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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第七章 VSアイアンメイル・バッッファローっ!
48/144

finding of a nation 45話

 “モオォォォォォォッ!”


 「……来いっ!」


 ついにアイアンメイル・バッファローとの戦闘を開始したナギ達。初戦はセイナの凄まじい活躍で見事にリアの作戦通りの陣形を組むことができた。アイアンメイル・バッファローは攻撃対象を完全にセイナに絞られてしまい、相手の策略通りと分かっていてもセイナに突撃していくしかなかった。もしセイナ以外のメンバー……、例えばナミやデビにゃんに攻撃の目が向いていればナギ達の陣形は一瞬にして崩壊していただろう。リアなら多少は対応することができたかもしれないが……。何はともあれ挑発に成功したセイナは再びアイアンメイル・バッファローを迎え撃とうとするのだった……。


 “ドドドドドドドッ……、ドンッ!”


 「……何っ!」


 “モオォォォ……、モウッ!”


 「……くっ!」


 “ガッキィーーンッ!”


 勢いよく突進してきたアイアンメイル・バッファローだが、セイナに直撃する寸前急に地面に踏み止まった。セイナが何事かと驚いていると、いきなり体をブルンブルンと震わせながら2つの前足を上げ、まるで馬がいななく時のような体勢で雄叫びを上げ始めた。馬の場合は大きな音や他の動物の存在に興奮した時等、どちらかと言えば怯えている時にこの仕草を取ることが多いが、アイアンメイル・バッファローの場合は自身の気をより高ぶらせて攻撃に勢いを付けようとしているように思えた。そしてその行動を取った後、なんと頭に生えている角が鬼の角のようにピン上に向かうように生え変わり、次の瞬間一気に頭を振り下ろし自慢の角で攻撃を仕掛けてくるのだった。


 “モウッ!、モウッ!、モウゥゥゥンッ!”

 “……ガキィンッ!、……ガキィンッ!、……ガッキィィィンッ!”


 「ぐぅっ!、……凄まじい猛攻だ」


 セイナの前で立ち止まったアイアンメイル・バッファローは、地面擦れ擦れまで振り下ろした頭を左右に振り、角の先端を何度もセイナにぶつけて攻撃を仕掛けてきた。セイナは剣を構えて受け止めていたが、角が剣に叩き付けられる度に強い衝撃が走り、少しずつ後方へと弾き飛ばされていた。それに伴いアイアンメイル・バッファローも前に進みながら攻撃を続け、セイナはどんどん押し込まれる形になってしまった。


 “……ガキィンッ!、……ガキィンッ!、……ガッキィィィンッ!”


 「ぐっ……、一撃くらう度にとてつもなく重い衝撃がはいる……。流石バッファローの最大の特徴である角による攻撃なだけはあるか……」

 「セイナっ!。こぉんのぉぉぉぉぉっ……、いくら作戦だからってあんまり私の仲間を傷つけないでよね。待ってて、セイナ。こんな奴のHPなんて私がすぐに0にしてみせるんだから。てやぁぁぁぁぁぁっ!」


 押されているセイナの姿を見て、ナミは少しでも負担を減らすべくアイアンメイル・バッファローへ攻撃を仕掛けていった。武闘家であるナミは中・遠距離技に乏しく、相手の巨大な足踏みを躱しながら右後足目掛けて格闘技を繰り出していった。


 「たぁっ!、えいっ!、とぉーっ!」


 ただの足踏みといえどその巨大さから地面にはそれなりの衝撃が走る。ナミはアイアンメイル・バッファローの足が地面に着く瞬間軽く宙に飛び、その衝撃による震動に巻き込まれないようにしていた。当然直接踏みつけられればかなりのダメージを受けることになる。そして相手の足が地面に着いた瞬間を狙い、宙に浮いた状態で手数の多い殴打による攻撃や得意の飛び蹴りを放っていった。だが多少のダメージこそあるものの、宙に浮いた状態では力の篭った攻撃を撃つことができず、全くと言っていいほどアイアンメイル・バッファローの動きを止めることはできなかった。その間にもアイアンメイル・バッファローはナミの攻撃など無視するように角を振り続け、どんどんセイナを押し込んでいった。


 「くっ……、確かにこのままじゃあ流石のセイナのきついわね。ここは私も接近戦であいつの動きを止めに掛かるしか……」

 「僕もこうなったら猫フレイムを撃ちまくるしかないにゃっ!」


 アイアンメイル・バッファローにどんどん押し込まれていくセイナの様子を見て、リアとデビにゃんも相手の動きを止めるべく急いで攻撃を仕掛けていった。リアは自身の装備している剣であるスラッシュ・レイピアに火の魔力を込め、相手の左の前足に今度は魔法ではなく剣技による攻撃を仕掛けていった。どうやら相手の前足に物理ダメージによる衝撃を浴びせて動きを止めるつもりらしい。だがリアがいくら斬りつけてもアイアンメイル・バッファローの進行は止まることはなかった。デビにゃんもアイアンメイル・バッファローに向けて喉が枯れそうになるまで猫フレイムを放っていたが、やはり怯ませることができなかった。セイナのように強く力の篭った剣技でないと動きを止めるのは難しいだろう。だがリアとデビにゃんの火属性による攻撃は効果的で、それなりのダメージは蓄積しているようだった。


 “モオォォォォォォッ!”

