第2章 35話 参式
グレートランド歴1772年11月10日 8:00
ジョルカとイルブは、それからもまた鍛錬を繰り返す日々を送っていた。
ジョルカは、剣にマナを与え、その持続時間も1時間に近づこうとしていた。
ジグルは、
(このまま順調に鍛錬が進めば、ジョルカにあの技、ヴェイン討伐の決定打になるあの技を習得出来るかもしれない)
と思いながら、ジョルカを見守っていた。
そして、そのままジグルはイルブに目を向ける。
イルブは、タクトこそ持っていないが、まるでオーケストラの指揮者のような手の動きをし、回りの空気を自在にコントロールし始めている。
ジグルは、
(旦那、エドガー、俺、そしてこの2人が纏まれば、俺達の念願だったヴェイン討伐を達成する事が出来る!!)
と確信めいた物を感じた。
そしてある日、ジグルは、
「ジョルカ、イルブ、ちょっとこっちに来い」
と2人に号令をかけた。
2人は、ジグルの前に集まった。そしてジグルは、
「ジョルカ、イルブ、今日からより実践的な鍛錬を行う」
と声をかけた。
「実践的とは?」
とイルブが聞いた。
「例えばジョルカ、今、剣を振るってるが、そのまま戦えば、いいとこ憲兵と互角だ。いや長い時間、訓練された憲兵なら負ける事も考えられる」
「イルブ、お前も空気を自在に変質、加工どころか、空気を操れるようになってきた。だが、それが相手を攻撃できるか?と言えば疑問だ」
2人は、黙って聞いている。
「ここから、1ヶ月、静心流転流"参式"の訓練に入る!!」
「"参式"!!」
2人は、顔を見合わせて驚いた。
「親方、"参式"ってなんだ?"弐式"までしか聞いてないぞ!」
とジョルカが興奮気味にジグルに食いついた。
「当然だ。言ってなかったからな。"弐式"までは、アルカナ保持者が能力を高め、応用出来るようにする為の鍛錬だった」
ジグルは続けて言う。
「こと"参式"は、アルカナ保持者が、対戦闘用にアルカナを使う鍛錬になる!」
2人は、息を飲んだ。
「それは、必殺技みたいな事か?」
とジョルカは聞いた。
「必殺技。まぁ近いな。静心流転流では、奥義と呼んでいる。お前ら2人は、そこで見てろ」
といいジグルは10mほど離れた。そして、どこからともなくジグルの身の丈とほぼ変わらないハンマーを持ち出した。
ジグルは、そのハンマーを両手で持つと大きく振りかぶり、地面に叩きつけた。
すると大地が揺れ、ジグルの足元から前方10mほど、高さ30cm地面が隆起した。
そうするとジグルは、ハンマーから片手を離し、片手でハンマーを引きずりながら、ジョルカとイルブの元に戻った。
「親方?今のが"参式"?」
「そうだ。今のでそうだな……」
とジグルは顎髭に手を当てて一なぞりして言う。
「10分の1ぐらいの力加減でやった」
とジグルは答えた。
「では、全力でやればもっと?」
とイルブの興奮もおさまらない。
「他の流派では、名前も違うが、この武具とアルカナの融合こそが、一般の人とアルカナ持ちが戦闘をする場合の大きな差であり……」
とジグルは、ここで少し溜め、
「貴族の人間が偉そうに出来る理由だ。いざとなれば、暴力という圧倒的な力で対抗できるからな」
……ここでジグルは、沈黙を置いて、ジョルカを見た。
ジョルカも改めて気づいたのであろう。
ジョルカが貴族、王からなぜ命を狙われるのかを……
ガルドに言われた、アルカナの無効化の重要性。
それは、王、貴族の武すなわち戦闘力を、攻守に及び根こそぎ奪ってしまうのだ。
「イルブ!!」
と言ってジグルはイルブに声をかけた。
「はい」
とイルブが返事をするのも待たず、イルブに30cm程の棒のような物を投げた。
イルブは、器用にそれを両手で受け止めた。それは、2本の短剣であった。
「イルブ、今日から、お前もジョルカと同じ鍛錬だ。剣にマナを宿す鍛錬。そしてそれを放出する鍛錬に当てろ」
「今からですか?先輩だってあんなに苦労してるのに……」
「イルブ、お前は天才タイプだ。センスだけならジョルカより上だろう」
「僕が?」
「ああ、事実、ジョルカより短い期間でマナを使いこなしてるように見える。お前のセンスなら、12月までには、短剣にマナを宿す。マナの量を調整する。またそれを放出するのも出来るかもしれん」
イルブは、改めて12月という言葉に、
(もう後2週間程しかない……)
と焦りと緊張の感情が同時に去来するのを感じた。
そしてジグルはジョルカを見て、
「ジョルカ、お前は、これから2週間、勝率を100%にする為の残りの20%を埋める鍛錬を行う」
といい、ジグルはニヤリと笑った。
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ジョルカたちの行く末を、ぜひ見届けていただけると嬉しいです。
十条 閃




