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27話

「フローラもありがとう」


 フィーナは微笑みながら振り向いた。

 それは無理してのものではなく、自然な微笑みだった。


「私は大丈夫。それよりお兄ちゃんを」


 フィーナは頷くと、振り返って正面を見据えた。


「‥‥‥少々予定外の事態が起こりましたが、私たちにとっては嬉しい誤算です。やはり、予想は間違っていなかったのだと確認できましたからね」


 フィーナから溢れる魔力を確認しながらウェインが呟く。


「しかし、なればこそ、やはりその娘はどうしても連れて行かせて貰います」


 フィーザーとフィーナの足元に巨大な魔法陣が描かれ、そこから赤く細い光が何本も伸びて、檻のような格好で二人を閉じ込める。


「あなた方があまりに近くにいるものですから一緒になってしまいましたが、本望なのでしょう? こちらとしても困ることはありませんし」


 そんなウェインの目の前で、フィーナとフィーザーは手を繋いだまま、何事もなかったかのように、魔法陣の外へと歩いて進み出てくる。二人が囲まれた中から出てくるのと同時に、二人を閉じ込めていた魔法陣は焼失した。


「こういうところから出るのは前に見た」


 フィーナは自分たちを拘束しようと伸びてくる魔力の鎖を、寄せ付けることなく、弾き飛ばした。

 隣で同じように鎖を破壊していたフィーザーは目を見開いた。


「素晴らしい。これほどのものとは‥‥‥」


 ウェインは驚愕していたが、それは決して焦りや不満を孕んだものではなかった。


「これならば私たちの望む鍵足りうる」


 ウェインの周りに無数の眼球のようなものが出現し、それらは禍々しい光を帯びていた。


「頭さえ潰れていなければ、生きてさえいれば、後からいくらでも治癒することは出来ますから、多少痛めつけてでも、どうあっても、ついてきていただきますよ」


 目玉から飛び出した熱線を、フィーザーとフィーナは躱し、防御したが、そうでない部分、ぶつかった先の地面は、消滅してしまったかのように深い線が刻まれていた。


「私が抑える」


「任せるよ」


 フィーナの障壁が二人を包む。外側からの攻撃を通さない事だけに徹底して、内側からは問題なく攻撃が出来る。とはいえ、さすがにフィーナ一人では、両方をこなすことは出来なかっただろう。

 フィーザーは空中に浮かぶ無数の目玉に意識を集中していた。

 防御は考えなくていい。フィーナがやってくれると信じていた。

 

「捉えた」


 フィーザーが前に伸ばして開いていた手を握ると、一斉に、跡形もなく、目玉は消滅した。

 ウェインの眉がピクリと反応する。


「これでっ!」


 フィーザーは地面を蹴り、一気にウェインとの距離を詰める。


「私をやったと思いましたか?」


 フィーザーの突き出した拳を、ウェインは同じように魔力を纏った手のひらで受け止める。

 

「そんなに簡単にやられるほど私は甘く―—」


 言いかけてウェインの口が閉じられる。

 フィーザーが崩れ落ちたのをチャンスと思っていたのだが、フィーザーは崩れ落ちたのではなくしゃがみ込んでいただけだった。

 フィーザーとぴったり重なるような後方には、人差し指を伸ばして、ウェインの事を見据えるフィーナが立っていた。


「くっ」


 ウェインは障壁を形成しようとするが、それは完成する前に砕かれる。


「あなたは‥‥‥!」


 さらに、フィーザーは地面に仰向けに倒れ込んだまま、ウェインを拘束するための魔法陣を描き出す。

警邏隊でも普通に使う、犯人を確保するときなどに重用される拘束魔法だ。


「この程度でっ!」


 ウェインはすぐさま脱出系の魔法で拘束から逃れる。

 しかし、四肢の自由を取り戻すころには、すでにフィーナの砲撃は発射されており、シールドの形勢は間に合わないタイミングだった。


「くっ」


 それでもシールドを間に合わせたことは、ウェインの能力の高さを伺わせる。

 構築と発動が余程早くなければ直接身体に受けていただろう。

 しかし、ただ作っただけの障壁、シールドでは、フィーナの全力の砲撃を防ぐことは出来るはずもなかった。

 魔法の強さは、媒介などがない場合、純粋な魔力の量に左右される。

 ウェインは戦い慣れしているという点でフィーザーの上をいっていたが、今行われているような純粋な魔力量、魔力の変換効率だけの勝負では、フィーザーには及ばない。ましてやフィーナにも、だ。

 そして、今問題になるのはフィーナの砲撃に耐えうるだけのシールドを、フィーナが攻撃をやめるまで持たせることが出来るのかという点だった。

 ウェインの障壁は強力だが、その分魔力も大きく消費する。魔力変換の効率を消費量が上回れば、当然自身に内在する魔力量も減少する。

 その場から移動することは出来ない。移動に使う魔法に魔力を回しなどしたら、一瞬で持っていかれてしまうだろう。普通に移動したのでは、確実にフィーザーに捕らえられる。

 ウェインは自分が詰みかけていることに気付いていたが、諦めることはしなかった。それは忠誠心ゆえか、それとも自身のプライドのためか。

 やがて、フィーナが魔力の放出を止めると、砂浜に突っ伏すように赤い髪の青年が倒れていた。


「フィーナ、大丈夫?」


 初めてといっても差し支えないだろう、戦闘で疲労していると思われたフィーナにフィーザーが声を掛ける。


「ありがとう。私は大丈、夫」


 大丈夫と言いつつもよろめくフィーナを、フィーザーは咄嗟に両手で抱き留める。


「無理はしないで」


 抱き合う形になった2人に横から遠慮するように声が掛けられる。


「あー、えーっと、とっても仲がよろしいところ悪いんだけど、場所と時間を考えてくれる?」


 ウェインが気を失ったことにより、彼らが形成していた結界は崩れており、周囲の視線が集まる中、申し訳なさそうに、呆れたような声でセレスティアとフローラが笑いかけてくる。フローラは心から笑っている様子だったがセレスティアの雰囲気は違っていた。笑っているのは表面だけだということは、フィーザーとフィーナにも理解できた。


「いいじゃないですか、セレスティアさん」


「あなたは良いのかもしれないけれど、私はあまり注目を集めるような真似は良くないと言っているの」


 元気を取り戻していたらしいフローラとセレスティアが言い合っていると、奥からレドとジャトゥハンのところにいる一人とは別の、もう一人の警吏が歩いて来るのが見えた。

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