finding of a nation 83話
「にゃぁぁぁぁぁっ!、デビル・アックス・クラッシャーにゃぁぁぁぁっ!」
“ズバァーーーーンッ!”
“グオォォォォッ……”
「ふんぬぅ……、アックスッ……クラッシャーぁぁぁぁっ!」
“ズバァーーーーンッ!”
“グオォォォォッ……”
「ふっ……中々やるにゃね、エックスワイゼット」
「ぐっ……お前の方こそな、デビ猫。だがいい加減そのわざと間違えた名前で呼ぶのをやめろ……」
ローレイン、キャスティー、ニールの悪霊達を打ち破る為広間の2階へと進軍を開始したナギ達、まずは勢いよく飛び出して行ったデビにゃんとそれに続いたアクスマンが共にデビル・アックス・クラッシャーとアックス・クラッシャーを放ち前方のモンスターを蹴散らした。同じ戦斧士の職を経ている者同士互いにシンパシーを感じていたようだ。
「ナイスぅ〜っ!、アクスマン君っ!、デビにゃんっ!。それじゃあ今の内に私達は階段の踊り場まで先行するよ、シスちゃんっ!、プリプリさんっ!」
「了解っ!、レミィさんっ!」
「了解です〜」
アクスマンとデビにゃんが正面の敵を突破したのを見て同じく先行メンバーであるレミィ達3人もその後に続いて進軍を開始した。たがナギ達の行動は上から広間全体を見下ろしているローレイン達には筒抜けて、そう簡単にナギ達の進行を許すはずもなかった。
「ちっ……、奴等上に向かって進軍を始めたか……。だがそう易々とこちらに来させんぞ。……お前達っ!」
「はっ!」
“グオォォォォッ!”
「……っ!。モンスターが階段の前に集まって来たっ!。やっぱり私達の進軍を阻むつもりねっ!」
「いくらヴァルハラ国の精鋭といえどこれだけの数を相手にすぐには上に上がってこれまい。それどころか逆に永遠に貴様等をその広間の真ん中に押し止めてやる。(現在の時刻は16時39分……、あと少しであの仕掛けも使えることだしね)」
レミィ達が先行して上に向かって来るのを確認したローレインは自身のリスポーン・ホストの能力によって出現したモンスターにその進軍を阻むよう、そしてキャスティーとニールにもそれぞれのモンスターに同様の指示を出させた。モンスター達はレミィ達の進路を阻むように階段の前、そしてその段の上にも群れて立ちはだかり、他の者達もその場に残ったナギ達のことは放っておいて一斉にレミィ達に向かい始めた。このままナギ達を1階の広間に押し止めておくつもりのようだが、どうやら何か他にも策を弄しているようだ。
「後ろからもこっち向かって来てるよ、レミィさんっ!。ナギ君達のことはもう完全に放ったからしみたいっ!」
「大丈夫、シスちゃん。その為にナギ君達魔術師軍団を後軍に配置しておいたんだから。頼んだわよ、ナギ君っ!、ナミちゃんっ!、リアちゃんっ!」
「任せといて、レミィっ!。え〜いっ!、……ファイヤーボールっ!」
“バァンッ……バンバァンッ!”
「そんなんじゃ駄目よ、ナミっ!。もっと相手を倒すのに必要な魔力を把握しそれに合わせて魔法を撃たないとあっという間にMPが0になってしまうわ。……ファイヤーボールっ!」
“バァンッ……バンバァンッ!”
「うっ……、リアのファイヤーボールの方が火球の大きさも小さいし数も少ないのに私が狙ったのと同じモンスターを倒せてる……。やっぱり私って何事も力を入れてやり過ぎなのかなぁ……」
「ぼ、僕もリアがナミに言ってたことを注意して魔法を撃たないと……ストーン・ブラストっ!」
“バァンッ……バンバァンッ!”
