63話
ウィリティアが作り出す球体の結界は、フィーザーの魔法を吸収し打ち返していた。如何なる角度から放とうとも、ウィリティアの周囲に浮かぶ3つの球体が全ての攻撃をシャットアウトしている。
それは何もフィーザーの魔法に限ったことではなかった。
ディオスの打ち出すブラスターによる攻撃も吸収し、打ち返される。
「結界魔法には無限の可能性が秘められている。世の中の魔法師は閉じ込めるだけだと誤解しがちだが、そんなことは決してないのだ」
得意げに鼻を鳴らすウィリティアは宙に浮かんでフィーザー達を見下ろしていた。
宙に浮かんでいる時点でフィーザー達の戦力は大幅に制限される。それは偏にレドが空中での攻撃手段を持っていないからだ。
地上であれば機動力を生かした戦い方において、魔法師以上の実力を持つレドではあるが、こと空中に浮かぶ相手に対しては明確な攻撃手段を持たない。手に武器があればまた違うのかもしれないが、生憎と今のレドは徒手格闘、丸腰であった。
「やっぱり俺も魔法をならっときゃ良かったかな」
「今言ってもしょうがないだろ。ある武器でしか勝負は出来ん」
ディオスの手首が宙にのびる。ワイヤーによって射出された手はウィリティアを捕まえようとするが、障壁に阻まれて捕まえるには至らなかった。
「落ち着いて、2人とも。無暗に攻撃しても通用しないよ」
レドとディオスがフィーザーの元へと集まる。
「なんだ、来ないのか。ならばこちらから行くぞ」
「作戦タイムだって!」
フィーザー達に向かってミサイルのように突っ込んできていたウィリティアは、フィーザーが腕をタイムの形に組むのを見て急停止すると、そのまま元来た場所まで飛び上がり、腕を組んで目を瞑った。
「良かろう。私は寛大だからな」
得意げな顔をするウィリティアを余所に、フィーザー達は額を突き合わせる。
「ほう。もういいのかね」
「ええ」
フィーザーの得意げな顔を見たウィリティアは少し目を細めた。
フィーザー達に特に変わった様子はない。当然だが、ディオスやレドが魔法を使えるようになっていることもない。そのような付け焼刃では自身には効果がないとウィリティアは自身の防御力に関して自信を持っていた。
「行きます!」
フィーザーが空中へと踏み出し、ウィリティアを惑わすかのように、ジグザグに、縦横無尽に動き回りながら迫っていく。
「ふんっ!」
拳に纏わせた魔力を持って、ウィリティアへと殴りかかる。
「はあっ!」
それに合わせてウィリティアが両手を広げる。
膨張した空気に弾かれるかのように、フィーザーの身体が後方へと吹き飛ばされる。
「このまま握りつぶしてくれる!」
ウィリティアが手を握るような仕草をすると、フィーザーの身体が潰されて、メキメキと身体の軋む音がする。
「私にくわえられる攻撃、あのサイボーグの奴は遠距離からであり、私がこの穴を軌道上に出現させる時間は十分にある」
言った直後、背後から放たれたにもかかわらず、ウィリティアは完璧なタイミングで穴を作り出し、そこにディオスのブラスターによる一撃を難なく飲み込ませると、そのままの威力で逆に撃ち返した。それは地面にいるディオスの方へと正確に撃ち返され、地面に巨大なクレーターをつくり出した。
「もう一人の方、あの黒髪の少年は、全く私への脅威にはなり得ない。こうして我等魔術師が宙に浮いている限り、見たところ武器もないようだし、こちらへの攻撃手段はないからな」
余裕の表情で振り返ったウィリティアは、直後、焦ったような叫び声をあげた。
「何ぃ!」
それもそのはず、空を飛べるはずもないと高をくくっていた相手、レドが空中を蹴る様にして自身へ向かって来ていたのだから。
「何だと! お前が空を渡れるはずが‥‥‥」
ウィリティアの感覚では、レドは間違いなく魔法師ではなく、そのレドに空を飛ぶことなど出来るはずもない。自身の魔法に対する感覚を一瞬疑問に感じたウィリティアは、レドの足元を注視した。
「これは‥‥‥!」
レドが足場に利用していたのは、空中に作り出された立方体型の結界だった。その中には石が1つずつ中心付近に留められていた。
「そうです。僕が作り出しました」
フィーザーはただ闇雲に、的を絞らせないためだけに、宙を動き回ってウィリティアへと突っ込んだわけではなかった。
動きながら、所々に小さな足場、石を中心とした結界を作り出し、レドがウィリティアへと公家気に来られるようにしていた。
「くっ、こんなもの‥‥‥!」
気づいてしまいさえすれば、破壊できてしまう程度の強度。しかし、レドが乗ったくらいでは小動もしない。
「遅い」
そして、ウィリティアが魔法の発動に入るよりも、レドが空中の相場を辿り、接近する方が早かった。その両手には一本の剣が握り込まれていた。
「何っ! 剣などどこに」
「俺が預かっていた。レドが親御さんに渡されたものを俺が持ち運んでいたんだが、それを返却しただけだ」
ディオスは開いていた脚部のパーツを閉じる。機械が相手では通用しないだろうから使用しなかったのだろうが、他に火器を内蔵しているディオスにとって、刀の1本や2本、ついでに収納するくらい訳のないことだった。
「成敗!」
レドの刀はウィリティアがシールドを形成するよりも速く振り下ろされ、ウィリティアの身体を、真っ二つとは言わないまでも、切り裂いた。
「ぎゃああああ!」
更にレドは容赦せず、絶妙な力加減でウィリティアの頭に刀を振り下ろす。
「安心しろ、みねうちだ」
言った後、少しおかしそうにレドは口角を挙げる。
地面に落ちたウィリティアは気を失っており、フィーザーがすぐに治癒魔法をかける。
「大丈夫。死んではいないよ。しばらくは目を覚まさないと思うけど」
「メルルたちには見せずに済んでよかった」
丁度治したタイミングで、セレスティア達の方も決着したらしく、合流したフィーザー達は建物の内部へと向かった。
もちろん、治癒し、気を失ったままのウィリティアを、拘束し、地面に埋めることも忘れはしなかった。




