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長者の旅路、果ての思い 〜旅に出よう。どこかの誰かと出会うために〜  作者: 一般通過純愛スキー
恋と変化

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4-4 貴族、親

「そもそも此度の婚姻、そして二年前から続く二人の逢瀬を黙認してきた意図は何か。貴殿なら分かっているのだろう?」

「あくまで憶測や推論の域を出ませんが」

「それでも良い。言ってみたまえ」


 頭の中を少し整理する。二年前のあの日から今日に至るまでの筋道を。


「両家の確執を解くこと。そして不穏な勢力の炙り出しといったところでしょうか。詳しい理由は分かりませんが、ランデル殿もアダム殿も、内心この状況を良くは思っていなかったのでしょう。いがみ合っていた家同士が一つに纏まる方法などそう多くはない。最も分かりやすいものが二つ。一つは上位者の仲裁による講和。もう一つは婚姻や養子縁組などで血族になること」

「なるほどそうだな。しかし前者を選ばなかった理由は?」

「フェルディナント家もローレンツ家も相当に上位の貴族です。それよりも上位者となれば数えるほどしかおりません。加えてフェルディナント家は王家の覚えめでたい家でありますから、講和となればきっと王家が出張ってきていたでしょう。そして王家が出てくれば、フェルディナントの肩を持ち公平な話し合いではない、などとそちらの勢力の者が言いかねなかったのでしょう。そうなれば、それはフェルディナントどころか王家への翻意とも繋がりかねません。その結果がどうなるか。粛清か、見せしめか、何にせよ少なくない血が流れ、幾つかの家は消えることとなっていたでしょう」

「その通りだな」

「だからあなた達は王家が介在することを拒むため、あくまで家同士の話にしたかった。こちらであれば裁量は両家にありますから。そしてこれほど急に婚約発表へ踏み切ったのは、反抗勢力を追い込み引きずり出すため。何せ王家まで招こうというのです、そこで婚約発表などしてしまえばもう反故にする事は叶わない。名実ともに両家が繋がってしまえば、奴らは拠り所がなくなってしまう。奴らが阻もうとするならここしかない。強引にでもここをご破算にするしか、逆転の目はない」

「強いて付け加えるなら、どちらにしても血は流れるが、少ない方が良いだろうというところだがね。しかしまあほぼ完璧だ、魔法使い殿。もしやこれも何かの魔法かね?例えばそうだな、未来予知のような」


 真面目くさった顔で冗談を言うものだ。


「ははっ、まさか。ランデル殿やあなたが分かりやすく、動かないという動きを見せたのです。状況を俯瞰すれば自ずと知れよましょう。それに未来予知というならあなたの方でしょう。レティシャ嬢を助けたのがエドワードと知った時からこの絵図面を引いていたのですから。ランデル殿は、あなたの真意を問いただして乗った、というところでしょうか」

「少しだけ違うな。絵図面を引いたのは、レティシャが勝手にフェルディナント家へ向かったと聞いた時だ」


 それほど変わらんだろうに、細かいことを言う。


「家のために娘を利用したのか、それとも娘のために家を利用したのか」

「その二つは切っても切れないものだな。私もあの子も、ローレンツだという事実は変えられんのだよ。遠い昔、祖先が残した思いが、今となっては我らを苦しめる。最初はなんてことのない話だった。他所から来て間もない傭兵達に我ら伝統貴族が負けてなんとする、とね。しかしそれはいつしか形を変えて一つの役割を担うこととなる。自身は努力をせず、他者を羨むだけの無知蒙昧なる輩どもの受け皿という役割を。フェルディナント家は、捌け口だ。奴らに囚われているという点では、両家にさしたる違いなどない」


 きっかけは些細なこと。それがいつしか数多の思いを取り込み捻じ曲がったか。時の流れとは残酷なものだ。


「そんな過去の呪いを、私達はいつまで抱え続けるのだ。いつまで、子へと呪いを紡ぐのだ。三十を過ぎてようやく授かった子なのだ。きっとあの子を幸せにしてみせると、亡き妻に誓った。そのために変革をもたらし血を流すことが罪だというなら、私は喜んでその咎を受けよう。そしてきっと、より良い世界をあの子に、そしてこの国に。それが私の忠節だ」


