finding of a nation 42話
集落を出たナギ達は盗賊達のアジトであったという鉱山を目指して草原を進んでいた。盗賊達を従えたことにより60人もの大団体で草原を進む光景は宛ら(さながら)小さな軍隊のようだった。ただ、これだけ数が多いとモンスター達も襲って来ないと判断し特に陣形などは整えておらず、皆思い思いのペースで進行していた。
「……なんか一気に人数が増えたね。普段MMOやっててこんな大人数で行動することなんてないから凄い違和感があるよ。戦闘だと大体さっきまでの8人パーティがほとんどだったからね。でもこれだけ人数がいて上手く連携が取れるのかなぁ」
「まだそんなに心配しなくても大丈夫にゃ、ナギ。人数が多いと言ってもこの盗賊達の下っ端のNPCはみんな僕よりもランクが低いにゃ。ってことは行動も多様性もほとんどないに等しいにゃ。一度雑魚モンスターの相手をするよう指示したら基本的にその命令の遂行に徹するはずにゃ。まぁ、動きが把握しやすいってことだにゃ」
「なるほど。臨機応変な対応ができない分こっちも変に連携を意識せずに済むということだな、デビにゃん。つまり私達は今まで通りパーティの主要メンバーの動きにだけ気を配ってればいいというわけだ。マイと塵童が加わった分多少は連携の難易度が上がっているだろうが、それぞれの役割がきちんと分担できてる以上特に陣形が乱れることもあるまい」
ナギ達は今までにない大規模な人数での戦闘に臨むあたって、メンバー同士の連携について少しの不安を感じていた。数百人規模の戦闘が発生するゲームは少なく、主にRPG型のMMOをプレイしてきたナギ達のほとんどが経験がなかった。三国志を題材にしたMMOをナギがプレイしていたぐらいだろうか。あとはギルド戦などは皆何回は参加したことがあるようだった。
「ふ〜ん、私は連携なんて意識したことないけどな。まぁそこらへんは各々の判断で行動していいんじゃねぇの。勿論リアの指示の範囲内だけどよ」
「そうじゃね。変に意識すると余計動きがぎこちなくなるもんね。お互いに信頼し合って動いた方が臨機応変な対応ができるじゃろうし。ところで、さっきかどないしたん、ナミちゃん。なんか黙って後ろの方をじっと見取るけど……」
「本当だ。どうしたんだよ、ナミ。そんな後ろ向いて歩いてると危ないぞ」
「……っ!。ああ、ごめんごめん。さっきからリアとマイが豪く後ろの方を歩いてるなと思って。それでリアの方の表情がちょっと険悪だったから気になっただけ」
「なに?。……本当だ。二人であんな後ろの方を歩いてる。マイの方はともかく確かにリアの方は表情がきついな。元々きついと言えばそれまでだけど」
「本当じゃ。二人で何か話してるみたいじゃね。また喧嘩なんか始めなきゃいいんじゃけど……」
ナギ達プレイヤーを中心をしたメンバーは盗賊の頭に案内されながら部隊の先頭の方を歩いていた。そんな中ナミは何か後ろに気を取られながら進んでいるようだった。レイチェルと馬子が問いただすとリアとマイのことが気になっているようだ。二人は集落の時ほどではないが再び険悪ムードになりながら部隊の最後尾を進んでいるようだったが……。
「ふふっ、いざこうしてヴァルハラ国の兵士になって討伐に出掛けるとなんだか新鮮な気分ね。自分一人でモンスターを狩ってた時とはまた違う緊張感があるわ。一体どんなモンスターが待ち受けているのかしら」
「さぁね。そんなことより私はあんたに自分の心配をして貰いたいわ。そんなお気楽気分で戦闘に臨もうとしてるなら、今からでもパーティから外れて集落に帰ってもらうわよ」
「な、なによ急に……。別にお気楽気分になんかなってないわよ。さっきはナギやあなた達に豪く迷惑を掛けちゃったからね。その狩りを返す為にも全力で討伐に挑むつもりよ」
「それがお気楽気分だって言ってんの。昔っからだけどあんたって頭はよくても本当に馬鹿ね」
「ば、馬鹿ですってっ!。そこまで言わなくてもいいじゃない。固有NPC兵士にならずに付いて来たことまだ怒ってんの。ちゃんとブリュンヒルデさんの了承を得たのをあなたも聞いてたでしょう」