「(ナギの方は案外バランス良く魔力を調節できてるわね。あの様子なら魔術師の職をメインにしても十分に戦っていけそうだわ。まぁ、ナギは魔物使いの職の経験値を上げるのを優先するでしょうけど……)」
「流石ナギ君達っ!、これなら私達は正面の敵にのみ集中出来そうだね、レミィさんっ!」
「ええ、私達はこのまま一気に踊り場まで突っ切るわよ」
ローレインは先行するレミィ達を集中的に攻撃して上の階への進軍を阻もうとしたのだが、正面に回った以外のほとんどのモンスターはレミィ達の元に辿り着く前にナギ達の魔法で撃退されてしまっていた。レミィの作戦通りこれで先行メンバーは進路上の敵を撃破することにのみ集中出来そうだ。
「くっ……おのれぇ……っ!。このままでは奴等にここまで上がられて来てしまう……ニールっ!」
「は、はい……っ!」
「お前のモンスター共は後ろに魔法を放ってる奴等を攻撃させなさいっ!。それから私達も魔法で奴等を牽制するわよっ!。勿論キャスティー、あなたもねっ!」
「か、かしこまりました」
ナギ達の魔法でモンスターが撃退されているのを見て焦ったローレインはニールのモンスター達に攻撃対象をナギ達に変更するよう指示を出した。更には自分達自身もそれぞれ得意な魔法、キャスティが風属性の魔力弾を飛ばすウィンド・バレット、ニールが雷属性のライトニング、ローレインが氷属性の槍の形状をした氷塊を飛ばすアイス・ランスをナギ達に向かって放ち地上のモンスター達を援護した。ナギ達はローレイン達の魔法を防ぎながらの戦闘を強いられることになり、これには流石に先行するレミィ達の足も止まってしまっていた。
“パァンッ……!”
「くっ……、なんとか斧で弾いてはいるがこの氷の槍の魔法中々の威力だぜ。斧から伝わる衝撃で両手がビリビリしやがる」
「こっちの雷属性の魔法も厄介だよ。弾いても雷撃の方向を変えることしかできないからちゃんと地面に叩き落とさないといけないし……」
「ぼ、僕の風属性の魔法も弾いても突風が吹いて飛ばされないまでも体のバランスが崩されちゃうにゃ……。周りのモンスター共の動きが大分鈍いおかげでそっちのは何とか対処できてるけどこれじゃあちっとも先へ進めないにゃ……」
「先行メンバーの前衛3人を集中的に狙って意地でも私達を下の階に押し留めるつもりだね……。こっちもヤバいけどナギ君達の方は……」
「はあぁぁぁぁっ!、……パイロブレイド・スラッシュっ!」
「烈風飛燕脚っ!、あたぁっ!」
“グオォォォォッ……”
ローレイン達の魔法は先行メンバーの前衛であるアクスマン、シッス、デビにゃん、それぞれに集中して放たれていた。意地でもナギ達が上の階に上がってくるのを阻止するつもりのようだ。一方ニールのリスポーン・ホストのモンスター達の攻撃対象となったナギ達の方はリアが魔法を撃つの止めて前衛としての役目にシフトし、バジニールと共に襲い来る敵を撃退し魔法を放つのに集中するナギとナミを守っていた。バジニールの放った烈風飛燕脚は体勢を低く身を屈めて敵の懐に入り、そこから斜め上空に向かって飛びながら蹴りを放ちその自身の体ごと敵を宙に巻き上げる武闘家の飛燕脚を強化した格闘士の術技だ。烈風と名の付くだけあって敵を蹴り上げると共に強烈な突風を巻き起こして遥か彼方まで吹っ飛ばしてしまう。リアとバジニールの活躍もナギ達はほぼ問題なくレミィ達に襲い掛かる敵を撃退できていた。
「どうやらナギ君達の方は大丈夫みたいだね。問題魔法の攻撃を受けてるこっちの方だけど……」
「ふふっ、それなら私に任せてくださ〜い、レミィ〜さんっ♪」
「プ、プリプリさん……。この切羽詰まった状況で相変わらずのほほんとした感じで話掛けてきたけど……、本当にこの状況を打破するような考えがあるの?」
「は〜い。私の精霊さんに頼めばきっとこの危ない危ない魔法をなんとかしてくれるはずですわ〜」
「……っ!、そっかっ!。確かプリさんは精霊術士でもあったんだよね。回復役を任せることばかりに意識がいってすっかり忘れてたよ。そういうことなら早くその精霊さんを召喚にしてっ!。どちらにせよ少しでも戦力が増えるに越したことはないからっ!」
「了解で〜すっ♪。……アイスクリームのようにひんやり美味しい氷の精霊さんっ♪。そのとろけるような甘〜い口づけのお味で戦いに疲れた私達の心を潤してっ♪。……氷の精霊・クーリッシュっ♪」
「ア、アイスクリームのように美味しい……、それにクーリッシュって……。うぅ……、そんな詠唱されたら甘いものが恋しくなっちゃうよ〜、プリプリさん。まさか本当に精霊さんを食べちゃうわけにはいかないし……」
