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リーンカーネーション・サーガ:極点物理の支配者 〜亡国の王子はルールスペースで世界の理を再構築する〜  作者: 八咫烏


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無秩序な死と、無色の理(ルール)

14年前の公募一次通過作を、14年分の筆力で完全リメイクしました。

昔の情熱と今の技術、その両方を詰め込んだ一から再構築の自信作です。

ぜひ、新しく生まれ変わった物語をお楽しみください!

よろしくお願いいたします。

世界は、ひどく無秩序(カオス)だ。


物心ついた時から、僕はそう感じていた。

 朝の食卓で飛び交う、両親の不条理な罵声。

そこに理由も答えもなく、ただ感情のノイズだけが部屋を満たしていく。そんな光景に耐えられず、僕はいつも、図書館という名の「秩序の聖域」へ逃げ込んでいた。


物理。数学。軍事雑学。

 定義され、数式で証明できる世界だけが僕の救いだった。


「……世界は、ルールがあるからこそ美しいんだ」


通学電車のホーム。高校一年の僕は、量子力学の専門書を片手にそう独りごちた。

 だが、その直後。僕が愛した「物理のルール」は、あまりにも残酷な形で牙を剥く。


耳を裂くような、金属同士の絶叫。

脱線した車両がホームを削り、僕の視界を埋め尽くした。


(ああ、この巨大な質量(てつのかたまり)には、僕の肉体じゃ絶対に耐えられない――)


恐怖よりも先に、そんな冷徹な計算が脳を過った。

抗いようのない、理不尽な暴力的秩序。

死の間際、僕は初めて「ルール」を憎み、そして渇望した。


もし、次にチャンスがあるのなら。

この空間の理(ルール)を、僕自身の意志で、僕だけが定義できるものに書き換えられたなら――。


刹那の渇望が、永遠の闇に溶けていった。


◇◇◇◇◇


「……おぎゃあ、あ」


自分のものとは思えない、高く細い産声で意識が浮上した。

 肺に流れ込む空気の重さ。視界を刺す、豪華絢爛なシャンデリアの光。

 そこは、現代の病院などではなかった。石造りの堅牢な壁と、重厚な天蓋付きのベッド。中世の王宮を思わせる、冷え冷えとした大部屋だ。


「……生まれたか。メアリ」


低く、威圧的な男の声が響く。

 視線を向けると、そこには金糸の刺繍を施した豪華なローブを纏った男が立っていた。エルウィン王国国王、エリック。

 僕を抱いている女性――僕の「母」であるメアリが、びくりと肩を震わせる。彼女は王の姪でありながら、年の離れた叔父であるこの男に、文字通り「獲物」として娶られたのだという。


「……はい、エリック様。元気な男の子です」


母の声には、慈しみよりも、どこか怯えを含んだ影があった。

 エリック王が、値踏みするように僕を覗き込む。だが、その顔が次の瞬間、嫌悪に歪んだ。


「……なんだ、その色は」


王の指が、僕の頭髪に触れる。

 この世界において、髪の色は宿した魔力の属性を示す。水の青、火の赤、風の緑。

 だが、僕の髪は――透き通るような、純白だった。


「属性がない……魔力を持たぬ『無色』か。王家の血を継ぎながら、魔法も使えぬゴミめが。忌々しい。姉上の面影を汚しおって……!」


エリック王の瞳に宿るのは、実の子に対する愛情ではない。期待外れの商品を眺めるような、冷酷な光だ。


「メアリ、その出来損ないを二度と私の目の届く場所に置くな。離宮にでも閉じ込めておけ。王家の血を引く『白髪』など、他国への面汚しだ」


「……あ……っ」


吐き捨て、王は背を向けて去っていく。

 後に残されたのは、静まり返った部屋と、震える母の呼吸だけだった。


(……ああ、そうか。ここでも世界は無秩序で、理不尽なんだな)


僕はぼやける視界の中で、大気の中に漂う「ノイズ」を見つめた。

 空気中に満ちる不規則な光――七色の魔力(マナ)。それが物理法則を無視して漂う様子が、今の僕には耐え難いほど不快だった。


(消えろ。僕の視界から、その不確かなノイズを。僕が愛する、清廉な「秩序」を返せ――!)


赤ん坊の僕の意志が、特異点となって爆発した。


――『支配空間(ルールスペース)』、展開。


瞬間、部屋を彩っていた七色の光が一斉に掻き消えた。

 僕を中心に、目に見えない「球体」が広がり、境界線に触れた魔力を根こそぎ否定していく。


極彩色だった世界が、一変して「無彩色(モノクロ)」へと塗り替えられる。

 王宮の贅を尽くした色彩さえも、僕が定義する「物理空間」の中では沈黙し、力を失った。


「っ!? マナが……消えた……? 色彩が……!?」


母が、絶望に満ちた声を上げる。

 色彩を失った世界で、母の目から一筋の涙が溢れた。それは、夫への恐怖、息子への憐れみ、そして自分の運命への悔しさが混じり合った、熱い涙だった。


(……泣かないで、母さん)


数秒後、あまりの負荷に僕の意識は再び遠のき始める。

 空間が霧散し、世界に不快なノイズ(魔力)が戻ってくる。


魔力がないから「無色」なのではない。

 魔力という理不尽を、この空間から「消し去る」からこそ、僕は無色なのだ。


離宮への追放。忌み子としての扱い。

 望むところだ。

 魔法がすべてを決めるこの世界で、僕は「物理」という最強の数式を手に、世界の理を再構築してやる。


リーン・ウィンディー・C・エルウィン。

 それが、この世界での僕の名前。


意識が闇に落ちる直前、僕は泣き崩れる母の腕の中で、静かに再起を誓った。


挿絵(By みてみん)

本日もお読みいただきありがとうございます!

14年前に書いた思い入れのある作品を、今の全力で毎日リメイク投稿しております。

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