ヴァルハラ国になって初めての討伐ということで、マイは少し気分が浮かれてしまっていた。そのことについてリアから注意を受けていたのだが、その言葉はリアの厳しい性格を差し引いても少々きつすぎるように感じられた。マイも悪口のようなリアの言葉を受け入れられず、集落の時程ではないが二人は再び口喧嘩に陥ってしまっていた。
「はぁ……。やっぱりまだブリュンヒルデさんの言葉の意味が分かってなかったようね。こんなんじゃあ本当に討伐には連れてけないわ」
「なっ……!、それくらいちゃんと分かってるわよっ!。ヴァルハラ国の優秀なプレイヤーであるナギ達に逸早く功績を立てさせるためにこの討伐を許可したんでしょう。ナギ達の為に私もそのモンスターを倒せるよう全力を尽くすわ。確かにナギ達の仲間になれてちょっと浮かれちゃってたかもしれないけど、決して油断したりなんかはしてないわ」
「そうじゃなくてあなたを説得する時にブリュンヒルデさんが掛けてくれていた言葉のことよ。それよりあんた、本当にあなたがこの討伐に参加することをブリュンヒルデさんが望んでると思ってたの?」
「えっ……。それは当然私が加わればナギ達が勝利できる可能性が上がるわけだし……」
「呆れた。あんたそんな風に考えてたわけ。本当は討伐なんかには参加せずに集落で待っててほしかったに決まってるでしょう。ブリュンヒルデさんだけじゃなくナギ達もね。それをあなたの強情な性格に気を遣って何も言わずに同行を許可してくれたのよ」
リアはマイが討伐に同行したことに怒っているようだった。ブリュンヒルデさんからの了承を得ているとはいえマイの身勝手な行動が受け入れられなかったのだろう。自分の旧友が二度とこのゲーム内にに復活できなくなることを心配していたのかもしれない。どうやら理由はそれだけではなさそうだが……。
「でも皆私が付いてくると知って喜んでたじゃない。貴重な遠距離アタッカーが加わったって」
「そうね。でもそれは自分の本心に気付いてないだけ。ブリュンヒルデさんはあなたを説得するのに強い言葉を使った手前、それ以上あなたの行動を抑止するような真似はしたくなかったのよ。もしあそこで討伐への同行を許可されなかったら、あなたまたあからさまに不機嫌な態度取ってたでしょう」
「そ、それはそうかもしれないけど……。でも今はナギ達の討伐を成功させるのが最優先でしょう。その為に私の命ぐらいヴァルハラ国にしてみればどうってことないわ」
「ふざけないでっ!。その態度が何も分かってない証拠よ。あなたはこの世界に大きな影響を及ぼす存在だってブリュンヒルデさんが言ってくれたのをもう忘れたのっ!」
「わ、忘れてなんかないわよ。だから私も逸早くヴァルハラ国に貢献するためにこの討伐に付いて来てるんじゃないのっ!」
「……じゃあ聞くけど、もしあなたが死んで討伐が成功するのと、討伐は失敗したけどあなたが無事生き残って帰還するのとどっちがヴァルハラ国の為になると思ってるの」
「そ、それは……、ええーっと……」
マイはなんとか食い下がっていたが段々とリアの厳しい言葉に押されてしまっていた。集落の時もそうだったがマイは口論が弱い……っと言うより先のことを考えての発言ができないようだ。リアは自分の問いに相手はどう返してくるか、次はどう切り返せばいいかを常に頭の考えている。それに対しマイはまず相手の言葉を聞いてから一つ一つ丁寧に答えていく感じだった。要するに素直と言うわけで、口論では相手の口車に乗っかってしまいやすい。先のことを予想して効率的に動こうとするのと、目の前の出来事に順次に対応していこうとするのと違いだろうか。前者は予想外の出来事が発生した時に大きな損害を被り易く、後者は損害が発生しにくい分労力に対する成果が得にくい。そういう意味ではリアとマイは対照的な性格と言えるかもしれない。