“パァァ〜〜ン……”
「………」
「む、無言……。普通精霊さんって自己紹介しながら出てくるもんじゃないの……」
「そんなことは知らん。……さっさと用件を言え」
「し、しかもプリプリさんの詠唱とは裏腹に凄く冷たい性格みたい〜……」
ローレイン達の魔法に苦しめられるレミィ達を見て精霊術士の職も経ているプリプリは自身の精霊を呼び出すよう提案してきた。少しでも戦力の欲しかったレミィは当然了承し、プリプリはあまり召喚には相応しくないお菓子のCMのような内容の詠唱を行い氷の精霊・クーリッシュをその場に呼び出した。クーリッシュは肌の色こそシルフィーやウンディと同じく人肌と同じであったものの、全身を煌めく氷のラメのようなもので包まれており如何にも氷の精霊らしい冷気を周りに漂わせていた。髪は水色で腰の辺りまで真っ直ぐ伸び、レミィも言っていたが氷のように冷たい瞳で少し冷酷さを感じさせる程であった。
「お久しぶりね〜、クーちゃんっ♪。あなたの言ってた氷の世界でも元気にしてた〜。確かアイスクリーム・ワールドといったかしら〜」
「……アイス・クリスタル・ワールドだ。いいからさっさと用件を言え」
「は〜いっ♪。実は私達今無性に甘いものが食べたくて困ってるの。だからクーちゃんの魔法で冷たくて美味しいアイスクリームを……」
「だぁぁ〜〜っ!、もうプリプリさんはいいから黙っててっ!。……えーっと、クーリッシュさん。実は私達あの上にいる3人の悪霊の魔法に苦しめられてるの。それでもしクーリッシュさんの魔法で何とかできるなら是非お願いしたいんだけど……」
「……了解した」
「えっ……」
「我が無情なる心より生まれし氷の魔力よ……、その冷徹なる力で我々に害する存在を見極め侵入を遮断せよっ!。……アイシクル・アイソレーションっ!」
“パァァ〜〜ンっ!”
「な、何……っ!。白い霧みたいなのに包まれたと思ったら急に辺りが冷え込んだように寒く……、これがクーリッシュさんの発動させた魔法の力なのっ!」
レミィから事態の説明を聞くや否やクーリッシュはアイシクル・アイソレーションという魔法を発動させ自身を中心にドーム状の空間を作り出した。空間の中は視界を遮らない程の薄い氷の結晶が散りばめられてできた霧のようなものとその冷気に包まれており、レミィやナギ達は急に冬の冷え込んだ日のような肌寒さを感じていた。
「このアイシクル・アイソレーションの空間は外部からの魔法の影響を閉ざす効果がある。余程強い魔力の魔法でない限り空間内に届くことはないだろう。但しそれは味方の魔法も同じことだから気を付けろ。まぁ、今は全員空間内にいるから問題ないだろうが
……」
「ありがとうっ!、クーリッシュさんっ!。……クシュンっ!。ちょっと寒いのが難点だけどこれでまた上の階に向かって進軍を開始できるわ」
「……私はこの後どうすればいい」
「それじゃあクーリッシュさんもアクスマン君達をサポートしながら一緒に正面の敵を殲滅してあげてっ!。取り敢えず今の目標はあの踊り場まで辿り着くことだからよろしく」
「ふっ……分かった。悪いが私も自身の冷気で敵を凍てつかせるが趣味だ。貴様等のサポートは後回しにさせてもらうぞ」
「え、ええ……、戦力にさせなってくれれば特に注文をつけるつもりはないからクーリッシュさんの好きに戦って貰って構わないわ。(せ、精霊さんなのに豪く好戦的なのね……。言ってることもおっかないしなんだか雪女みたいでちょっと怖いかも……)」
「はあぁぁぁぁっ!、……ライトニングっ!」
“パシューンッ……!”
「くっ……駄目だわ。私の魔力じゃあ奴等に魔法が届く前にあの氷の空間の魔力に掻き消されてしまう……。奴等に攻撃しようと思えば私達もあの空間の中に入らないといけないということか……」
クーリッシュの作り出したアイシクル・アイソレーションの空間に遮られローレイン達の魔法はナギ達に届かなくなった。おかげでアクスマン達は進路上の敵の撃破に専念できるようになり、一度突破口と開いたと思うとレミィ達は再び踊り場向かって進軍を開始した。魔法を発動させた後のクーリッシュはというと前衛メンバーと共に進路上の敵の討伐に当たり、前衛職のアクスマン達も顔負けの氷属性の攻撃魔法で敵を凍結死させていた。アイナも使っていたボレアース・ウィンドの魔法を口から息吹のように吐いて使用していたようだ。
「ふっ……、私の息吹であなたも凍てつかせてあげる。……ふぅ〜」
“ヒュオォォォォ……っ!”
