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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第二章 ヴァルハラ国建国っ!、そして初めての内政っ!
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finding of a nation 11話

“カァン…、キィン…、カァーーーーーーンっ!”

 「はあぁぁぁっ!、てやっ!、たあぁぁぁぁぁぁっ!」

 「うぉりゃっ!、とうぉゅ!、うおぉぉぉぉぉぉっ!」


 一方城の演習場ではセイナが実際のプレイヤーを相手に1対1の模擬戦闘を繰り広げていた。相手は戦斧士のようで、片手用ではなく両手用の重量のある大斧を振るってセイナと互角に剣戟を繰り広げていた。


 “キィーーーーーンっ!”

 「くっ…、流石天だく…。やはり一筋縄ではいかないようだな…」

 「へっ…、そういうてめぇは更に化け物みたいに腕を上げたようだな。だがこの試合の勝った方の職の軍事内政値が大量に伸びると聞いちゃ俺も負けるわけにはいかねぇ…。この戦い…、この国の戦斧士達を代表して何としてもお前を倒すっ!」

 「ふっ…、ぬかせっ!。戦闘において最も使用される武器は剣だ。私はこのヴァルハラ国の者達が最も効率戦える為に剣のスキルを強化せねばならぬのだ」

 「てめぇは自分が使える技を増やすことしか考えてねぇだろうがぁっ!」


 セイナが選択した戦闘技術の内政の仕事は主にプレイヤーやNPCの兵士達と模擬戦闘を繰り広げることで上昇していくらしい。特に今セイナ達がやっているプレイヤー同士の模擬戦闘は内政値の上昇量が大きいようだが、ポイントを入手できるのは戦闘に勝利したプレイヤーの職に関係する項目だけのようだ。つまりセイナが勝てば主に剣士の内政値が大きく伸び、その内政値に応じて剣士の職業に就いてる者、そして剣士から派生していく上級職に就いてる者の基礎ステータスが上昇していくようだ。内政値が一定値に達することで使用できる技が増えたり、国のトップがその職の特性を取得することで新たなアビリティが付与されたりするようだ。セイナが今戦っている相手は団体賞の1位に輝いたパーティメンバーの天丼、汁だくで…のようで、どうやら知り合いだったらしくセイナは天だくと名前を略して呼んでいた。互いに相手を強敵だと認識しているようだった、どちらも自分の職を強化したいため決して負ける気はないようだった。この模擬戦闘では平等を規す為にステータスが同レベルで何の補正の掛かっていないものに設定され、装備も規定されたものになるようだった。だが覚えたスキルやアビリティのレベルや種類はそのままのようで、若干レベルの高いセイナの方が有利のようだ。


 「とうぉりゃぁぁぁぁぁっ!」

 「ぐぅ…、うわぁっ!」


 互角の剣戟を繰り広げていたセイナと天だくだったが、天だくが力いっぱい大斧を振るとセイナは剣で防御したにも関わらず数十メートル程遠くに吹っ飛ばされてしまった。完全に体勢を崩しており地面にうつ伏せに倒れてしまっていた。


 「よっしゃぁぁぁぁぁっ!、今がチャンスっ!。これで止めを刺してやるぜ」


 これが勝機と見た天だくは重い斧を背負って突っ込んでいった。重量級の斧と鎧を纏った天だくは歩く度にドスドスと大きな音を立てていたが、そのスピードは他の職業と引けを取らず見た目以上のスピードでセイナへと向かって行った。


 「くっ…、ぬおぉぉぉぉぉぉぉっ!。ブレイズ…っ、ストライィィィィィクっ!」


 天だくが突っ込んで来るを見てセイナは急いで剣を取り、その剣を床に突き立てて立ち上がるとそのまま地面を蹴って更に勢いをつけ、剣の切先を天だく向かって突き立てて身体を地面から少し宙に浮かせたまま突っ込んでいった。どうやらブレイズストライクという突きを放つ突進技のようだ。