「その様子じゃあ自分が死んだときのことなんてまるで考えてなかったみたいね。言っとくけど大きな影響を及ぼすってことはその存在がいなくなった時に大きな悪影響を及ぼすってことでもあるのよ。死んでから考えても遅いんだからね」
「そ、そんなの考えても分からないじゃない。私が死んでも討伐が成功すればナギ達が一気に躍進するかもしれないし、もし生き残っても全然ヴァルハラ国の役に立てないかもしれない。それなら今は討伐に集中するしかないでしょう」
「あんたも分かんない人ね。討伐に集中するのは当然よ。私はあなたが死んでこのゲームからリタイアした時にナギ達がどれだけ落ち込むことになるか考えて戦えって言ってんのっ!」
「えっ……」
必死に食い下がっていたマイだったが、どうやらリアが止めの言葉を刺してきたようだ。リアからの予期せぬ言葉に流石のマイも対応できず再び口ずさんでしまっていた。だがリアは容赦することなく続けて厳しい言葉を投げかけ続けた。
「考えても見なさいよ。折角仲間になったレベルを300を超えるキャラクターがすぐ自分達の前からいなくなっちゃうのよ。今は平気な顔してるけどもしあなたがこの討伐でリタイアでもしたら1か月以上は立ち直れないわよ、ナギ達は。もしかしたらずっとトラウマを抱えたままこのゲームをプレイすることになるかもしれないわ」
「い、いくらなんでもそんな……。ナギ達なら精神的にも強いから大丈夫よ。第一まだ私がリタイアしちゃうって決まったわけじゃないじゃない」
「もうっ!。その楽観的過ぎる態度が気に入らないのっ!。言ったでしょうっ!、死んでから考えても遅いんだって。あなたが死んでナギ達に振り掛かるのは単に精神的なダメージだけじゃないわ。折角仲間になった強力なキャラクターを自分達の判断ミスで死なせちゃったなんて知ったら他のヴァルハラ国のプレイヤーはナギ達のことをどう思うと思ってんのっ!」
「う、うぅ……」
「いいっ!。討伐に成功しようがしまいがそれ以上の影響力をあなたは持っているのよ。ブリュンヒルデさんもあなたにそのことを理解してほしくてあんなに必死に訴えかけてたのよ。少しは自分がNPCとして高いランクに設定されてるってことを自覚しなさい。もしこのゲームで意味もなくあっさりリタイアなんてしちゃったらあなたとはもう絶交よ。元の電子生命体に戻っても二度と口聞かないから」
「………」
リアの厳しい追及にとうとうマイは言葉を失ってしまった。リアはマイがこのゲームにおける自らの立場を自覚していないことに腹を立てていたようだ。マイはリアと同じく開始時点で総合レベルが300を超える超優良NPCキャラクター。当然その影響力も絶大で、リアが言ったようにもし失ってしまった場合ナギ達の精神に相当のダメージを与えることになるだろう。またプレイヤーだけでなくヴァルハラ国のNPC達の間でも貴重な戦力を失ってしまったという噂が流れ、住民達からの信用を失ってしまう。レイコや先程ナギのことを慕っていたコルンもナギ達から距離を置くようになってしまうだろう。流石のマイもここまで言われれば自分の誤った感覚に気付き、先程までの発言が如何に浅はかであったか思い知らされていた。
「………」
「(ちょっと言い過ぎたかしら……。でもこれぐらい言わないとこの子は自分の周囲への影響の大きさを認識しないから。いっつも自分のことばかりで手一杯なのよね。もっと視野を広げて物事を考えられるようになれば高い能力をもっと活かせるのに……)」
「お〜い〜、リア〜、マイ〜。どうしてそんな後ろの方なんか歩いてるの〜。私達はこのゲームの主役みたいなもんなだから早くこっちにいらっしゃいよ〜」
「……ナミだわ。相変わらず大きな声ね。でも聞き取りやすくてハッキリした発音だわ」
マイが言葉を失い、会話が行き詰っているところに部隊の先頭の方からナミが呼び掛けてきた。ハキハキとした大きな声で、落ち込んでいるマイの暗い雰囲気を少し吹き飛ばすようだった。
「あっ!、私達のこと呼んでくれてるのね。折角だから私も前の方へ行って来ようっと」
「あっ……、ちょっとマイ」