“グッ……グググッ……グォ……”
「お、おお……、ゾンビの奴全身の指先まで氷漬けにされちまったぜ……。まるで雪女みたいにおっかねぇ精霊の姉ちゃんだな……」
「でも前衛の私達に負けないくらいのペースでモンスターを蹴散らしていってくれてるよ。この悪霊達の魔法を防いでくれてる空間もあの子が作ってくれたみたいだし……。あの子の活躍に報いる為にも私達もどんどんモンスターを蹴散らして踊り場まで一気に駆け抜けちゃおうっ!」
「了解だっ!、シッスっ!。確かにプレイヤーの俺達が不甲斐ないと精霊の姉ちゃんもサポートのし甲斐がないもんな。もしかしたら俺達の戦ってる姿を見て頼りないと判断して自分でモンスターを倒し始めたのかもしれないし……。俺達も負けないよう気合を入れ直すぞ、デビ猫っ!」
「にゃぁぁぁぁっ!、僕はいつでも気合十分にゃぁぁぁぁっ!」
クーリッシュも戦線に加わったことによりアクスマン達のモンスターを蹴散らすスピードは各段に上がっていた。ローレイン達の魔法の援護を受けられないモンスター達ではアクスマンやシッス達にまるで太刀打ちできず、進軍を阻むどころか攻撃する間もなくアクスマン、デビにゃんの斧に両断、シッスの気功術に粉砕、クーリッシュの氷魔法に氷漬けにされていった。そして勢いの増したレミィ達はすでに階段の中腹辺りまで上がって来ており、そのまま一気に残りのモンスター達を蹴散らし踊り場まで駆け抜けようとしていた。追い詰められたローレイン達は当然焦燥した表情を浮かべていたのだが……。
「くっ……糞ぉぉっ!。役立たずのモンスター共がぁっ!。もしこのまま奴等が上に来ることになれば私達が直接戦わざるを得なくなってしまう……。せめてあの仕掛けを発動できる時間まで後ろの奴等だけでも広間の中央に留めておかないと……。キャスティーっ!、ニールっ!。こうなったらあなた達も踊り場まで下りて奴等の進行を阻止しなさいっ!。あそこからならあなた達の魔法も奴に届くはずよ」
「は、はいっ!」
「かしこまりましたっ!」
「(仕掛けが発動できる時間まで後1分弱……。あの後ろの4人だけでもこの場から消し去ることができれば残りは私達3人でもなんとかなるはず……。なんとしても後1分時間を稼ぐのよ、あなた達っ!」
階段の中腹まで上がって来たレミィ達の姿を見たローレインはキャスティーとニールにも踊り場に下りて迎え撃つよう指示を出した。意地でもナギ達を下の階に止まらせておきたいようだが何か策があるのだろうか。踊り場へと下りたキャスティーとニールは再び魔法を放ち階段の上でアクスマン達と戦っているモンスター達の援護を始めた。どうやらクーリッシュの作り出したアイシクル・アイソレーションの空間は踊り場まで広がっているようだ。
「あなた達をローレイン様の元へ行かせはしないわっ!。……ウィンド・バレットっ!」
「……ライトニングっ!」
“バァンッ……バンバァンッ!”
“バリバリィッ”
「ぐぅっ……!。奴等め……、とうとう踊り場に下りてまで俺達に魔法を撃って来やがったか……。だがあの親玉の奴は意地でも出てこないつもりらしいな」
「でもそれはこっちに取って好都合だよ、アクスマンさんっ!。あいつの氷の魔法がない分対処が楽だからあそこまで足止めも食らわないだろうし、上手く踊り場まで辿り着ければ先にあの二人だけでもやっつけられるかもしれないよ」
「シスちゃんの言う通りっ!。これはむしろチャンスだと思った方がいいよ、アクスマン君。このまま一気に踊り場を制圧してあの二人をやっつけちゃおうっ!」
「ふっ……了解だっ!、リーダーっ!。だが俺の斧じゃああの悪霊共にダメージを与えられないからな。俺が道を切り開くから後は頼んだぜ、シッス、デビ猫、雪女の姉ちゃん」
「任せといてっ!」
「にゃぁっ!」
「誰が雪女だ……」
「いくぜぇ〜……」
再びキャスティーとニールの魔法を受けながら戦闘を強いられることになったレミィ達だったが、むしろ二人の悪霊を撃退するチャンスだとレミィは判断したようだ。リーダーからの指示を受けたアクスマンは道を切り開く為の技を放つべく力を溜めているようだったが……。
「馬鹿めっ!、そう簡単にお前達をここまで来させるものかっ!。……はあぁぁぁぁっ!」
「その通りよっ!。私達を倒すどころか逆に返り討ちにしてお前達もこの館の悪霊にしてあげるわっ!。……はあぁぁぁぁっ!」
“バァンッ……バンバァンッ!”
