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62話

 戦いにおいては先手を取ったものの方が有利である。

 それはゲームや競争に限らず、むしろ実戦においての方がより強調されるとも言える。


「つまり、すでに制空権を取っているこの私が有利と言う事よ」


 ミルフルーリから尽きることなく豪雨のように魔力弾、流星群が降り注ぐ。すでに相手の攻撃を許してしまっているため、セレスティアは中々反撃のチャンスを見いだせずにいた。

 

「これは少しまずいかもしれないわね‥‥‥」


 先程から、直撃しそうになった場所の魔力防御を上げることによりなんとか致命傷は避けてはいるが、形成したバリアやシールドは、まるで紙や発泡スチロールのように、簡単に破壊され、セレスティアまで到達していた。

 フローラとメルルはセレスティアの背後に隠れることで、直線的な軌道しかないミルフルーリの攻撃から庇われてはいたが、その分、更に範囲が狭まり、威力が強まっていた。

 この魔法しか使わないと宣言し、他の魔法を全く使用する素振りが見えないところから、おそらくこの魔法に絶対的な自信を持っているのだろうという予測は付いていた。普通、戦いにおいて自身の不利を、この場合は1つの魔法しか使わないと、宣言し、実際にそれしか使わないというのは、不利どころか、愚策も良いところだろう。多様な手があるからこそ、相手に的を絞らせず、その時々に判断させることに時間を割かせることが出来るのだから。

 しかし、現実に、その1つの魔法だけでミルフルーリはセレスティア達を圧倒していた。

 これが純粋にこの場にセレスティアとミルフルーリしかいない戦場であったのならば、多少話は違っただろう。

 セレスティアは動き回ることで相手の攻撃の的を絞らせず、自身の防御と攻撃にだけ集中することが出来るのだから。

 しかし、実際の状況は異なる。

 


「すみません、セレスティアさん。私たちが」


「違うわよ」


 悔しそうに、申し訳なさそうに地面に膝をついて身体を小さくしながら謝るメルルとフローラに、セレスティアは優しく笑いかける。


「気にしないで。それよりも、私が防御に集中するから、その間に2人には彼女を倒すための準備をしておいて欲しいのよ」


「準備ですか?」


 セレスティアは防御に全力を注ぎながら、2人にアイディアを説明する。ミルフルーリの爆撃のような魔法のおかげで、遮音障壁を張らずともこちらの会話が向こうに聞こえないだろうということは幸いであった。

 もちろん、ミルフルーリの声が聞こえるのは、彼女が聞かせるように障壁などを張らずに話しているからである。


「それは‥‥‥大丈夫なのでしょうか?」


 メルルが不安そうな顔を浮かべる。魔法どころか、魔力を手にして間もない彼女が不安に思うのは無理のないことだった。


「もちろん、彼女の魔力が私の予想以上だったり、本当の事を言っていない可能性はあるかもしれないわ。けれど、ずっとこのままでいたとして、私たちの魔力が彼女より上だと考えるのは難しいし、どこかでこちらから仕掛けなければ勝ち目はないのよ」


 セレスティアは、大丈夫、と強い意志を込めてメルルとフローラの瞳を覗き込む。

 

「勝負はおそらくその一回きりよ。プレッシャーをかけるつもりじゃないけれど、2度目はおそらくつられてくれないと思うから」


「‥‥‥いえ、十分に緊張しています」


 しかしやる気と闘志の籠った瞳で答えるフローラの横で、メルルはなおも不安そうな表情を浮かべていた。


「本当に私に出来るのでしょうか?」


「魔法で重要なのは想像力と教わったのでしょう? そんなに弱気では出来るものも出来なくなるわよ。自分は出来るとしっかり自身を持ちなさい」


 セレスティアはメルルに笑いかけ、優しくその茶色いポニーテールを撫でた。


「よろしくお願いするわね」


「はい、セレスティアさん。メルルさん、きっと大丈夫です。一緒に頑張りましょう」


「わ、分かりました」


 自分の近くに魔法を作用させるのは割と容易い。それは目視できる場所の方がイメージを持ちやすいからである。

 例えば現在ミルフルーリが使っているような、或いは先程ボールスが使ったような、剣戟を降らせるような魔法は、たしかに離れたところへと作用するが、作り出すのは自身のすぐ近くである。既に作り出したものを飛ばした後には、軌道を操る場合には話は違ってくるが、軌道を設定し終えた後、言わば自身の手を離れた後であるために威力に影響がない。むしろ、加速がついている分、威力は高まっているとも言えるだろう。

 離れた場所に魔法を発動させるには、それだけ想像力を要する。自身の手元よりも離れたところの方が魔法のイメージを持ちにくいからだ。

 つまり、最初から離れた場所に魔法を作用させるというのは、時間を消費して、威力も弱くなりがちであり、魔法師同士の戦いにおいては、特に格上の相手と闘う際に用いるようなものではない。その奇襲性よりも、手数で、もしくは一撃離脱を旨とする、或いは高威力の魔法を叩き込んだ方が、隙もなく、そして結果良い戦果を挙げることが出来るからだ。

 だからこそ、この場でメルルとフローラの魔法は奇襲性を持ち得る。

 

「なっ!」


 突然の背中への攻撃に、ミルフルーリは攻撃の手を止めて、思わず後ろを振り向く。これはミルフルーリが油断したのではなく、生物であれば仕方のない反射であった。

 しかし、当然そこには誰もいない。

 ミルフルーリは慌ててセレスティア達の方へと向き直ったが、すでにそこにセレスティア達の姿はなかった。


「まさか、今の一瞬ですり抜けて? 馬鹿な‥‥‥」


 ミルフルーリの役目は侵入を防ぐことであり、失敗したのならばすぐにでも追いかけなくてはならない。そして、現に今まで戦っていた相手が目の前から消えている以上、建物の方を振り向くのは仕方のないことであった。


「そんなはずないでしょう。このまま行ったりはしないわよ」


 セレスティアの透明化はすでに解除されていた。元々それほど長くもつ魔法ではないし、少しでも魔法の心得があるものであるならば、すぐに索敵の魔法で探し出すことが出来る。不可視ではあるが、不可知ではないのだ。


「あなたを倒すまではね」


 そして、セレスティアは一瞬で魔法の発動を終わらせる。

 密着状態から繰り出された全力を込めた一撃はミルフルーリの意識を刈り取り、そのまま地面へと落下させた。


「お疲れ様です、セレスティアさん」


 セレスティアがゆっくりと地面に降り立つと、ミルフルーリを受け止めていたフローラとメルルが安心したような笑顔を浮かべる。

 セレスティアは自身でもミルフルーリの様子を窺い、気を失っていることを確認すると、バインドを施してから容赦も躊躇もなく頭だけを出して地面に埋めた。


「ありがとう、助かったわ」


 セレスティアに髪を撫でられて、メルルとフローラは気持ちのよさそうな笑顔を浮かべた。

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