「心配しなくてももう大丈夫よ。ちゃんとリアの言ってくれることの意味は分かったから。ナギ達を悲しませないよう絶対やられたりなんかしないから。不安にさせるのもあれだから皆のところに行ってくるね」
“タタタタタタッ……”
マイはそう言うとナギ達のところへ走って行った。一応明るく振る舞っていたが内心ではまだリアに言われたことを気にしているだろう。自分の気を少しでも紛らわせようとナギ達のところに向かったのかもしれない。
「はぁ……。あの様子じゃまだ気にしてるわね。やっぱりあんなこと言わない方が良かったかしら。あの子は余計なこと考えながら戦うより眼前のことに集中する方が性にあってるものね。でも最低限自分の立場は理解してもらわないと……ってんん?。あれは塵童かしら。あいつもこんな後ろの方を歩いてたの。……こうなったらあいつにマイのこと頼んでみるか」
リアはナギ達の元へ向かうマイの様子を心配そうな目で見つめていた。どうやら無理に明るく振る舞っていることに気が付いていたようだ。そんな時同じく部隊の後方の方を一人で進んでいる塵童の姿がマイの目に入ってきた。少しはナギ達と打ち解けたようだが、一人で行動しているところを見るとまだまだ人と触れ合うのは苦手らしい。塵童の姿を見たリアは何かを思い付いたように声を掛けて行った。
「塵童、ちょっといいかしら」
「……っ!、なんだよ、急に」
意外にもリアから声を掛けられた塵童は戸惑っていた。今はパーティを組んでいるとはいえ塵童は昨夜リアと言い争っている。もしかしたら何か怒られるのではないかと警戒していたようだ。
「実はお願いがあるんだけど……。この討伐の間あなたはマイと盗賊の頭の護衛に付いててくれない」
「えっ……」
「あなたも知ってるでしょ。今の状態で二人が死亡したらこのゲーム内で二度と蘇生できないって。それであの二人は敵のボスモンスターから離れた位置に配置するつもりなんだけど、それだけじゃあ不安だし周りには雑魚モンスターも現れるでしょうから、あなたにはそいつらの相手をして貰いたいのよ」
「別に構わないけど……。でも盗賊の頭はともかくあのマイって奴は放っておいても大丈夫なんじゃねぇのか」
「確かに今の段階ではマイの実力は折り紙付きだわ。けどだからこそマイにはナギ達のサポートに徹してもらいたいのよ。遠距離型のマイは自身の周囲には注意がいきにくいでしょ。それに自分の身の安全を気にしてたんじゃあ的確なサポートはできないでしょ。後衛職が守るのも前衛職の仕事なんだから頼んだわよ」
「ああ……、分かったよ」
リアにマイと盗賊の頭の護衛を頼まれた塵童はあっさりと了承した。どんなMMOでも弓術士などの後衛職はHPや防御力が低いため、前衛職が護衛に付くのは自然なことである。塵童もマイの依頼に特に疑問を抱かなったようだ。本当は先程の一件でマイのことが心配であったのもあるのだが……。
「それじゃあ私達もナギ達のところに行きましょう。あんたもこんなところを一人で黙々と歩いてないで、少しは他のプレイヤー達と打ち解ける努力をしなさい」
「なっ……」
リアに自分の素行を改善するよう促された塵童は驚いていた。まさかリアの口からそのような言葉が聞けるとは思っていなかったようだ。確かに今のリアの言い方は注意するというよりまるで塵童のことを構っているような態度だった。元々リアが厳しく当たるのはむしろナギ達のことを思ってのことなのだろう。リア自身も先程はマイに言い過ぎたと感じつい素の自分が出てしまったのかもしれない。
「さっ、あんたも早くいらっしゃいよ。私と一緒に行った方が溶け込み易いでしょう」
「分かった、分かったよ。今行くからちょっと待てって……」
またしてもリアの意外な態度に動揺しながらも塵童はリアの後を追ってナギ達のところへ向かって行った。今までと違い少し優しげの対応に塵童も突っぱねることができなかったようだ。こうしてナギ達はメンバーの仲を深めながら討伐モンスターの待つ鉱山の近くへと進んでいった……。