“バリバリィッ”
「ぐおぉ……っ!。や、奴等更に激しく魔法を放って来やがった……。こ、これじゃあ俺の必殺技を放つ隙がねぇ……」
「そ、それどころかこんな近距離から撃たれたら流石に防ぎ切れないよ……。なんとか防御はしてるけどさっきみたいに弾き飛ばすことはできな……」
“バリバリバリィッ”
「きゃあぁぁぁぁっ!」
「シ、シッス……っ!」
レミィ達が自分達を倒そうとしているのを察してかキャスティーとニールは更に激しさを増して風属性のウィンド・バレット、雷属性のライトニングの魔法を放って来た。更には先程より随分近距離から魔法を撃っていることもあってアクスマン達も反応が追い付かず、とうとうシッスが自身の魔法防御を貫かれニールのライトニングの直撃を受けてしまった。全身に雷撃を受け叫び声を上げるアクスマンだったが、気功術士になる為回復職である治癒術士も経由しているシッスより多少魔法を耐えられているというだけで自身もいつ魔法の威力に押し負けて防御を貫かれてしまうか分からないといった状況だった。もしここでアクスマンやデビにゃんまでもが魔法の直撃を受け戦線を崩されてしまえばまた踊り場までの辿り着く道が遠のいてしまう。そう胸に言い聞かせてアクスマンたちは必死に耐えていたのだが……。
「シスちゃんっ!。それにアクスマン君もデビにゃんももう魔法を耐えるので精一杯みたい……。どうにかあの悪霊共の魔法を止めてあげたいけど私のボウガンじゃあ効果はないだろうし……。折角ここまで移動して来たけどここは一度ナギ君達のところまで下がった方が……」
“バァンッ……バンバァンッ!”
「えっ……」
「ぐ、ぐわぁ……っ!。な、なんだ……、今のファイヤーボールは一体どこから……」
「……っ!、リアちゃんっ!」
必死に耐え凌いでいるアクスマン達を何とかキャスティー達の魔法から解放してあげたかったが、機工術士と弓術士の経験しかないレミィには悪霊である二人に対して成す術がなかった。ライトニングの直撃を受けて悲鳴を上げていたシッスや、魔法を堪えるので精一杯の状態のアクスマン達を見てレミィは一瞬後退を考えたが、そのことが頭によぎった束の間レミィの後方、階段の下の更に向こうからファイヤーボールの魔法のものと思われる火球がキャスティーとニールに向かって放たれてきた。驚いたレミィが後ろを振り向くと、そこには更に火球を出現させ放とうとしているリアの姿があった。
「レミィっ!、いつまでもそんな奴等に手こずってるつもりっ!。私が魔法で援護するからその隙をついて一気にそいつらを片付けちゃいなさいっ!」
「リ、リアちゃん……、分かったわっ!。皆ぁっ!、次のリアちゃんの魔法に合わせて一気にこいつらを片付けるわよっ!」
「おおっ!」
「いくわよ……はあっ!」
“バァンッ……バンバァンッ!”
“グオォォォォッ…”
「ぐっ……お、おのれぇ……っ!」
「流っ石っ!、リアちゃんっ!。あいつらを牽制するだけじゃなく私達の苦手なゴースト系の雑魚も片付けてくれたわ。あんな離れたところだ物凄い正確なコントロールね……」
“グオォォォォッ!”
「あとはこのゾンビと骸骨共だけ……はあっ!、スパイク・ボルトっ!」
“グサッ!、グサッ!、……グサグサグサッ!”
“グッ……グオォ……”
リアは続けてファイヤーボールを放ち、その隙に一気に敵を殲滅して踊り場を制圧するレミィ達に指示を出した。リアの放ったファイヤーボールは見事にキャスティーとニール、そしてレミィ達の進路を阻んでいたゴースト系のモンスター達にも直撃し蹴散らした。リアの脅威的な魔法コントロールにレミィも驚嘆していたようだ。だがあまり驚いている暇もなくレミィは残った敵の対処に当たり、スパイク・ボルトという釘の形状をした矢を相手に打ち込む技を放ち敵のゾンビと骸骨達の足を地面に釘付けにし動きを封じることに成功した。
「さぁっ!、これで奴等はもう動けないはずよっ!。……アクスマン君っ!」
「よっしゃぁぁぁぁっ!。天だくさん直伝のこの技で一気にこいつらを蹴散らしてやるぜっ!。アックスゥゥゥ……グランド・クラッシャァァァァーーーッ!」
“ズドンッ!、ゴゴゴゴゴゴゴッ……バアァァァァァァァンッ!”