 「ふっ…、焦ったなセイナっ!。もうその勢いは殺すことはできねぇ…。お前が俺に突っ込んできた瞬間この大斧を振り下ろしてお前を粉々に粉砕してやるぜっ!」


 セイナが突っ込んで来るのを見ると天だくは足を止め、そのまま両足を広げて斧を頭の上に振り上げ、セイナが自分のところまで来るのを待ち構えていた。どうやらセイナが自分の目の前に来た瞬間斧を振り下ろして止めを刺すつもりのようだ。だがセイナはそんなことお構いなしに勢いよく天だくへと突っ込んでいっていた。


 「うおぉぉぉぉぉぉっ!」

 「ふんぬっ…、俺が今使える最強の技、アックスクラッシャー…。自身の力を最大限に込めて両手で斧を振り下ろす大技…。力を溜めるのに多少時間が掛かるがお前がここへくるまでには十分力が蓄えられているぜ…。この国のことは俺達戦斧士に任せて、お前達剣士は包丁さばきでも磨いて魚でも下ろしてなっ!」


 天だくは大きく息を吸い込むと大斧を持っている自身の両手に物凄い力を込め始めた。すると天だくの構えている大斧に風のようなものが纏わりついていき凄まじいオーラを放ちだしだ。


 「うおぉぉぉぉぉぉっ!」


 セイナはその凄まじいオーラを見たにも関わらず全く臆することなく天だくに向かって行っていた。恐らく天だくの言う通りもう止まることはできないのだろうが、その目には何か秘策が秘められているようだった。そしてとうとう天だくとの距離が3メートルというところまでセイナが迫って来た。


 「今だっ!。はぁぁぁぁぁ…、アックスっ…、クラッシャァァァァァァァっ!」


 セイナがすぐ目の前というところまで来ると、天だくは蓄えていた力を解放して凄い勢いで大斧をセイナに向けて振り下ろした。振り下ろす瞬間今まで斧に解き放たれたオーラが爆発したように周囲に突風を起こしていた。


 「これで終わりだぁぁぁぁっ!」

 「ふふっ…、はあっ!」

 「何っ!」


 天だくの大斧がセイナの顔を真っ二つにするかと思われた直前、なんとセイナは急激に姿勢を変化させ天だくの斧を躱した。今までの突進する為に体を前に突き出した姿勢から、少し前屈まえかがみではあったが地面に足をついて立っている状態になっていた。振り下ろされた天だくの斧はセイナの顔の目の前を通るとそのまま空を切りながら地面へと向かって行った。


 「こ、これはポーズリセット…っ!。今体に働いている力と逆方向に、全く同じ力を加えることで力を相殺し、瞬時に通常の体勢…、全身の力が抜けて普通に立っている状態に戻すリアルキネステジーシステムを使った超高等技術…。もうそれ程の感覚を掴んだって言うのかっ、こいつは…っ!」


 このゲームに採用されているリアルキネステジーシステムは、ゲーム内のキャラクターのアクションを現実世界と同じ感覚で操作できるシステムであったが、正確には現実世界を遥かに超えた超精密かつ超高感度の感覚でゲームをプレイ出来るシステムである。たった今セイナが繰り出した技術であるポーズリセットもそのシステムを使いこなしたもので、自身に働いている力のベクトルと全く逆向きのベクトルの力を発生させることで力を相殺し、このゲームにおける通常の体勢、地面を足について少し前屈みで立っている状態に瞬時に戻す高等テクニックである。ヴァーチャル・リアリティ・システムの採用されていない、テレビ画面などでコントローラーを使ってプレイするゲームのように、ボタン一つでキャラクターの操作が瞬時に完了してしまうようなものである。実はこの世界のゲームのアクションというのは技術が進歩していくとともにより現実に近いものに進化していき、筋力、そして重力などの要素が追加されていく度に精度のいいものに進化していったが、それと同時に操作の難易度はより難しいものへと変化していった。特に重力の要素が追加されてからは操作の難易度は急激に上昇し、その度に高度な技術を使用できるプレイヤー達は減少していった。そしてついに現実世界と全く同じ感覚を取り入れたリアルキネステジーシステムが導入されたのだ。つまりセイナは現実世界より精密ではあるがほぼ同じ感覚でポーズリセットのような超高等技術を使いこなしてるということである。このような技術はリアルキネステジーシステムだからこそ可能なことでもあり、現実の世界では自身に全く逆方向の力を込めて、ましてや宙に浮いている状態で瞬時に動きを止めるなど不可能なことである。


