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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
ナイルダルク編
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それぞれの思惑

「そろそろ私も出てもいい頃だと思うのだけれど」


サーシャが焦れたように答えた。


というよりもこれは誰に向かっていっているセリフなのだろうか……。


「仕方ないです〜。やっぱ映えるのは前線の人たちですからね〜」


アーニャが両手を広げて返した。


「私なんて……。何もしてない……」


アリスが突っ伏した。


「あー」


「あー」


アーニャとサーシャがアリスを墓穴掘ったな感で見た。


その陰で何やらそわそわする動きをしている女の子がいたことに三人は気づかなかった。


「私なんか……出たのいつ? レベルよ〜〜〜」

 弛緩した空気。みんなの安堵したような笑い声。そんな空気の中で、悠人だけは違和感を感じていた。


 もちろん悠人にそんな能力はない。しかも、理由も何もない。


 ただ、この空気感に馴染めていないからこそそんな感情が湧き出ているのかもしれないと、その時は楽観視していた。


 この出来事は序章に過ぎなかったことを……。





 ナイルダルク作戦本部。


「首尾はどうですかな、ジョセミール・スミス先生」


 軍服を着た、けれども軍の人間というにはあまりにも年が過ぎすぎている老人が、比較すればとてつもなく年の離れた白衣の男に声をかけた。


 スミスと呼ばれた白衣の男は老人軍師の方へと向き直り口を開いた。


「そうですね。 やはり魔法というものを深く知らないせいか…僕の思い通りには残念ながらいっていません……」


 彼らはモニターの方を見る。


 小国、ナイルダルクとヴィッフェルチアの国境付近で赤い点滅とそこから二十キロ離れた国境付近でも赤い点滅がともっていた。


 すると不意にナイルダルクから赤い点がヴィッフェルチアの方に飛ぶようにして向かっていき、落ちそうなところで消滅した。


「確かに、そのようですな」


「ええ。 ですがこれはほんの一部に過ぎません。 魔術を持たぬ我々が科学という素晴らしい武器を振りかざし必ずや彼らを倒してみせますよ」


「……別に我々はそこまでの戦績は求めておりません。我々の目的はヴィッフェルチアの侵攻を止める事とヴィッフェルチアに現れたという同朋を連れ帰ることです。くれぐれもー」


「実に惜しい! あなたは科学の偉大さ、そして巨大さを分かっていない。 あなたも我々の科学の素晴らしさを知ればそんな感情は捨ててしまうでしょう」


 老人軍師はしばらく黙り込んだあと、「……では、見せて頂きましょうか」と言い残し去っていった。


「せいぜい見ていてください。あなたの驚くような顔を見るのが楽しみです」


 スミスはそう言って画面を注視した。




 悠人たちはナイルダルクへと向かっていた。交戦のあった国境からではなく、国境を隔てる山を越えることでナイルダルクに入ることになった。


 理由は簡単で、主要な国境には常に兵士が目を光らせていること。それにより強行突破よりも奇襲作用も与えられるここからいくことを選んだ。


 幸いにもナイルダルク人にはこの山に入ることは容易ではない。それはどう猛な獣が多く生息することが分かっているからでそれを退くすべを持っていないからに他ならなく、ナイルダルクのみでこの山を登れたものはいない。