 “ガアァンッ!、ガアァンッ!、……ガッチャァァァァンッ!”


 「ぐぅ……、この衝撃で段々と手が痺れてきてしまった……。このままではいつか武器を弾き飛ばされてしまうぞ……」

 「やあぁ〜〜〜っ!。なんとか踏ん張って、セイナぁぁぁ〜〜。ちょっと皆っ!、早くなんとかしてあげてよ。このままじゃあ私達あいつに踏み潰されちゃうわ〜」


 何度も角を叩き付けられる衝撃により、段々と手の感覚が麻痺していきセイナの剣を握る力は段々と弱まっていた。HPへのダメージはボンじぃのサポートにより常に全快の状態を維持していたのだが、攻撃の衝撃までは殺すことはできずセイナの肉体へのダメージは限界に近づいて来ていた。シルフィーのウィンド・バッファリングがなければとっくに剣を弾かれてしまっていたかもしれない。武器を弾かれ防御態勢を崩されればいくらセイナでも大ダメージを負ってしまうことは間違いない。そうなればボンじぃの回復も追いつかずすぐ戦闘不能に陥ってしまうだろう。サポートに就いていたシルフィーは慌てふためくようにセイナの頭上を左右に飛びまわっていた。


 「セイナさんっ!。……くっそぉ〜、僕も援護に回りたいけどこう雑魚モンスターが多くちゃどうにもならないよ。それに僕の実力じゃああいつに近づいても即死するだけかもしれないし……」

 「私もセイナさんを援護している余裕はないですっ!。アイアンメイル・バッファローに魔法を放つと次の詠唱が完了するまでに周りのモンスターに倒されてしまいます」


 シルフィーは他のメンバーに助けを求めていたが、どうやら皆周囲に現れた雑魚モンスターの撃退で手一杯のようだ。アイアンメイル・バッファローのリスポーン・インターバル・アブリビエイションの効果がそれだけ高いということだろう。ナギとアイナは勿論、馬子もモンスターの討伐に加え周囲の盗賊達の回復で手が離せなかった。レイチェルはボンじぃの護衛から外れるわけにもいかず、こちらに向かってくるセイナとシルフィー、そしてアイアンメイル・バッファローの姿を見て苦々しい顔をしていた。


 「おいおい……、あのままほっといたら私等まで一気に踏み潰されちまうぜ。セイナがあんなに防戦一方になるなんて一体どれだけ強烈な攻撃なんだよ。私じゃああんな馬鹿でかい角絶対受け切れねぇよ……、クソがっ!」

 「い、今はそんな悪態をついとる場合ではないぞ、レイチェル。踏み潰されると思とるなら早く後ろに下がらんか」

 「……いや、後ろに下がるのはジジイだけでいい。……おい、ちょっとそこお前等。ちょっとの間だけこの爺さんの護衛を頼む。私はセイナの援護に行ってくる」

 「へっ……」

 「へいっ!、分かりやした、レイチェルの姉御。このお爺さんは俺らが命に代えても守りますっ!」

 「だってよ。良かったな、ジジイ。それじゃあちょっくら行ってくるぜ」

 「ちょ、ちょっと待つんじゃレイチェル。わしの護衛をこんな頼りない盗賊達に任せ……ええいっ!、もう行ってしもうたわ」

 

 ボンじぃの護衛の為周囲の雑魚モンスターを撃退していたレイチェルだったが、押されているセイナの様子を見て居ても立っても居られなくなり、近くにいた盗賊達に護衛を任せて自身はアイアンメイル・バッファローへと向かって行ってしまった。護衛が盗賊達に代わったことに不安を感じたボンじぃがすぐさま引き止めようとしたが、一度決めたら即行動に移すレイチェルを止める暇はなかった。


 「おらおらぁぁぁぁっ!、いいからとっと道を開けな、雑魚モンスター共っ!。……無事かぁ、セイナっ!」

 「レイチェルっ!。よく来てくれたわ〜、早くなんとかしてあげて〜」

 「お〜しっ!、……って言ってもいくら私でも直接あいつに突っ込んで行くのは危険だな。……よし、ここは大風起こしで距離を取って攻撃するか」

 「へっ……、ちょっとレイチェル……?」

 「食らえぇぇ〜〜っ!。大風おおかぜ起こし斬りぃぃぃぃっ!」

 「ちょっとレイチェルっ!。そんな技放ったら私達ま……きゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 「ぐっ……。な、なんだ……後ろから凄い風圧が……」

 「ちっ……、こっちにまで風が吹いてきたわ。……あの馬鹿」

 

 “モオォォォォォォッ……”


