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「お荷物は、これだけですか?」


「ええと……タケオ?」


「はい、これで全部ですね」


「承知致しました」


 紺の制服に身を包んだ交通営団の女性職員が、手に持った小さな専用端末を手際よく操ってホーム上に置かれた全員の手荷物をチェックしながら、そっとソコロフの耳元に囁いた。


(ご指示の通りコンパートメントを手配させて頂きました。お手持ちのチケットは使わずに、こちらをお使いください。場所は、そちらの入り口から入って頂いて通路を行ったまっすぐ突き当りの『A11』と『A12』です。事前にお預かりした荷物は『A11』の方にお運びしてあります)


「ありがとう」


 ソコロフは、自身の携帯端末に彼女が、その体で隠すようにしてそっと差し出した専用端末から素早くファーストクラスのチケットをダウンロードするとホームで佇む一同に振り返った。


「みんな、準備万端でさぁ」


「よし、じゃあ、その入り口から入ってくれ。コンパートメントの場所は通路の突き当りの『A11』と『A12』だ」


「え、ファーストクラス……ですか?」


「へへっ。まっ、あたいら清流会の手に掛かれば、ざっとこんなもんよ。さあ、ターシャさんも入った、入った」


 目を見張るターシャの視線の前に居並んだ鈍い光を放つアルミの車体。



 シャフト 第四十七階層 ダウンタウン 南地区 第十六区画



 モノレールステーション「サウス・ダウンタウン」

 周囲の粗末なバラックの群れとは対照的なガラス張りの近代的な駅舎。

 天井に設けられたレールから吊り下げられた懸垂式のモノレールに乗客たちが次々と乗り込んでいく。

 午後八時ニ十二分発 特急パシフィック・エクスプレス

 職員に指示された通りに一同が車両の入り口から中の豪奢な内装の通路を進むと、


「わぁぁ!!」


 華麗な装飾の施された板目張りのドアを開けてターシャが、年頃の少女らしい歓声を漏らす。

 頭上に輝く小さなシャンデリアと鈍い光沢を放つ木目調の内装。

 床には、くるぶしまでたっぷりと羽毛の立った高級そうな赤い絨毯が敷かれ、コンパートメントの中央には、座り心地のよさそうな大きな黒革のソファセットとその隅には寝室へと続く扉とミニバーが。

 そして、その隣には――


「シャワーまで付いてるんですか!」


「ああ。目的地まで長いからね。チナツに頼んでいい部屋を取ってもらったんだ。それに――」


「なにより、こいつらがありやすからね、っと!」


 コンパートメントの床の上に置かれた大きなケースの一つをバチンッ、バチンッと音を立てて、ホー叔父さんが開けると、


「あたしの相棒(おとうと)だよ。こいつが無いとあたしは、仕事が出来ないんでねぇ」


 現われたのは、一丁の狙撃銃。

 ホー叔父さんの物言わぬ相棒、ドラグノフ狙撃銃だった。

 愛おし気にその鈍い光を放つ漆黒の銃身を皺だらけの手で擦って、ホー叔父さんが、にっこりと微笑む。

 一同を見回してソコロフが頷いた。


「よし、みんな聞いてくれ。目的地である第六十一階層『第十七号パワープラントB駅』までは、およそ十六時間、到着は明日の昼頃の予定だ。見張りは、二時間交代、二人ひとチームで行う。自分の番が来るまでは、体を休めていてくれ。タケオ」


「はっ」


「君と俺で最初の見張りだ。あと、その間に荷物のチェックを頼む。漏れは無いと思うが、念のため、確認しておいてほしい」


「了解しました」


「ターシャ、チナツ」


「はいっ」「はいよんっ」


「君たちは隣のコンパートメントだ。見張りの交代の際には、声を掛ける。ターシャ、念のため携帯端末と増幅器(ブースター)だけは、離さず身に付けていてくれ」


 二人が、隣のコンパートメントへ向かうのを見送ってソコロフは、窓の外へと目を向ける。

 微かに聞こえたベルの音と同時にゆっくりと流れ出す駅のホーム。

 やがて、かすかな振動と共にモノレールが加速し始め、一面にバラックの屋根が続く第四十七階層の景色が後方へと勢いよく疾走して行く。

 目的地は、第六十一層。

 本来の目的地であるオルタナティブ・エリア32はさらにその先。

 第八十二階層――

 そこに辿り着くには、これまでよりさらに多くの難関が予想される。

 シャフトでの戦闘といい、コマーシャル・プレイスでの戦闘といい、


(だいぶ時間を喰ったな……)


 特段、具体的な期限がある訳ではないが、任務の達成は早い方がいいに越した事は無い。第一七七民生委員会には、時間があまり残されていないのだ。

 ともあれ――

 取り敢えず、十四階層分、移動時間を節約する事は出来た。

 が――


(問題は、ここからだな)


 そう。

 逃げ場のないモノレールの車内。

 ソコロフ達を狙う物にとっては、またとない絶好の機会である。

 ソコロフは、窓の外を見つめたながら、ワイシャツの胸ポケットからタバコを引っ張り出してそっと口に咥えると、上着を脱いで給弾ベストを着込む。


(特に危ないのは、第四十九階層から五十階層に掛けての最高度危険区域)


 通過は、おそらく夜中になる筈だ。

 体を休めるように皆には言ったが……。


(さて……?)



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