finding of a nation 41話
“ガラガラッ……”
「それじゃあ先に入ってるね〜、ナギ兄ちゃ〜ん」
「あっ、ちょっと待ってよ〜、コルン〜。……ってもう中に入っちゃったや」
「僕達も早く入ってみるにゃ。きっと中には凄いお宝があるに違いないにゃ」
父親の倉庫の前へと辿り着いたコルンはナギ達を先に中へと入って行った。扉は横開きになっているようで、倉庫の扉ということもあって大きさと厚み、そして重量もあったため体の小さなコルンは右側の扉だけを開くのがやっとだった。コルンの後に倉庫へと到着したナギ達は、もう片方の扉も開き、コルンに続いて中へと入って行った。古びているせいか木が軋む音がギシギシと鳴り響き、まるで今にも崩れ落ちそうな建物だった。
“ガラガラッ……”
「よしっ……、これでちゃんと日差しが入るぞ……ってうわっ!。な、なんだこれ……。中はクモの巣だらけでネズミやゴキブリも一杯……ってゴホッ、ゴホッ!。おまけに埃が充満してて咳が止まんないよ」
「我慢するにゃ、ナギ。お宝はこういう誰も近寄りたくないようなところに眠っているものにゃ。きっとコルンが渡したい物はかなり年代もののお宝にゃ。古代のアンティークとかじゃないかにゃ」
「本当〜、でも周りには鍬とか鎌とか農業に使いそうな道具しか見当たらないよ。実はただの農具置き場なんじゃないのかな〜。それよりコルンはどこにいるんだろう……」
コルンに案内された倉庫の中は埃とクモの巣で一杯だった。ゴキブリやネズミなども住み着いており、もう長い間使っていない様子だ。かなり大きな倉庫のようで、扉を開ききっているというのに日が奥まで届いていなかった。天井までの高さもかなりあり、2階に登るための梯子も設置されていた。ナギ達が室内を見渡すとそこには鍬や鎌、肥料の入った袋、藁などが多数置いてあった。どうやら農具置き場のようだが、この集落では特に農業が行われている様子はない。恐らく放牧や狩りを中心に生活していたため使う機会がなかったのだろう。ナギ達はコルンを探して奥へと進んでいった。
「お〜い〜、コルン〜、どこにいるの〜」
「ここだよ〜、ナギ兄ちゃ〜ん。渡したい物も見つかったから早く来て〜」
「う〜ん……。って言われても薄暗くて辺りの様子がよく分からないな。もっと奥の方にいるのかな」
「心配しなくても猫の僕には暗視能力があるから中の様子がハッキリ見えてるにゃ。コルンは倉庫の一番奥にいるにゃ。僕の肩を持って付いてくるにゃ、ナギ。足元には気を付けるにゃよ」
ナギはデビにゃんに先導されながら薄暗い闇の中を進んでいった。猫の特性を受け継いでいるデビにゃんには暗視能力もあるようだ。夜間での戦闘などでも存分に役立ってくれる能力だろう。倉庫の奥へと近づくとナギでもコルンの姿を確認できた。暗闇に目が慣れたのもあるのだろう。コルンは倉庫の一番奥の壁に設置されている農具立ての前にいた。っと言ってもその農具立てには一つの鍬のような農具が立て掛けられているだけだったが……。
「ふぅ……、やっと見つけたよ、コルン。……渡したい物って、もしかしてこの鍬のこと?」
「そうだよっ!。なんか凄い厳かな形をしてて鍬って言うより武器みたいでしょ。僕が生まれた時から父さんがここに保管してたみたいなんだけど、きっとプレイヤーが持つことで凄い力を発揮するアイテムだと思うんだ」
「……って言われてもこう暗くちゃどんな形をしているのかよく分からないよ。確かに少し変わった形をした鍬に見えるけど、シルエットだけじゃちょっと凄さは伝わって来ないな……」
「にゃっ……、でも猫の僕にはハッキリ見えてるにゃ、ナギっ!。コルンの言う通りこれは鍬じゃなくて絶対武器にゃっ!。めちゃくちゃ格好いい形をしてるから性能もかなり凄いはずにゃ。早く手に取ってナギの端末パネルで確認してみるにゃ」
「う、うん……。それじゃあちょっと取ってみるね、コルン」
「うんっ!。元々ナギ兄ちゃんにあげるつもりで連れてきたんだから遠慮しなくていいよ」
「よしっ……、じゃあちょっと失礼しますっと。……ってええっ!」
コルンの了承を得るとナギは立て掛けられている鍬と思われるものを手に取った。デビにゃんが言うにはとても鍬とは思えない形状をしていて、まるで武器のようらしいが、暗がりであるためナギにはどんな形をしているのか良く分からなかった。だがナギが手に取った瞬間、その鍬に不思議な現象が起こり、ナギはすぐにその鍬の姿を目にすることになるのだった。
「な、なんだ手に取った瞬間急に鍬が光出したぞっ!。……こ、これはっ!」
「にゃっ!。きっと初めてプレイヤーが手に取ったことで起こる現象にゃ。目を凝らしてその勇ましい姿を見てみるにゃ、ナギ」
「う、うおぉぉぉぉぉぉっ!」
なんとナギが手に取った瞬間突然その鍬が輝き始めたのだった。その光は暗がりであった倉庫の中を照らし、とうとうコルンから渡されたアイテムの全貌が明らかになるのだった。
