表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第五章 一晩の休息
32/144

finding of a nation 29話

 ライノレックスから変異したヴォルケーノ・レックスを撃破したナギ達は宿泊場所を確保すべく近くにある川辺を目指していた。行動ポイントを温存するために先程までの隊列は組まずに徒歩でゆっくりと進んでいた。進行方向に現れるモンスター達もこちらから仕掛けなければほとんど襲ってこず比較的安全に進むことが出来ていた。すでに1時間近く歩いており、ヴォルケーノ・レックス達と戦った地点からは東に4キロ程進んでいた。目的の川まではもうすぐというところだった。


 「なんかさっきまでと違って全然モンスター襲って来ないわね。さっきなんて目の前を通り過ぎたっていうのに全然攻撃仕掛け来なかったわよ。これって歩いてるからなのかなぁ…」

 「それもあるけど私がモンスター達の敵意を下げる魔法を使ってるからよ。基本的に城の周りにいるほとんどの種族のモンスターは自分から襲ってくることはないわ。プレイヤーを見ただけで襲ってくる奴なんてさっきのドラゴンラプターぐらいじゃないかしらね。ライノレックスだって本来ならもっと温厚な性格のはずよ」

 「へぇ〜、確かにドラゴンラプターって意地悪そうな顔してたもんね。なんかプレイヤーのことを目の敵にしてるみたい。さっきだって本気で殺しに掛かって来てたもんね」


 ナギ達がモンスターに襲われないのは徒歩で移動しているからだけではなくリアの魔法の効果もあるようだ。メイク・レス・ハスタルという魔法で、英語での意味はそのまま敵対心を和らげるという意味だ。この魔法を掛けておけばモンスター達のプレイヤーに対する好戦度を大きく下げることができる。序盤のモンスターならばほぼ自分から攻撃を仕掛けてくることはないだろう。更に警戒心も下が臨戦態勢すら取ることがないのでこちらから一方的に攻撃を仕掛けることができる。ただしモンスターに攻撃を加えるごとに大きく魔法の効果は低下していく。


 「あっ、川が見えてきたよ、リア。あれ…、でもなんだか人影みたいなのも見えてきたよ。もしかして僕達と同じヴァルハラ国のプレイヤーかな」

 「本当じゃ。私達以外にもここまで進んでこれたプレイヤーがいたんじゃね」

 「でもあれ…、なんだかモンスターと戦ってるみたいよ。それに私達と違って一人みたい」

 「他のパーティの人達はやられちゃったんですかね。だとしたら早く蘇生してあげないと手遅れになっちゃいます」

 「しゃあねぇ。一丁助けにいってやるか。全然モンスターが襲って来なくて退屈してたとこだしな」

 「あんたは駄目よ。私と同じで相当行動ポイントを消費してるでしょ。ここはナミとセイナに行ってもらうわ」

 「そんな〜…」


 ナギ達が川辺の近くまで来ると遠くの方で何やらモンスターと戦っている人影のようなものが見えてきた。どうやらナギ達と同じヴァルハラ国のプレイヤーのようだが、人影から察するに今は一人で戦っているようだった。当然ナギ達は助けに入ろうとしたが、先陣を切って向かおうとしたレイチェルはあっさりとリアに引き留められてしまった。代わりにまだ行動ポイントの消費の少ないナミとセイナが向かうことになったようだ。


 「悪いわね、レイチェル。あんたはさっき大活躍したんだから今は大人しく休んでなさい」

 「その通りだ。ここは我々に任せておくのだ」

 「何の為に馬子とアイナもサポートに付いてあげて。戦ってるモンスターはそんなに強くなさそうだから大丈夫でしょうけど、ナミとセイナは無事でもあのプレイヤーは死にそうかもしれないからね」

 「了解じゃけぇ。それじゃあ私はセイナに付くね、アイナ」

 「分かりました。私はナミさんの後ろに付いて行きます」

 “ダダダダダダッ…”


 リアは念の為に馬子とアイナをフォローに回らせた。相手のモンスターはそれ程の強敵ではなさそうなのでナミとセイナなら無傷で倒せるだろうが保健としての意味と今一人で戦っているプレイヤーを回復させる為でもあったようだ。リアから指示を受けたナミ達はすぐさま援護に向かって行った。


 「それじゃあ私達も歩いて向かいましょう。ちょうどあの辺りに宿を張ろうと思ってたところだし」

 「ほほっ、川の近くでキャンプとはいつ以来じゃろうか。若い時はよく釣りがてら川辺にテントを張って眠ったもんじゃ。釣った魚をそのまま焼いて晩飯代わりに食うのがまた美味くての。またあの頃に戻ってみたいもんじゃわい」