 「あ、あれ……?」


 セイナの救援へと向かったレイチェルだったが、あれだけ角を大振りしている相手に近づくのは危険と判断し、20メートル離れた所から大風起斬たいふうきざんの特技を放って攻撃した。だが折角レイチェルが威勢よく放ったにも関わらず、なんとその風によってシルフィーが空高く吹き飛ばされてしまった。体が小さい分STRの低く、その上元々宙に浮いていたのもあって踏ん張りが効かなかったのだろう。そしてシルフィーだけではなく、アイアンメイル・バッファローの猛撃を懸命に受けているセイナにまでその風の影響は及んでいた。前からはアイアンメイル・バッファローの角、背後からはレイチェルの風とセイナは2つの攻撃に板挟みになりながらなんとか耐えしのいでいた。少し離れた場所にいたリアにはそこまで影響はなかったが、それでも多少はこの風のダメージを受けたらしい。肝心のアイアンメイル・バッファローとは言うと、少しは動きが鈍っていたようだがセイナ達に比べて風の影響はかなり少なく、風を受け切るや否やすぐに攻撃を再開した。当然レイチェルにとって予想外の結果で途惑いのあまり言葉を失いその場で立ち尽くしてしまっていた。一体何故このような攻撃を放ってしまったのだろうか。


 “ピューーーーン……”


 「ちょっと何やってるのよ、レイチェルっ!。危うく天まで吹っ飛ばされちゃうところだったじゃないっ!、私。一体どういうつもりであんな技放ったのよっ!」

 「い、いや……。だってこのゲームって基本PK禁止だろ。だからセイナ達は巻き込んでも大丈夫かなと思って……。もしかして風の影響だけ別だったのかなぁ……」

 「しっかりダメージも受けてるわよっ!。もうっ!、自動的にPKが禁止になってるのは攻撃の対象が味方キャラクターのみの時だけ。今回のように敵を巻き込んだ攻撃の場合は範囲にいる味方も攻撃の影響を受けちゃうのよ。あと対象が単体の攻撃であっても他のプレイヤーが敵キャラクターを対象にした攻撃に割り込んでヒットしちゃった場合もダメージも受けるわ。当然攻撃の当たってない敵キャラクターは無傷のままよ。これくらいVRMMOをやってるなら常識でしょっ!」

 「うるせぇなっ!。今までそんな高性能なゲームなんてやったことねぇよっ!」


 どうやらレイチェルは自身の攻撃がPK禁止のシステムにより、味方にはダメージ判定が出ず風等の衝撃の影響もないものと思っていたようだ。だがこのゲームではそのプレイヤーの攻撃が敵を対象にしていた場合、その攻撃の範囲内にいた味方キャラクターや、もしくは何等かの理由で敵ユニットの代わりに攻撃を受けてしまった味方キャラクターはダメージや影響を受けてしまうようだ。集落にて塵童がリアの攻撃から盗賊の頭を庇いダメージを受けていたが、このシステムも影響していたようだ。ナギ達が今までやって来たVRMMOの場合は、PKがオンになっているエリアとオフになっているエリアがサーバーによって完全に隔てていた為、全てが一体になっているこのゲームの世界ではどの場所でもPKがオフになっているものと勘違いしてしまったのだろう。非常にややこしい設定だが、敵ユニットとの戦闘中にまでPKがオフになっていては魔術師などが範囲魔法を撃ち放題になってしまうため仕方のない処置ではある。ナギ達の世界の技術では流石にこの設定は再現不可能なため、電子世界だらこそできた設定だろう。


 “モオォォォォォォッ!”

 “……ガキィンッ!、……ガキィンッ!、……ガッキィィィンッ!”


 「ぐっ……。悪いが私もかなり限界に来ている……。援護に来たのならば些細なことで言い争っていないで奴の攻撃を止めてくれないか……」

 「あわわわわ……っ!。ごめんなさい、セイナ。この窮地に私達ったら一体何してたのかしら……。ちょっとレイチェルっ!。セイナのフォローもあんたの仕事なんだから早くなんとかしなさいよっ!」

 「だぁーーー、うるせぇなっ!。てめぇも一々慌ただしくしてないで何か攻撃しやがれってんだっ!」

 「そ、それもそうね……。取り敢えず何かやってみるわ」


 結局レイチェルの大風起斬は自分達の戦況を悪くしただけだった。アイアンメイル・バッファローにはほとんどダメージを与えられず、角を振り回す攻撃によるセイナへの猛撃は全く止まらなかった。流石のセイナも限界が来ていたのか苦しげな表情と声で援護を求めていた。それを聞きレイチェルに早く援護するよう促していたシルフィーだったが、逆に自分も攻撃を仕掛けるよう諭されてしまい魔力を集中して何かの攻撃魔法を放とうするのだった。


 「我生まれながらにし天より授かりし美しき音を奏でる才能よ……。その力で魔の旋律を奏で我が敵を斬り裂く魔性ませいの風を巻き起こせっ!。螺旋の風・スパイラル・ウィンドっ!」


 “ヒュイィィン……、ヒュイィィン……、ヒュイィィン……ッ!”


 シルフィーが放った魔法はスパイラル・ウィンドという螺旋状の激しい風の塊をぶつける技だった。詠唱が完了すると共に頭上に3つの風で作られた直径20センチ程の魔法陣が現れ、シルフィーが相手のアイアンメイル・バッファローを指さすと共にその魔法陣の中から螺旋の風がミサイルのように放たれていった。更に螺旋の先端を敵に向けまるでドリルのようだった。


 “バァンッ!、バァンッ!、バァンッ!”