「す、凄いよ、これっ!。本当にこれが鍬なのっ!。綺麗な紫色に輝いてるし宝石みたいなもの付いてる。刃の部分は凄く尖ってて、後ろに向かって鹿野の角みたいなのが付いてる。柄は渦巻くように色んな装飾が施されているいるし、これじゃあまるで武器そのものだよっ!」
「やっぱりナギ兄ちゃんもそう思うっ!。父さんはこれについてよく教えてくれなかったけど絶対武器だよね。僕が持ってもステータスに何の変化も起きないしただの鍬としか使いようがなかったんだけど、ナギ兄ちゃんならちゃんと使いこなせるんじゃないのかな」
「にゃっ!、早速端末パネルで性能を確認してみるにゃ、ナギっ!」
「う、うん……、分かったよ、デビにゃん」
コルンから渡された鍬のようなものを見てナギは驚愕していた。その鍬の刃先はとても鋭利に尖っていて、とても農具とは思えないほど重厚なものだった。刃の一部を覆う部分と握りとなる柄の部分にも重層な装飾が施されていた。全体的に紫色で染められており、どことなく魔術の施されている武器のようだった。見た目通り魔法攻撃力にも補正が掛かるのだろうか。デビにゃんに言われナギは端末パネルを開きこの鍬がどのようなアイテムなのか確認した。
「えーっと……、アイテム名はアース・カルティベイション。やっぱりコルンやデビにゃんの言う通り武器みたいだよ」
「性能はっ!。武器としての性能はどうなのっ!。ナギ兄ちゃんの役に立ちそう?」
「う〜ん……、僕は魔物使いで装備できる武器は極端に少ないからな〜。もしかしたら装備できないかもしれないけど……。ちょっと見てみるから待ってて」
「うんっ!」
「(にゃっ……、これでもし装備できなかったら僕やナギ達よりもコルンは凄いショックを受けちゃうことになるにゃ。こうなったら性能は二の次でいいからなんとかナギでも装備できるよう祈るしかないにゃ)」
アイテム名とカテゴリを確認したところやはり武器のようだった。コルンは自分が渡したアイテムが一体どのような性能なのか、果たしてナギの役に立つのどうか、期待を込めた眼差しでナギの方を見つめていた。デビにゃんは折角のアイテムをナギが装備できるかどうか心配していた。そしてナギが端末パネルを確認するとアース・カルティベイションの驚くべき性能が明らかになるのだった……。
「何々……、武器のランクはCランクっ!、セイナさんのショールブレイドや、僕がレイチェルに作ってあげたヴァイオレット・ウィンドと一緒だね。序盤だとかなり強いんじゃないかな。それで……、肝心の装備可能な職業はっと……ってええっ!」
「ど、どうしたのっ!。まさか装備できなかったの……」
「(にゃっ……、やっぱり僕の不安が的中しちゃったにゃ。まぁ、ナギは魔物使いで元々前線で戦うキャラクターじゃないにゃ。こうなったらなんとか僕がこの武器を装備してコルンの気を取り戻……)」
「凄いよコルンっ!。なんとこの武器には職業もレベルによる制限が全くないんだって」
「にゃあっ!」
「つまりはこのゲームのプレイヤーなら誰でも装備できるってことだよっ!。これなら魔物使いの僕でも装備できるね」
「本当っ!、良かったあっ!」
「そ、そんな武器があったのにゃ……」
なんとコルンから渡されて武器には装備制限がなく、職業レベルに関係なく全てのプレイヤーが装備できるというものだった。この武器の存在は知識の豊富なデビにゃんも知らなかったようで、豪く驚かされていた。リアやハールンでも知りえないものなのではないだろうか。そしてこれがその武器の性能の一覧だ。
※アース・カルティベイションの性能
武器名 アース・カルティベイション 武器ランクC 品質80%
物理攻撃力 112 対応ステータス STR30% DEX25% MND50% CON30%
魔法攻撃力 53 対応ステータス MND50% MAG50%
属性変換率 土(0、50〜80%)
重量 1.0キログラム
備考 装備制限なし 封印技あり
「う〜ん……、やっぱり装備制限がない分性能は控えめだね。セイナさんやレイチェルの武器と比べると同じCランクなのに随分攻撃力が見劣りするよ。対応ステータスの%の合計も少し少ないしね」
「えっ……、それじゃあやっぱりナギ兄ちゃんの役には立ちそうにないの……」
「そんなことないよっ!。この性能で装備制限がないんだからとんでもない強武器に違いないよ。この武器を装備すれば魔物使い以外のサポート系の職でも前衛で戦えるようになるよ。魔法攻撃力もそこそこあるから魔術師や治癒術師の魔法も十分威力や回復量も保持できるしね。馬子さんやボンじぃとも相性がいいんじゃないかな」
「そうなの?。でも僕はできればナギ兄ちゃんに使ってほしいな。もうそれはナギ兄ちゃんの物だから勿論誰にあげても構わないけどね」