 「それなら釣り道具でも買っとけば良かったね、ボンじぃ。どれも高そうだったけどボロボロの木の竿なら今も所持金でも買えそうだったよ」

 「にゃっ、釣竿を使わなくても川に潜って直接獲っても大丈夫にゃよ。僕だったらこの槍を銛みたいに使って一杯魚を獲って来てあげるにゃ」

 「デビにゃんよ。皆が釣りをするのは単に魚が獲りたいからではない。お主がその槍で魚を突くとき、次に魚はどの方向に動くのか、どうすれば気付かれぬように近づけるのか考えるであろう。それと同じように釣りをする者は一体魚はどこに潜んでおるのか、どうすれば引っ掛かってくれるのかを試行錯誤することを楽しんでおるのじゃ。じゃから全然魚が獲れないからといって釣りのことを低く見てはいかんのじゃ」

 「そ、そうなのにゃ。(銛で突くのもあんまり魚が獲れるとは言えないけどにゃ…。やっぱり漁の基本は網を使った追い込み漁なのにゃ。内政の仕事以外でそれをするのは禁止されてるけどにゃ)」

 「余計なこと話してないでさっさと行くわよ。このゲームの野宿によるシステムも説明しないといけないんだから。他に説明し損ねてることも全部話しちゃおうと思ってるから心しといてね」


 ナミ達がモンスターと戦っているプレイヤーの救援に向かったのを見てナギ達も歩いてその場へ向かって行った。どうやらあの辺りでテントを張るようだが、このゲームのテントはただ野宿するためにある訳ではないらしい。


 “ガウゥゥゥゥン”

 「はぁ…はぁ…、くっ…」


 ナミ達が救援に向かったプレイヤーだがどうやらタートル・レックスという背中に亀の甲羅を背負った恐竜型のモンスター2体と、ずる賢い狼という意味であるフォクシー・ウルフ4体と戦っていた。先程のドラゴンラプターと同じく狡猾な性格で、プレイヤーに襲い掛かる時は自分達だけでなく他のモンスターを誘導して同時に襲い掛かってくる。このタートル・レックス2体もフォクシー・ウルフに連れてこられたようだ。ただドラゴンラプターと違いフォクシー・ウルフは違う種族のモンスターを挑発せずにけしかけることができる。そしてさも仲間であるかのように連携を取って攻撃を仕掛けてくるのだ。


 「6対1か…、不味いわね。もう大分HPも削られてるみたい。それにあいつなんだか足元がふらついてて今にも倒れそうじゃない。戦い方を見るに私と同じ武闘家みたいだけど」

 「うむ、ナミと違ってまだ範囲攻撃は習得していないようだな。多勢に無勢では武闘家が圧倒的に不利だ。これは急いだ方が良さそうだな。馬子、アイナ、私達はスピードを上げて先に向かっているぞ」

 「了解」

 「分かりました。気を付けてくださいね」

 「うむ、ではいくぞ、ナミ」

 「OK」


 モンスターの群れと戦っているのはどうやら男性プレイヤーで職業はナミと同じ武闘家のようだった。武闘家は範囲攻撃に乏しく一人で複数のモンスターを相手にするのは不利である。案の定その男性プレイヤーは防戦一方の状態に追い込まれており、HPも3割近くまで削られていたようだ。それに何やら体調が優れないのか大分足元がよろけた戦い方だった。顔色も悪くすでに疲労困憊といった感じでもう随分と戦い続けている様子だった。


 「てぇりゃぁぁぁぁぁっ!」

 “ガウゥ〜〜ン…”

 「…っ!」

 「はあぁぁぁぁっ!」

 “ガウゥ〜〜ン…”

 「な、なんだ……ぐふっ…!」


 ナミは得意の飛び蹴りで、セイナも勢い飛びながらタートル・レックスに斬りかかって行った。ナミとセイナの攻撃力は凄まじく背中の硬そうな甲羅から見るに防御力が高そうであったタートル・レックスは一撃で倒されてしまった。急に援護に現れたナミとセイナに男は驚いていたが、その瞬間吐血してそのまま意識を失ってしまった。そして残りのフォクシー・ウルフ達はタートルレックスがやられると同時に一目散に逃げ出していくのであった。


 “キャウ〜〜ン”

 「…っ!。ナミ、奴らが逃げていくぞ。後で仲間を呼ばれても面倒だ。後を追って片付けるぞ」

 「あいつらドラゴンラプターと同じで性格悪そうな顔してたもんね。馬子、アイナ、悪いけどこいつのこと頼んだわよ」

 「は〜い」


 ナミとセイナは気絶してしまった男のことを馬子とアイナに任せると4体のフォクシー・ウルフ達を追撃していった。どうやら先程のドラゴンラプターの厭らしさを感じ、仲間を呼ばれるのを警戒して逃がさずここで仕留めるべきだと判断したようだ。


 「だぁぁぁぁぁっ、待ちなさ〜〜い」

 “……キャウっ!”

