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想起創造の魔法剣士(マジックフェンサー)  作者: 小椋鉄平
ナイルダルク編
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宣戦布告

「ななな……っ!?」


 悠人は後方に飛んで尻餅をつく。


 初めキスされた時、何か飲まされるのかと思って口を噤んでいたが、何もなくただ唇と唇を合わせていた。


 だからこそ、純粋なキスという行為なのだと悟って悠人は慌てた。もちろん、初めてのことだからというのもあるし、恥ずかしさも当然あった。


 ラネイシャは起き上がるも顔を赤らめたまま悠人の方を見ない。


「どういうつもりだ? ラネイシャ」


「どうもこうもないわよ。 ただのお礼……」


「お礼?」


 悠人はそんなもの記憶にないといった表情でラネイシャに聞き返した。


「そう、けっこう私に構ってくれたじゃない? だから……」


「いや、だからってー」


「いいから、ありがたく貰っておきなさい!」


「ぶっ!?」


 なぜかビンタを食らった。


 ラネイシャはズカズカと早足に学園に帰ってしまった。


 ビンタされた理由は分からなかったけど、別に嫌われてのビンタではないように思えたので少し顔を綻ばせてラネイシャに続いた。


「ち、近いわー!!!」


「ぶっ!?」


(き、嫌われてないよな? ホントだよな??)


 吹き飛ばされながらも心配になる悠人であった……。





「女王陛下!」


 アーニャは女王の部屋に飛び込んだ。


 額に汗を浮かべながら、息を切らす声を出す。


「よくいらしてくださいました……と言いたいところなのですが、どうもそれどころじゃないんです……」


「え?」


 そのアリスフィアの言葉でハッとして周りを見渡すアーニャ。


 バタバタと兵士たちが、走り回っているのが目に入った。


 大きな声で指示のする声も聞こえる。


「迎撃部隊は直ちに出立せよ! この国を守るのだ!」


「情報部隊はそれに続け!」


「何があったのですか?」


 アーニャはアリスフィアの方へと向き直り尋ねた。


「え、学園の方にも今しがた連絡を出したのですけれど……これを見てください」


 アリスから一枚の紙を渡された。


 そこにはナイルダルクの正式な刻印とともに宣戦布告を言い渡す文言が書いてあった。


「どうして今になって……」


「私にもそれは分かりません。ただ、アーニャさんは分かってるんじゃありませんか?」


 質問を逆に返されてしまった。


 アーニャの中で思い当たらない節がないわけではなかった。ムーバストがナイルダルクの研究所を強襲、壊滅に追い込んでいる。


 それに対する報復だと考えればむしろ宣戦布告があるだけマシだとも思える。


「………陛下はもう知ってしまっているんですよね?」


 アーニャは答えを変える代わりにそのように答えた。


 アーニャはサーシャの言っていたことに関して確認を取りたかった。


 もし、麻耶(お義母さま)に会えればその場で糾弾していたところではあるけれども、それどころではなくなっていた。


「ええ、勇者御一行が私に助言に来てくださいました。文献では裏切り者と揶揄されていた彼らが実はあんなに良い方なんて思いもしませんでした。教育というものは恐ろしいですね」


 アリスフィアが言っていたことはある意味そうであろう。 ある者の主観で説かれた教えはある意味洗脳に等しいほどの効力を持つ。特に正しい知識のない者にはなおさら有効だ。


 ヴィッフェルチアの文献自体がそう書かれているのだからそうに違いないと思わせているのだ。


 本来の教育がそこにはないというのは周知の通りであろう。


 教育はただ、事実を伝えなければならない。特に歴史書であればなおさらであろう。


 事実を教え、それに対する各々の感情は其の者に委ねるようにしなければ教育とはとてもじゃないが言えない。


 ただ、アーニャにはアリスの発した勇者という言葉に引っかかりを覚えた。


「勇者御一行……とは、どういうことでしょうか? 麻耶という精霊だけではなかったのですか?」


「ええ、あのかつての英雄と呼ばれしユージェス様が助言をくださりました」


 アーニャは驚きを隠せなかった。


「どうなっているのですか……」


「どうして頭を抱えるのですか?」


 不思議そうにアーニャを見つめるアリスフィア。どうやら、アリスフィアはユージェスがタリスにいることをアーニャはすでに知っていると思い込んでいるようであった。


 しかし、事実は逆。アーニャはユージェスまでもがタリスに来ているなんて知らなかった。


 ということはハルがこのことに気づいて行動を開始しているかもしれないとアーニャは思ったが、こちらは特に害はなさそうなのですぐに考えを捨てた。


 別にユージェスとハルが出会ったところで麻耶との修羅場を止められるはずがないと思ったからだ。


(っと、そんなこと考えてる場合じゃない)


「話を戻しましょう」


「ええ、というよりもアーニャさんだけで話が脱線していたように思えますが……」


 アリスの一言でさっきまでのことが全部独り言だと気づいて赤面した。


 咳払いで場の空気をデフォルトした。


「それで、ナイルダルクはどこから攻めるつもりですか? 」


「まだ、情報が不確かなのですが、国境線から攻撃しているとのことです」


「馬鹿なのですか? いくら何でも正面突破では明らかにこちらの方が有利ですよ。 魔法を使えないナイルダルク人は魔法の使えるヴィッフェルチア人にまともに正面切ってかなうわけがない」