「流石にこんな強い武器他の人に譲ったりしないよ。早速これから行く討伐で使わせても使わせてもらおうかな。コルンに貰ったこの武器で絶対モンスターをやっつけてくるから期待して待っててね」
「うんっ!」
ナギがコルンから渡されたアイテムはアース・カルティベイションと言い、魔術的な装飾の施された鍬の形をした武器であった。アースとは大地、カルティベイションとは耕作のことで、大地を耕す鍬ということなのだろうか。元々鍬は土を耕すためのものなので、そのまんまの意味ではあるのだが、土を大地と言い換えるだけで豪く厳かに感じてしまう。この武器の最大の特徴は職業やレベルによる装備制限がないことで、全てのプレイヤーが初期状態から装備できるというところである。その分攻撃力の性能や、それに対応するステータスの%は低く設定されていた。特に攻撃力に関してはCランクであるにも関わらずEランクの武器と同等の数値しかなかった。だが他にも優れた点はあり、かなり高い割合の土属性ダメージ変換率が付与されていた。しかもレイチェルのヴァイオレット・ウィンドと同じく変換率を0%にすることもできるようで、戦闘における応変性も高そうだった。そしてこのアース・カルティベイションには更に特筆すべき効果が設定されていた。
「ナギ……。確かにこの性能で装備制限がないってことも凄いと思うんだけど……、それより僕はその備考の欄に書いてある封印技って言うのが気になっているのにゃ。それってもしかしてレイチェルのヴァイオレット・ストームやセイナのサンダー・オブシディアンブレードみたいにその武器に凄い特技や魔法が封じられているってことじゃないのかにゃ」
「えっ……、あっ!、本当だっ!。デビにゃんの言う通りこのアイテムを使えば一回限りだけど特別な特技が覚えられるみたいだ。一応自分以外にも使えるみたいだけど、僕が覚えちゃってもいいかな……、デビにゃん?」
「勿論にゃっ!。仲間モンスターである僕よりまずは主人であるナギの装備を優先するのは当然のことにゃ。ナギが死んじゃったら僕は強制的にヴァルハラ国の本城に帰還させられてしまうにゃ。そしてナギのいない間は城の外には出れずステータスも半分以下になっちゃうのにゃ。それに僕にはネコノテヤリもあるし、槍術士としての補正や種族して習得できる特技や魔法もあるにゃ。今のままでもある程度は戦闘はこなせるからそれよりナギの装備を整えて二人で戦えるようにした方が良いにゃ」
「ありがとう、デビにゃんっ!。それじゃあ早速覚えさせてもらうね」
デビにゃんの了承を得るとナギは端末パネルを操作し、アース・カルティベイションに封印されている特技を自身に習得させた。
セイナやレイチェルと同じく一つの武器に付き一人のキャラクターしか習得出来ないようだ。流石のナギも他のメンバーには了承を取る必要はないと判断したようだ。
「それで……、一体どんな技なのっ!、ナギ兄ちゃんっ!」
「えーっと、どれどれ……。名前はアースフロー・ビローイング。大波のような土流を敵に向かって放つ技だって。魔法じゃなくて特技みたいだね」
「大波のような土流っ!。陸の上なのに波を起こせるなんて凄いね。その技で敵のモンスターなんて皆飲み込んじゃってよ」
「まだ使いこなせるかどうか分からないけどね。セイナさんやレイチェルは上手く使いこなしてたみたいだけど、それでも大量の行動ポイントを消費してしまってるみたいだったからなぁ。僕だったら技が暴発してその反動で行動ポイントを全て失っちゃうかもしれないよ」
「心配しなくてもナギならきっと使いこなせるにゃ。初めから弱気だと技を放つ時に力や気持ちが入らなくて余計失敗しちゃうのにゃ。やる時はとにかく全力でやるにゃ。パワー不足が一番技が暴発する原因なのにゃ」
「な、なるほど……。今思うとセイナさんもレイチェルも思い切りがいいというか心に迷いがないもんね。僕も見習って中途半端な性格を直さないと……」
アース・カルティベイションに封印されていたのはアースフロー・ビローイングという特技のようだ。アースフローとは土流、ビローイングとは大波を意味する。この技の発動地点は陸地に限られ、自身の正面一メートル以内の地点に限定される。その地点から突如大量の土流が発生し、まるで津波のように正面の敵を飲み込んでいく技である。属性変換率は土属性が100%に固定されているようで、特技ではあるが自身の裁量で他の属性変化率を付与することはできない。
「それにしてもこんな凄い武器をありがとう、コルン。でもどうして僕にくれたの。集落を救ったのなら他のメンバーだって一緒だし、コルンを助けたのだってマイさんだろ。まだ固有NPC兵士になっていないとはいえマイさんだってもうヴァルハラ国の兵士なんだし、別にあげても大丈夫だとは思うんだけど……」