 「くっ…、スキルを使用した状態でこの技術を使おうと思ったらスキルの使用感覚を完全に身体にすりこませた上、スキルレベルをかなり上昇させておかなければ不可能…。だが俺はこのスキルは覚えたてで使用回数も少なくレベルも低い…。俺はポーズリセットどころか発動後の反動を制御できず身体が硬直してしまう…」


 特技スキルの使用はそのスキルの感覚をどれだけ身体で把握できているかとスキルレベルの高さによってその応用力がかなり変化する。スキルの感覚は使用すればするほど身体で覚えられていくが、その感覚の掴み具合はプレイヤーのセンスに依存する。一回使用しただけで完全に感覚をマスターできるものいれば、100回使用してもまともに使用できないものもいる。人によって得手不得手の特技もあるようだ。スキルレベルはその特技や魔法で敵に止めを刺すことで上昇していく。与えたダメージ量によっても多少ではあるが経験点を得られる。スキルレベルが上昇するとスキルの感覚が身体に伝わり易くなり、よりスキルの使用感覚を覚えやすくなる。スキルの使用感覚を掴むことによってセイナのようにポーズリセットのような技術がやり易くなったり、特技の発動の早さ、セイナであれば剣の振りが早くなりより精度の高い攻撃が出来るようになる。またスキルによるダメージの制御もより精密に行えるようになる。セイナがブレイズストライクを覚えたのはナギに貰ったバーサクミートを食べさせたモンスターを討伐している時で、恐らく数十回は使用しており、スキルレベルの凶暴化したモンスターを倒したことによりかなり上昇しているだろう。一方天だくがアックスクラッシャーの特技を覚えたのは討伐終了直前で、使用回数は今回で2回目、スキルレベルもほぼ初期の状態だった。これではセイナのようにポーズリセットをするのは不可能で、この特技は威力が高い分反動も大きいため、天だくは反動を制御できずに身体が硬直してしまい、3秒以上は無防備な状態を晒すことになるだろう。


 「……駄目だっ!。やっぱり止まれねぇ…。下手にポーズリセットなんてやろうとしたら特技が暴発して自滅した上、身体が完全に麻痺してしまう。このまま振り下ろすしかねぇ…」

 「ふふっ…」

 “ズドォォォォォォンッ!”


 ポーズリセットをすることは不可能だと判断した天だくは仕方なく斧をセイナではなく地面に向かって叩きつけた。天だくの大斧が地面に叩きつけられると周囲に激しい突風が吹き出し、更に正面のセイナに向かって風圧による斬撃が放たれた。だがその斬撃はセイナに僅かなダメージしか与えず、なんとはセイナは全身の力を抜いて軽く上に飛ぶと、その風圧と突風を利用するかのように上空へと吹き飛ばされていった。


 「な、なんだと…っ!。俺の巻き起こす風を利用して空へ飛んだってのか。あんな重そうな鎧を着てやがるのにまるで紙切れのように飛ばされて行きやがって…。だがあそこからまた体勢を整えられるってのかっ!」

 「はあぁぁぁぁぁぁっ!」

 「くっ…、何て野郎だ…」


 紙切れのように上空へと吹き飛ばされていたセイナだったが、むしろ風に乗って空へと運んでもらったようで、十数メートル程上級まで来ると全身に力を込め風の流れから体を解き放った。そして討伐の時にナギとレイチェルに襲い掛かっていた凶暴化したデノンザウスルスを真っ二つにした時のように、空中で剣を真上に構えると、体から凄まじいオーラの風を起こし、天だくによって放たれた風も吸収するように剣気となって剣へと纏っていった。そしてその剣気は銀色の光凄まじい輝きを放ちながら、セイナの掛け声と共に地上で硬直状態となっている天だくへと振り下ろされていった。


 「ブレイズっ…、キャリバーァァァァァァァッ!」

 「くっそがぁぁぁ…っ!。間に合ってくれ…」


 天だくは何とか斧を上空に向かって構えてセイナの斬撃を防ごうとしたが、やはり硬直状態のため身体が思うように動かず、体が動くようになったと思った時にはもう間に合わなかった。


 「これで…、終わりだぁぁぁぁぁぁっ!」

 「ぐはぁぁぁぁぁぁぁ………っ!」

 “ズバァァァァァァァァァン…っ!”