 “モオォォォォォォッ!”


 「うっそぉ〜〜〜っ!、全然効いてないみたいじゃな〜い。やっぱり私の魔法じゃパワー不足なのかしら……」


 シルフィーの放った風の塊は3つ全てアイアンメイル・バッファローへと直撃したが、やはりダメージはほとんどなく、怯む様子も全く見せなかった。そして更に攻撃の手は激しくなっていき、セイナの肉体は更に限界へと追い詰められていくのであった。


 「おいおいおいおい……。こりゃ落ち込んでる場合じゃねぇぞ。もしセイナが力尽きち待ったら目の前にいる私等は一瞬で踏み潰されちまうじゃねぇか……。こうなったら私のヴァイオレット・ストームを叩き込んで……」


 “……ガキィンッ!、……ガキィンッ!、……ガッキィィィンッ!”


 「ぐっ……、ぐおぉぉぉぉぉっ!」

 「駄目よぉぉっ!。そんな大技放つ力を溜めてる暇なんてないわ。今すぐなんとかしないともうセイナが力尽きちゃうわ。もうレイチェルがセイナの代わりにあいつの攻撃を受けてあげてっ!。なんとか私が風魔法でセイナをあいつの前から移動させるから」

 「無茶言うんじゃねぇよっ!。私にあんな攻撃が受け切れるわけねぇだろうがっ!。もっとマシな作戦考えやがれっ!」

 「そんなの考えてる暇ないって言ってるでしょ。ほら、あんたにもウィンド・バッファリングの魔法掛けてあげるから。早く入れ代る準備をしなさい。……ウィンド・バッファリングっ!」

 「……っておいっ!、マジで言ってんのかよっ!。……ああっ、もうっ!、流石にこうなったらやるしかないか。こっちの準備はもういいから早くセイナを解放してやってくれ」


 セイナの追い詰められていく表情と叫び声を聞いて更に慌てふためいて行くレイチェルとシルフィー。レイチェルは自身の最大の技であるヴァイオレット・ストームを繰り出そうとしたが、もはやセイナにそれだけのエネルギーが溜まるのを待つ余裕はなかった。そんな中シルフィーはなんとレイチェルにセイナの代わりにアイアンメイル・バッファローの攻撃を受けるよう提案してきたのだった。レイチェルは自分にセイナの代わりを務めるのは不可能だと提案を断ろうとしたが、問答無用でウィンド・バッファリングの魔法を掛けてきたシルフィーの表情を見て、最早それしか方法がないのだと悟り、アイアンメイル・バッファローの攻撃に飛び込んでいく為の覚悟を決めていた。


 「よ〜し、じゃあいくわよ〜……。大気に集いし我が同胞の精霊達よ、風のレールを作りてセイナの肉体を安全な場所まで運びたまえ。風属性移動魔法、ウィンド・リムーブっ!」


 “パアァン……、ヒュイィィィィィィンッ!”


 「……っ!。な、なんだ……。急に風のトンネルのようなものができて私の体が流されて行く……。しかもこれだけ穏やかな風だというのにまるで抵抗できず移動するスピードもかなりのものだ……。これもシルフィーの魔法なのか……」


 覚悟の決まったレイチェルの表情を見てシルフィーはセイナに対して風属性のサポート魔法を放った。ウィンド・リムーブと言われたその魔法は、今セイナのいる場所を起点に風のトンネルのようなものを作っていき、そのトンネルは少しうねるような軌道を空中に描きながらボンじぃのいる位置まで伸びていった。そしてセイナはその風のトンネルに流されるようにボンじぃの元へと移動して行った。

 

 「うおぉぉぉっ!、無事じゃったか、セイナ。待っとれ、今わしが全力で意識を集中して回復魔法を掛けてやる。効果を最大限発揮するためにお主の体に直接触れることになるが……、決してやましい気持ちはないからセクハラ等とは思わんでくれよ」

 「うむっ!。私は初めからボンじぃのことは信頼しているぞ。どこに触れても構わないからなるべく早く頼む。レイチェルも相手があいつではそう長くは持つまい」

 「よしっ……、ではその豊満な2つ胸を……って違った。恐らく一番衝撃の影響を受けていたであろう2つの手を前に出してくれ。そしてわしの両手とそれぞれ握り合うのじゃっ!」

 「分かった」


 “ギュッ……”

 

 「……いくぞや。……回復魔法・キュア・マッサージじゃっ!」


 シルフィーの魔法により目の前に運ばれてきたセイナにボンじぃは急いで回復魔法を掛けた。魔法の効果を高めるため一番負担の大きかった両手をギュッと握りしめてキュア・マッサージの魔法を放ったようだ。キュア・マッサージにはHPを回復させるだけでなく肉体の疲労や負担を和らげる効果がある。両手を握り合うことで衝撃により麻痺していたセイナの両手もすぐに感覚を取り戻すだろう。後は無事レイチェルがアイアンメイル・バッファローを攻撃を防ぎ切るだけだが……。


 「今よっ!、レイチェルっ!。早くアイアンメイル・バッファローの攻撃を防いでっ!」

 「よっしゃっ!。なんとかセイナの体力が回復する時間ぐらいは稼いで見せるぜっ!」


 “グサッ!”


