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生贄まであと一週間  作者: 猫宮さかな


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第1話 花嫁まであと一週間!~因習村転生とか聞いてない~

 気が付くとそこは因習村だった。


 自分でも意味が分からない。


 ほんと、なんでこんなことになったんだろう?


 ◆


 目を覚ますと知らない天井が目に飛び込んできた。

「……どこ?」

 徐々に意識が覚醒してきて、ようやく周りを観察し始める。

 やけに高い天井。だけど、天井に対して面積は狭い。部屋の中に家具もほとんどない。小さい箪笥と机が一つ。あとは布がかかってる姿見が一つ。

 布団から這い出て、姿見を覗き込む。

「やっば、違和感」

 鏡に映る自分の顔に見覚えがない。

 じゃあ自分の顔ってどんなよって言われても思い出せない。顔どころか名前とか何してたのかとか全部覚えてない。たぶん普通の女子高生だった気がするけど、気のせいかもしれない。普通の女子高生を自称する女子高生は違う気がする。

 とりあえず違和感は置いておいて、鏡に映る顔をまじまじと眺める。

「うわー、寝起きとは思えないくらい可愛いじゃん」

 長い黒髪は櫛を通さなくてもさらさらで、長いまつげに縁どられた瞳はきらきらしてる。ちょっと人形じみてるけど、可愛い。

「うーん、でもこの顔に合いそうな服がないなあ……なんか全体的に古臭いし」

 箪笥を漁ってみたけど、ピンとくる服がない。仕方ないから紺のワンピースに着替える。意外と似合ってるじゃん。顔が良いと何着てもいいのか。

 姿見の前でくるくる回って変なところがないかをチェックし終わると、ようやくこの部屋唯一の扉に手をかけた。鍵がかかってることも考えたけど、ただ重いだけで、鍵はかかってなかった。


「ぅっわ……蔵じゃん」

 外に出て自分がいた場所を振り返ってみると、完全に蔵だった。蔵で暮らしてるの? ダジャレとかじゃなく?

 少し離れたところに立派とは言い難いけど、屋敷と呼べそうな建物が見える。たぶん蔵の持ち主だろうなあ。

 何もわからないこの状況で、屋敷のほうに行ってみるか、ほかをあてずっぽうにさまよってみるか。蔵の前で悩んでいると知らないおばさんの声がした。

「おはよう花ちゃん。お散歩かい?」

 知らないはずなのに私の頭が勝手に理解する。私の名前が花なことと、このおばさんが大沢のおばさんだということを。なにこれ、こっわ。

「うん、そうなの。ちょっとそこまで行こうかなって」

 返事が勝手に口から出てくる。ちょっとそこまでってどこなの。

 大沢のおばさんは「あらそうなの」とにこにこ笑ってそこから動こうとしない。会話終了したんだからどこか行ってよ。


 なんだか怖くなって、大沢のおばさんから逃げるように歩き出すと、数十メートルごとに「おはよう花ちゃん」と知らないはずの人たちに声をかけられる。そのたびに私の頭が勝手に「山下のおじさん」「池本のおばあちゃん」「木島のおばさん」と名前を並べていく。こわいこわい。

 なるべく気にしないようにしてるけど、みんな笑顔で私の背中をずっと見てる。見てるっていうか見張られてる感じ。人の視線を感じないことがない。こっわ。

 人通りの少ない田舎道って感じなのに人と遭遇する確率が高すぎるのもこわい。ほぼ等間隔で配置されてるんだけど。

 そう、田舎道なのよ。家っていうか建物はまばらで、山と畑ばっかりで。道も舗装されてない砂利道って感じだし。


「お、花じゃん」

 うひい、また来た。

 知らない声に顔を上げると、やっぱり知らないはずの男の子が立っていた。

「おはよう、太一」

 私の口が勝手に挨拶をする。誰だよ太一って、知らないよ。村長の孫息子とか言われても、知らないって。

 私の心の叫びなんて知らない太一はちらっと周りを見回してから、不機嫌そうに顔をしかめた。

「あと一週間だって言うのに、なに呑気に散歩してんだよ」

 散歩しているって大沢のおばさんにしか言ってないはずなのにもう広まってるの、こわくない?

