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40話

「本当ならあの筋肉馬鹿集団を倒した金髪のガキの方に用があったんだが‥‥‥まあいい。お前が楽しませてくれるのならばな、ダーリング」


 筋肉馬鹿集団と言われてもディオスには心当たりはなかった。

 しかし、予想は出来る。

 ようするに、目の前の相手、おそらくは組織だってフィーナを追い回している連中だろうが、一枚岩ではないのだ。

 レヴァンティンが言うところの筋肉馬鹿集団というのは、実は先日教会でフィーザーやレド、ディオス達を襲撃したカカロ達の事であったが、ディオスには彼らの仲間、もしくは同盟間での別称など知る由もなかった。


「楽しむだと?」


 言いながら、ディオスは周囲を確認する。

 どうやらこの場にいた生徒や来客は全員避難したようで、センサーには一人の反応もなかった。


「そうだ。今日はお祭りなんだろう? だったら、楽しまなきゃ、なっ!」


(プラズマシールドの展開‥‥‥、無理、間に合わん。後方へ下がる? いや、俺が引かねばならない道理はない。では、この場で迎え撃つ‥‥‥、相手の方が速度がある分威力も大きい)


 ディオスの眼、正確には眼球の形をした高性能カメラとセンサーには、レヴァンティンの繰り出すだろう拳の軌道予測が示されている。それを元にすれば回避できるのかもしれないが、相手も同様に機械化、義体化しているのであれば、こちらと同じように回避予測もシュミレートされている可能性は高い。


(問題ない。信じろ、この身体を。改造してきた自分自身を)


 レヴァンティンが突っ込んでくるわずかな間にディオスのわずかに残された部分である、生体ままの脳がフル稼働する。

 予測される相手と自分の総重量、相手の速度、自身が立つ地面の摩擦及び耐久、彼我の距離。

 

(受け止めることは‥‥‥可能。その場合のこちらへの被害は‥‥‥)


「おおおっ!」


 高速で打ち出される拳。おそらくは何らかのアシストを受けているのだろう。

 出力は小さくなるが、カメラから算出された軌道に基づいた自動のプラズマシールドに防御を任せて、ディオスは反撃に出る。


「打ち合いか、面白い!」


 距離を詰めたディオスに応じるように、レヴァンティンが突き出された拳を受け止める。

 両者の拳と拳がぶつかり、ボーリングの弾同士をぶつけるよりも重そうな音が響く。

 そうして幾度か打ち合った後、ディオスの手首が折れ曲がる。


「ふっ! お前―—」


 破壊したと、一瞬笑みを濃くするレヴァンティン。直後、ディオスの折れ曲がった左手首からブラスターが姿を見せる。既に充填の終わっていたブラスターからは即座に発射される。


「くっ!」


 掴まれた左手を押し込まれ、危うく直撃コースの射線上に送り出されたレヴァンティンは、頭部のパーツを反対側へ横倒しにすることでこれを回避しようとした。


「ちっ、外したか」


「当たってるわあ!」


 しかし、一瞬ディオスのブラスターの発射が早く、頭部の右側面を文字通り吹っ飛ばされたレヴァンティンがディオスに向かって叫ぶ。

 

「まさかそこにも重火器を仕込んでいるとはな。ここはお前の学院じゃないのか。抉られてるぞ」


 レヴァンティンの指さす方向では、学院の敷地を抜け、背の高くなっていた森林地帯の樹木の上側が綺麗に消失していた。


「些細なことだ」


 しかしディオスは気にしない。それよりも、今の攻撃を避けた目の前のレヴァンティンと名乗ったサイボーグの事を考えていた。


(今のを避けるとは‥‥‥。少しまずいか‥‥‥)


 ディオスのエネルギーは無限ではない。

 有機物を分解してエネルギーを取り出すことは可能だし、効率もかなりのものではあったが、溜まった熱量を打ち出すブラスターの発射にはそれなりの充填を要した。

 相手の右頭部を破壊したことで相手の戦力も大きく削りとっただろうが、不意打ちですら完全に破壊するまでには至らなかった。残りのエネルギーでもブラスターの発射は可能だが、仕留め切ることが出来ない可能性がある。


