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導かれたい

庭の方を見上げれば、月が輝き、通路に一筋の光が延びていた。あんなふうに迷いのない道があればいいのに。そうすれば何事にも煩わされず、だだ歩いていれば、どこかにたどり着きそうだ。。

「月が綺麗ですね。噴水の水面まで輝いています。…でも、庭園に行くのはお勧めしませんよ。月夜でも暗いですから。」

「ヨハン、まだ居たの?」

庭へ下りようとした私の腕を取っていたヨハンは、少し驚きながら手を離して、苦笑しながら拗ねるように答えた。


「それは無いんじゃないですか?置いて行くなと言ったり、任せると言ったり。居なくなる要素が有りません。だいたい僕は結構、幅を取って存在感があると思いますけど。」

「月に見惚れていて、気が付かなかったわ。あと、私はそのようなこと言ってないわ。」

「うわ、ひどくないですか。さっき魑魅魍魎から救って、今も自らその罠に入ろうとしたところを助けて差し上げたのに。」


2人で顔を見合わせ、フフフと笑った。


「ヨハンは、歳の割にしっかりしているのね。デビューしたばかりでしょ?」

「夜会に来るようになったのは先月の事です。私は、こんな(なり)ですから、自分の身は自分で守らないといけないので。」


この国では、16歳から、社交界へ参加できるようになる。先月と言う事は、デビュタントの季節では無いから、誕生日を過ぎたからと言う事だろう。学園では物静かな読書家のイメージしかなかったが、意外と話が出来る。


「そんなに悪くないと思うケド。」

何と言えば良いのか思いつかず、取ってつけたように返す。

「カトリーナさんは正直な方ですよね。お気にされないで大丈夫ですよ、私自身は気にしていませんので。卒業するころには、スリムになるようで、そういう家系らしいです。でも、皆さんには不快な思いをさせるみたいなので、なるべく視界に入らぬようにしていたのですが、カトリーナさんと一緒では、そうもいきませんね。」


また、何と返して良いのか思いつかず、黙って下を向く。


「あー、言い方が悪くて申し訳ありません。貴女を責めたつもりは無いので、気にされなくて良いのです。・・・やはり、僕、先に行きますね。」

「えっ、待って・・・」


居たたまれなくなったヨハンに、またも置いて行かれそうになって、思わず上着の裾を掴んでしまった。どうした私?


「えっと、未だ何か有りますか?それとも、一緒に中に入りますか??」

「私と付き合って。」

咄嗟に口をついた言葉に自分で驚く。ヨハンは、もっと驚いたようで、目を見開いている。


「今日は、このまま外にいらっしゃりたいのですね。私も特に用がある訳でもないので構いませんよ。そちらに腰掛けましょうか?」

今この時間の事と解釈したようで、テラスの脇にあるテーブルを指した。何か違う…。そういう事では無い。

しかし言葉がでず、促されるままに、椅子に腰かける。ヨハンは、テーブルを挟んで右90度の横の席に座る。


「どうしてそこ?向かいに座るものじゃないの?」

「…向かい合ったら、話も何も出来なくなります。学園の女神様についつい見惚れてしまうでしょうから。」

顔を赤らめるわけでも無く、冗談のように言う。

「年上をからかうものでは無いわ。」

「そのようなつもりは毛頭ないですよ。憧れの女性ですから。」


悪い気はしない。むしろ光栄に思うし、心なしか耳が熱い。


「私、ヨハンが好き・・・みたい。」


頬が赤くなっているのを感じ、顔を背けたかったが、凝視してくるヨハンから目が離せなかった。


「カトリーナさん、すみません。…僕には、どうして貴女が、その様な事をおっしゃるのか分かりません。差し当たって虫除け位、務めますから、どうぞ気にしないでください。」


これって、私、断られたのかしら?思ったより、ツライわね。


「あのっ…いや、泣かないで戴けませんか。ホント、何で僕なんかに?理解できません。」

ヨシュアが慌てて、ハンカチを出し、私の頬を拭う。

「涙が勝手に…。私どうしちゃったのかしら?」

自分の頬に手を当てると、拭ってくれた後からも涙がこぼれていた。


「僕が聞いているのですよ。貴女ほどの方が、こんな年下で見た目も冴えない、家柄も下の僕になんて、変ですよ?」

「さっきも言ったわ、そんなに悪くない。見た目も家柄も、私が持っているから大丈夫。そんな事、気にしないわ。」

やっとの事で涙を止め、差し出されたヨハンのハンカチで拭い、微笑みながら答えた。

「僕は気にします。貴女の隣にふさわしいとは思えません。」

「では私の隣にふさわしい男性になってくれない?」


ヨハンはクククッと笑い出し、首を振って、観念したような素振りを見せた。

「くどいようで申し訳ないですが、確認させてください。貴女は、私が卒業するまで待っていて下さるのですか?」

言われてハッとして、声を詰まらせてしまう。そうか、私は卒業してしまうから、普段、会わなくなる…。


「カトリーナさん?」

「そんなの分からないわ。でも一緒に居て欲しいの。ヨハンに手を引いて欲しいの。」


ヨハンは不敵な笑みを浮かべて両手で私の頬を包む。

「僕は我ながら執着心が強いので離しませんよ。約束ですからね。」


そう言って、額にキスされた。

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