「マイ姉ちゃんは弓以外の武器は使わないよ。それにこのアイテムを渡すほどの好印象を受けたのはナギ兄ちゃんだけだしね。マイ姉ちゃんの前に立ちはだかった時のナギ兄ちゃん、凄く格好良かったよ。皆はブリュンヒルデさんのおかげでマイ姉ちゃんを説得できたと思ってるみたいだけど、僕はナギ兄ちゃんの掛けた言葉の影響の方が強いように思えるんだ。僕が途中でヴァルハラ国側を支持するようになったのもナギ兄ちゃんのおかげだしね」
「そ、そうかな……。どう考えてもブリュンヒルデさんの影響の方が大きいように思えるけど……。けどコルンにそんな風に思ってもらえてたのは凄く嬉しいよ。これからもコルンとヴァルハラ国の為に頑張って行くからよろしくねっ!」
「うんっ!。僕も大きくなったら固有NPC兵士になってナギ兄ちゃんやマイ姉ちゃん達と一緒に戦えるようになって見せるよ。その時はナギ兄ちゃんより活躍しちゃっても落ち込まないでね」
「にゃっ!。これはまた頼もしい戦力が生まれてきそうにゃっ!。こうやって色んな人材を発掘することによってヴァルハラ国はどんどん強くなっていくのにゃっ!」
こうしてからナギは魔物使いでも装備できる高性能武器、アース・カルティベイションを手に入れた。魔物使いは装備できる武器が極端に少なく、これまで素手の状態で戦ってきたナギだったが、この武器を入手したおかげで攻撃力が飛躍的にアップした。セイナやナミ、レイチェルまでには及ばないものの、攻撃力の数値は馬子や塵童を上回っていた。これならばナギ自身も十分敵モンスターとの戦闘がこなせるだろう。これから向かう討伐においてもスムーズに雑魚モンスターの処理をこなせるようになり、よりセイナのサポートができるようになる。ナギは自分のことを慕ってこのような高性能な武器をくれたコルンに感激していた。そしてこれから向かうモンスターの討伐を必ずや成し遂げることを誓い、意気揚々とリア達との集合場所へと向かって行った。
パーティを解散してからちょうど一時間程が経過し、集落の入り口には討伐へと向かうメンバーが続々と集まっていた。ヴァルハラ城の商業区で買い物をした時は違い、誰も集合時間には遅れていなかった。リアの厳格な性格が影響しているのだろう。そして当然そこにはナギ達だけでなく先程仲間になったばかりのマイと盗賊達の姿もあった。大量の盗賊の下っ端達のおかげで集落の入り口は人で埋め尽くされてしまっていた。
「よしっ……、今回は皆集合時間を守って集まったみたいね。それじゃあ出発前に皆の持ち物とステータスを確認しましょうか。まぁ、ここに来るまでにそんなアイテムを使った記憶はないからストックは大丈夫でしょうけど、不安な人は今の内に集落のお店で買い足しておいてね。それより行動ポイントの残量の方が心配よ。さっきの戦いは盗賊達が弱かったからほとんど消費してないでしょうけど、昨日の戦いでは皆数千単位でポイントを消費しちゃったからね。これは凄く重要な要素だから一人一人きちんと確認しておきましょう」
討伐へと出発する前にリアは皆の持ち物とステータスを確認していた。アイテムに付いてはここに来るまでにあまり消費しておらず、特に買い足す必要はないようだった。馬子はまたいくつかアイテムを買い足してようだが……。リアはそれよりも皆の行動ポイントの残量が気になるらしく一人一人直接確認していった。皆の現在の行動ポイントの残量は以下の通りだ。
現在の行動ポイント値/最大行動ポイント値
ナギ 8403/12724
ナミ 9024/13245
セイナ 7367/13765
レイチェル 5424/13598
馬子 7835/12709
アイナ 8023/12678
ボンじぃ 8934/12465
リア 11204/17840
塵童 10008/13194
デビにゃん 7234/12234
マイ 7756/8654
盗賊の頭 2568/2890
「うわぁ……、なんだかんだで皆結構減ってるね。昨日一晩睡眠取ったおかげで少しは回復してるみたいだけど、やっぱり戦闘の要でなるセイナさんやレイチェル、それにリアの消費が激しいね。ナミは案外減ってないみたいだけど、他の3人みたいに威力の高い大技を使ってないからなのかな」
「ナミは力のコントロールが上手いからね。がむしゃらに敵に突っ込んで行ってるみたいだけど戦い方は凄く繊細ね。体に余分な力が入っていないから行動ポイントの消費も抑えられているのよ」
「な、なるほど……。(そう言えばデビにゃんを仲間にする時も上手くHPをギリギリまで削ってたっけ。空中に蹴り上げてから落ちてくる場所も予測通りだったみたいだし、やっぱりセイナさんに匹敵する戦闘センスを持ってるみたいだね)」