「さあ、着いたぜ。あの丘になって少し気が生い茂っている所に俺達のアジトの鉱山があるんだ。例のモンスターもこの辺りにいるはずだぜ」
集落から約2時間。距離にすると12、3キロぐらいだろうか。ずっと歩いてきたナギ達はようやく目的の場所の周辺へと到着した。時刻は午後3時前で、討伐の成否に関わらず日が暮れるまでには決着が付きそうだった。
「……なによ。こんなに離れた所からじゃあいくらでっかいモンスターでも確認できないわよ。鉱山があるって言う丘だってあんなに小さくしか見えないじゃない。もうちょっと近づいた方がいいんじゃないの」
「な、なに言ってんだ嬢ちゃんっ!。そんなことしてあいつに見つかっちまったらどうするつもりなんだ」
「そのお頭さんの言う通りよ、ナミ。まだそのモンスターがどんな性質なのか分からないけど、こちらの姿を確認するやすぐさま襲ってくる凶暴な奴かもしれないわ。もしそうなったら攻撃を先制されてしまって一方的に受けに回されるわ。そのまま陣形を崩されて全滅だってありえるのよ」
「そっか。まずは相手に気付かれる前にこっちが姿を確認しないとね。それで相手の隙を突いて先制攻撃を仕掛ける。強敵を相手にする時の基本よね」
「その通りよ。それじゃあ悪いけどナミとアイナ。集落を様子を探った時みたいに遠視で辺りを見回してくれないかしら」
「OK。任せといて」
「了解しました。私もやってみます」
リアの指示を受けてナミとアイナが集落の時と同じように遠視で周囲を観察し始めた。鉱山から距離があるといっても2、3キロ程度。討伐対象のモンスターの体長は10メートルを超える巨体のようだから、遠目でも姿ぐらいは視認できるかもしれない。更に遠視を使ってモンスターに焦点を合わせればハッキリとした姿が確認できるだろう。
「……う〜ん、見つかんないわね〜。って言うか当てもなく遠視なんてしてたら余計見つかりにくいんじゃない?」
「ナミさんの言う通りです。通常のモンスターなら何体か確認できますが討伐の対象らしきモンスターはどこにも見当たりません。何か目印のようなものがあるといいんですけど……」
遠視を使って討伐対象のモンスターを探していたナミとアイナだったが、闇雲に探すだけでは遠視を使う意味はほとんどないようだ。目の疲労も溜まるだけで非常に効率が悪いだろう。
「あら、ごめんなさい。確かにあなた達の言う通りね。私の指示が間違っていたわ。一先ず遠視を解いてちょうだい」
ナミ達に指摘されてリアはすぐに自分の指示を取り消した。自分の間違いをすぐに認める辺り、他人だけなく自分自身にも厳しいリアの性格が窺える。
「それじゃあまずは皆で辺りを見回して、怪しそうなところを探しましょう。お頭さん、何かそのモンスターを見つけるための手がかりとかないの」
「えっ、そうだな……。集落でも言ったが、そいつには周囲のモンスターの出現率を高める能力があるはずなんだ。だから通常のモンスター達が数多く集まっているところを探せば……」
「そんなこと言ったって普通のモンスターなら小さすぎてここからじゃ全く見えないじゃない。相手はでっかい牛のモンスターなんでしょ。それなら直接そいつを探したほうがいいじゃない」
「……それもそうだな」
ナミの言う通りナギ達は周囲を見渡して対象のモンスターの影を探し始めた。かなり巨大なモンスターらしいのでここからでも姿ぐらいは確認できるはずだが……。
「……見当たらないわね。誰か怪しい影を見つけた人はいないの?」
「う〜ん……、って言われてもな〜。特に何も見当たらな……ってあっ!、あそこになんか大きいモンスターの影が見えるよ。……でもちょっと牛って感じじゃないかも」
「……っ!。どれどれ、ちょっと遠視で見てみるから場所を教えて」
「わ、私も見てみます」
辺りを観察していると、ナギが遠くに大きなモンスターの影を確認したようだ。ナギに場所を確認し、すぐさまナミとアイナは遠視を使いそのモンスターの姿を確認してみた。
“ドンッ!、ドンッ!、ドンッ!、ドンッ!”