 その点、ヴィッフェルチア人の魔法を扱えるものはある程度この山でも登れる。


 だからこそ、ここならばナイルダルク人がおらず容易に侵入することができると考えた。


「とはいえ、キツイな」


「こんなんでへばってどうすんの! あんた男でしょ」


 昔の悠人ならばもう既にリタイアか死んでもおかしくない。


 そこへ獣が現れる。いかにもどう猛そうな目つきを向け、明らかに威嚇しているのが分かる。


 見た目は猿のように見える。しかし、猿より何十倍も大きい。そのため、人間の身長をはるかに超えていた。おそらく三メートルは軽くあるように見えた。


 悠人たちはこの獣の縄張りへと足を踏み入れてしまったらしい。


「ガァァァァァァァ!!」


 牙を立てて悠人たちへと振りかざした。悠人が左、ラネイシャとアーニャが右に避けた。


 獣の右手が地面についた途端にものすごい地面揺れで一瞬浮き上がった。


「ここら辺のはこんなのばっかなのか?」


「ええ、そうよ。たまに山を降りてくることもあるわ」


 悠人は学園に入りたての頃の獣を思い出した。あれは、なんとか風紀委員が複数人でやっと鎮静化していた。しかし、今は三人しかいない。


「いくわよ!」


 ラネイシャが獣の背後から飛び込んで短剣を振る。


 僅かながらも確かに獣に傷をつけた。けれども短剣なので傷が浅かった。


 この大きさの獣であの傷ならヒトでいうところの少し擦りむいた程度に過ぎなかった。


「はあっ!」


 それでも、ラネイシャにはスピードがあった。自己加速を併用し、確実に傷を増やしていく。


 獣は痛みの方向に向きを変えるが自己加速したラネイシャを捉えることができず、ラネイシャの斬撃を受け続ける形になってしまっていた。


「ガァァァァァァァ!!!」


 もう追いかけるのをやめてむやみやたらに腕を振り回し出した。


 勘がいいのかわからないが、それがラネイシャが向かっていた方へと重なるようにいってしまう。


「っ!?」


 ラネイシャは止まれなかった。自己加速は文字通り実際のスピードを上げたものだ。しかし、方向転換には一度何か踏まないと出来ないのだ。


 ラネイシャは飛ぶようにして自己加速を用いていたためにその攻撃を避けることができない。


「任せろ!」


 悠人が瞬間移動で獣の腕に近づき、長剣を縦に一閃した。


 たちまち、獣の腕が落ちた。


 獣は相当な痛みに前に崩れた。


「助かったわ」


「なんの」


 悠人が倒れ込んだ獣に向け、剣を向け最後の一撃を下そうと駆け出す。


「それ以上はやめてください」


 アーニャの声に悠人の動きが止まる。


 悠人はどうしてという顔をアーニャに向けた。


「獣は動けません。私たちがここを侵している側なのです。別に通りたいだけなら気絶だけでいいと思います。これ以上の深追いはする必要ありません」


 そう言われては鞘を収めるしかなかった。


「そうね。時間が惜しいわ、先を急ぐわよ」


 そのラネイシャの号令を合図に山を走り出した。




 国境付近。


「どうなってる!?」


「俺たちと互角だと!?」


 ヴィッフェルチア兵魔法師が声をあげて驚く。


 彼らの目の先には拳銃を肩に担ぐ、兵士と一緒に闊歩している砲台があった。


 その砲台は文字通り、車輪を回して闊歩していた。


 そして細長い砲台から吐き出される弾には地面に穴を開けるほどの威力があった。


 それだけならまだこちら側に分がある。


「上からの攻撃に気をつけろ!」


 兵士同士で注意喚起した。


「弾が落ちてきたぞ!」


「迎撃!」


 遠隔魔法を放ち迎撃した。


 そう、この空からの攻撃には対処しかできていない状況であった。


 そのせいで部隊が混乱しつつある。


 さらには同時撃ちがかなりの痛手を被っていた。


 じわじわとヴィッフェルチア側が押されていた。


「部隊を整えろ! 役割分担するんだ! 第一陣は前のみに集中、前からの攻撃を防ぎつつ前進せよ! 第二陣は空からの攻撃の迎撃と空の塊の破壊だ! 」


 オルドフが檄を飛ばした。


 総隊長が伝令したことである程度押され気味だった戦況が安定した。