「別にそんなに凄いことじゃないわよ。それに行動ポイントが減ってないってことはそれだけ手を抜いてるってことじゃない。セイナはウィザー・ドラゴンラプターを一人で相手にしてたし、リア、それに馬子とデビにゃんまでライノレックスを相手にしてたでしょ。私は雑魚のドラゴンラプターを片付けてただし、前衛としては全然働いてないもの。皆より多く残ってるのは当然よ。あれ……、でもその割にはリアもかなり行動ポイントが残ってるじゃない。やっぱりレベルが高い分行動ポイントの最大値も私達多いからかしら」
やはり昨日の戦いでナギ達はかなりの行動ポイントを消費していたようだ。特にヴァイオレット・ストームを2回も放ったレイチェルの消費が激しく、すでに6000ポイントを切っていた。サンダー・オブシディアンブレードを放ち、更にはウィザー・ドラゴンラプターを一人で相手にしていたセイナも消耗が激しかった。だがそんな中同じくライノレックスという強敵を相手にし、セイナやレイチェル以上の大技であるヴォルケニック・ラヴァ・コラムを放ったはずの行動ポイントは、ナギ達の中で一番残量が多く10000ポイント以上も残っていた。
「そうよ。レベルやステータスが上昇すれば当然行動ポイントの最大値も上がるわ。自動回復の割合も上がるから行動範囲や時間も増えていくの。でもゲームが進むにつれて敵はより強くなっていくし、高威力な分行動ポイントの消費も大きい技を多用するようになるでしょうから、ゲームをプレイする時間って意味ではあんまり変わらないかもね」
「ふ〜ん……、だったら私も早くレベルを上げないとな。この状態でヴァイオレット・ストームなんて放ってたら一日で行動ポイントが尽きちまうぜ。ところで……、リアの行動ポイントの最大値が17000以上もあるのに、マイの行動ポイントの数値が豪く少なくねぇか。二人のレベルは同じぐらいのはずだろ」
確かにレイチェルの言う通りマイの行動ポイントの最大値はリアの半分程度しかなかった。リアと同じく総合レベルは300を超え、ステータスもかなり高いはずなのにそのポイントはまだゲームを始めたばかりのナギ達にすら及んでいなかった。一体何故だろうか。
「それはまだ固有NPC兵士に登録できてないからよ。私達NPCは固有NPC兵士にならないとプレイヤー達に比べてステータスに大きく減少補正が掛かってしまうの。レベルが同じなら大体半分程度にはなってしまうわね。しかもNPCのレベルは自身の元々の設定と自国の内政値によって決まるからマイは今の状態じゃあどんなに敵を倒してもレベルが上がらないわ」
「えっ……、それじゃあこれから行く討伐で得られるかもしれない経験値も全く意味がないってことっ!。ゲームからリタイアするリスクまで背負ってるって言うのに……。やっぱり先に城へ引き返した方がいいんじゃないの」
「大丈夫よ。確かに今のままじゃあレベルは上がらないけど、入手した経験値はちゃんと管理プログラムによって保存されてるから固有NPC兵士になった時に全て加算されるようになってるわ。勿論功績ポイントもね。ステータスは低いままだけど、レベルは元々のレベルは十分に高く設定されてるし足手纏いにはならないわ」
「そんな……、足手纏いだなんてちっとも思ってないわよ。そういうことなら頼りさせてもらうわね、マイ」
「ええ、でも私だけじゃなくてこの盗賊達にも少しは期待してあげたら」
マイのステータスがリアに比べて半分以上劣っているのはやはり固有NPC兵士に登録できていないことが原因らしい。マイの実力ならば志願すれば一発で合格だろうが、城に戻るまでは通常のNPCと同じステータス補正で戦うことになるだろう。それでも総合レベルはリアと同じく300以上、ステータスもプレイヤーのものに対して50%もの減少補正を受けているがその数値はナギ達よりかなり高かった。ナミもマイの存在を心強く感じていたが、そんな中突如マイが盗賊達に対して話題を振ってきた。集落を占領され仲間まで殺されたことに強い怒りを感じていたはずだが、もう蟠りは残っていないのだろうか。
「なんだ、オレンジ髪の姉ちゃん。姉ちゃんの方から俺達に話題を振ってくれるなんて思ってもみなかったぜ。もうさっきまでのことは怒ってねぇのかい?」
「そんなわけないでしょ。集落を襲ったこともコルンの父親を殺したことも許せないわ。だけどあなた達もヴァルハラ国の兵士になって、こうして一緒に討伐に出掛ける以上変な蟠りを残したままだと戦いづらいでしょ。ナギ達に迷惑を掛けるわけにもいかないし、あんた達の方からは私に話掛けにくいでしょうからね」
「違いねぇ。気を遣わせてすまねぇな、姉ちゃん。ヴァルハラ国に参加した途端すぐに私情を捨て去れるとは……、あんた、良い兵士になるに違いねぇな」
どうやらマイはこれから向かう討伐のことを考え、なるべく盗賊達とも打ち解けておこうとしたらしい。まだ完全に蟠りが解けたとは言い難いが、この様子では十分な連携を取ることが出来るだろう。少なくとも戦闘中に仲間割れを起こすことはない。