 挿絵(By みてみん)


 硬直が解けた天だくは斧を構えようとして、少しだけ大斧が地面から持ち上がった瞬間、セイナの銀色に光輝く剣によって斬り裂かれてしまった。セイナの剣は天だくの首と右肩の間辺りに振り下ろされるとそのまま地面まで凄い勢い振りぬかれていった。天だくの体には白く輝くセイナの真っ直ぐな斬撃の後のエフェクトが刻まれており、戦斧士の重装甲の鎧による高い防御力があるにも関わらず一気にHPを0まで削られてしまった。HPが0になった天だくはそのまま気を失い、自身の斧のセイナのいる反対側へと倒れ込んでいった。この勝負…、セイナの勝ちのようだ。


 「それまで…っ!。只今の模擬戦闘の勝者はセイナ・ミ・キャッスルとする。よってこの試合の軍事内政ポイントは剣士の職へと割り振られることとするっ!」

 “パチパチパチパチッ”

 「うおぉぉぉぉぉぉっ!。流石美城聖南だぜっ!。俺達剣士にとって女神のような存在だ」

 「その通りだ。我々は剣士の職に就けたことを誇りに思うべきかもしれない。この試合を見て多くの者が理解しただろう。この国の主力は剣士の職に就いている者達であろうと」


 セイナの勝利が決まった瞬間、周りで戦闘の様子を見守っていたプレイヤー達が盛大な拍手を始め、大声で歓喜の声を叫びだした。特に剣士の職に就いているプレイヤー達はセイナと同じ職に就いていたことを誇りに思い、セイナのことを褒め称えていたが、中には天だくの健闘にも賞賛の言葉を送る者もいた。


 「いや…、それにしてもこの試合自体とても見応えのある素晴らしいものだった。負けはしたが天だくの戦いも見事だった。流石団体賞の1位と2位に入賞したパーティメンバー達だ。これ程の試合を披露したのなら戦斧士の内政値もかなり上昇したのではないだろうか…」


 この模擬戦闘は勝利したプレイヤーの就いている職の内政値が大きく上昇するようだが、その上昇幅は試合の内容によって大きく変化し、それによって敗北したプレイヤーの職の内政値も上昇したらしい。今の試合なら敗北した天だくの職業である戦斧士の内政値も、通常のプレイヤー達が行う模擬戦闘の勝者の職と同じぐらいは上昇したのではないだろうか。勿論セイナの職の内政値はそれ以上に大きく上昇しているわけではあるが…。


 “シュイ〜ン……”

 「はぁ…、はぁ…。くそっ、やっぱり負けちまったか…」


 模擬戦闘が終わるとこの仕事の管理者である文官NPCの近くに天だくのキャラクターが復活していた。息遣いこそ荒かったが体力は全快しているようだ。この戦闘による死亡ペナルティは当然何一つない。そしてセイナの体力も全快まで回復していた。


 「惜しかったな、天だく。お前の大斧に吹っ飛ばされた時は私も負けてしまうかと思ったぞ」

 「ふぅ〜…、よく言うぜ…。まさかもうスキル使用時のポーズリセットをマスターしているとはな…。初めから俺に勝ち目はなかったってわけか…」

 「うむ、では戦闘は私達剣士に任せてお前は薪割りでもしているのだな。私は一度竈かまどで焚いたお風呂に入ってみたいと思っていたのだ。ついでに湯番も頼むぞ。私は熱い湯が好きだからよろしくな」

 「てめぇっ!、結局最後は嫌味を言って帰るのかよっ!。少しは謙虚になったかと思えばすぐこれだ」

 「先に魚でも下ろしてろと言ってきたのは貴様の方ではないか。それでは私はもう行くぞ。また機会があったらここで対戦しよう。さらばだ」


 そう言うとセイナは演習場の外へと出て行ってしまった。セイナの内政チュートリアルは終わったようだがあの様子だとこの国の職の内政値は剣士ばかりが大きく上昇してしまうことになるだろう。ヴァルハラ国の特性を考えるとできれば槍術士の職に伸びてほしいのだが…。そう言えばゲイルドリヴルは何の内政職に就いたのだろうか。

