1999
初投稿です。よろしくお願いします。
1999年の夏は、世界の終わりという馬鹿げた予言のせいか、街全体が浮足立っているようだった。
「おい、今夜、学校のプールに忍び込もうぜ」
コンビニの明かりの下、タカシがニヤニヤしながら言った。ただの退屈しのぎの提案だった。他の何人かも、それ最高じゃん、と同調しスリルを想像して目を輝かせている。
「いや、俺はパス。ちょっと用事あるし」
私はそう言って首を振った。胸の奥に、言葉にできない胸騒ぎがあったからだ。タカシたちは「ノリ悪いな」と笑いながら、暗い夜道へと消えていった。それが、私と彼らの運命が分かれた最初の分岐点だったのかもしれない。
友人たちと別れてから一時間ほど後、私は頼まれていた用事を済ませ、夜道を歩いていた。街灯の頼りない光がアスファルトを白く照らしている。その時、前方の暗闇から突然、鋭い光が差し込んできた。
カツ、カツ、と重い靴音が近づいてくる。光の主は二人の警察官だった。
「おい、ちょっといいか」
止められた瞬間、空気が凍りついた。警察官の表情は、普段のパトロールで見せるような退屈なものではなかった。眉間に深い皺を刻み、目がぎらぎらと警戒に光っている。まるで大事件発生が発生したかのような空気だ。
「どこから来た? こんな時間に何をしてるんだ」
警察官のトーンは尋問そのものだった。私の服装、そして手にしたカバンを、剥ぎ取るような視線でチェックしてくる。私の心臓は早鐘を打ち始めた。何も悪いことはしていないはずなのに、向けられた強い疑いの目が、私を犯罪者のように錯覚させる。
「さっき、学校の前の大通りで、全裸の不審者が走って逃げる事件があったんだ」
警察官は詰め寄るように言った。
「そいつはプールで何かやらかして、そのまま裸で捕まった。お前、そいつの仲間じゃないだろうな? 衣服を持って逃げた奴が近くにいるはずなんだ」
全裸の不審者。学校のプール。
そのキーワードが頭の中で弾けた瞬間、私の脳裏にさっきのタカシたちの顔が浮かんだ。直感が、冷徹なまでの確信を持って告げていた。
(あいつらだ。あいつらが、やったんだ)
暗闇のプール。夜の解放感と、悪ノリの果ての全裸での飛び込み。そこで予期せぬ通報のサイレンが響き渡り、パニックになった誰かが服を着る間もなく大通りへ激走していったのだろう。すべてのピースが最悪の形で噛み合っていく。
「違います。私は本当に、何も知りません」
震える声を必死に抑えながら、私は自分のアリバイを説明した。
「この交番に20年いるけどねえ、こんな大事件は初めてだよ」
警察官の鋭い視線がしばらく私を値踏みするように彷徨っていたが、やがて
「もう夜遅い、早く帰れ」
と、吐き捨てるように私を解放した。
背に冷汗が流れるのを感じながら、私は振り返らずに歩いた。もし一時間前、あの誘いに乗っていたら。タカシたちの悪ノリに、いいよと笑ってついて行っていたら。
今頃私は、あの冷たいパトカーの中で全裸の友と共に人生の終わりを呪っていたに違いない。
夜風が、私の着ているシャツを静かに揺らした。服を着ているという、ただそれだけの事実が、その夜の私にとっては奇跡に思えた。