「それで、肝心のあんたらのステータスはどうなんけぇ。行動をポイントを見る限りとてつもなくステータスも低そうなんじゃけど……、本当に頼りになるん?」
「馬鹿っ!。その姉さんと姉ちゃんみたいなステータスを持ったNPCなんて滅多にいねぇよ。大概の奴はプレイヤーよりステータスどころかレベルも負けてる奴が多いからな。俺達もやっとレベル10ってところだ。これでもヴァルハラ国の兵士になって少しは上昇したんだぜ」
「だからリアって呼べって言ってるでしょっ!。姉さんと姉ちゃんなんて態々分けて言ってんじゃないわよっ!。……まぁ、いいわ。確かにこいつらのステータスは私達に比べて遥かに劣るけど、代わりに凄く貴重な能力を持っているわ」
「リスポーン・ホストの能力ですね。部下の盗賊達が短い間隔で何度でも蘇ることができるって言う……」
行動ポイントの数値からも見て取れる通り、リアやマイに比べてこの盗賊達のレベルやステータスはかなり低いようだ。現在のレベルは10で、ステータスもナギ達プレイヤーに比べると五分の一程度しかない。っと言うかこれぐらいが通常のNPCのステータスである。だがリアはこの盗賊達の能力を少しは買っているようだった。その理由はやはりアイナの言う通り部下の盗賊達を無条件で瞬時にリスポーンさせる、リスポーン・ホストの能力があるからだろう。
「ああ、確かにもの凄い勢いで向かって来てたな。まるで何千人って数の盗賊がいるんじゃないかって思えるくらいの間隔だったぜ。ただめちゃくちゃ弱かったら全部返り討ちにしてやったけどな」
「なんじゃ。それでは全く頼りにならんではないか。そんなに弱いと言われるとわしも回復する気がなくなってくるのぅ……」
「そうね。確かに死んでもすぐに蘇るんだから回復させる必要なんてないわ。HPも低いから回復魔法なんて掛ける間もなく力尽きてしまうでしょうしね。それでも50人もの戦力がほぼ永続的に維持できる能力は貴重よ。相手も大量の雑魚モンスターを周囲に出現させてるみたいだし、そいつらを相手にして貰いましょう。なるべく私達が敵のボスに集中できるようにね」
「ちぇっ、やっぱり俺達はただの囮かよ。まぁ、それくらいしか役に立ちようもないのは百も承知だけどよ。せめてお頭くらいにはいい思いさせてやりたいよな。お頭が固有NPC兵士になれるよう一丁頑張ろうぜ、皆っ!」
「おおぉぉぉっ!」
能力は低いながらも盗賊達は少しでも多く功績を得ようと息巻いていた。この様子ではもうヴァルハラ国を裏切る心配はなさそうだ。ナギ達は意気揚々と士気を高めている盗賊達を見て少しばかりの期待を抱き始めていた。プレイヤーであるナギ達には及ばないだろうが、討伐においてそれなりの活躍を見せてくれるのではないだろうか。
「相変わらず勢いだけはいいわね、あんた達。さっきだって何回やっつけても懲りずに向かって来てたし。その調子で雑魚モンスターの気を引き付けてちょうだいね。私も敵のボスがあんた達に向かわないよう全力で攻撃するから」
「頼むぜ、ポニーテールの姉ちゃん。まぁ、頭である俺は一切戦闘に参加するつもりはねぇけどな。部下達のことをよろしく頼むぜ」
「おいおい……、自分達の部下だってのに他人任せかよ。まぁ、リスポーン・ホストってやつの能力的にそれが一番効率がいいんだろうが……ってうん?。誰かこっちに向かって来てるぜ。あれはさっき盗賊達のことでお前達と揉めてた子供じゃないのか」
「えっ……あっ、本当っ!。あれはコルンだわ。それに酋長も。態々見送りに来てくれたのかしら」
ナギ達がそれぞれの能力について話し合っていると、集落の居住区の方から何人かの人が近づいてくるのに塵童が気付いた。塵童に言われマイもそちらの方を振り向くと、そこにはコルンと酋長の姿があった。他にもナギ達に助けられた住民達が皆見送りに来ていたのであった。
「ナギ兄ちゃ〜ん、マイ姉ちゃ〜ん、デビにゃ〜ん、皆で見送りに来たよ〜」
「コルンっ!。態々見送りに来てくれたのっ!。それに他の住民達まで……。これってNPC達の間で僕達の評判がかなり上がってるってことなんじゃないの」
「その通りにゃ、ナギ。きっとコルンがさっきあのアイテムをくれたのもその影響にゃ。それだけじゃなくてヴァルハラ国自体の評判も上がっているはずだから自ら移住してくるNPCもいるはずにゃ。もしかしたらここの住民達みたいに集団で移住を申請してくる集落もあるかもしれないにゃ。交易によって流通するアイテムも優先的に質のいいものを回してくれるはずにゃ」
住民達が見送りに来たことでナギ達はNPC達の間で自分達の評判が上がっていることを実感していた。ナギに至っては先程コルンからかなり高性能な武器を貰っている。評判システムにより例えインターネットやメディアがないこの世界でもナギ達の行いの評価は全てのNPCに伝搬する。当然NPCの評価が上がればゲームを有利に進めることができる。ナギ達は順調な滑り出しができていると感じ満足気な表情を浮かべていた。
