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第2章 6話 テス=ハウル

グレートランド歴1772年7月11日 午後1時

ここは、なんて家なんだ!!

テスは、ドレンの昼食の食器を片付けながら、必死に怒りを鎮めていた。

―――――――――――――――――――――

テスは、スラム街出身ではない。地上で生まれ育った。

実家は、比較的貧しい小さな農場と乳牛を育てる家業の家庭で、長女として生をうけた。親は、テスが生まれた時、それはそれは喜んでくれた。

だが弟のダミアンが生まれてからというもの、親の興味は全て弟に注がれた。

ハウル家は小規模とはいえ地主だった。その農場を両親と使用人1人で切り盛りしており、ダミアンは待望の後取りだったのだ。

そんな境遇ではあったが、テス自身は特に悲観していなかった。

生まれながらの前向きな性格のせいか、むしろ親の目が離れた事を喜んでいたくらいだ。「男の子に生まれたせいで、こんな小さい農家の後取りになる事を宿命づけられるなんて……」と、弟のダミアンに申し訳ない気持ちさえ抱いていた。

そんなテスがヨーク公立学校を卒業する時、与えられた人生の選択肢は、数えるほどしかなかった。

腕力がないながらも家業を手伝い、適齢期になればどこかの農場に嫁ぐか。もしくは、お店の店員やレストランのウェイトレスのような、経験がなくても雇ってもらえる仕事をするか。

そんな時、偶然、貴族の屋敷でのメイド募集の張り紙を見つけたのだ。

(貴族のメイドなら、家事のような事をするだけで、いいお給料が貰えるかもしれない)

テスは幼い頃から、農場で働く母の代わりに家事を手伝っており、家事には自信も苦もなかった。

そんな軽いノリで応募したのが——運の尽きだった。

初日から、災難は起こった。

客人としてドレン邸を訪れたニクス卿の接待中に、お茶を運ぶ際、ノックはしたものの、返事を待たずして入室してしまったのだ。

初日の失敗なら多めに見てくれるだろうと高を括っていたが、ニクス卿の前で大いに叱責された。

後で噂によると、大事な話の最中だったらしく、しかも聞かれては困る話だったと——本当か嘘か根拠のない事を聞かされ、それなら怒られるのも仕方ないかと、その時は納得した。

2日目には、イルブという小間使の少年が、男爵の酷使によって逃げ出したと聞いた。

4日目には、食器を割った先輩メイドが、自分の目の前で酷い説教をされるのを見た。

その時、理解した。

初日の叱責は、大事な話の最中に入室されたから怒られたのではない。

元々こういうお人なのだ。

1週間を待たずして、テスは思い始めていた。ここで雇われたのは——いや、求人広告に応募したのが、そもそもの失敗だったと。

テスは、給料の高い低いにさほど執着がなかった。

それより——貴族という未知の人たちがどんな生活をしているのか。そういった人達の近くにいれば、品性が自分にも身につくのでは。農家の娘では経験できない刺激的な日々があるのでは。

そんな期待を持って応募したのだ。お金よりも、これからの糧になる事を目的に。

それが実際は——どうだ?

雇い主であるドレンの品性の無さ、心の狭さ、器量の小ささ、普段の素行の悪さが、顔に透けて出ているではないか。

そして今日、挙句の果てには——先輩メイドから「タバコをやめるから灰皿は置かないように」との指示があったので置かなかったら、「灰皿は?灰皿どこだ!!」と怒り出す始末。

こんな人間の下で働くのは、給料が多くてもゴメンだ。

テスがそう思い始めた時、廊下でドレンとすれ違った。

そしてすれ違いざま、ドレンはこう漏らした。

「文句を言わず仕事をしてたら、給料を上げてやると」

毎週 月曜 木曜 18時投稿予定です。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

「続きが気になる」「また読みに来てもいい」と思っていただけましたら、ブックマークしていただけると励みになります。

ジョルカたちの行く末を、ぜひ見届けていただけると嬉しいです。

十条 閃

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