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74話

 しかし、その口内からの砲撃がフィーザー達を襲うことはなかった。

 ボールスから攻撃が放たれるよりもはやく、ディオスから超新星が爆発するかのような、圧倒的な熱量を持った、通常のブラスターより遥かに威力を持ったエネルギー砲が放たれた。

 その反動で、ディオスはボールスの身体の上から落下する。

 ディオスに最早エネルギーはほとんど残っておらず、体勢を立て直すこともままならないらしく、頭部から真っ逆さまに地面へと墜落してゆく。


「兄様!」


 間髪入れずにメルルがディオスの後を追ってボールスの身体から飛び降りる。言うまでもなく、高層ビルにも等しいであろう高さから飛び降りるのは自殺行為である。重力操作、飛行魔法が使えるのならば、ディオスの重い身体を支えることは出来ずとも、メルルは助かったかもしれないが、メルルにはまだそこまで魔法と呼べるようなものは使うことは出来なかった。


「お兄ちゃんたちは先に行って。私が絶対何とかするから」


 あれでは絶対無事では済まないと、宙へ進みかけたフィーザーを止めたのはフローラであった。

 フィーザーにはフローラが浮かべていた表情から、フローラの気持ちが読み取れた。


「頼む‥‥‥いや、任せたよ、フローラ」


 フローラは自分がいても兄やフィーナ、レドやセレスティアの足を引っ張ることになってしまうだろうと感じていた。

 兄を心配して付いて来たのだが、ボールスを相手にするのは自分では実力があまりにも不足している。もちろん、フローラに出来ることがないとは言わない。けれど、おそらくフィーザーやフィーナ達はフローラを心配して全力で戦うことに隙が出来てしまうだろうし、足手まといにはなりたくなかった。

 そのため、フローラは今自分が出来る精一杯として、せめて、離脱してしまったディオスとメルルのサポートをすることを選んだ。ディオスとメルルの事を、フィーザーやレド達が気にすることなく戦いに集中できるようにと思ってのことである。


「任せて」


 小さくなるフローラの姿をフィーザーは最後まで見送ることはしなかった。

 妹が何を思って離れて行ったのか理解できないほど鈍くはなかったし、今追いかけていっては妹に確実に怒られるだろう。

 

「レド、捕まって」


 ディオスの置き土産は大分効果があったらしく、ボールスは苦し気にもがきながら身体を揺さぶっている。

 フィーザー達は宙に浮いているために問題はないが、セレスティアの負担を減らすためにもと、ボールスの身体の上に乗っていたレドは危うく振り落とされかけていた。落ちていなかったのは、偏にレド自身のバランス、体幹の良さがなせる業だろう。


「おう」


 差し出された手にレドは迷うことなく捕まる。

 この期に及んで、躊躇するなどという素振りは微塵も見せたりはしなかった。


「身体の中から、と言うのはよく聞く話だけどな‥‥‥」


 レドが、真っ暗なボールスの口内を見下ろしながらつぶやく。

 フィーザーも、フィーナとセレスティアの様子を窺った。

 ボールスのあの様子だと、おそらく体内までは防御魔法も構築で来てはいないのだろう。しかし、いくらそこが弱点になろうとも、年頃の女の子たちを、他人の体内に侵入させるというのは、この言い方にもかなりの語弊は存在するが、かなりの抵抗があった。


「フィーザー。私は気にしません。‥‥‥それとも、フィーザーは他人の中に入って汚れてしまった女の子のことは好きではないでしょうか」


「そもそも女の子は入れられる方‥‥‥、っじゃなくて! フィーナ、そんな言葉どこで覚えてきたの、ってこれも違う! 僕は全く気にしないこともないけど、いや、あーっもう! とにかく、今がチャンスなのは間違いないからさ」


 フィーザーはフィーナの手を取ると、防護膜を2人の身体を覆う様に構成する。


「あなた達何やっているのよ。早く行きましょ」


 まったく気にしていなかった様子のセレスティアとレドは、フィーザーが1人で悶えている間に、すでにボールスの口の中、おそらくは舌があったのならば、その上辺りであろうところで、潰されないためと、口を開いておくために、剣を突き立て、結界魔法を構築していた。

 呆れたような口調と半眼のセレスティアの迫力に気おされたわけでも、後ろめたい気持ちがあったわけでもなかったが、フィーザーは出来るだけ速やかにセレスティアとレドの隣に着地すると、フィーナが着地する前に結界魔法の応用により、直接立地せずとも言いように、道のようなものを作り出した。

 レドが剣を引き抜くと、外からの光がなくなり真っ暗になってしまったので、すかさずフィーザーが明かりを作り出して、ボールスの体内を照らし出す。


「‥‥‥これは人間の体内なのか?」


 レドがそう思うのも当然なほど、フィーザー達が良く知るような人体の構造とはまるで違った構造をしていた。


「おそらく巨大化した際に作り替えられたんだろうね」


 流石に直接触るのは躊躇われたらしいフィーザーが、探知魔法を展開する。


「それで、どうすればいいのかしらね。適当に壊していれば崩れるのかしら。正直、こんなところ何時間もいたくはないし」


 セレスティアが腕を組んで顎に手をかける。

 レドとフィーザーの視線は、一瞬、持ち上げられた胸につられたが、すぐに首を振って頬を叩いた。


「‥‥‥何してるのよ、あなた達?」


「べ、別に何でもないよ」


 そう頷くフィーザーとレドの斜め後ろでは、フィーナが自分の足元を見降ろして、胸の辺りで手が空を切る動作をしていた。


「‥‥‥はあ。もういいわ。先を急ぎましょう」


 セレスティアは深いため息をつくと、フィーナの手を取ってそくさくとフィーザーとレドの前を、探索魔法に従って進んでいった。


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