 

 

 セイナが模擬戦闘をしている時、同じく城内の魔法研究所ではカイルが攻撃魔法の研究をしていた。魔法技術もセイナの選択した戦闘技術のように強化したい魔法の属性を選択して対戦する模擬魔術戦闘があるのだが、カイルはそのようなことはせず火属性の魔法の研究をしていた。攻撃魔法の内政値はまず9つの属性があり、そこから更に魔法の威力、消費MP、詠唱時間の3つの値に分かれている。火属性魔法の内政値を上昇させるための方法はそれぞれ異なる。まず威力を上昇させるための点火、消費MPを減少させるための炎の維持、そして詠唱時間を短縮させるための火の消火作業である。カイルは火属性魔法の威力上昇させるため、酸素のない空間の中に手を入れ、その中で炎を発生させる訓練をしていた。通常火を燃焼させるためには可燃性物質、酸素、可燃性物質の発火点以上の温度の3要素が必要と言われているが、カイルが手を入れている空間には酸素もなければ火を燃やすための物質もなく、可燃性物質がないため発火点もなく温度は周囲と同じ温度に設定されていた。現実世界でこの状態から火を起こすことは当然不可能は。この世界の火属性魔法も周囲の空気に含まれている酸素を一定は利用していたため、酸素のない状態で詠唱もせず手に魔力を集中させるだけで火を起こすこの訓練は火属性魔法の威力を上昇させるのにはうってつけのようだった。その空間の中でどれ程短時間により大きな火を起こせるかで火属性魔法の内政値の上昇が決まるらしく、カイルはずっと目を瞑って酸素のない空間に入れた手に魔力を集中していた。因みに消費MPを減少させる維持の訓練は、火の灯った蝋燭に魔力を込め、制限時間までに蝋燭の消耗をどれだけ抑えられたかで上昇値が決まる。詠唱時間を強化する消火の訓練は魔力のみでどれだけ早く火を消すことができるかで内政値の上昇率が決まる。

 一方の学問を選択したアイナは城内の学習場でこの世界の文学や哲学などについて勉強していた。本当は実際に自分が城下の学校の教師となって、国民達に学問を教えるのだが、まだ城下町に学校は建設されておらず、まずはこの世界で教師の資格試験にも合格しなければならなかった。今は担当の文官NPCの授業を受け、その後に行われるテストの結果で内政値の上昇が決まるようだ。学問の内政値が上昇すれば自国の国民のINT、知性の値が上昇しより理性的な行動を取るようになり仕事の効率などが良くなる。更にはトラブルの発生件数も減り治安の上昇にも繋がる。兵士を徴兵した場合はより効果的な戦術を取るようになり、使用する魔法の威力も上昇する。


 

 「にゃあ〜…、魔導器の職に就いたはいいけど最初は城内に錬金術用の設備を設置するところから始まる何て…。しかも錬金釜の設置の担当になるなんてついてないにゃ。これならナギに付いて行ったほうが良かったにゃ」


 他のメンバーが順調に内政の仕事をこなしている中魔導器を選択したデビにゃんは錬金術を使用するための錬金釜の設置を担当していた。どうやらちょうど終わったようだったが…。


 「ふぅ〜…、でもこれで副業が錬金術師の僕は自由に自分の用の錬金アイテムを作成できるにゃ。流石に最初の内は混んでてなかなか使えないだろうけど一日一回ぐらいは順番が回ってくるはずにゃ。他のプレイヤー達も設置してくれてるだろうし、城下町にある錬金術屋にも行けば錬金釜や抽出器、素材の加工台も貸してもらるのにゃ」


 錬金術に使う設備は大きく分けて3つ、素材の魔力を液体として取り出す抽出器、素材をすり潰す乳鉢と乳棒、素材の形状を整えるための錬金包丁や錬金槌などの備え付けられた加工台、そして素材を調合するための錬金釜である。錬金術は城内に備え付けられているそれらの設備か城下町にある錬金術の店の設備を借りることで行うことができる。ただし錬金術の内政を行う場合は城内の設備が使用される。ただし城下町に発展した大きな錬金術店などでは内政の仕事に貸し出されていることがある。