“グッ……グオォォォォッ!”
「な、なんだ……。まるでこの広間中の空間が激しく揺れているよう……キャスティっ!、ニールっ!」
レミィが敵の足を止めたのを見たアクスマンは今まで魔法を耐えながら溜めたエネルギーを一気に解放してアックス・グランド・クラッシャーという戦斧士の大技を放った。地面に勢いよく振り下ろされた斧が空間内にまるで直下型地震が起きた様な爆音と大きな縦ぶりの振動を巻き起こし、斧の振り下ろされた場所から前方広範囲に向かって地面がひび割れる演出と共に凄まじい衝撃波を発生をさせた。そしてレミィに足を釘付けにされていたゾンビと骸骨達は全員その衝撃波をもろに受け跡形も吹き飛んでしまったのだった。
「す、凄い……、まるで部屋の中に大地震が発生したみたいだったよ、アクスマン君っ!」
「そんなに驚くなよ、レミィ。天だくさんなら大地震どころか隕石でも落下したみたいな衝撃波を発生させられるぜ。だがこれで踊り場までの敵は一掃したはずだ。後は頼んだぜ、お前等っ!」
「OKっ!。あの黒髪のメイドさんにさっきのビリビリの借りを返してあげるわっ!。てやぁぁぁぁっ!」
「お、おのれぇ……そう簡単にやられてたまるか。……はあぁっ!」
“バリバリィ……パシューンッ!”
「な、なに……っ!」
進路上の敵を殲滅すると同時にシッス、それからデビにゃん、クーリッシュはキャスティーとニールに向かって一気に突進して行った。自身の元に向かって来たシッスに対しニールは再びライトニングの魔法を放って抵抗したのだが、もう周りの敵に意識を払う必要もなくなったことで反射神経の向上したシッスにいとも簡単に弾き落とされてしまった。
「これで終わりよ……気功拳っ!」
“バアァァァンッ”
「ぐっ……ぐはぁぁぁぁぁぁっ!」
ライトニングを弾いたシッスは一気にニールとの距離を詰め懐に飛び込むと、自身の闘気をエネルギーに変えて込めた拳で凄まじい右ストレートをニールの腹部に向かって放った。気功拳という霊体にも効く気を拳に込めて打つだけのシンプルな技であるが、まだ気功術士としての経験の浅いシッスは気功術の基本となるような術技しか使用できなかったようだ。それでも自分と同程度のサイズの相手には十分な威力で、ニールの霊体はまるでシッスの闘気によって掻き消されるかのようにか細い線になってその場から消えていった。
「ニ、ニール……っ!」
「にゃぁぁぁぁっ!、次はお前にゃぁぁぁぁぁっ!。……ライトニングっ!」
“バリバリィッ!”
「ぐっ……ぐぅぅぅぅっ!。……はぁ……はぁ……」
「……最後は私の息吹で氷漬けにしてやる」
「えっ……」
「……ボレアース・ウィンドっ!」
“ヒュオォォォォ……っ!、ピキッ……ピキピキピキッ……”
「な、なに……っ!。わ、私の体が凍り……いやぁぁぁぁぁっ!」
“ピキンッ……”
「………」
「最後は少しでもその悪意に満ちた霊体が浄化されるよう星のように美しく散らしてやろう。……フローズン・クラッシュっ!」
“パリィィーーンッ!”