 「へへ、もう追いついちゃった。てやぁぁぁぁっ!」

 “キャウ〜〜ン…”

 「こちらもそうやすやすとは逃がさんぞ。はあっ!」

 “キャウ〜〜ン…”


 ナミとセイナはそれぞれあっという間にフォクシー・ウルフに追い付くと一撃で粉砕してしまった。フォクシー・ウルフのスピードは序盤のモンスターの中でもかなりの速さだったがナミ達はあっさりと追いついてしまい、続いて別方向に逃げていたフォクシー・ウルフも瞬殺してしまった。4体のフォクシー・ウルフ達を全滅したナミ達は先程の男を任せた馬子とアイナの元に戻って行った。


 「どう、アイナ。この人の容体は」

 「それが…、HPの回復は出来たんですけど、なんか他にも色んな状態異常に侵されてるみたいで徐々にHPが減っていく上に最大値自体が6割程度に減少してしまっているんです」

 「ええっ!。それって一体どういうことなんじゃけぇっ!」

 「ステータス画面を見るからに空腹や睡眠不足、衰弱や後風邪にも掛かってるみたいです。あっ、それにこれは脱水症状って表示されてます。早く水を飲ませた方がいいんでしょうか…」

 「な、なにそれ…。あれ、そう言えば他のパーティメンバーの死体が見当たらんのじゃけど、もしかしてもう蘇生の受付時間が過ぎてもうたんけぇ」

 「なに、どうしたのよ、二人とも。そいつに何かあったの」

 「あっ、リアさん…。それがですね…」


 ナミ達に救助された後気絶してしまった男のことを見ていた馬子とアイナだったが、何やら回復に手間取っているようだった。どうやらこの男が様々な状態異常に侵されていて馬子とアイナでは処置できないものばかりだったようだ。ステータス画面を見ると空腹や睡眠不足などとてもゲームでは考えられないような項目ばかりだった。当然馬子とアイナもそれらを取り除く特技や魔法など持ち合わせはなくどうすることも出来ないようだった。そこに後から歩いてきていたナギ達が駆け付け、アイナはリアに男の症状に付いて問い掛けるのだった。


 「何々っ、一体何があったのよ、皆。もしかしてその男のプレイヤーもう死んじゃってたとか?」

 「あっ、ナミちゃんにセイナ。それがHPは回復したんじゃけどどうも様子がおかしいみたいんじゃよ。今リアにステータス画面を見てもらってるんじゃけど……」

 「……って何よこれぇーーーーっ!。空腹に睡眠不足やらその他色々……、おまけに脱水症状って一体どう言うことよっ!。こいつ水も持たずに城の外に出て来たって言うのっ!」


 リアに男の症状について見てもらっているとフォクシー・ウルフ達を倒したナミとセイナが戻って来た。ナミ達も気絶した男の容体が気になるようで馬子達に問いただしたのだがその瞬間突如としてリアが驚きのあまり大声で叫びだしたのだった。


 「へぇ〜、やっぱこのゲーム空腹や脱水症状で死ぬこともあるんだな。私達もリアに言われなかったら水も食料も買わなかっただろうけどな」

 「(僕はちゃんと買ってたけどにゃ。レイチェルの奴ナギ達に出会ってなかったら間違いなくお金は全部武器やら攻撃アイテムやらに費やしてしまって今頃城の外で餓死してただろうにゃ。ってかこの人はまだ死んでないにゃ)」

 「まだ死んでないわよ。いいから誰かまず水を飲ませてあげてちょうだい。あとボンじぃはハンドパワー・マッサージの魔法を暫く掛けてあげててちょうだい。その魔法が一番疲労回復の効果が高いから」