 シルフィーがセイナを移動させるとレイチェルはすぐさまアイアンメイル・バッファローへと向かって行った。そして自慢のヴァイオレット・ウィンドを自身の正面の地面へと突き刺し、剣身の平面部分を盾代わりにアイアンメイル・バッファローの角を防いでいった。


 “モオォォォォォォッ!”

 “……ガキィンッ!、……ガキィンッ!、……ガッキィィィンッ!”


 「うおおおおおおっ!、……すげぇ衝撃だなこりゃおい。こんなのそう長くは持ちこたえられねぇぞ。……ってかその前にHPが全部削られちまうんじゃねぇのか……」

 「……っ!。大変っ!、そうだったわっ!。ボンじぃは今セイナの回復に専念しちゃってるし、こうなったら効果は低いけど私の回復魔法で……」


 大剣を盾にアイアンメイル・バッファローの攻撃を防いでいたレイチェル。だがセイナが攻撃を受けるのに使用していたショール・ブレイドより遥かに重量のあるヴァイオレット・ウィンドを使用していたにも関わらず、レイチェルの体はアイアンメイル・バッファローの一撃を受ける度にセイナの倍近くの距離は後退させられていた。後ろに弾かれる時に出る砂埃の量も尋常ではなく、如何にレイチェルが厳しい状況にあるかを物語っていた。更に回復役であるボンじぃは、シルフィーの魔法によって窮地を脱したセイナの回復に専念しており、現在アイアンメイル・バッファローの攻撃を防いでいるレイチェルはHPの回復を受けていなかったのである。仕方なくシルフィーが自身の回復魔法であるウィンド・キュアを使用しレイチェルのダメージを回復させていた。ウィンドキュアは同じランクの回復魔法に比べると基本回復量は少なめであったが、所持属性や風属性耐性率の値に応じて回復量が少々する効果がある魔法だ。


 「あれ……、なんだか思った以上に魔法に手応えがあるわね……そうかっ!。レイチェルの所持属性は雷だけど風属性耐性率は37%。それで私の魔法の回復効果が上がってるんだわ。これならボンじぃの代わりも十分こなせそうねっ!」


 シルフィーはサポート魔法に比べ回復魔法はあまり得意ではなかったようだが、レイチェルの風属性の耐性率の高さが少し効果を補ってくれたようだ。シルフィーは回復はボンじぃに任せていたが、セイナの所持属性も風属性であったためこのウィンド・キュアの魔法を使えば十分な効果を発揮することができたはずだ。リアもそのことを考慮してシルフィーをセイナのサポートに就けたのだろうが、どうやらシルフィーは気付いていなかったらしい。なにはともあれなんとかレイチェルも暫くセイナの代わりは果たせそうだ。


 「ふぅ〜……、なんとか耐えしのげそうね、セイナ達は……。でもレイチェルもあんまり長くは持ちそうにないわね。ここはボンじぃに回復に専念してもらう為に重点的に援護しましょうか」


 セイナやレイチェル達が苦戦している頃、遠視を使い弓矢で援護しているマイもその様子を確認していた。マイはセイナとレイチェルの入れ替えが無事成功したのを見て一安心していたが、まだ油断はできない状況だとすぐ気を引き締めなおしナギ達の援護を続けた。今度はセイナを回復させているボンじぃを重点的に援護するようだ。


 「……たくっ、本当に危なっかしいなあいつらは。最初見た時から思ってたことだがやっぱりあのレイチェルって奴は馬鹿だ。少しは考えて行動してほしいぜ。……とは言ってもあの化け物牛の攻撃を防ぎ切ってる辺り戦闘の腕はかなりのもんみたいだな。仮に俺があの場にいても正面からあいつの攻撃を受け切ることができるかどうか……」

 

 そしてマイの護衛に就いていた塵童だが、いくら待ってもこの近辺にモンスターが現れない為自身も遠視を使ってナギ達の戦闘の様子を見ていた。マイには周囲の警戒を怠るなと注意されていたのだが、少し退屈……っというよりナギ達の様子が気になって仕方がなかったのかもしれない。できれば自身もあの場で戦いたい思いもあったのだろう。


 「ちょっと塵童っ!。あんたには視界が狭くなるから遠視を使わないように言っておいたでしょっ!。ナギ達のことは私に任せて、あんたは周囲の警戒をしっかりしておきなさい。もし急にこっちにもモンスターが襲ってきたらどうす……っ!」

 「分かってる……、分かってるって。ただ俺も少しナギ達のことが心配になっちまったんだ。あの牛野郎のヤバさはここからでも十分伝わってくるからな。できれば俺もナギ達の援軍……ってどうした?。急に驚いた顔して」

 「あ、あれ……っ!」

 「あれ?。……あれって何だよ。別に何も見当たらないぞ」

 「違うっ!。上よ、上。いいから早く空を見てっ!」

 「上?。……っ!、なんだあいつは……」


 塵童の発言を聞いて再び遠視を使っていることに気付いたマイはもう一度注意を促そうとした。だが自らの遠視を解いて塵童の方を振り向くと、塵童の頭上に宙に浮いている何かを発見してしまった。そしてマイに促された塵童も自らの頭上を見上げその存在を確認するのだった。


 “バサァ……っ!”


