り会、空君も入れてもらえないか鈴ちゃんと桜さんに聞いてみるね」

 その言葉に衝撃を受けたのは空ではない、空の横に立っていた甲斐斗、そして美癒の背後にまで近づいてきていた桜だった。

(何、だと……ッ!? このままだと空がハーレム状態になるじゃねえか!! んな胸糞悪い展開は絶対に阻止しねえと!!)

 甲斐斗の脳裏に瞬時に浮かび上がる空のハーレム姿、女子高生に囲まれるその光景は何とも腹立たしい。

 甲斐斗が一人美癒の提案に焦る中、桜もまた焦り始めていた。

(私とみゆみゆの新婚生活に邪魔が入る事は断じて許されないッ! この場でこいつの息の根を止めるか……っ!?)

 せっかく美癒と同じ屋根の下、女の子同士で和気藹々と過ごせると思っていたと言うのに、空の存在は邪魔でしかない。

 美癒の言葉に甲斐斗と桜が内心焦り始めていると、リビングから鈴が出てくると美癒達の元へと近づいてくる。

「あ、空っちとこの前の親戚の人やん、どないしたん?」

「えっとね、二人がお泊りようの荷物を届けてくれたんだけど。一緒にお泊りどうかな、って思って……」

 このままでは空も泊まる可能性がある、そう思い甲斐斗と桜が同時に阻止しようと口を開こうとした時、鈴は目を見開き大声を出した。

「あかん!! 今日は女の子だけの秘密のパジャマパーティーなの! 男の子はあかんねん」

 その鈴の言葉に目を輝かせた桜と甲斐斗は一斉に喋りはじめた。

「その通りだ鈴! 今日は美癒と親睦を深める為の女子同士の交流お泊り会なのだからな!!」

 桜はそう言ってガッツポーズを取ると、それを見た甲斐斗が親指を立ててポーズを取る。

「違いねえ! 野郎の出番は無いって事だ! ほら、さっさと帰るぞ!!」

 甲斐斗は空の腕を掴むと半ば強引に引き寄せると、そのまま家へと帰る為に歩き出す。

 美癒は残念そうに二人の帰る姿を見ていると、それを見た鈴が美癒に向かって話しかけた。

「今日はあかんけど、その内皆でお泊り会やろうな」

 鈴は別に二人の事が嫌いだから拒否した訳ではない。

 ただ単に、今日は美癒と女の子同士のお泊り会だから拒否しただけだった。

「うん、そうだね」

 美癒もそんな鈴の気持ちに気づくと、三人はリビングへと戻っていった。



 その頃、漸く空は甲斐斗から腕を放してもらえると、不安げな表情で甲斐斗に話しかける。

「僕は美癒さんと一緒に泊まろうとは思いません。しかし、美癒さんをあの場に残して僕だけが帰ってしまえば刺客が現れた時に美癒さんを守れなくなります」

「大丈夫だ、安心しろ。この周辺は既に俺が見てきたが不審な奴はいなかった。それに美癒があの家にいる事は俺達しか知らない。っつーことで美癒が刺客に狙われる事はない、分かったらさっさと帰るぞ」

 甲斐斗はそれだけ言って一人歩き始めるが、空は納得出来ずにその場から動こうとしない。

「でも、万が一の事を考えたら僕があの場に残っている方が美癒さんは安全のはずです」

「グダグダとうるせえなぁ……俺が大丈夫って言ってるんだよ、信用できねえのか?」

 甲斐斗は後ろに振り向き威圧的な視線と言葉を吐くと、空は甲斐斗から視線を逸らし目を瞑った後、ゆっくりと目蓋を開いた。

「……分かりました、そこまで言うなら……信用します」

「ふん、信用はしても納得は出来ないみたいだな、まぁ別にいいけど」

 空の不貞腐れた表情を見て鼻で笑う甲斐斗はそう言って再び歩き始めた。

 甲斐斗に続いて空もまた歩き始めようとしたが、空は少しだけ後ろに振り向き美癒達のいる家を見た。

(甲斐斗さんだって美癒さんが心配なはず、どうして帰る事に拘るんだろう……)

 空は甲斐斗が美癒の事を誰よりも心配している事は分かっている。

 甲斐斗の言う通り辺りに美癒を狙う刺客がいない以上、安全なのかもしれないが、万が一自分達がいない時に刺客が現れたらと考えてしまえばいてもたってもいられなかった。

 出来る事ならこの目で美癒の安全を見届けたい。それは甲斐斗も同じのはずだと空は思っている。

 それから二人は特に会話をする事もなく、唯のいる自宅へと帰っていった。



 自宅へと戻った二人、扉を開け玄関に入るとリビングからエプロン姿の唯が現れる。

「おかえりなさい、晩御飯出来たわよ」

 美味しそうな香りがリビングから玄関にまで漂ってきていた為、甲斐斗は笑みを浮かべながら足早にリビングへと入っていくが、空は浮かない表情のままリビングへと向かおうとしていた。

「空君? どうかしたの……?」

 そんな空を見て唯は心配になって声を掛けてみると、空は自分の胸中を語り始める。

「その、甲斐斗さんは大丈夫と言いましたが。僕がここにいる間にも美癒さんに危害が及んでいないか心配で……」

 美癒を守ると決心し、覚悟した空にとって美癒の側から離れる事が何よりも不安だった。

 出来る事なら今直ぐにでも美癒の元に戻り影から見守っていたい、そんな気持ちを抱いたままの空に、唯は目を瞑ると優しく空を抱き寄せた。

 不意な出来事に空は頬を赤く染め動揺しながら抱きしめられると、唯は静かに話し始めた。

「美癒の事を本気で心配してくれてありがとう。でも、少しは肩の力を抜いてもいいのよ。全てを一人で抱えようとしないで」

 そう言った後、唯は空の両肩に手を置き笑みを浮かべた。

「甲斐斗が家を出る前にね、私が空君を家に連れて帰ってくるように甲斐斗に頼んだの。だって、貴方はまだ高校生、子供なんだから。無理しちゃだめ、私達大人をもっと頼りなさい。甲斐斗だってああ見えて美癒の事を本気で心配してるの、でも自分がうろたえていたら皆を不安にさせるからああやって振舞ってるだけだし、それに甲斐斗が大丈夫って言ったのならきっと大丈夫よ、甲斐斗を信じてあげて」

 唯には甲斐斗の事などお見通しらしく、そう言って空を元気付けようとしていると、何時までたってもリビングに来ない二人を呼びに甲斐斗が戻ってくる。

「お前ら何話してんだ? 飯が冷めるだろ、さっさと食おうぜ」

「はいは~い。ほら、行きましょ」

 唯も空と同様に美癒が心配だろう、それでも自分を励ましてくれた唯を見て空は少しだけ肩の力を抜きリビングへと向かうのであった。

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