 「わ、わしがか……。全く……、わしゃ男の治癒なんか真っ平御免なんじゃが……」

 「他のメンバーは今から私がテントを張るからよく説明を聞いといてね。このゲームのテントには宿泊する以上に重要な要素が設定されているからちゃんと覚えとくのよ」

 「は〜い」


 リアは取り敢えずその男に水を飲ませてボンじぃに疲労回復の魔法を掛け続けるよう指示を出した。衰弱状態ならば長時間魔法を掛け続けることでなんとか回復できるようだ。それにしても何故これだけの異常状態に陥ってしまったのだろうか……。少なくとも空腹ついては5000分の無料券が与えられていたし睡眠不足についても宿屋は無料で利用できたはずだ。そもそもナギ達がレイコの家に招待されたように初日ならばどんなにNPCの評価の低いプレイヤーでも家に宿泊させてもらえるように頼めば喜んで承諾されたはずだ。しかも何故か他のパーティメンバーの死体も見当たらないしかなり謎めいた男である。ナギ達は取り敢えず気絶から覚めるまでにリアのテントについての説明を聞くことにした。


 「それじゃあこの辺りでいいかしらね。いい、このゲームではテントを張るのに一々骨組みを組み立てたりシートを被せたりする必要はないわ。ただアイテムとして使用すればパーティ全員が宿泊するスペースが確保した上でその場に最適な状態で出現するわ。取り敢えず使ってみるわね。えーっと、まずは宿泊人数を設定してと……、私達のパーティは8人だけどデビにゃんを入れて9人、あの気絶してる奴も一応入れといて10人か。男女の比率は男が3、女が6、小型のモンスターが1体と……」


 どうやらこのゲームで野外に宿泊場所を確保しようとした場合一々木やポールを使って骨組みを作りシートを被せるなどする必要はなく、アイテムとして使用すればすぐにその場に出現するらしい。使用する前に端末パネルによって利用人数などを設定すればその設定と設置場所の地形に合わせて最適な形でテントが出現する。リアは川岸から10メートル程の距離まで来ると気絶した男も含めた10人分の設定でテントを出現させた。


 「はい。これで設定も終わりと……。それじゃあ出すわよ」

 “ポチッ”

 “パアァ〜〜〜〜ン”

 「おおぉ…」


 リアが端末パネルを操作すると周囲が虹色に煌めくようなエフェクトに包まれると同時に3つのテントが設置されていた。一つは男性用と標識が書かれた三角形の形をしたナギ達の世界でキャンプに使われるテントとして最も代表的なものだった。二つ目は女性用と書かれたテントで三角形のものより遥かに大きかった。女性の方が圧倒的に人数が多いので当然ではある。まるでサーカスのテントのように平たい円柱の上に三角錐が乗っかっているような形をしていた。3つ目は長方体の形をしていて、まるで被災地域に派遣される診療の用のテントの用で真っ白なシートに赤十字のマークが記されていた。見て分かるように気絶している男用のテントだろう。一応病人として認識してくれているようで一人だけ別に分けてくれたようだ。特に医療器具などが備え付けられているわけではないようだが。


 「す、凄いです。本当に一瞬で出現しました。私テントで寝るなんて初めてです」

 「なんか明らかに形と色がおかしいのがあるけどあれは気絶してる人用じゃね。そういうのも全部監視プログラムであるARIAが把握してくれてるんじゃろうか」

 「それに男性用と女性用でテントの大きさも全然違うね。ちゃんと男女の割合も反映されてるみたいだ。僕はあのテントでボンじぃと二人っきりで寝るのか……」

 「にゃぁっ!。僕もいるにゃよ、ナギっ!。自分の仲間モンスターを忘れるなんて酷いのにゃっ!」

 「デビにゃんはモンスターなんだからナミ達と同じテントで寝なよ。あっちの方が広くて気持ち良く寝られそうだよ。デビにゃんなら皆も歓迎してくれるだろうし」


 設置されたテントは男性用、女性用、病人用の3つでモンスター用のテントは設置されてなかった。デビにゃんは雄だがモンスターなので別に女性用のテントで寝ても問題はないだろう。ナギはデビにゃんのことを考えどうせなら広い方で寝るよう促していたようだ。


 「ナギの言う通りよ、デビにゃん。なんだったら私と一緒に寝ましょう」

 「あっ、ずるいですナミさんっ!。私だってデビにゃんちゃんと一緒に寝たいですっ!」

 「むっ……、デビにゃんさえよければ別に私の隣で寝ても構わんぞ」

 「み、皆……。た、確かに女性陣のテントの方が広そうだしゆっくり眠れそうにゃ……。にゃあっ!、でも駄目にゃぁっ!。仲間モンスターとしてご主人の側を離れて寝るわけにはいかないのにゃ。僕はやっぱりナギのテントで寝るにゃ」

 「そうぉ。でもボンじぃも一緒だよ、デビにゃん」

 「にゃっ!」


 デビにゃんはやはり自分の主人であるナギと共に寝ることにしたようだ。女性陣のテントも広いとはいえ大人数が入るためどちらで寝てもさほど寝心地は変わらないだろう。元々デビにゃんはどちらで寝てもいいように設置されていたようだ。