 「ちっ……、どうやら飛行能力を持ったモンスターみたいだな。翼の形状からしてドラゴン系のモンスターか。だがその割には人型のような立ち姿をしているぜ。ジッとこっちの方を見下ろしてるが、俺達に戦闘を仕掛けるつもりなのか」


 塵童が見上げた先にいたのはドラゴンの姿をしたモンスター。だが通常のドラゴンとは違い首は短く、手足の付き方、指の数、間接の位置、そして立ち姿とそれら全てが人間と瓜二つだった。違うのは顔がドラゴンがであること。目は鋭く、頭の左右には2本の尖った角、口は大きく裂けて無数の鋭い歯が並んでいた。次に違うのは体。全身緑色の鱗で覆われており、その鱗は硬く何層に重ねられていて重装な鎧のようだった。そして背中には大きく広げられた分厚いコンクリートのような強靭な翼、腰の後ろには太い鉄柱のような先の尖った尾、これらは伝説上のドラゴンそのものだった。


 「分からないけど……、そのつもりもあるかもしれないわね……。それより気を付けて、塵童。あれはドラワイズ族っていうとても強力な種族のモンスターよ。見た目はドラゴンだけど人間のような立ち振る舞いをしてくるわ。強靭な上に知性も高い厄介なモンスターよ」

 「要するにドラゴン人間ってわけか……。恐竜人間ならよく他のゲームなんかでも見るが、ドラゴンってのは元々人に似た姿をしているのも多いからな。確立した種族として出てくるのは珍し……っ!。どうやらこっちに下りてくるみたいだぞ」

 

 マイが言うにはあれはドラワイズ族と呼ばれるモンスターらしい。ドラとはドラゴンの略、ワイズとは賢人という意味で、非常に知性の高いドラゴンということだろう。人間と同じような立ち姿がその名前の意味を物語っていた。そして余程の知性のあるモンスターでないとここまで塵童達に気付かれずに接近することも不可能だっただろう。ドラワイズ族のモンスターはゆっくりと翼を羽ばたかせながら塵童達の前へと舞い下りてきた。


 “バサァ……、ドタッ……”


 「……なるほど、これがこの世界に現れた12の大国のプレイヤーというやつか」

 「……っ!。こいつ人間の言葉を喋りやがったぞ」

 「ええ。だから言ったでしょ。まるで人間と同じような立ち振る舞いをするって」

 「なるほど……。ナギの連れてるあのデビにゃんって奴と同じ魔族型のモンスターってわけか。だが喋るなら話が早い。態々俺達の前に現れた理由を説明してもらおうか」


 塵童の前へと下りてきたドラワイズはなんと人間の言葉を喋り出した。どうやらデビにゃん達猫魔族と同じく魔族型のモンスターのようだ。だがデビにゃんと違い体はとても大きく、身長は恐らく2メートルを大きく超えていただろう。その大きな体の影で目の前にいる塵童を多い隠し、物凄い威圧感を放っていたが、塵童はまるで物怖じせず対等な態度で言葉を投げつけていった。


 「理由か……。まぁ、こうして人間如きと話せるのも魔族の特権だ。少し戯れるつもりで話してやるとするか」

 「てめぇ……、あんまり舐めた口聞いてるとそんな戯れ始める前にブッ飛ばしちまうぞ」

 「くっくっくっ……、まぁ、そう怒るな。我はドラワイズ・ソルジャー。そこの娘の言った通りドラワイズ族の戦士だ。この世界にプレイヤーと言う脆弱な人間達が12の馬鹿でかい国を作ったと聞いてな。……っと言ってもただの烏合の衆だろうが。それで我々天空に住まうドラワイズ族が様子を見に来てやったというわけだ」

 「要するに只の下っ端ってわけか。なら態々話を聞いてやる必要もないな。どうせ大した情報なんて持ってないだろう」

 「……人間風情が調子に乗りおって。ならば戯れなどやめて早々にこの場から消し去ってくれるわ」

 「ちょっと待ってっ!。今天空に住まうって言ったけど……、もしかして本当に天空に住む場所なんてあるのっ!」

 

 そのモンスターは自らをドラワイズ・ソルジャーと名乗った。どうやら同じドラワイズ族のモンスターでもナイトやメイジ等様々な分類に分かれているようだ。ソルジャーと言うからにはこのドラワイズはパワーの高い近接戦闘の得意な部類なのだろう。この世界に現れた12の国のプレイヤーを見に来たと言っていたが、マイはそれよりも天空から来たという言葉に着目していた。


 「ほうぉ……。そこに関心がいくということは少しは見識があるらしいな、小娘。どうやら貴様は我らと同じNPCのようだが……。いいだろう、そのよしみで少しばかり説明してやる。この世界にある浮遊石と呼ばれる特殊な鉱物のことは知っているな」