 ああ、まったくすごい人だ。五年前、エドワードに出会っていなかったら、もしもこの男に出会っていたならば、きっと私はこの男に力を貸していただろう。


「あまり思い詰められるなアダム殿。思いを同じくする者がいるということ、そしてそれは私だけではないということを、忘れないでほしい」

「この企みに乗った者が他にもいると?」

「そうですルクス殿。元々この歪な状態を疑問視している者も多くいたようです。もっとも彼らも状況が安定してた時は黙認していたのです。しかし五年前にあったある出来事が彼らにも危機感を覚えさせた」

「五年前……そうか、エドワードとセシリーか」

「ええ。元よりアダム殿はこのような方だ。なんとか矛先をずらし収めさせるために、下位貴族への援助や、鬱憤晴らしのために敢えてフェルディナントと小競り合いを仕掛けたりもされていた。あのように直接的に刺客を送って来るなど、それまでにはなかったことだ。しかし誤魔化しにも限度がある。それが露呈したのが、ルクス殿が遭遇したあの日だった」


 偶然の出会いの裏で、まさかそのような事情があったとは。


「だから私はあなたに依頼した。あの子達の護衛を、そしてあの子達に自信を守る力を授けていただくことを。正直な話、あの時の私にはあなたが神の遣いのように見えていたほどです」

「確かに、あなた方が置かれた状況に対して私はあまりにも都合の良い存在だ」

「ええ、ええ、きっと何かが変わると、私は妙な確信を持っていました。そしてそれは現実となった」

「矛先が我が娘に向いたのだ。調査をしてみれば、犯人は我らの身内だった。生温いやり方に勘弁ならんと、私に矛を突きつけてきたのだ。私は悟った、もう限界が来ているのだとね。ならばもうやるべきことは一つ。出来るだけ痛みを伴わない方法で膿を出す。そのためにランデル殿と結び、根回しをしてきた。今回の件、王家は半年前に了承済みだ」

「半年も。しかしそれは些か早計ではなかったのでしょうか。結果としてはこうなっているわけですが、あの二人が互いに結ばれることを選ばない可能性もあったのでは?」

「はっはっはっ!知見広く洞察鋭い魔法使い殿も、まだまだ経験不足だな。私達はあの子達の親だ。きっと結ばれるだろうと確信していたよ」


 そうか、これが親か。これが真の貴族か。確かに、子を持ったことのない私には未だ分からぬ領域だ。


「感服です。アダム殿、ランデル殿、あなた方に敬意を。真なる貴種たる矜持、そして子を思う慈悲深きその心。あなた方の在り様、まこと誇り高き者とこのルクス、胸に刻み込みましょう」


 頭を垂れる。彼らは真に敬意を払うべき者だった。

 

「頭を上げてください。ルクス殿、変革の使者よ、こちらこそ感謝を。あなたがいなければきっと今は、そして未来はもっと酷いものとなっていた。この幸運とあなたの尽力を、我らもまた忘れますまい」


 手が差し伸べられる。握ったその手には覚えがある。大きな手、これはそう、父親の手だ。不意に訪れた懐かしさを名残惜しみながらも手を離す。


「我らが親として四苦八苦している間に、子供達も育っているものだ。ランデル殿がエドワード君とレティシャを連れ立って私の所へ来た日、強くそう感じたよ」

「そうですか。確かに師の私から見てもエドワードはとても成長しています」

「今ルクス殿にした話を、二人にもしたのです。そうしたら、なんとエドワードのやつ、怒り始めまして」

「怒る?なぜですか?」

 

―勝手に決めて勝手に全部背負ったつもりになるな!俺達の道は俺達が決める!だから年寄りはやることやって、さっさと荷物下ろして隠居でもしちまえ。そしたらその荷物背負って、今度は俺達が歩いて行くさ。なんてったって、俺達は、アンタ達の子供なんだからな!―


「くっ、はーっはっはっはっ!なるほど、デカい口を叩いたものだ。これは本当に楽しみになってきた」

「我らも隠居するにはまだ早い。合同統治と言っても領地が離れているから、こちらの領地はまだしばらくは私が差配することになるだろう。しかし、息子になるには頼もしく、楽しみな男だ」


 ああ、そしてきっとアイツならやり遂げるだろうと、私も信じていた。

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