「そのハズなのですが、どうやら魔法とは言えないけれども魔法のような弾丸を放っているとか……」


「銃を用いているということですか!? いや、あれは……」


 その先を言いづらそうにしているアーニャ。


「それについては前から知っていました。 拳銃はかの別世界、地球からもたらされた兵器。それはヒトを簡単に殺せる武器としてかなり厳重に外への流出は禁止していました。それをナイルダルクが使っているということは……」


「おそらく、地球からの使者が彼らの背後にいる可能性が高いです。 地球の恐ろしい兵器を使えば魔法と同等の力を得たのと同義ですから前線はかなり苦戦を強いられているかもしれません」


 その時、アリスの側近がアリスのそばに寄って耳打ちした。


「何か新しい情報ですか?」


「はい、アーニャさんは今すぐ学園に戻ってください」


「学園に向かって何か仕掛けて来たんですか?」


「ムーバストによれば学園に向かってミサイルを発射したそうです」


「っ!?」


 そのアリスの言葉にアーニャは青ざめた。





 学園にて。


「緊急事態警報を学園の生徒及び、学園周りの民間人に伝えろ! 特進クラスはミサイルを迎え撃つ。私に続け!」


 アイナが指揮をとっていた。


 悠人がちょうど学園に戻ると慌ただしい様相に早変わりしていた。


「ミサイルって何でしょうか?」


 悠人はアイナに歩み寄り尋ねた。


「ナイルダルクが宣戦布告してきた。 それで学園に向かってミサイルを発射した」


「だから……」


「お前、ミサイルだぞ? やけに冷静だな」


 アイナが悠人の冷静っぷりに驚いていた。


「情報によるとおよそ五分後に来る予定だそうです。 ここに向かっていることから学園が着弾地点であることはほぼ間違いではないと思いますが、なるべく着弾前に迎撃してください」


 サーシャが電話を切ったのちにそう答えた。


「じゃあ大丈夫じゃないですか。 ここの生徒たちは伊達ではないですから」


「悠人、お前……」


「悠人、状況が飲み込めてないようね。 生徒たちはとっくに地下シェルターに避難させてあるわ。特進クラスを除いてね」


 サーシャが呆れ顔でそう答える。


「だとしても、特進クラスは強者揃いですから、ミサイルの一つくらいー」


「一つじゃないのよ」


 悠人の声を遮り、サーシャはそう答えた。


 悠人はてっきり一つが学園に向かっていると思い込んでいた。だからこそ、これほどまでに冷静でいられた。


 ー自分がやらなくても大丈夫だーと。


 サーシャから伝えられた時には一瞬驚きを見せるものの険しい表情になった。


「それで、いくつですか?」


「それがわかれば苦労しないわ。 この学園に空を飛べる魔法師はいないのよ」


 サーシャの発言はもっともなものだった。地球ならニュースでも何発放たれたというのはすぐにわかる情報である。というのも、そらから見ているものがあるから分かることであり、そんなものはタリスには存在しない。


 悠人にはよく理解のできない部分ではあるのだが、タリスには転移魔法。つまりワープ出来るのはあるのにもかかわらず、空を飛ぶ魔法がないというのは普通逆ではないかという見方が悠人にはあった。


 だから、サーシャの言葉を補足するならば少なくともタリスには空を飛ぶ魔法は存在しないが正しい。


「いつ落ちるか分からないし、何発くるか、またどこに落ちて来るかも未知数だらけよ。 だから、あなたたちが必要なの」


「じゃあ、先ほどの通りに配置についてくれ。 移動の間も上には注意を配ること」


 アイナの号令と共に特進クラスの生徒が散らばった。


 階段を登っていくあたり屋上に配置したグループと学園周りの方に配置したメンバーがいるようであった。


「俺はどこにー」


「なに、さっきから私を除け者にしているのよ!」


 後ろから声がして声の主のほうへと向く。


 声だけでラネイシャだと分かった。


「ああ、まだいたのか?」


「おい、ラネイシャここにいちゃだめだ!」


「さっきからいたわよ!? ぶちのめすわよ!」


 サーシャは今気づいたように悠人はダメだとラネイシャに向けて言い放つ。


 ラネイシャは特進クラスの屈強な野郎に囲まれて見えない位置にいたようであった。


 まさに矢印で表示しなければ分からない位置に。


「私もやるわ。 さっき空を飛べないという話だったけれど、私のドラゴンなら空を飛べるわ」


「それは盲点だったわ……」


「ああ、確かに」


「さっきから急に扱いが酷くない!?」


「ならば、ラネイシャは空を飛んでミサイルを探してくれ、最悪何発あるかだけでも知りたい」


「悠人はその迎撃だ。 アレを使ってミサイルを消しされ!」


「「はい!」」


 早速、ラネイシャとドラゴンを召喚してミサイル探しとなった。

いつも読んでいただきありがとうございます!


なんとか、また夏も東京に行けそうです(ツイッターでも呟いた通り指定席が取れたので)。


この話から起承転結の転の部分に入ります。いや、ここまで長!? という人もいらっしゃったかと思います。

さぁ、ここから悠人たちがどのような行動をするのか注目して見ていただけたらなと思います。


ではまたお会いしましょう!


最近また太った……。

小椋鉄平

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