 「それじゃあテントも晴れたことだしまずはあの気絶した奴をあの病人用のテントに運ぶわよ。それから野宿について詳しい説明をするから皆このキャンプの中央に集まってちょうだい」


 ナギ達はボンじぃが回復魔法を掛けていた男性プレイヤーを病人用と思われる白いテントの中に運んだ。外に赤十字のマークこそついていたが中には医療器具も設置されておらず、寝床もベットではなく地面にシートで出来た簡素な布団な敷いているだけだった。ただ一人用にしては少し広めのスペースが確保されていた。


 「ふぅ……、取り敢えず衰弱状態は解除されたみたいね。お疲れ様、ボンじぃ」

 「やれやれ……。これでもまだ疲労は抜けきっておらんようじゃ。やはり空腹と睡眠不足が解消されんことにはどうしようもないのぅ……」

 「まぁ目が覚めたら嫌でも何か食べに来るでしょ。継続ダメージも止まったみたいだしテントの説明をするから外に出るわよ」

 

 気絶した男をテントへと運びナギ達はキャップの中央へと集まって行った。するとリアは再び端末パネルでアイテム欄を開き今度は焚火用の薪と周りを囲う石を出現させた。そしてその焚火を囲うように丸太を切り取っただけのような木製の椅子を人数分用意するとナギ達にそこに座るよう促した。


 「うわぁ〜、焚火に椅子まで用意できるなんてこれは本格的にキャップの雰囲気が出て来たね。でもこれって焚火に火を点ける時どうすればいいの」

 「全部端末パネルで手動で操作できるようになってるわよ。一度点けてみるわね」

 “ボッ…”

 「あっ、本当に勝手に点いたわ。でもなんだか豪く火力が小さい気がするんだけど……」

 「まだ外は明るいし無駄に火を大きくしても暑苦しいだけでしょ。夜になったわもっと火力を上げるわ」


 リアが端末パネルを操作すると自動的に焚火に火がともされた。どうやら火の点火と消火、それに火力も端末パネルによって手動で調整できるようだ。しかもどれだけ火を点火していも薪を消費することもないらしい。


 「あなた達の世界でのキャンプの準備のようなものは全部端末パネルを操作するだけで出来るからあんまり気にしなくていいわ。それよりキャンプの端の方にあるあの魔法陣を見てちょうだい」

 「魔法陣……」


 リアの指差した方を見ると確かにそこには魔法陣が設置されていた。どうやらヴァルハラ国の城内になった転移用の魔法陣と同じようもののようだが……。


 「あれって……、城の中にもあった転移用の魔法陣?。もしかしてこのテントを張れば城から自由に行き来出来るってことなんけぇっ!」

 「少し違うわね。あれはあくまで一度ログアウトして再度ゲームにログインした時にここに転移できるように設置された魔法陣よ。それ以外に使用できないないし、あの魔法陣に乗ってもどこにも転移できないわ」

 「えっ、それじゃあもしログアウトした時あの魔法陣がなかったらどうなるの」

 「その時は自分がログアウトした地点と全く同じ場所からスタートすることになるわ。勿論ログアウトしている間も時間が進行してるから出た瞬間に大量のモンスターに襲われることもあるわ」

 「へっ?、でも全く同じ場所にログインすることが出来るなら一々あの魔法陣を使う必要なんてないんじゃねぇの。どっちにしろ今いるこの場所に出てこれるってことだろ」


 どうやらあの魔法陣はゲームにログインする時にのみ使用できるようだ。だがレイチェルの言うようにログアウトした地点と同じ場所でスタートできるならば特に魔法陣を使用する必要は無いように思えるが……。


 「あんたって本当に察しが悪いわね。それじゃあもう一つ説明してあげるけどこのテントは自由にアイテム化を解除できて何度でも使用することができるの」

 「えっ……、だからなんなんだ。一体さっきとどう違うんだ」

 「このテントの設置場所は何度でも変更できるということじゃ。それはすなわちあの魔法陣の場所も一緒に移動できることでもある。ここまで言えばお主でも分かったじゃろう」

 「テントの場所を変えれば魔法陣の場所も変わるってことだろ。でも結局その設置場所までは移動してるんだから普通にログアウトした時と全く一緒じゃねぇか」

 「一緒じゃないわよ、馬鹿。このテントさえあれば移動するのは一人でも構わなくなるでしょ」

 「へっ?」


 なんとこのテントと魔法陣のアイテムは場所を変えて何度でも自由に設置し直せるらしい。つまりはそれによって自由にログイン時の転移場所を変更できることになるが、レイチェルはまだいまいち理解しきれていないようだった。