 「さっ、今日の僕の仕事は終わったし取りあえずナギの所に帰るにゃ。できればカイルやセイナ、アイナとも合流しておきたいんだけどにゃ〜…って誰か来たにゃ」

 「あら〜…、錬金術の使用できる錬金場ってここかしら…。何だか人気がない部屋だけど誰かいないのかしら」


 錬金釜の設置が終わったデビにゃんがこの小さい錬金場を出ようとすると何やら非常におっとりした雰囲気の女性プレイヤーが入って来た。部屋の中を見渡していたが体の小さいデビにゃんには気付かなかったようだ。


 「にゃっ!。僕だったらここにいるにゃ。プレイヤーじゃなくて申し訳ないけどここの錬金釜は僕が設置したにゃ。一体ここに何しに来たにゃ。僕はデビルキャットのデビにゃんっていうにゃ」

 「あら、ごめんなさい。私はリリス・リリアント、職業は霊術師です。内政職を錬金技術に選択してて、今日はお勉強だけで終わる予定だったんだけど、錬金釜の設置が終わった所で特別に錬金術を使っていいって言われたからここに来たの。素材もいくつか貰って来ちゃった♪」


 デビにゃんが錬金釜を設置した部屋に来たプレイヤーは名前をリリス・リリアントと言い、錬金技術の内政職を選択していたため早速デビにゃんの設置した錬金釜を使って錬金術の研究をしに来たらしい。先程も言ったがかなりおっとりした雰囲気の女性で、少し目じりが下がってたれ目のようだったが、常に大きな瞳を潤わせていてひと時も笑顔を絶やさなかった。っというか普段の顔がすでに笑顔に固定されてしまっているようだった。髪型は少しパーマの掛かった赤茶色のロングヘアーで、腰の辺りまで伸びていた。天然っぽい雰囲気が漂っており、少し動きがゆっくりしていた。


 「れ、霊術師って周囲漂っている魔物の幽霊を操って攻撃する職業のことにゃっ!。おっとりした顔して怖い職に就いてるのにゃ…。錬金釜ならさっきも言った通りもう設置が終わったから好きに使っていいにゃ。折角だから僕も少し見ていくにゃ」

 「あら本当っ!。実は私ゲームで錬金術何て使うの初めてで、何だか緊張してたの。デビにゃんちゃんが見ていてくれるなら私も頼もしいわ。失敗しないようにちゃんと見ててね」

 「にゃ、にゃぁ…。錬金術って大抵のMMOで実装されてると思うんだけどにゃぁ…。何だか頼りない人だにゃ」


 デビにゃんは成り行きでリリスの錬金術の仕事を見ていくことになった。どうやらデビにゃんも自分の設置した錬金釜がちゃんと機能するか気になるようだ。


 「ええっと…、まずは竈に火を付けて火の魔力を供給するのよね…」

 「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!、なにやってるにゃぁぁぁぁぁっ!。それじゃあ空焚きになってしまうにゃぁぁぁぁっ、まず錬金術用の水の魔力の篭った水を釜に入れなきゃいけないにゃ」

 「あら…、そうだったの…。でもごめんなさい、もう火を入れちゃったわ」

 「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!、だったら早くそこのパイプの蛇口を捻って水を入れるにゃぁぁぁっ!。早くしないと火事になっちゃうにゃぁぁぁぁっ!」


 錬金術を始めようとしたリリスだったが、いきなり錬金釜を空焚きしようとしてしまいデビにゃんを大声で驚かせてしまった。どうやら見た目以上にリリスは天然な性格のようだ。ドジというわけではなく本当に自分が取った行動が失敗かどうかも分かっていないのだろう。デビにゃんは初めからリリスのことを頼りなくは感じていたのだが、リリスの行動に驚かされるのはこれだけで済まなかった…。


 「じゃあ次は素材を入れて…、雷の魔力を発生させるためにこの釜の周りの蒸気制御装置のスイッチを入れて雷雲を作ればいいのよね…、えいっ!」

 「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!、そんなに出力あげたら雷がこっちにも飛んでくる…ってにゃぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…っ!」

 “ビリビリビリビリビリッ!”