「酋長っ!。酋長も態々見送りに来てくれたんですね。さっきから身勝手な行動ばかりしているというのに申し訳ありません」
「よいよい。わしらとしても同じ集落出身のお主が活躍してくれればヴァルハラ国でも鼻を高くできるというものじゃ。ただ……、決して無理はするではないぞ。お主がこの世界からいなくなったとなればこの集落の者達に大きな精神的ダメージを与える。ヴァルハラ国でも思うように仕事が出来ず皆の足手纏いになってしまうかもしれん。わしらこの集落の住民にとってお主の存在は大きな影響を与えておるのじゃ。いずれはヴァルハラ国の住民達の希望を背負って立つ兵士にならねばならん。先程のブリュンヒルデさんの言葉……。くれぐれもその胸から忘れんようにな」
「はいっ!」
マイは酋長の激励と忠告と素直に聞き入れていた。ブリュンヒルデから掛けられた言葉も改めて思い出し、自らに掛けられている期待に応えるべき気を入れ直していた。
“キョロ……、キョロキョロ……”
「うん?、あれは……」
コルンと酋長が前面に出ている中、その後ろの方で女性の住民が一人誰かを探しているようで目をキョロキョロさせていた。シルフィーがその女性に見覚えがあったようで、存在に気付くや否や自分から話掛けてに行った。
「お〜い〜、もしかして私のこと探してるんじゃないの〜」
「あっ、シルフィーっ!、どこに行くんですっ!」
“ダダダダダダッ……”
「あら……、そう言えばシルフィーっていつまでこの世界に存在していられるのかしら。召喚には当然制限時間と次回以降の召喚へのペナルティがあるはずだわ。もし今この世界から消えちゃったらもう今日一日は召喚できないかも……」
シルフィーがその女性の元へと向かって行くと、召喚者であるアイナもつられて後を追って行ってしまった。その様子を見ていたリアも何かを思い出したようにゆっくりと後を追って行った。一体何を思い出したのだろうか。
「あっ!、トイレにいた可愛い妖精さん。さっきは助けてくれてありがとう。慌ただしくてお礼を言う暇もなかったから改めてお礼を言いに来たの。後ろから来てるのはあなたを読んだ召喚士さん?」
“ダダダダダダッ……”
「シルフィ〜、急にどこかへ飛んでちゃって一体どうしたんですか〜……ってあれ?。この女性の住民さんはシルフィーのお知り合いですか」
「ええ、紹介するわ。この子が私のマスターであるアイナよ。この子も私に負けないくらい可愛いでしょ」
「ちょっとシルフィーっ!。自分の紹介ぐらい自分でしますっ!。それに私は自分のことを可愛いだなんて思ってませんっ!」
キョロキョロと辺りを見回していた女性が差がしていたのはシルフィーだったようだ。どうやら盗賊達から集落を奪還する時にシルフィーがトイレから救出した女性らしい。
「ふふっ、シルフィーのご主人は随分と謙虚な方みたいね。でも可愛いって言うのはお世辞じゃないからそんなに謙遜しなくてもいいわよ。それよりさっきは盗賊達から集落を奪還してくれてありがとう。私も危ないところをこのシルフィーに助けられたのよ。召喚士のあなたが呼び出してくれたおかげね。改めてお礼を言わせてちょうだい」
「そんな……。私はシルフィーを呼び出しただけで集落の奪還にはほとんど協力できてないです。住民達を避難させてずっと安全なところに隠れていただけですし……」
「何言ってるのよ、アイナ。精霊である私の働きは全部召喚士であるアイナの功績になるのよ。私には経験値も功績ポイントも入らないし、レベルやステータスだって完全にアイナに依存しっぱなしなんだからもっと自信を持って。ちょっと御幣があるけど、私のことなんて奴隷のようにこき使ってくれて構わないんだからね」
「そんな……、奴隷だなんて……」
「確かにちょっと酷い言い方ね。でも私はちゃんとシルフィーにも感謝してるのよ。だからアイナも遠慮せずに私の気持ちを受け取って。はい、これ私がこの前西の川の向こうにある町から仕入れた薬。風声の霊薬って言うの。使うとこのゲーム内の世界で3日間の間、内政の仕事をした時に同じ場所で働く労働者のNPC達の仕事の効率がよくなるの。アイナ自身の仕事の効率も良くなって周りからの評価もぐんっと上がるわよ。勿論貰える功績ポイントもね」
「……分かりました。NPCの好意を無下にしてはプレイヤー失格ですよね。このアイテム、ありがたく使わせていただきます」
アイナは女性からのお礼に風声の霊薬というアイテムを渡された。この風声とは風格と声望という意味である。つまりは人望ということだが、このアイテムを使うと一時的に内政の効率が良くなる効果があるらしい。女性を救出したのはシルフィーだが、当然精霊はアイテムを受け取ることが出来ず、召喚士であるアイナの功績でもあるためアイナに渡すことにしたようだ。デビにゃんと違い精霊であるシルフィーは経験値も功績ポイントも入手できず、装備を変更することもできない。一応端末パネルは開けるようだが、その機能はプレイヤーに比べるとかなり制限されているようだ。
