第1章:1. 緑痕初めの同窓会(2)
テーブルを埋め尽くす底知れぬ悪意と侮蔑を前に、闕恆遠の顔から先ほどまでの節度ある笑みは完全に消え去っていた。
その端正で整った顔立ちから礼儀正しい笑みが静かに引いていくにつれ、常人ならざる沈着さと冷徹さがその表情を支配していく。
彼はその場でテーブルをひっくり返すこともなければ、取り乱した狂人のように怒鳴り散らすこともしなかった。
ただ、自らの肩に掛けられた連昊成の太い手を、一本、また一本と、指を剥がすようにゆっくりと押し退けた。
それから、闕恆遠は目の前に置かれたまま口をつけていなかったウイスキーのグラスに手を伸ばし、指先で静かに揺らした。
氷がグラスの側面にぶつかり、乾いた冷たい音を響かせる。
怒るどころかふっと笑みを浮かべ、黒曜石のように深い両の瞳をすっと持ち上げると、連昊成の顔を正面から射抜くように見据えた。
先ほどまで喚き散らしていた個室のざわめきが、唐突に落ちてきた静寂の重みに呑まれ、徐々に音を失っていく。
連昊成はその刺すような視線に得体の知れない薄気味悪さを覚えたのか、ヘラヘラとした笑みを引きつらせ、眉をひそめて問いかけた。
「義弟くん」
「そんな目で俺を見て、一体何の真似だい」
闕恆遠は極めて優雅でありながら、一片の温度も宿さない冷笑を唇の端に刻み、静かに口を開いた。
低く抑えられた声息だったが、個室の隅々にまで刃物のように鋭く響き渡る。
「連さん」
闕恆遠が口を開いた。
その語調は極めて平坦で、一片の怒りすら帯びておらず、すべてを見透かしたかのような淡漠と悲憫すら滲んでいた。
「さっき玟妤から聞いたのですが」
「少し前に離婚の手続きを終えられたそうですね」
何気ないその一言は、しかし細い針のように、連昊成の最も過敏な神経へと正確無比に突き刺さった。
連昊成の引きつった笑みが微かに凍りつき、眉根が無意識のうちに険しく寄る。
闕恆遠は口を挟む隙すら与えず、指先でひんやりと冷えたグラスをそっと支えたまま、凍てつくほどに冷静な声音で言葉を続けた。
「自らの婚姻すらまともに営むことができず」
「現実において無様に退場した大人が」
「数年後の同窓会において」
「下品な酒の勢いを借りてしか」
「とうに過ぎ去った過去の私事をひけらかす資本にできず」
「かつて自分が何を手に入れていたのかを、周囲に必死になって証明しようとする」
闕恆遠は唇の端をわずかに持ち上げた。
その弧は極めて優雅でありながら、骨の髄まで凍りつかせるほどに冷酷だった。
「あなたが先ほど口にされた言葉の数々は」
「私に対する侮辱にすらなっていませんし」
「あなたがどれほど優れた人間であるかの証明にもなっていません」
「ただ、極限まで飢え切ったみじめさと哀れさを、私に見せつけただけです」
連昊成の顔色は瞬時に赤から青へと変わり、奥歯をギリリと噛み締め、テーブルの端に置かれた拳をギリギリと音を立てて握り締めた。
闕恆遠は視線をゆっくりと動かし、赤ワインのグラスを手にしたまま表情を強張らせている黃詠芯と謝雅廷を見据え、最後には先ほど大声ではやし立てていた丁承翰へと視線を走らせた。
他人の不幸を高みの見物と決め込んでいたかつての同期たちは、刃のように研ぎ澄まされた闕恆遠の静謐な視線に射抜かれると、居心地悪そうに次々と顔を伏せ、水用のグラスに手を伸ばしてその場しのぎの気まずさを糊塗しようとした。
「すでに人の妻となった女性の過去を酒の肴にして騒ぎ立てることが」
「現在のあなたが何一つ持ち合わせておらず」
「過去の燃え殻を噛み締めることでしか自尊心を保てないという事実の証明以外に」
「一体何の意味を成すというのでしょう」
闕恆遠は手首をわずかに沈め、手にしていたウイスキーのグラスを石英の回転台の上へと静かに置いた。
ことり、と響いた硬質な小さな音が、凍りついた個室の中にやけに明瞭に木霊する。
「連さん」
「一杯、差し上げましょう」
闕恆遠は見下ろすように彼を見据え、その声音は依然として凪いだ水面のように揺るぎなかった。
「一日も早く過去から抜け出せることをお祈りしていますよ」
「このような安っぽい妄想にすがらなければ」