「ねぇ、私にいかせてよ〜。 私ならあんな連中すぐ吹っ飛ばせるよ」


 フィーベルがオルドフにそう提案した。


「そうだぜ、俺たちが攻撃に回れば後の兵士たちは守りさえすれば勝てる戦だって」


 キーシュがさらにオルドフに提案した。いわゆる二人なら作戦ってやつだ。


 二人がそんなことをわざわざお願いしているのはオルドフがこの戦の総大将だからに他ならなかった。


 アリスフィアからの命であった。


 軍の総大将もオルドフなだけにその決定に誰も口出ししなかった。


 この二人は戦いたいのだ。それはこの国に対して愛国心があるとともに、血が騒いでいるのだろう。


「ダメだ。お前たちは専守防衛だ。 こんなところで死んでもらっては困る」


「な!? 失礼だな。俺がそんな簡単に死ぬって言うのかよ!」


「私達なら負けないよ!」


 二人が心外だと抗議した。しかし、それでもオルドフは首を縦に振らなかった。


「この戦は少し……いやかなりイレギュラーなことが多すぎる。 あの地上の闊歩する砲台に空の動く塊……あれを壊さなければ我々に勝ちはない」


「だからこそ俺に!」


「お前らは大事な戦力だ! そこらへんの魔法師とはわけがちげぇんだ。それをこんな危険と分かってる戦場に放り込むのはリスクが大き過ぎる。……我慢しろ」


 二人はそんなことを真剣な顔で言われて返す言葉がなかった。





「やっと越えたーー!!」


 悠人は大きく叫びながら伸びをした。


 山登りは意外と辛いということを再認識した。ふと、時計を見るとあれからたった五時間で越えたというのはかなりハイペースであったということであった。それを鑑みれば、逆にこちらの生活に慣れてしまったとも思える。


 思わず苦笑してしまう。


「悠人! ラネイシャは先に行っちゃってますよ〜」


 遠くから、アーニャが声を出しているのに気づいた。ラネイシャは休憩なしでずっと歩きっぱなしだ。


 今更ながら、ドラゴンで飛べばよかったんじゃない?と思う人もいると思うが、魔力を温存したいということでこうなった。


「置いてくわよー!」


 そんなラネイシャの声を合図に悠人は走り出した。


「もうここはナイルダルクなんだよな? ここら辺は人がいないのか?」


「私も別にナイルダルクに詳しいわけじゃないから分からないけど、ここは山岳地帯だからあまり栄えなかったのかもね。ほら、魔物が出るし」


 そう言いながら、ゴブリンを軽く斬りふせるラネイシャ。


 歩みを止めずにまるで息をするように始末してしまった。


「確かに魔物が出るのは魔法の使えないナイルダルク人にとってはここに寄り付かない理由になるわけだ」


「それにここは遥か昔の大戦時代の遺物が多く眠っているそうですよ」


「そうなのか?」


「ええ、だからこそナイルダルク人はこの山に登るということを辞められないのでしょうね」


 アーニャの情報にラネイシャが補足する。


「それなら、魔法使える傭兵でも雇えばいいのに……」


「ここのあたりで魔法を使えるといったらヴィッフェルチア人よ? プライドが傷つくからみんなやらないわよ」


 悠人はその時、真っ先に貴族の顔が浮かんだ。とても上からの物言いで例え報酬が充分にあるのにもかかわらず頑固として承諾しない姿を。


「確かに想像がつくな……」


「グズグズしない! 行くわよー!」


「あ、待ってくれー!」


 悠人たちはナイルダルク中心部、ナッサルデヒアに向かった。

いつも読んでくださりありがとうございます!


ちょっと物語が停滞している感はありますが、だんだんと盛り上がる形に持っていくつもりです!


なので飽きずに読んでいただけると嬉しいです。


さて、この季節はクソ暑いんですけど、色々と頑張っている私ですが、夏休みに入るということでワクワクしております。


そのためにも勉学に励みつつもこの活動は継続していきたいとおもっています。


カクヨムでも近々新しく更新できたらなと思ってますのでまたその時にツイッターでお知らせすると思いますのでそちらもよろしくお願いします!


では、また来週!


小椋鉄平

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