 「つまりこういうことにゃ、レイチェル。例えばここでレイチェルが一度ログアウトするにゃ。テントがない状態だとログインする時にまたこの場所からスタートすることになるけど、僕達がこのまま先へ進んでもう一度テントを設置し直せばレイチェルは全く移動せずにその場所からスタートできるにゃ」

 「そういうことかっ!。確かにそれは便利だな。例えば一日用事があってゲームをプレイできなかったとしてもすぐに皆のいる場所に追い付けるってことだもんな」

 「その代わりちゃんと転移先のテントに自身の情報を登録しておかないといけないけどね。登録できるテントは一人一つまでで、新たにテントに情報を登録した場合は前に登録したテントの魔法陣には転移できなくなるから気を付けといてね」

 「じゃけどレイチェルの言う通り皆同じ場所まで移動したなら確かにあんまり意味はないかもしれんね。大抵の場合一人がログアウトすると皆ログアウトしてまうけぇ」


 レイチェルも理解できたようだがこのゲームのテントを利用すればログイン時に瞬時にそのテントを所持しているプレイヤーの元に転移することができる。当然そのプレイヤーがテントを設置していることが条件だが予め時間を決めておけば集合場所として利用できるし、もしログインする時にテントが設置されていない状態であっても待機エリアににてテントを設置して貰うよう連絡することができる。テントを利用しない場合は通常通りログアウトした地点と同じ場所からスタートとなる。万が一テントを展開している間にモンスターや敵プレイヤーの襲撃を受けテントを破壊された場合や、そのテントを所持しているプレイヤーが死亡してしまった場合は強制的に本拠地からのスタートとなってしまう。


 「へぇ〜、なんだかこのゲームのテントって奥が深いね。ゲームのバランスを損なわないように絶妙に調整されてるよ」

 「確かにこのゲームの場合ログアウトした時の設定次第でバランスが崩壊しちゃいそうだもんね。もし強制的に拠点からのスタートだったらログアウトによって瞬時に拠点に戻ることが可能になっちゃうし、テントも設定次第ではもの凄い伏兵作戦とかに使えたりしちゃいそうだもんね。その辺りも色々調整されてるってわけか」

 「ええ、他にも色々説明した方がいいんだけど、取り敢えず今日はこの辺にしとくわ。それじゃあ今から私のテントに皆のこと登録しておくから端末パネルで承認しといてね。このテントだと最大で16人まで登録できるみたいね」

 「16人……、パーティ二組分ですか。ところで全員にこのテントを買わせたことには何か意味があるんですか。話を聞く限り今の人数なら一つだけで事足りたと思うんですけど……」


 取り敢えずのテントについての説明を終えたリアは皆の情報を自身のテントに登録することにした。これによりナギ達はログイン時リアがテントを張っていればその場所からスタートできるというわけだ。リアはこのテントをナギ達全員に一つずつ購入させていたようだ。アイナはそのことを疑問を問い掛けていたが一体何故なのだろうか。


 「流石アイナ。いいところに気が付いたわね。確かに仲間を集めて探索にでる場合その人数を登録できるだけのテントの数があれば足りるわ。性能のいいテントだと一つで何十人って収容できるんだけど今の私達の人数ならこのテント一つで十分よね。だけど基本的にテント、簡易宿泊用のアイテムって言った方がいいかもね。それらのアイテムは一人一つずつは所持しておいた方がいいのよ」

 「他のパーティと組んだ時に誰も持ってなかったら困るからでしょ。でもどちらにせよ城の外に出る前に誰かテントを持ってないか確認しておけばいいんじゃないの。人数分収容できるだけのテントがあればそれで済むんでしょ」

 「じゃあもしパーティでテントを所持しているプレイヤーが急用ができたとかでテントを渡さずにログアウトしちゃったりしたら」

 「あっ……」

 「それだけじゃないわ。もしそのプレイヤーが戦闘不能になって蘇生を受けれずに死亡しちゃったりしてもテントがなくなっちゃうでしょ。そうなったらそのプレイヤーはまた拠点から再スタートよ。でも予め皆のテントに登録しておけばすぐにパーティに合流できるしょ」

 「じゃけどどうせ死亡してもうたら1か月ログインできひんのじゃろ。それじゃとあんまり意味がない気がするんじゃけど……」

 「確かにこの程度の距離を移動するだけなら効果はさほどないけど、このゲームはマップがとてつもなく広大なのはもう皆知ってるでしょ。遠征に出掛ける時なんかは確実にこのテントの有無が様々な成果に影響してくるわ」