「現在の空虚で無様な人生を埋め合わせられないなどという境遇からね」
連昊成は全身を怒りで震わせ、激しくテーブルを叩いて立ち上がると、闕恆遠の鼻先を指差して怒鳴り散らした。
「誰が哀れだってんだ、この野郎!」
「何様のつもりだ、てめえ――」
その時、個室の重厚なダークウォールナットの防音ドアが勢いよく引き開けられた。
舒玟妤が画面の点灯したままのスマートフォンを固く握りしめ、狼狽した様子で足早に入ってきた。
静かな廊下で外資系企業の人事責任者から来週月曜日の二次面接の具体的な日程を告げられ、胸を躍らせていたはずだった。
だが、個室の入り口に足を踏み入れた瞬間に押し寄せてきたのは、息が詰まるほどの死寂と、一触即発の不穏な空気だった。
長いテーブルの中央では、連昊成が大理石の天板に両手をついて激しく肩を上下させ、顔色を赤から青、青から白へと目まぐるしく変えながら、今にも食ってかからんばかりの獰猛な視線を向けている。
対して上座に腰を下ろす闕恆遠は、霜のように冷たい冷徹な面持ちのまま、細く長い指先をスーツの襟元へと無造作に添え、相手を見下ろすような凄まじい威圧感を放っていた。
両脇に座る黃詠芯や謝雅廷、丁承翰らに至っては、息をすることすら怯えるように固まり、骨磁器の皿をじっと見つめたまま、手にしたグラスを揺らすことすらできずにいた。
舒玟妤の心臓が、どくりと激しく跳ね上がった。
全身の血が、この一瞬で凍りついていくかのような錯覚に襲われる。
電話に出ていたわずか五分の間に、この個室でどれほど凄まじい嵐が吹き荒れたのか、彼女には知る由もなかった。
だが、狂乱寸前のみじめな姿を晒す連昊成と、底知れぬ深淵のように一片の温もりも宿さない闕恆遠の瞳を見れば、直感が告げていた。
先ほどの連昊成による酒に任せた下劣極まりない言葉の数々が、すでに容赦なく闕恆遠へと叩きつけられたのだと。
舒玟妤は取り乱した足取りでヒールを響かせ、闕恆遠の傍らへと駆け寄ると、冷え切った指先を震わせながら、彼のスーツの裾をすがるようにそっと引いた。
「あなた……」
「どうしたの?」
「みんな、さっき……」
「何かお話ししてたの?」
闕恆遠は、隣に立つ舒玟妤へ、目線の端すら向けようとはしなかった。
闕恆遠はただ優雅で落ち着いた動作で椅子を引き、静かに立ち上がった。
背もたれに掛けてあった漆黒のウールコートを手に取る。
その表情は嵐の過ぎ去った深海のように静まり返り、声音にも一切の起伏はなかった。
「帰るぞ」
短く発せられたその言葉は、氷室から取り出したばかりの氷塊のように冷たく、詰問も怒号も含まれていないにもかかわらず、抗うことを許さない絶対的な威圧感を放っていた。
そう言い放つと、闕恆遠は顔を真っ青に染める連昊成を一瞥すらすることなく、長い脚を踏み出し、大股で個室の扉に向かって歩き出した。
舒玟妤はその場に立ち尽くし、決然と立ち去る闕恆遠のまっすぐな背中を見つめながら、心が底なしの深淵へと沈んでいくのを感じていた。
憎悪を宿した目で扉を睨みつける連昊成と、視線を泳がせて気まずさに固まる旧友たちを交互に見やり、これ以上この場に留まって問い質す勇気などあろうはずもなかった。
舒玟妤は取り乱した手つきでバッグを掴み、長テーブルの両脇に向かって引きつった顔で辛うじて会釈をした。
「詠芯、雅廷……」
「ごめんなさい」
「私たち、先に失礼するね」
血の通わない形式的な言葉を絞り出すと、舒玟妤はドレスの裾を持ち上げ、細いヒールを鳴らして小走りで駆け出した。
逃げるように闕恆遠の足跡を追い、個室を飛び出していく。
背後の個室からは、連昊成が怒りに任せてウイスキーグラスを床に叩きつけた凄まじい破砕音と、黃詠芯たちの押し殺した悲鳴がかすかに漏れ聞こえていた。
プライベートレストランの廊下に吹き抜ける冷たい空気が、火照った舒玟妤の頬を撫で、骨の髄まで凍りつくような悪寒を呼び起こす。
エレベーターホールまで無我夢中で追い縋り、扉の前で沈黙を貫く闕恆遠の横顔を見つめた。
何度も口を開き、必死に弁解の言葉を紡ごうとした。
だが、男の眉間に宿る氷のように冷徹な気配に触れた瞬間、喉まで出かかったすべての言葉は、無残にも呑み込まれていった。