 「ええ……。確か物体を浮かせる力を持った不思議な鉱物……。その鉱物を大量に含んだ土地が大地を離れて天へと上り、天空に巨大な大陸ができたと聞いているわ。もしかしてその伝承が本当だったって言うのっ!」

 「その通りだ。そして我らはその大陸に文明を作り自らの種族を反映させてきた。貴様ら地上に住む人間共には考えられんほど高度な文明をな」

 「くっ……。まさかあの伝承が本当で、しかもドラワイズ族がすでに文明を築いていたなんて……。天に栄えし文明なんてきっと凄い技術や知識を得ているに違いないわ。特に魔法系技術の進歩は私達の文明の比じゃないでしょうね」


 なんとドラワイズ族とは天空に文明を持つモンスター達らしい。この世界の天空のどこかに文明が築けるほど巨大な大陸が浮いているということらしいが、果たしてどれ程の規模の文明なのだろうか。話を聞かされたマイは、天空にある文明ならば非常に高度な技術を所有しているのだろうと驚きを隠せずにいた。


 「ふんっ……。浮遊石やら天に栄える文明やら偉い大そうな御託を並べているが……、用は全部ゲームの中の設定だろ。それなら別に珍しくもなんともないぜ」

 「馬鹿っ!。確かにあんた等からしてみればゲームでありがちの設定かもしれないけど、天空文明なんて私達の世界からしてみれば伝説上の存在なんだからね。大体他のゲームでも天空に住むキャラクターやモンスターは強力に設定されてるはずでしょっ!」


 ドラワイズ族の言葉に驚嘆していたマイに対し、プレイヤーである塵童はまるで驚いた様子を見せなかった。塵童からしてみれば天に浮く大陸があろうがその大陸に文明があろうは所詮はゲームの中の設定にすぎないのかもしれない。実際大抵のRPG系のゲームではありがちの設定だ。だが天空にあるマップやダンジョンには強力なモンスターが出現することが多く、RPGにおいても終盤以降ストーリに配置されており貴重なアイテムや高性能な武器や手に入ることが多い。また威力の高い魔法や特技も習得できることもある。マイの言う通りドラワイズ族の文明は非常に高度で、今目の前にいるドラワイズ・ソルジャーも強力なステータスを有しているに違いない。いくら塵童といえど油断は大敵だろう。


 「そういうことだ、小僧。我らの文明は貴様ら12の国の文明を全ての点で上回っている。貴様らは同じプレイヤー同士の文明しか警戒していないようだが……、何も貴様らの文明を滅ぼす勢力はそれだけではないかもしれんぞ」

 「けっ……、どんなに凄い文明だろうが所詮はおまけの勢力だろうが。そんなに凄い技術や魔法を持ってるならちょうどいい。さっさと滅ぼして俺達ヴァルハラ国が全部頂いてやるぜ。お前、命だけは助けてやるからお前達の住んでる大陸がどこにいるか教えなっ!」

 「……何っ!」

 「ちょ、ちょっと塵童……。いくらなんでも挑発し過ぎよっ!。確かに態度は高圧的だけど、まだ戦闘になるって決まったわけじゃないのよっ!。モンスターが相手でも文明を持っている程の勢力なら十分交渉は可能な筈よ。あなた達の世界でもこういうシミュレーションゲームはなるべく敵を作らないようにするのが鉄則でしょう」

 

 マイはドラワイズ族の文明の話を聞き、少し怖気づいたように警戒を強めていた。なるべく穏便に相手から情報を引き出し、できることならばこの場で戦闘になることも避けたいようだった。自分達が今相手にしているアイアンメイル・バッファローのことを考えれば当然のことだろう。だが塵童はドラワイズ族の高圧的な態度が気に障ったのか凄い勢いで相手の敵を上げる発言を繰り返していた。マイが注意を促したのだが、流石にもう遅かったようだ……。

 

 「くっくっくっ……、もう遅い、子娘。全くプレイヤーというのはつくづく愚かな存在だな。その娘が言っている通り我は偵察に来ただけで貴様らを攻撃しろとの命令は受けておらん。だが敵対するのならば容赦なく殺せとも指示を受けている。今の発言で完全に我の攻撃対象になってしまったぞ。我らと友好を深めるのならば多くの技術や情報を提供してやったものを……」

 「ほら見なさいよっ!。もうあんた等の国ではナギがデビにゃんと同じ猫魔族を仲間に引き入れてたんでしょ。あんたはそのこと聞いてなかったのっ!。モンスターでも魔族型で文明や勢力を築いているならちゃんと交渉相手にもなるのよ。あんたのおかげで貴重な情報や天空にある珍しいアイテムが手に入らなくなっちゃったじゃないっ!」

 「うるせぇな……。俺はどうも初め見た時からこいつのことが気に食わないんだよ。それともお前こんな気色悪い爬虫類野郎と仲良くしたいのか」

 「そ、そういうわけじゃないわよっ!。だけど一つの文明と敵対することはそこら辺のモンスターを討伐することとわけが違うのよ。これこそブリュンヒルデさんの指示を仰ぐべき事柄でしょっ!」