 リリスが蒸気制御装置の出力を上げ過ぎてしまったため、本来なら竈の上で小規模の雷の魔力の放電が発生するだけのはずが、雷の魔力が暴発してデビにゃんにまで襲いかかった。デビにゃんは雷の魔力により体に電流が走ったような痛みが襲いかかり、まるで感電したように体をピクピクさせていた。因みにこの世界の雷の魔力はあくまで属性であって現実の電気の性質とは異なっている。


 「次は結合用の土の魔力の篭った固形物を入れて…」

 「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!、入れ過ぎにゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 「今度は氷の魔力で発動する冷却装置のスイッチを入れて…」

 「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!、こんなに竈の熱が上昇した状態で急激に冷やしたら…」

 “ボカァァァァァァンっ!”

 「にゅわぁぁぁぁぁぁぁん……っ!」


 なんとリリスが冷却装置のスイッチを押した瞬間錬金釜は爆発してしまった。折角設置した錬金釜は粉々に壊れてしまい、爆発に巻き込まれたデビにゃんとリリスは黒焦げになってしまっていた。


 「にゃぁ…、折角僕が設置した錬金釜がぁ…」

 「あらあら…、壊れちゃったわね。器具の調子が悪かったのかしら」

 「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!、どう見てもあんたのせいにゃぁぁぁぁっ。一体どうしてくれるにゃぁぁぁぁぁっ!」


 デビにゃんは錬金釜が壊れたのはどう考えてもリリスのせいだと怒鳴り散らしていた。実際に初心者のプレイヤーでもここまで酷い錬金術を使用することはなかったためリリスの天然度は余程のものなのだろう。そしてやはり自分が悪いと全く認識できていなかった…。するとそこに何者かが近づいてくる足音がしてきた。


 「にゃっ…、誰か来るにゃ…」

 「……これはどういうことですかな、デビにゃんさん」

 「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!。魔導器の担当の文官NPCにゃっ!。あ、あの…、これは決して僕のせいではなくて、ここにいるリリスってプレイヤーが…」

 「それは分かっています。ですがあなたはまだ錬金釜の設置完了の報告をしていなかった…。よってこの状況はあなたがまだ錬金釜の設置が終わっていないと判断され、今日中にもう一度設置しなおさなければ功績ポイントが引かれてしまいます」


 通常のゲーム内の設備を損傷させたり破壊してしまった場合、その行為を行ったプレイヤーから大量の功績ポイントが差し引かれ、損害を賠償できるまで支給される給料のも減額されてしまう。だが今回はデビにゃんの作業完了の報告を行っていなかったため、リリスには何のペナルティもなく、あくまでデビにゃんの錬金釜の設置の仕事が終わっていない状況になってしまったようだ。


 「にゃぁ…、錬金釜の設置って結構大変なんだけどにゃ…。さっきも3時間近く掛かっちゃったしにゃ…」


 錬金釜の設置に作業には大変な過程があり、まず火の魔力を供給するための竈、水の魔力の篭った液体を供給するためのパイプと蛇口、調合中の竈の上で雷の魔力を発生させるための蒸気発生装置、素材の結合を強めるための土の魔力の篭った固形物の保管庫、更には竈の温度を調節するための氷の魔力を使った冷却装置、最後に錬金術によって発生する特殊な蒸気を喚起するための風の魔力を使用した喚起窓、初期の錬金釜でもこれだけの器具を揃えなければならない。しかも肝心の錬金釜はとてつもなく大きく、デビにゃんの体の倍くらいあった。プレイヤーより一回り以上小さいデビにゃんに取ってこの釜を運んでくる作業が一番苦痛だっただろう。


 「あらあら…、それは大変そうね。私も手伝いますから協力して頑張りましょう」

 「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!、元々あんたのせいにゃぁぁぁぁぁぁっ!」


 こうしてデビにゃんは再びリリスと共に錬金釜の設置の作業を再開した。他のプレイヤー達は順調に内政の仕事をこなせていたのに対し、デビにゃんに取って内政のチュートリアルはかなり苦行になりそうだった。デビにゃんはチュートリアルを受ける必要はなかったのだから適当に街で遊んでいても良かったのだが…。

 

 

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