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緋の剣士に捧ぐ交響曲【第一番】  作者: 真北理奈
第三楽章:Dans la craie, et la noyade
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最終節:Le passé ensemble avec vous le temps le plus triste, c'est de

 もう、どれだけ歩いただろう。

 腕の傷も気にならない位、歩いたに違いない。

 ただ『生きろ』という言葉を何度も繰り返して。

 辿り着いた先が、罪人の眠る場所とは何とも複雑な心持にさせるのだが。

 ここは、アウト・ダ・フェ。

 ソフィア・ノアシェランの死に場所でもある。

 もう動けないと、粗末な墓石に持たれていると、石が動く音がした。

「……セイシェル」

「カイン、か?」

 カイン・ノアシェランは表に出て、セイシェルの隣に座る。

「母の最期の場所」

「ああ」

「あれが、全ての始まりだったのかな」

「そうかもしれない」

「そっか」

 他愛のない会話をして、カインはセイシェルの肩に頭を預けた。彼が拒む気配はない。

「甘えたがりか?」

「寂しいんだ、いいでしょ」

 遠慮なく甘えるカインにセイシェルは仕方ないと呟き、空を見上げた。

 戦闘の音も声も聞こえない。

 この深緑が全てを遮っている。

 此処は、二人だけの世界だった。

「寝るか」

「うん」

 土がつくのも構わず、寝転がるとカインがセイシェルの胸に摺り寄る。

「……えへへ」

「何だ、カイン」

 嬉しそうに、ふにゃりと笑う彼にセイシェルも釣られて笑う。

「セイシェル、良い抱き枕になりますよ」

「勘弁してくれないか」

 そうして視線を合わせると両手を互いの背に巻き付け、顔を近付ける。

 愛しくて、苦しくて、それ以上に一緒にいたくて。

 重なるのは必然だった。

 離れるのと同じくらいに。


****


 カインを庇うように前に出て、セイシェルは此処に来た来訪者を待っていた。

「いるのだろう?」

 逃げられないことなど最初から分かっていた。

「――アーサー・トールス」

「気づいていましたか」

「ああ」

 今なら、何があっても怖くない。

 ――カインが、失われることに、比べたら。

「リデルもティアもエレザももういない」

 アーサーは反乱の結末を告げた後、彼に、ある意味では称賛の言葉を送る。

「見事です、我々警備隊も八割方の戦力を失い、アエタイトに至っては反乱軍の手の中に落ちました」

「だが、此処に来たと言うことは、私の負けだと言うことだろう」

 まだ、夜。

 これから先の未来を予言しているようで。

「全て私が計画した」

「成程、流石です」

 幾多の血を流す戦いを緻密に展開し、そして何よりも人々を惹きつけた彼へ。

「貴方相手では敵わない」

 そうしてアーサーはセイシェルに縄をかけず、二人一緒に歩く。

「そんな貴方に免じてカインは解放しましょう」

「そうしてくれると、ありがたい」

 彼は素直にアーサーに投降し、最後にまだ眠るカインを一目見て――歩き出した。

『ごめんね』

 もう二度と、届くことのない。


****


 どうして、どうしてなの?

 自分の傍にいた人は、皆、皆奪われていく。

 忌々しい純白に。

 ――あの白さえなければ。

 ――あの白を壊せば。

 もう、自分には何も残っていない。

 あるのは――大切なものを根こそぎ奪われたことへの憎しみだけ。

「ふふふ……くっくっく……」

 起き上がったカインの顔が醜く歪む。

 束ねていた髪は解け、風に舞う。

「望み通りにしてやるよ」

 それほどまで、奪いたいと言うなら。

「お前たちからも、奪ってやる」

 大切なものも、すべて――全て。

 奴らだって奪って来た、喰らい尽してきた。

 自分にだって――その権利はあるはずだ。

「……俺の名前はカイン・ノアシェランじゃない」

 持っていた剣を握り、ゆっくりと起き上がる。

「俺の名は、レイザ――レイザ・ハーヴィストだ……!」

 その名は――全てを抹殺する者。

 そして、頂点に立つべき者。

 ――五年前の夜、一人の復讐者と、一人の罪人が誕生した。

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