 っていうか一週間って何の話?

 私が何も言わずにいると、太一は大きなため息をついてから呆れたように言った。

「お前忘れんなよ? 神様の花嫁になるの一週間後じゃん。ぼんやりしすぎなんだよ」

 私の都合のいい頭が勝手に翻訳してくれる。

 神様の花嫁、つまり生贄になるまであと一週間。名前の「花」は花嫁の「花」。

 あーよかった、生贄だから「にえちゃん」とかじゃなくて。

「なんっもよくないわー……」

 思わず頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。

 頭の上から太一が「え? どうした? 頭痛い? 腹? ちょっ、だれかー!」って慌ててる声が聞こえる。けど、んなことどうでもいい。


 私が何をしたって言うんだ。なんでいきなり生贄にされなきゃいけないんだよ。

 都合のいい頭が勝手に色々情報出してくる。うるっさい。


 ――山の奥にある鳥居のさらに奥に深い深い洞窟がある。


 知るかそんなこと。


 ――その洞窟の奥にどこまでも続きそうな大きな穴がある。


 黙れってば。


 ――その穴の中に神様がいる。


 いるわけないじゃんそんなもん。


 ――その神様の花嫁に、お前はなるんだよ。


 うっるっせー!


 ◆


 気が付くとまた蔵の中にいた。

「あったまいてー……」

 なんか一気に色んなことを頭の中にぶちまけられて、気を失ったっぽい。おかげでここが因習村で、この村に迷い込んだ私がちょうどよかったから生贄にされるらしいことはわかった。


 小さいころに記憶を失くした状態で現れた少女。


 誰かが言った「次の花嫁にちょうどいい」と。


 誰ともわからない少女を保護して、大切に大切に育てて五年。


 いよいよその時が来た。


「いやいや、因習村転生って何よ……」

 問題は、私は『花』じゃない。記憶なんてないけど、絶対違う。こんな田舎で五年育った気がしない。勘弁してよ。

「……あーっ! うだうだしたって仕方ない!」

 布団の上でごろごろのたうち回るのをいったんやめて、起き上がる。姿見にうつる姿はさっきまでのたうち回ってたとは思えないほど整ってる。普通髪ぼさぼさになると思うんだけどな。美少女補正こわっ。

「とりあえずどうするか考えるかー」

 まあ、どうするって逃げる以外ないと思うけど。それにしたってどうやって逃げるのかは考えないと無理だと思う。

 だって数メートルおきに村人が声かけてくる村だよ? 逃げようとしても全部見られてるじゃん。

「あの感じ、ぜーったい監視されてるんだよなあ……夜中でも見つかりそうだもん」

 そもそも山に囲まれたこの村から、夜中に逃げるのはだいぶ無理だ。うまく村から逃げ出せても山で遭難する。朝になるまで一晩山で隠れるのもきつい。普通の女の子にできる範囲で考えたい。

「まあ、最悪の場合はその手も考えるけどさー」

 確実に死ぬとわかってる生贄よりは、もしかすると生き延びられる夜中の山を取る。けど、いったんそれは最終手段にしとこう。なるべく安心安全に生き残りたい。

 そうなると、まず情報収集と味方づくりをしたほうがいい気がする。

「因習村で味方って出来るかなあ……」

 先行き不安だけど、こんなかわいい子ならだれか一人くらい……という淡い希望を抱いて、もう一度蔵の戸を開けた。


「あら花ちゃん、もう具合はいいの?」

 蔵の前に偶然を装って坂上の奥さんがやってきた。そのへんの木の陰から見張ってたとしか思えないタイミング。早々に心がくじけそう。

「今日は暑いから熱中症だったのかな。休んだらすぐよくなったよ」

 勝手に口から言葉が出てくる。このシステムどうなってんの?

