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77話

 同時にセレスティアが全力で球形の魔力フィールドを作り出した。範囲内に入っているのはフィーナとセレスティアだけであり、フィーザーは知覚、探索魔法を、レドはわずかな空間の揺らぎ、自身の間合いに入り込むこと如くに対して反応できるように、頭の先から足の先までの身体すべてとその周りの空間に極限まで神経を張り詰める。

 

「うぅっ!」


 フィーナが魔力の吸収を開始するのと同時にセレスティアから辛そうなうめき声が聞こえてきた。

 フィーナによる魔力の吸収がセレスティアの魔力変換効率を上回っているので、セレスティアは自身の全力で消費できる魔力量以上を無理やり引き出され続けているのであった。

 そのセレスティアに対して、フィーザーとレドが出来ることは何もない。セレスティアはフィーナの魔力吸収がフィーザーにまで及ばないようにフィールドを形成していたため、フィーザーには影響はなかったが、それは同時にフィーザーからセレスティアに対しても直接的な援護をすることが出来ないという事であった。

 今はまだ本番ではない。

 ボールスの核に辿り着く前の障壁を破る段階である。

 しかし、広い範囲にわたる障壁にはそれだけ魔力が使われており、吸収するのにも時間が掛かっていた。

 フィーザーとレドは、フィーナに対して声を掛けたりはしなかった。フィーナに余計なプレシャーがかかってしまうかもしれなかったし、そもそも、数的有利、同じ大きさとはいえ、ボールスを相手にしながら全力以上の力を振り絞って応戦している彼らにそんな余裕は存在しなかった。

 しかし、ボールスとてそれほど余裕があるわけではなかった。

 フィーザー達にいくつかの器官を壊されていることで、そこを修復するのにも魔力を割かなければならなかったし、そもそもここはボールスの体内である。いくら異物を排除するためとはいえ、治癒の魔法があるとはいえ、自身の身体を必要以上に傷つけてしまうことに対して躊躇いを覚えていた。

 フィーナが吸収を始めて少し経った頃、フィーナの服のポケットから可愛らしい猫の鳴き声が聞こえてきた。

 フィーナの通信端末が奏でる音声着信の合図であり、フローラがフィーナのリクエストをまとめて設定したものだ。


「はい」


 フィーナが端末に指を滑らせると、どういう訳か、今までは圏外であったはずの通信が可能になっており、着信相手はメルルであった。


「もしもし、詳細は省かせていただきますが、繋がっているということでいいんですよね」


 メルルもフィーナ達が戦闘状態であることは予想していたようで、フィーザーやレドに繋がなかったのには、おそらくそういった状況を鑑みての事だったのだろう。


「念話では傍受される可能性が、全くないとは言い切れませんでしたから」


 フローラに伝えて貰うという形式をとれば、未だ魔法の使い方が未熟なメルルと、魔法を使うことのできないディオスでも、念話により意思を伝えることは出来る。だが、メルルたちはその方法を選択しなかった。

 通常、魔法師同士の念話に許可された以外の人物が割り込むことは出来ない。しかし、ボールスの今の姿はやはり異常であり、魔法に精通しているであろうボールスには、念話よりも通信端末による会話の方が機密性が高いと判断したのだろう。


「はい、大丈夫です。しっかり聞こえています、メルルさん」


 フィーナも小声で返答する。ボールスの体内でどれ程の意味があるのかは分からなかったが、内緒話をするときに小声になってしまうのは、ある種の反射であり、仕方がなかった。

 しかし、ボールスに聞こえている様子は、少なくともフィーナからは感じられなかった。ボールスの方もフィーザー達との戦闘に集中しており、フィーナを気にしつつも、手を出す余裕まではなかった。

 フィーナは素早くその場で一回りして、カメラに内部で今起こっている様子を捉えた。


「ありがとうございます。取りあえずの状況は掴めました」


 フィーナは所々省きながら急いで説明を終わらせると、黙ってメルルの言葉を待った。

 本当はこちらから尋ねたいことは山のようにあったのだが、この事態に自分に連絡を入れてきたということは、おそらくフィーザー達の事、今の戦闘に関係していることだろうと思ったからだった。


「これから、この通話が終了してから丁度10秒後に兄様が全力でノヴァを、えーっと、そうですね、とにかくすごい質量ビームを放ちます。フローラさんのおかげでエネルギーのチャージが思いのほか順調に済んだので」


「‥‥‥大丈夫なのですか?」


 フローラが助けに飛び出したとはいえ、あの高さから落下した3人を全く心配せずにはいられない。

 

「大丈夫です。兄に故障はなく、私たちにも怪我はありません」


 画面の向こう側ではフローラが照れているような笑顔を浮かべていた。きっと、フローラはちゃんと間に合って、しっかりとディオスとメルル、そして自身を着地させることに成功したのだろう。


「それでですね、一応、そちらの場所だけ確認しようと思ったのですが‥‥‥今いる位置が大体どの辺か‥‥‥なんて分からないですよね」


 だから、タイミングを合わせて、出来得る限り全力でシールドを張って欲しいとメルルが頼んでくる。


「‥‥‥メルルさんは‥‥‥あの、こういった言い方はとても失礼で申し訳ないのですが‥‥‥少しは魔力を感じ取れるようになられましたよね?」


「‥‥‥何か考えがあるんですか?」


 フィーナの躊躇いがちな口調と、思い詰めたような表情から、メルルはフィーナに何か良いアイディアがあるのだと思い、先を促した。


「私が今から、戦っているフィーザー達の邪魔はしたくないので、魔力だけを高めます。その位置を感じ取っていただけますか? そうすれば、より正確な位置を掴むことが出来ると思うんです」


「分かりました。ではそれでいきましょう。端末はそのままにしていてください。そちらの方がよりタイミングを計ることが出来ると思うので」


 メルルが全く悩む様子もなく即答したので、フィーナはきょとんとして、瞳を数度瞬かせた。


「どうかしましたか?」


「いえ、何か言われると思っていたので」


 メルルは柔らかな笑顔を浮かべた。


「より良いプランがあるのならそちらに切り替えるのは当然です。効率の良い運用方や、より出力の上がる回路が見つかればそれらを取り込むのは普通の事ではないですか。それにこちらには私だけではなく、フローラさんもいますから」


 それではお願いしますと、メルルは通話を終了させた。

 

「1、2、3、‥‥‥」


 フィーナは端末の時計を瞬きもせずにじっと見つめる。

 機会は1度しかない、少なくともフィーナはそう思っていた。

 フィーナが魔力を高めるということは、魔力の吸収が止まるということだ。

 現在フィーザー達とボールスの戦闘が拮抗しているように見えるのは、フィーナが魔力を吸収することで、ボールスの戦力を削いでいたことによるところも大きい。無論、フィーザー達の実力と頑張りもあるが、それだけではないことは全員が理解していた。


「フィーザー! 全力で防御を!」


 フィーナの叫び声に反応して、フィーザーとセレスティアは攻撃を中断し、レドを庇いながら全力でバリアを展開した。


「何?」


 ボールスが目をわずかに細めた直後、フィーナから爆発的とも言える魔力が放出された。それ自体に攻撃性能はなく、ボールスは防御魔法を構築するのが遅れた。

 次の瞬間、高エネルギーがフィーナとフィーザー達を丁度分かつような位置で飛び込んできた。


「フィーナ!」


 フィーナを信じて、バリアを展開しながら、フィーザーが叫ぶ。


 

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