「でも良かったわ。風の精霊さんがまだ消えてなくて。大抵の精霊や召喚獣の召喚時間には制限があるものでしょ」
「……っ!、そうでしたっ!。シルフィー、私は全然考えてなかったですけど一体いつまでこの世界にいられるんですか。もし討伐モンスターとの戦闘中に消えちゃったりしたら……」
「私もそれが気になっていたのよ」
「……っ!、リアさん」
「リアっ!」
女性からの指摘でアイナは思い出したようにシルフィーに召喚時間の制限について問いただしていた。恐らく一回の召喚に制限時間が設けられており、その後再度召喚魔法を発動するのにもペナルティ時間が設けられているはずだろう。そしてアイナが慌てている中後ろからリアが話し掛けてきた。どうやらリアもシルフィーの召喚時間のことが気になり後を付けてきたようだ。
「もうっ!、二人ともそんなに心配しなくても大丈夫よ。少なくともあと5時間程度はこの世界にいられるはずだから討伐には何の支障もないはずよ。それに正確な召喚時間は術者であるアイナの端末パネルでいつでも確認できるわ」
「そうなんですかっ!。ちょっと確認してみます。……本当だ。召喚滞在時間は残り5時間21分って表示されてます。これまでの時間と合わせて大体8時間ぐらい召喚していられるようですね。思ったより長くて安心しました」
「その代り次の召喚魔法は私が消えてから48時間経たないと再び発動することは出来ないわ。精霊、召喚獣の種類に関係ないから、私と別タイプの精霊を呼び出す場合も48時間待たなきゃいけないわ」
「つまりは二日に一回程度しか召喚できないってことか……。まぁ、今から行く討伐に支障はなさそうだけど、これから召喚するタイミングは気を付けないといけないわね、アイナ」
「はい、昨日の戦いではシルフィーを召喚しなくて正解でした。もし召喚していたら今日一日はもう召喚できない状況だったでしょう。やっぱり召喚術以外の魔法も鍛錬しておかないといけませんね」
どうやらシルフィーの滞在時間はこれから向かう討伐が完了するまでには十分な時間が残されているようだった。だが一度の召喚による滞在時間が長く設定されている分、再召喚への時間のペナルティは多く設定されているようだった。精霊術師や召喚士と言えば常に精霊や召喚獣を召喚して戦っているイメージがあるが、このゲームの召喚士系統の職業は他の魔法や基本的な戦闘能力なども重要になりそうだ。
「あと私を召喚している間もペナルティがあって、その間はアイナ最大MPの数値が85%に減少してしまうわ。この割合は召喚してる精霊や召喚獣によって異なるんだけど、より強い存在程その減少の割合が大きくなると思っていいわ」
「た、確かにMPの数値が減少しています。シルフィーに言われるまで気が付きませんでした。このこともこれから気を付けないといけませんね」
シルフィーからの忠告でアイナは自身の職業のデメリットを的確に把握したようだった。精霊術師は多彩な魔法や能力を持つがその分使いこなすのが難しい職業でもある。アイナのように頭が働く人物でないと全ての技や能力を活かしきることはできないだろう。とは言っても一番の特徴は召喚術でもあるので、まずは下級精霊であるシルフィー達の力を発揮させることが課題となるのではないだろうか。
「お〜い、リア〜、そろそろ出発しましょう〜。もう皆早くモンスターと戦いたくてウズウズしちゃってるわよ〜」
「ぼ、僕はウズウズなんてしてないけどね」
「僕もにゃ。全く内の女性陣は頼りになるのかお調子者なのか分からないにゃ。少しはナギの慎ましさと冷静さを見習ってほしいにゃ」
リア達が召喚術について話ていると集落の入り口の方からナミが呼び掛けてきた。早く討伐に出掛けたくて仕方がないらしい。セイナやレイチェルも同じで、討伐に向かうモンスターの姿の想像して体を武者震いさせていた。敗北のリスクを背負ってでも強いモンスターを追い求めるのはゲームをプレイする者の性である。
「分かったわ〜。今行くからちょっと待ってて〜。……それじゃあ私達も行きましょう、アイナ、シルフィー」
「はいっ!」
こうしてナギ達は鉱山周辺に巣食うという猛牛型のモンスターの討伐に出発した。城を出た時はデビにゃんを入れてパーティのメンバーは9人だった。だが塵童、マイ、シルフィー、そして大量の盗賊達を加えて今は60人ものメンバーで討伐に向かっている。とうとう戦闘におけるこのゲームのスケールの大きさがナギ達も実感できそうだ。大量の味方と敵が入り混じる戦場は一体どれ程激しいものになるのだろうか。ナギ達は不安を感じながらも胸をワクワクさせて草原を進んでいった……。