 「心配しなくても下っ端の一人や二人倒したところで急に戦争になったりしねぇよ。そんなことしたら態々偵察を出してる意味ねぇしな。それよりここはこいつをボコボコにしてヴァルハラ国の脅威を思い知らせとこうぜ」


 どうやら塵童は偵察であるこのドラワイズ・ソルジャーを倒したところでドラワイズ族の文明そのものとは敵対しないと考えていたらしい。そしてその判断は正しかったのか、先程まで塵童のことを馬鹿にしていたドラワイズ・ソルジャーが急に感心した態度を示すのだった。

 

 「ほう……、馬鹿の割に少しは頭が切れるようだな。だが今言った言葉はそっくりそのまま貴様に返させてもらうぞ」

 「えっ……、ど、どういうことっ!。まさか塵童って結構まともなこと言ってたりする?」

 

 急なドラワイズ・ソルジャーの態度の変化にマイも驚かされていた。あまり事態は飲み込めていないようだが、とにかく塵童の言う通りならばこれでドラワイズ族と戦争になるわけでないと思い少し安心はしていた。だがこの場の状況は当然この場で終わるはずもなく、ドラワイズ・ソルジャーは更なる言葉を塵童達に投げかけてくるのだった。

 

 「確かに我は敵対するものは殺せとの命令を受けてはいた。だが我々の本国もこの世界の情報をあまり多くは握ってはおらず、あまり事を荒げるようなことは望んではおらんはずだ。我も本国の意に沿ぐいてなるべく相手の血を流すような事態は避けようと考えていたのだが……、貴様の我らを侮辱する数々の暴言をもう許すことはできん。今お前が言った通り貴様らのような下っ端の兵士を殺したところで特に事を荒らげることもなかろう。望み通りこの場で貴様らを処刑してやる……」


 “ガチャ……”

 挿絵(By みてみん)


 塵童の意見を肯定してドラワイズ・ソルジャーだったが、当然このままで終わるはずはなかった。いよいよ戦闘態勢へと入ったのか、両手に柄のかなり長い斧、俗に言うバルディッシュのようなものを出現させ、武器を構えた。バルディッシュとはポールウェポンと呼ばれる長い柄の先端に石や鉄で出来た攻撃用の部品を備えた武器の一種である。このゲームではハルバードやグレイプ等と同じく斧槍ふそうに分類されているようだ。ドラワイズ・ソルジャーの取り出したバルディッシュは刃の部分が非常に大きく、重量感もありかなりの破壊力を備えていそうだった。そのバルディッシュの姿を見た塵童は、リーチの違いに苦戦を強いられることを予測しながら相手に対抗するように臨戦態勢に入っていった。


 「ふんっ……、とうとう本性を現しやがったか。初めからそのつもりだったくせに厭らしい演技しやがって……。大方俺達の足元を見て不利な交渉を押し付けるつもりだったんだろ」

 「ふふっ……、本当に鋭い男だ。あの牛との戦闘を優先してこちらに媚びてくるものと思っていたが……、どうやらそう一筋縄ではいかんようだな。少しはプレイヤー共に対する見方を改めるか。……さて、それでは次に戦闘の実力を見せて貰うとしよう」


 どうやらドラワイズ・ソルジャーはアイアンメイル・バッファローと戦闘中のナギ達に手を出さないことでヴァルハラ国に恩を売り、これから起こるかもしれない交渉を有利に進めようとしていたらしい。だが塵童にはその考えを見抜かれてしまっていたようだ。


 「……来るか。威勢よく挑発したはいいがあのリーチの長い武器は厄介だな。少しは気を引き締めて掛かるか……」

 「私も一緒に戦うわ、塵童。流石にアイアンメイル・バッファローとは比べ物にならないけど、ドラワイズ族の平均的なステータスは通常モンスターの中では群を抜いているわ。あなた一人で相手をするのは無理よっ!」

 「何言ってやがるっ!。俺の役目はお前の護衛だ。いいからナギ達の援護に集中してな」

 「で、でも……」

 「大丈夫ですよ、マイ姉さんっ!。塵童の兄貴の援護なら俺達がやります。さっきリスポーンしてきた奴も誘ったんでざっと10人はいます。お頭はこいつの姿を見てすぐどこかへ隠れちゃうましたがね」

 「あ、あなた達……」

 「そういうことだ。分かったらさっさとナギ達の援護を再開しろっ!」

 「くっ……、分かったわよ。けど危なくなったら私はこっちの援護に入るからね。あんたがやられたら弓術士の私はほぼ確実にこいつにやられちゃうってこと忘れないでよっ!」

 「ああ、了解だ」


 こうして塵童はマイの援護を断り下っ端の盗賊達と共にドラワイズ・ソルジャーの相手をすることになった。数が多いとはいえ下っ端の盗賊達のステータスではかなり心もとない。本当はマイの援護も欲しかった塵童だが、アイアンメイル・バッファローの相手をしているナギ達のことを考えると甘えたことを言う余裕はなかった。果たして塵童はドラワイズ・ソルジャーを倒すことができるのだろうか……。

 


 

 

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