「ククク‥‥‥。楽しくなってきたじゃねえか。やっぱり、戦いはこうでなくちゃいかん」


 レヴァンティンはさして気にする様子もなく、むしろ楽しんでいるようにも見える。


「対策でも考えてやれと言われていたが、それじゃあ楽しめないしな」


「楽しめないだと‥‥‥。祭りの邪魔をしておいて良く言う」


「たしかに。だが、俺にとってはこれこそ、強者との戦いこそが祭り。生きていることを実感させられる」


 ディオスが言い返そうとすると、レヴァンティンは、話の途中だと、手を広げてディオスを遮る。


「先に教えておいてやろう。たしかにお前たちの両親、ダーリング博士夫妻を襲ったのは俺達らしいが、俺ではない」


「それがどうした」


 ディオスはレヴァンティンの言い方に引っ掛かりを覚えながらも、なお隙だらけに見える彼に突っ込もうとはしない。両親の情報を得られるチャンスだからだ。


「その件に関する報告書を閲覧した記憶がある。たしかにお前達兄妹の両親を襲ったのは俺達のところで造られた奴だったし、成果に興味があったらしく襲わせたのは俺の改造にも少し手を貸してくれた奴の成果物だったが、その機体はすでに俺が破壊した。俺のこの身体のテスト段階でな。相手にもならなかったから、ほとんど覚えちゃいないが」


「何故?」


 喋らなくてはならない情報には思えない。

 たしかにディオスにとっては最も―—正確には2番目に―—関心のある事案だが、それを話して目の前の男に何の得があるのかが理解できなかった。

 何故、目の前の男は身内の犯罪を告白するのか。それによってディオスを混乱させることが目的か。

 

(違う。そんなことを奴は考えちゃいない)


「何、先に教えておいてやろうと思っただけの事。破壊された後じゃ聞いても意味ないだろうし、情報を聞くために全力を出せないなんてことになったらつまらんからな」


 レヴァンティンの熱量が上がる。勝負をかけてくるつもりらしい。


「さあ、言わば、俺はお前の、いや、お前達兄妹の敵の敵。全力でぶつかってこい!」


「加速」


 移動魔法のうち、最も一般的といえる加速魔法。自身や物質等の速度に関する、減速と共に用いられる魔法だが、今、ディオスが使用したのはその加速魔法ではない。ディオスには魔法は使えない。

 ただ、自身の体内に存在するスイッチを入れることで、思考速度の向上と、機体の出力を爆発的にあげているだけである。

 結果、通常の相手であれば、目にも留まらない速度で移動してきたかのように見える。

 レヴァンティンの動体センサーを反応させることなく、背後に回ったディオスは、その速度を保ったまま、直接レヴァンティンのボディーを殴りつける。

 自身は電磁フィールドのプロテクトにより身体を保護しているが、レヴァンティンには反応する暇すら与えない。

 速度が威力に換算されることは言うまでもなく当然であり、最高の速度を持って放たれたディオスの拳はレヴァンティンのボディーを貫通した。

 そしてそこでは止まらない。

 稼働させられる時間は短くとも、その時間内であればディオスの速度に追いつけるものは、仮にあるとして、同じ装置を取り付けた機体だけだろう。


「‥‥‥それだけになってもまだ爆発しないとはな」


 ディオスが動くのを止めた時、レヴァンティンはすでに頭部しか残されていなかった。

 ディオスはそこを残そうとして残したわけではない。ただエネルギー切れで動くことが出来なくなっただけだった。


「楽しめたぜ‥‥‥。俺は満足だ‥‥‥」


 そう言ったきり、ディバインは動かなくなった。


「ちっ‥‥‥」


 ディオスは最後にメルルに現在位置の情報だけを送信して、その場に倒れ込んだ。



 

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