 私の困惑とは裏腹に顔は笑みを浮かべていて、取り繕う必要がないのは助かるけどこわい。

「そう? でも気を付けてね、大事な身体なんだから」

 大事な生贄だもんね。そのために育ててきたもんね。それがこんな直前でダメになったら困るよね。

 それがわかって、背筋が寒くなる。これ絶対私の心配じゃなくて生贄の心配なんだよ、マジ怖い。

「うん、気を付けるね。じゃあ」

 笑顔を浮かべたまま坂上の奥さんから離れる。けど、ずっと背中に視線を感じる。わかってた。だから気にしない。気になってるけど、気にしてないことにする。


 数十メートルごとに声を掛けられながら、村の中を散策する。村の外につながる道はやっぱり山の中にしかない。しかも道って言っても舗装されてないし。電灯なんかないし。車も滅多に通らないし。

「どうした花ちゃん、こんなとこまで来て」

「山は危ないから帰りな」

 しかも山のふもとには山本さんと村井さんがいる。一人じゃなくて二人。ほかの場所よりも厳重な感じ。

 軽く挨拶だけして離れるけど、背中にはいつもより痛い視線を感じる。怪しまれてるなあ。


「……はあ」

 ため息をつきながら山を見上げる。鳥居の頭がちょっとだけ見える。

 村の外にはつながらない、鳥居にしかつながらない道には誰もいない。そっちになら行ってもいいよって言ってるみたいに。行かないけどね。

 思った以上に手がないなあ。あとで試しに夜中に出歩いてみる?

「何してんだよ花」

 ぼんやり考え事をしていると太一が声をかけてきた。

 この村は子供が少ないから、私と同じ年頃の子供は太一しかいない。自然とよく話をするようになったけど、相手は村長の孫。私を生贄にすることを決めた人の孫。どう考えても味方になってくれるわけがない。

「鳥居を見てるだけよ」

 だから会話を早めに切り上げてしまおうと思ったけど、なぜか太一は立ち去らない。

 あー、でも、村の人はみんなそんな感じだし、太一もそうか。

 仕方ないなあと思って太一から離れるように歩き出すと、なぜか太一がついてきた。

「……何か用?」

「んー、まあ、」

 煮え切らない言葉が返ってきた。なんだこいつ。


 そのまま十分くらい歩いてるけど、太一が隣にいるからか村の人の視線がちょっと緩んでる。背中にずっと視線を感じない。いや、太一の視線は刺さりっぱなしだけどさ。

 どこまでもついてこられてちゃまともに情報収集もできない。仕方ないからやっぱり夜中に出直すかーと思って蔵まで帰ると、案の定太一がついてきた。なんなの。

「……私、帰るけど?」

 蔵の戸に手をかけたまま振り返ると、太一が周りをちらっと見まわしてから、そっと耳打ちした。


「お前、このままでいいの?」


 マジか。太一、村長の孫なのに味方なのか。

 驚いて太一の顔を凝視すると、見つめられるのが恥ずかしいのか太一がそっぽを向いた。まあ私可愛いから仕方ないな。

「……よくないって言ったらどうするの?」

 そう問い返すと太一の視線が泳ぐ。

 なるほどね、死なせたくないけどどうするかまでは考えてないのか。

 村長の孫と言う立場と、生贄の幼馴染と言う立場と、その間で悩んでるだけで策は何もないと。

 太一の顔を見据えるふりをして、遠くを見る。

「……太一はもう少し考えたほうが良いよ」

 声までは聞こえてないだろう木の陰に、大沢のおばさんの姿が見える。そんなことにも気づかない太一じゃあとてもじゃないけど頼りにできない。

 あんた、たぶん自分が思ってるほど信用されてないよ、残念だけど。

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