“……ガオォ〜〜〜〜〜ンっ!”
「……あれって昨日戦ったライノレックスよね。まだあんな奴がウロウロしてんの、この草原は。ナギ、あんたの建国案やっぱり間違ってたんじゃない。高台って強いモンスター多そうだし、素直に低地に建てといた方が良かったかもね」
「あら?、ヴァルハラ国の建国案はナギが考えたものだったの。私は素敵な建国場所だと思ってたけど。っというかヴァルハラ国のNPCは皆そう思ってるはずよ。私があなたに付いて行こうって思ったのにはその影響もあったのかもね」
「うぅ……。リアがそう言うなんて。やっぱりSランクの建国案なだけあるわね」
「確かにナミの言う通り高台や山脈の近くには強力なモンスターが多いわ。だけど戦略的には圧倒的有利だし、城から見る景観が綺麗になって住民達の幸福度も上がるのよ。それに強力なモンスターを倒すことが出来れば大量の経験値と貴重なアイテムや素材が入手できるしね」
「へぇ〜、この建国案てナギが考えてたものだったのかよ。通りでナギの周りにいると良イベントばかり発生するはずだ。最初の討伐でナギのいるパーティに割り当てられて本当に良かったぜ」
ヴァルハラ国の建国案がナギが考えたものだと知って皆褒め称えていた。だが肝心のモンスターは猛牛型ではなく、ナギ達が昨日も対峙したライノレックスであった。意味のもなく辺りを走り回り、たまに威嚇のような雄叫びをあげていた。だが実際には威嚇というよりも、近くに強力なモンスターがいるというプレイヤーへの忠告になっているようだった。
「ところで肝心のモンスターの姿は見当たらないのか。もしこの近くにいるというのなら下手をするとライノレックスまで相手にせねばなるまい。いくらなんでもそれ程の戦力は我々は持ち合わせてはいないと思うのだが……」
「そうね……。セイナの言う通り引き返すしかないわ。残念だけど流石に戦力不足だわ」
「ええ〜〜、そんな〜〜っ!。折角ここまで来たってのに……」
「……っ!。ちょっと待ってください。ライノレックスの向こうから大きな土煙が近づいてきます。物凄いスピードでライノレックスに向かって行っています」
「本当だわ。もしかしてあれが例のモンスターなんじゃないの」
流石にライノレックスまでいては戦力不足だと判断し、リアは皆と共に集落へ引き返そうとした。だがその時遠視を使ってライノレックスを観察していたアイナが何か巨大な土煙のようなものを発見した。当然何もないところに土煙が発生するわけもなく、その巨大さからライノレックスと同じくらいの大きさの何かが巻き起こしているものと考えられる。ナギ達は引き返すのをやめて一先ずその様子を観察してみることにした。
“ドドドドドドドッ……!”
“モォォォォォォォォォっ!”
「……来たわっ!。あれ絶対牛の姿よね。間違いなくあいつが対象のモンスターだわ」
「はいっ!。もうすぐライノレックスに対して完全に接近してしまいます。一体どうするつもりなんでしょうか……」
「ここからでも馬鹿でかい何かが近づいてきてるのが分かるぜ。土煙の大きさから言ってライノレックスって奴より大きいんじゃねぇのか」
塵童の言う通りライノレックスとその土煙の大きさは尋常ではなく、遠視を使っていないナギ達でも微かに姿を確認することができた。土煙の中にいるモンスターの姿はハッキリと確認できなかったが、ナミとアイナが言うには牛の姿をしているようだが、どうやら討伐対象のモンスターで間違いないようだ。真っ直ぐライノレックスへと向かっているようだが果たして……。
“……ガオ?、……ガオォォォォォォンっ!”