一方キャスティーはデビにゃんのライトニングを受けて怯んでいる隙にクーリッシュの接近を許し、耳元で囁かれるようにボレアース・ウィンドの息吹を吹き掛けられるとゾンビ達と同じように全身を氷漬けにされてしまった。徐々に氷が張り付いていく自身の体を見てキャスティーはより生前のものに近いと思われるか弱い女性の声で悲鳴を上げていた。もしや体が氷漬けにされる恐怖に呼応して彼女の生前に受けたという苦痛と恐怖の記憶までもが呼び戻されたのだろうか……。最後はクーリッシュの氷結状態なった敵の体を粉々に粉砕することで大ダメージを与えるフローズン・クラッシュという魔法で彼女の言葉通り星のように美しく煌めきながら散っていった。
「よーしっ!、これにて踊り場の制圧完了ぉ〜〜っ!。後はナギ君達と合流して一気に上の階に行ってあいつを……」
「くっ……まさかキャスティーとニールがやられてしまうとは……。まぁいい、悪霊である我々はこの館が負の魔力から解放されない限り何度でも蘇ることができる。それに二人のおかげであなた達を死と恐怖に追いやる仕掛けを発動させるまでの時間が稼げたわっ!」
「し、死と恐怖に追いやる仕掛けですって……。そんなの一体どこに……ってああっ!。皆見てっ!、今までバルコニーの手すりに隠れて気が付かなかったけどあいつの横にレバーみたいなものがあるわよっ!」
「……っ!、ほ、本当だ……っ!。ナミの言う通りもうそのレバーに手を掛けてるよっ!、あいつ……。もしかしてあのレバーで今言ってた仕掛けを発動させるつもりなんじゃ……」
なんとか踊り場の制圧し意気が上がっていた様子のレミィ達だったが、ローレインの意味深な言葉を聞いたナミがそちらを見上げるとバルコニーの上で横の地面に設置されたレバーに手を掛けるローレインの姿があった。先程キャスティーとニールに時間を稼がせるというようなことを口にしていたが、その間にこのレバーによって発動する仕掛けの準備が整ったということなのだろうか。
「ふっ……今更気が付いても遅いわっ!。これであなた達をあの方の元へ送ってあげる……。そして私の受けたのと同じ苦痛と恐怖を存分に味合わせてもらうといいわっ!。……さようならっ!」
“バッ!”
「レ、レバーを引きやがったわ……。一体何が起こるっていうの……」
「わ、分からないよ……バジニールさん。とにかく皆集まってできるだけ離れないよう……」
“ゴゴゴゴゴゴォッ……”
「な、なんだぁっ!。急に地面が揺れ始めたぞ……」
“バアァァーーンッ!”
「う、うわぁぁぁぁぁっ!」
「……っ!、ナギ君っ!、ナミちゃんっ!、バジニールさんっ!、リアちゃんっ!」
ローレインはレバーを発見し戸惑うナギ達に構うことなく右手に持ったレバーを悪意を込めて思いっ切り引いた。すると広間中の床が静かに揺れ始め、直後に下から何かが突き上げられて来たような大きな縦揺れが起き、岩でも叩き付けられたような大きな音と共にナギ達の悲鳴が広間中に響き渡った。心配したレミィがナギ達の方を振り向くと、そこには地面から突き出た高さ3メートル程の円柱の台座と、その上に乗り上げてしまったナギ達の姿があった。どうやらローレインの作動させた仕掛けは広間の中央の床の一部を地面から突き上げさせるものだったらしい。そしてナギ達の乗るその突き上げられた台座はレミィ達のいる踊り場と同じ、その奥の壁に設置されている巨大な鏡と反対の入り口の上に設置されている鏡の中央にちょうど上に乗り上げたナギ達の姿が映り込む高さなのであった。
「な、なに……っ!。気が付いたら急に広間の中央の床が盛り上がっててナギ君達がその上に……」
「ふっ……それだけじゃないわ。さぁっ!、この館の最も恐ろしい空間へと通じる魔の合わせ鏡よ……。4時44分……、死の文字が3つ並ぶこの時間に映り込みし者達を死と恐怖を司る王であるあのお方の元へと誘うのだっ!」
“パアァァ〜〜ンッ!”
「……っ!。こ、今度はこっちの鏡から光が……ま、眩しいっ!」
「ま、眩しいどころかとても目を開けてられねぇぜっ!。まさか俺達の目が眩んでる隙に逃げようってのかっ!」
「にゃぁぁぁぁっ!、一体何がどうなってるのにゃぁぁぁぁぁっ!」
レミィが足元から突き出た床の台座にナギ達が乗り上げているのを確認したのも束の間、続いてレミィ達のいる踊り場の鏡、そして向かい側の通路の入り口の上に合わせ鏡として設置された鏡の中から突然眩いばかりの光が発せられてきた。その光は踊り場の鏡の真ん前にいたシッス、アクスマン、デビにゃん、仕掛けを作動させたローレインまでの広間にいた全ての視界を奪う程の眩さであっという間に広がり広間中を包み込んだ。そして段々と光が弱まっていき次に皆が目を開けるとそこには……。
「にゃ、にゃぁ……、どうやら光が収まって来たみたいだにゃ……。もう目を開けても大丈夫かにゃ」
“パチッ!”