 「うむっ、リアの言う通りだ。もしもの時の為に常にパーティ全員がテントを所持しているか確認しておくようにしよう。できればヴァルハラ国のプレイヤー全てにテントを所持しておいて欲しいものだな」

 「だにゃっ!」


 どうやらナギ達は皆リアの説明に納得したようだった。そうでなくともこのゲームの広大さを考えるとテントは常に携帯しておきたいアイテムの一つだろう。他にも今リアが出した焚火や丸太など一通りのサバイバルグッズのようなものは揃えておきたいところだ。テントもより上位のものが存在しているようだし武器や防具だけでなくこういったサポートアイテムにも気を配らせるべきだろう。


 「それじゃあ暫く自由行動と致しますか。今の時刻が4時30分……、日が沈み始める前の6時ぐらいまでにしましょうか。そしたら食事の準備を始めましょう。このキャンプの半径200メートルより外に魔物は皆移動したはずだから皆気を抜いて休んでていいわよ。場合によっては自分からキャンプを襲撃してくるモンスターもいるけど今の段階ならまだ大丈夫でしょう。はい、それじゃあ6時まで皆解散っ!」

 「よっしゃぁっ!。早速テントの中見に行こうぜ、ナミ」

 「いいわよ。でもどうせ寝床用のシートが置いてあるだけでしょ」

 「僕達はどうしようか、デビにゃん」

 「にゃっ、それじゃあ僕と一緒に辺りの草原を探索するにゃ。もしかしたら錬金術に使える植物が見つかるかもしれないにゃ」

 「いいよ。でも入手したアイテムって国に納品しないといけないんじゃなかったっけ?」

 「そういうわけでもないわ。ついでだからそのことについても食事の時に説明しようかしら。私はテントの中で少し休ませてもらうわ。あなた達も中であんまり騒がないでよ、ナミにレイチェル」

 「は〜い」


 こうしてナギ達は暫くの間自由行動を取ることになった。ナギとデビにゃんは辺りの草原で錬金術の素材集めを、ボンじぃは川辺の辺りの散歩するようだった。女性陣6人は皆一度テントの中に入って行った。皆一体何をして過ごしているのだろうか。


 「いっやぁ〜、なんだかんだで今日は疲れたわね。見た目は簡素だけどこの布団案外寝心地いいわね。枕もちょうど良い堅さで気持ちいいわ〜」

 「本間じゃね。これならぐっすり眠れそうじゃけぇ」

 「やっぱり馬子さんもそう思う。あんたはどう?、この寝床の感触は。……レイチェル?」

 「ぐがぁ〜……ぐがぁ〜……」

 「……こいつもう眠っちゃってるわ。しかも大きいいびき」

 「やっぱりなんだかんだで疲れとったんじゃね。あんな大技2回も放ったんじゃけぇ仕方ないよ」

 「どうでもいいけど寝息がうるさすぎてこっちが全然休まんないわ。悪いけど私耳栓するから話掛ける時は肩でも叩いてね」


 テントの中へと入ったレイチェルは布団に寝転がるや否や1分と立たずに眠りについてしまった。見かけでは元気に振る舞っていてもかなり疲れが溜まっていたようだ。っと言うより横になったことにより今まで感じていなかった疲れがドッと襲ってきたのだろう。疲労回復魔法で取り除くことの出来る疲れには限りがあるようだ。レイチェルだけでなくリアも疲れが溜まっていたようで、布団の上に座椅子を出現させて眠るようにもたれ掛ってしまった。レイチェルの寝息がうるさかったので耳栓をしていた。これらのアイテムはリアが初期から所持しているものでナギ達が手に入れようと思えばそれなりのお金が掛かる。


 「リアの奴他にもあんなアイテム持ってたのね。私もあの座椅子みたいに色んな携帯アイテム手に入れたいな。マッサージチェアーとかもアイテム化して持ち運べたりするのかしら」

 「どうじゃろうね。……うん?、アイナは何してるん。なんか本を読んでるみたいだけど」

 「これは今日古本屋で買った物語の本です。面白そうだったのでつい買っちゃいました。プレイヤーには何の効果もない書物なので100円で売ってたんです」

 「やっぱりアイテム以外にも一杯売ってるのね。……ってあんた何してんのよセイナ。なんかさっきからボリボリ何か食べてる見たいだけど……」

 「“ボリ……ボリッ……”んん、これは街で買い物した時に買ったポテトチップスだ。他にも一杯お菓子を買っておいたのだ」

 「ああ……、そう……。まぁいいわ、折角だから私達にもちょっとちょうだいよ」

 