「……っ!。ライノレックスもあいつの存在に気が付いたわ。もの凄い怒ってるみたいだけどやっぱり戦うつもりなのかしら」
「恐らく向こうもそのつもりですよ、ナミさん。あのライノレックスの雄叫びを聞いても全く怯まず突っ込んで行っています」
「ほ、本当にゃっ!。それで相手はどんな奴なのにゃ。全身を鎧に包んでるって話だったけどにゃ……」
「その話は後よ、デビにゃん。今はナミ達には様子を観察するのに集中してもらいましょう。あいつと戦う前に少しでも情報は得ておきたいわ」
「わ、分かったにゃ」
ナギ達はすぐにでもそのモンスターの姿について知りたかったが、今はナミ達に遠視に集中してもらうため下手に話掛けないことにした。ナギ達の厚意を受け取って、ナミとアイナも一言も話さずにライノレックスと相手のモンスターの様子を観察していた。そしてとうとう土煙を巻き起こしているモンスターとライノレックスが接触する時がやって来た。
“モォォォォォォォォォッ!”
“ガオっ!”
“ドォォォォォォォンッ!”
“ガオォ〜〜〜〜〜ン……”
「凄いわ、あいつ。猛スピードで突進してきたと思ったらそのままライノレックスを吹っ飛ばしちゃった。物凄いパワーね」
「ほ、本当です。でもまだライノレックスも立ち上がりますよ」
ナギ達の討伐対象であると思われる猛牛型のモンスターは、猛スピードでライノレックスへと向かった勢いで突進攻撃を放った。正面から迎え撃ったライノレックスだったが、そのモンスターのパワーに押されて吹っ飛ばされてしまった。だが流石のライノレックスもこの程度ではやられず、すぐさま立ち上がり臨戦態勢を整え反撃を試みようとしていた。
“ガルルルルルゥ……”
“ビリッ……、ビリビリッ……!”
「……っ!。出るわよ、ライノレックス必殺の電撃攻撃が」
「ホーン・コンデンサー・ディスチャージですね。上手くいけば相手の雷属性への耐性率が分かりますね」
さっきの一撃で相手の脅威を感じ取ったのか、ライノレックスは出し惜しみせず自身の最大の必殺技を放とうとした。昨日ナギ達が戦ったライノレックスも披露していたが、自らの角に蓄えられた電力を一気に放出する技である。自身の周囲に大規模な放電現象を起こす高威力の範囲攻撃だ。すでにライノレックスの角からは微弱な放電現象が発生していた。
“……ガオォォォォォォンっ!”
“ビリビリビリビリビリィィィィィっ!”