「にゃぁ……一体何がどうなって……。どうやら目を閉じる前と周りの景色は何も変わって……っ!。にゃぁぁぁぁぁっ!、レミィィィィィっ!、皆ぁぁぁぁぁぁっ!」
「ど、どうしたの……デビにゃん。そんなに大声出して驚いて……。ちょっと待ってね。私もようやく目が普通の明るさに慣れてきたか……ってああぁーーーっ!。ナ、ナギ君達が……」
「い、いなくなっちゃってるぅーーーーっ!」
光から解放されて逸早く目が慣れてきたデビにゃんが周囲を見渡すと、なんと自分達のいる場所こそ前の広間も変わらなかったものの視界が奪われる前に中央の台座の上にいたはずのナギ、ナミ、バジニール、リアの4人の姿がなかった。デビにゃんに続いて目を開けたレミィ、シッスも驚きの声を上げていたが、台座の上だけでなく広間中を見渡しても4人の姿はどこにも見当たらなかった。当然これはローレインの仕業だと察しレミィは慌てて問い質すのだったが……。
「マ、マジでどこにも見当たらないぜ……。あいつら隠れんぼの天才か……」
「にゃぁぁぁぁっ!、何言ってるにゃぁぁぁぁっ!。そんなの絶対あいつの仕掛けでナギ達に何かされたに決まってるにゃぁぁぁぁっ!」
「デビにゃんの言う通りだよっ!。一体ナギ君達をどこにやったのっ!、この館の悪霊のローレインさんっ!」
「あの合わせ鏡には時間が4時44分の時刻を指している間にあの台座の上で鏡に映り込んだ者達をこの館のある場所へと転移させる仕掛けが施されているのよ」
「あ、ある場所ですって……。それって一体どこなのよっ!」
「ふっ……、それこそこの私達を悪霊へと貶める程の恐怖と絶望をこの館にもたらしたお方のいる場所……。貴様等の言うところのこのダンジョンのボスがいるところよ」
「な、なんですってっ!。それじゃあナギ君達は今頃たった4人でこの館のボスと戦わされてるっていうのっ!。そんなのいくらなんでも無理ゲー過ぎるわっ!。今すぐ私達もその場所に転移させなさいっ!」
「そうだそうだっ!、こんなのインチキにも程があるぜっ!。8人パーティが推奨のゲームだって言ってんのにその半分のメンバーでボスと戦わされるなんてよっ!」
「はっ!、何が無理ゲーにインチキよっ!。貴様等の都合なぞ知ったことじゃないわっ!。私達は今まで貴様等がプレイして来たような只貴様等に気持ち良く倒される為だけに作り出された存在ではないのよ。これでダンジョンの攻略をしくじるようならば只お前達にそれまでの実力がなかったまでのこと。精々この館中を走り待って飛ばされた奴等を探すことね」
「くっ……」
「さて……、相手が半分になったとはいえキャスティーとニールがいなくなってはどうしようもないわね。別に私の方に貴様等を倒す義務はないしここは二人が復活するまで部屋で紅茶でも飲みながらゆっくり休ませてもらおうかしら。……それじゃあね」
「……っ!、ま、待ちなさいっ!」
“スッ……”
「き、消えちゃった……。これからどうしよう……レミィさん」
「ご、ごめん……。私にもどうすればいいか分からないわ、シスちゃん……。とにかく4人を探さないといけないけど……、一体あいつの言ってたボスのいる場所がどこにあるのやら……。上手く脱出用のアイテムを使用してダンジョンから抜け出してくれてればいいんだけど……」
「ボスのいる間に飛ばされたってことはアイテムの使用に制限が掛けられてる可能性も十分にあるな……。このままあいつらをおいて俺達だけ脱出するわけにはいかないし……。とにかく見取り図に従って怪しそうな場所から片っ端に調べていくしかないだろ」
「そうね……アクスマン君の言う通りだわ。取り敢えず近くの部屋でさっきの戦闘の疲れを回復させながら見取り図を見て探索する順序を決めましょう。闇雲になって探すよりもこういう時こそ冷静になってより効率的な探索を心掛けないと……」
「了解、レミィさんっ!」
「にゃっ……。ナギィ……お願いだから無事でいてくれよにゃ……」
ナギ達をボスのいる場所に転移させた……、そうレミィ達に言い残してローレインはその場から姿を消してしまった。レミィ達にとって絶望に等しい言葉ではあったが、ナギ達の飛ばされた場所の見当もつかないレミィ達にその絶望に抗う術はなく途方に暮れるしかなかった。アクスマンの言葉で多少の気力は取り戻せたようだが、果たしてレミィ達は無事ナギ達と再び合流することができるのだろうか。