 アイナはどうやら街の古本屋で召喚術の書物を買った時にプレイヤーには効果のない普通の本も買っていたようでそれを読んでいた。デビルズストーリーという悪魔として生まれた少年が旅をしながら全と悪について考えていく哲学的な物語のようだ。セイナはと言うと街で駄菓子を買い漁っていたようでポテトチップスを袋を片手に貪っていた。どうやら現実世界で売っているものはほとんどゲームの中でも再現されているようだ。これは金銭管理の難しさが他のゲームに比べて格段と難しくなりそうだ。


 “パシャ……、バシャバシャバシャ……”

 「ふぅ〜、流石電子現実世界と言うだけあってこの世界の水は今までプレイしたどのVRMMOをよりも綺麗じゃわい。魚も沢山おるようじゃしこりゃ早く釣竿を仕入れんといかんのぅ」


 その頃ボンじぃはキャンプの近くの川の水で顔を洗っていた。この辺りの川は霊力は通っていなかったがそれでも水の中は澄み渡っていて顔を洗っただけで全身の疲れが洗い流されるようだった。ボンじぃはその後も川辺を散歩してこのゲームの大親善を満喫していたのだった。


 「にゃっ!。これは青々草、こっちは水玉草にゃ。どれも水属性の魔力を高く含んだ植物にゃ。やっぱり川の近くだけあって水に関する素材が沢山あるにゃ」

 「う〜ん……、デビにゃんはよくそんなに見つけられるな〜。僕なんてどれが素材になる植物かなんて全然分かんないよ。さっきだって折角草をむしり取ったのにアイテム化出来なかったし……」

 「にゃっ!。それなら端末パネルに便利な機能があるにゃ。サーチ・スコープって言って、端末パネル越しに辺りが見れるようになってアイテム化できる物がレンズに映ると反応してくれるにゃ。すぐに使えるはずだから一度使ってみるにゃ」

 「分かったよ。えーっと……、サーチ・スコープはと」


 錬金術の素材になる植物を探していたナギとデビにゃんだったが、どうやら上手く素材アイテムを採取できているデビにゃんに対しプレイヤーであるナギはこのゲームのアイテムに関する知識がなくどれが素材となるアイテムか区別できていなかった。だがプレイヤー用にアイテムサーチ用の機能が端末パネルから起動できるようで、デビにゃんに言われてナギは早速起動してみた。


 「う〜ん……、この画面越しに辺りを見ていけばいいんだよね。……あっ、何か反応したぞっ!。アイテム化できる植物の部分だけ画面の色が変わった。えーっと、多分この辺のはず……これだっ!」

 「にゃっ!。一体どんな植物を手に入れたにゃ、ナギ」

 「今確認してみるよ。……クリアブル草だって。なんだか透明な水色をしているね。本当に植物なのかな」

 「クリアブル草にゃっ!。別名クリア・ブルーとも言われる住み切った水辺の近くでないと入手できないとっても珍しい植物にゃ。貴重な錬金アイテムの素材にもなるし、恐らく店で5、6万ぐらいで売却も出来るのにゃっ!。流石にゃ、ナギ」

 「そ、そんなに凄いアイテムだったの。でもこうしてアイテムを探すだけでもとっても楽しいね。……うん?、あれは……」

 「どうしたにゃ、ナギ?」

 「いや、なんか空を大きな鳥が飛んでるな〜って。全身真っ黒で巨大な鴉みたい」

 「にゃっ……にゃぁぁぁぁっ、あの鳥はぁぁぁぁっ」

 「ど、どうしたの、デビにゃん」

 「あの鳥はトレジャー・クロウって言って世界中の貴重なお宝を漁り回っている鳥型のモンスターにゃっ!。倒すと貴重な宝の沢山入った宝箱をドロップするはずにゃ。なんとしても討伐するにゃ、ナギっ!」

 「えっ……、でもあんな高いところにいたんじゃ攻撃のしようがないよ。多分魔法も届かないだろうし、今の僕達じゃどうしようもないんじゃないのかな……」


 なんと草原を探索していたナギとデビにゃんの上空にトレジャー・クロウという貴重なお宝を蓄えた鳥型のモンスターが飛行してきたのだった。デビにゃんはなんとしても倒すようにナギを促してきたがあいにくナギにはあれ程の遠距離に攻撃する術はない。他のパーティメンバーも恐らく持ち合わせていないだろう。弓術師の職に就いているものでないと攻撃を当てるのは厳しいのではないだろうか。こうしている間にもトレジャー・クロウは飛び去ってしまいそうだが果たしてナギは無事倒すことができるのだろうか。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