ライノレックスの雄叫びと共に相手のモンスターに激しい放電現象が襲い掛かった。範囲攻撃だが単体へのダメージも十分にある。通常のモンスターなら決して無事では済まないはずだが……。
“モォッ!、モモモモモモモッ……”
「……っ!。凄いわ、あの放電攻撃を正面から受けて耐えしのいでいる。少し怯んでいるような様子しかないし、電撃による麻痺も受け付けていないみたいだわ。あれならすぐ反撃に移れるわね」
「あの様子だと雷属性の耐性率はかなり高そうですね。外見から見て所持属性が土である可能性もありますか……」
ライノレックスのホーン・コンデンサー・ディスチャージの直撃を受けた相手のモンスターだったが、足を地面に踏んばるような姿勢を取って必死に雷撃を耐えしのいでいた。完全に怯み切る様子もなく、そのままなんなく雷撃を受け切ってしまった。ダメージもほとんど受けておらず、雷撃の影響による麻痺状態も受けていないようだった。アイナの言う通り雷属性の耐性率が高いか、所持属性が土属性であるかのどちらかだろう。もしくはその両方かもしれないが……。
「あいつ……。あの雷撃をなんなく受け切っちゃったわ。対するライノレックスは自身の必殺技を放った反動で体が硬直してしまってる。さっきの突進攻撃と比べると成果は雲泥の差ね。完全に向こうの方が有利よ」
「相手のモンスターもこの気を逃すわけはないですよね。次は一体どんな攻撃……って見てください。また地面に足を踏ん張ってしまいました。でも今度は攻撃を受けるためではないようです……」
「まるで自分の足を体を固定するための脚に使っているみたい。これはもしかして……、自分の体を固定砲台にしてるんじゃないかしらっ!」
「どうやらそうみたいです、ナミさん。見てください、正面に真っ直ぐ開いたあのモンスターの口に物凄いエネルギーが集まっています」
自身の最大の技であるホーン・コンデンサー・ディスチャージを放ったライノレックスは、その反動で体が硬直し身動きがどれなくなってしまっていた。一方ライノレックスの必殺技を耐えしのいだ相手のモンスターは、この機を逃さずにすぐさま攻撃の準備に入っていた。前足と後ろ足その全てに力を込め、しっかりと地面を踏みつけて、大きく開けた口が真っ直ぐライノレックスの方を向くよう体を固定していた。そのモンスターから漲っている覇気が、こちらもまた最大の必殺技であるということを物語っていた。そしてその覇気に呼応するようにそのモンスターの口に物凄い量のエネルギーが集まっていくのであった。
「本当だわ……。やっぱり自身の体を砲台代わりにして攻撃を放つつもりなのね。それにしてもあの大きな体であそこまで力を込めて踏んばるなんて……、きっとかなりの反動ある技なんでしょうね。その分威力も折り紙付きってことだけど……」
「ライノレックスはやられてしまうんでしょうか……。かなり押されているように見えますけど……」
「分かんないわ。まだ相手のこの技がどれだけ威力があるのか分からないし……。だけど昨日私達が懸命の思いで倒したライノレックスがこうもあっさりやられちゃいそうだと私達としては悔しいものがあるわね。まっ、私達の時は最終的にヴァルケーノ・レックスに変化してたことだけどさ」
「はい。私も何故かライノレックスには頑張ってほしいです……」
ナミとアイナは猛牛型のモンスターに苦戦を強いられているライノレックスの姿を見てもどかしさを感じていた。MMOプレイヤーというのは自分達が倒してきたモンスターにどこか親近感を覚えてしまう。しかもそれが自分達がそのゲーム内で初めて倒した強敵とあっては尚更だ。ナミとアイナだけでなく、遠視を使えず詳しい戦闘の様子が分からないナギ達も心のどこかでライノレックスのことを応援していた。だが無慈悲にも相手モンスターの必殺技がライノレックスに向かって放たれるのであった……。
“モォォォォォォ……”
猛牛型のモンスターの口内にはすでに大量のエネルギーが蓄積されていた。限界まで圧縮されたエネルギーが口内から溢れるように粒子になって辺りに広がっていた。白く発光するエネルギーにより、周囲はまるで銀世界のように光輝いていた。そしてエネルギーが限界まで蓄えれた時、周囲に溢れていた粒子が消え、辺りの明るさが一度元に戻った。だがその次の瞬間、まるで弾けるように相手のモンスターの口から蓄積したエネルギーが放出され、それはまるで巨大な光線のようになってライノレックスへと放たれていった。その光線もまた粒子のように光輝いていた……。
“モォーーーーーーーーっ!”
“ガウ……、ガウゥ〜〜〜ン……”
ライノレックスは一瞬にしてその光線の中に飲み込まれてしまった。あまりの速さに何がどうなったのかまるで分からなかった。更にその光線が飲み込もうとしていたのはライノレックスだけではなかったのだった。
「ちょ……、何よあれ……。まさかここまで届……っ!。皆逃げてぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「えっ……!。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
なんとその光線はナギ達の元にまで届いてきた。ナミがすぐに皆に避難を呼びかけたが、その光線は文字通り光のような速さで迫って来て、ナギ達の視界は一瞬にして光に包まれてしまった。もしやこのままやられてしまったのだろうか……。




