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罪は流転する

きっと、

人間が抱えた罪は、死んだら次に生まれる人間に受け渡されると思うんです。

だから、

僕たちがその罪から逃げるためには、

きっと、

・・・・・・

最終話です。

ありがとうございました。

 時間が過ぎ去っていくことは、一見無駄に思える。時間なんて、沢山あればあるほどいい、と思いたいが、それはそれで苦しむことになることは、多くの人が知っていることだ。

 それなのに、時間が足りないと多くの人は思っているわけだ。

 結局、死よりも明らかに身近にある生を大事にしているわけだ。

 まあ、俺もそれは当然の感覚だとは思う。

 ただまあ、時間にはそんなに価値があるのか?と俺は思うのだ。返ってこないものに、価値なんてあるか?なんで、時間に限って取り返しがつかないのだ。

 別に、人生に意味も価値も無くていいと思うのだ。

「おい、お前大丈夫か?」

 俺は目を覚ます。自分でいうのもあれだが、目を覚ましてすぐの割には、俺は俯瞰的な目線で自分のことを見ていた。

「おい、大丈夫か?お前は覚えていないかもしれないけれど、お前は毒を食らってさっきまで倒れていたんだ。もう、大丈夫か?」

 おっと、説明してくれて非常に助かった。

 俺は記憶をそっと、置いた。

 ・・・・・・?

「ああ、だいぶ良くなったよ」

 周りはくらい。何かが燃える匂いがすると思ったら、仲間の内の一人が持っていた松明の匂いであることに気づく。

 あ、そうだ。

 俺は一度置いた記憶をもう一度手に取りパラパラとめくりだす。俺達は、ダンジョンに探検に来ていたのだ。

 俺は起き上がるために、地面に手をつく。地面はザラザラとした手触りをしており、若干湿っていた。

 そして、立ち上がった時にガラガラと音がしたので、自分は鎧を着ていることが確認できた。

「あともう少しなんだよ。行けるか?」

 えっと、この俺に話しかけている男の他には男がもう一人と、女性がもう一人いた。ということは、俺も合わせて全員で四人いるんだろう。

「ああ、大丈夫だ」

 俺は鎧の汚れを軽く手で払う。鎧とはいっても、チェストプレートと脚に草摺がついているくらいだ。

 まあ、前衛なのだろう、おそらく。この声をかけてきた男と双璧をなしていたんだろう、と妄想する。

「次の部屋には、ボスがいる。一回作戦を立てよう」

 やはり、彼がリーダーなようだ。

「次のは、かなりヤバいぞ。一回、引き返すっていうのもアリなんじゃないか?」

 彼はどうやら慎重なタイプらしい。自分の身長ほどある長い杖で地面をコツコツと叩きながら話し合いに参加してきている。

「いや、今明らかに調子がいいじゃん。作戦立てて、突撃すればいけるよ。それに、仕切り直したら他の冒険者に先に倒されちゃうかもしれない」

 彼女は、一人だけ彩度の高い服を着ており、短めの杖を手にパンパンとリズムを取りながら叩きつけている。

「そうだね。俺も、今行くのがいいと思うんだ。ただ、しっかり作戦を立てて行こう。ヤバくなったら、急いで逃げればいいさ」

 リーダーは自分自身をも勇気づけるように、そう俺達に言い聞かせた。

「いいか、俺とケンイチが二手に別れて敵の注意を引く」

 俺は、左下の画角から頭が何個もあって、口から火を吹くドラクエのやまたのおろちのようなイメージの敵を思い浮かべた。

「で、dふぁrねふぃとgfなpjkれは後方支援をお願いしたい」

 二人の名前が聞き取れなかった。が、二人は困惑する様子を見せずにうん、と頷いていた。

 そういう名前ってことか?

「で、後方支援もそうだけど、俺がボスの部屋に設置魔法を置くから、そこの起爆をお願いしたい。全部設置し終わったら、合図を出すから、そこで二人で俺とケンイチを一人ずつテレポートで逃がしてほしい。テレポートには詠唱と起動に時間がかかるから、起動の時間の間に、下級でいいから炎魔法を使って一番近い起爆装置に魔法を放ってほしい。それで、イケるはずだ」

 ほお、そうなの?じゃあ、俺も魔法とか何かすごいことが使えるってことか?

 それは、楽しみなのだが。

「じゃあ、行くぞ。準備してってくれよ」

 まだ完全に状況を把握したわけではないが、どうやら俺はさっそくボスと戦わなければいけないらしい。

 もしかして、俺はここで死ぬのだろうか。

 ゴクン、というつばを飲む音が立て続けに聞こえる。ということは、まあ十分死ぬ可能性があるんだろう。

 まあ、今俺が何をしようとしているかわからないけれども、このまま死んでしまうのか。

 でも、俺には何か死ぬ理由があった気がする。少し、言い方がよくなかったな。

 死んでも良い理由があったような気がする。

「あ、あのさ、gfなpjkれちゃんさ、俺無事に帰れるかな?」

 えっと、多分女性の方だな?長い杖を持ってる方の兄ちゃんがそんな弱音を漏らした。

 困るよ。不安にさせないでくれよ。

「大丈夫。できるよ」

 そのあと、パンっと彼女が彼の背中を叩いた。

 まあ、男ばっかりだとなんかムサくて嫌だな、と思うことは多々あるが、まあそんな中に一人で入ってくれている彼女にきっと、いつも救われてきたんだろう。

 俺が起き上がった場所から少し歩くと、俺達の身長の五倍も六倍もある大きな扉が現れた。

「行くぞ。集中しろ」

 小さな声でリーダーが言う。そして、俺達三人は小さく頷く。

「詠唱頼む」

 女性の方が小さな声で詠唱を始めた。

 俺は、リーダーが目配せしてきたので、なんとなく察して扉を蹴り開けた。

 そして、隣で走り出す姿を確認した俺は、反射的に彼とは反対側に向かって走り出す。

 そして、ここでようやくダンジョンの奥?かどうかはわからないが、ダンジョンのボスの姿を自分の目で認識した。

 ボスは、人型の、魔物?かどうかはわからないが、想定していたものではなかった。ボスは俺達を見るなり、刀を構えた。

「おい、ヒットアンドアウェイだ。交互に行くぞ」

「了解!」

 なぜだか、力がみなぎってくる。きっと、支援魔法とやらのお陰なのだろう。

 が、ボスは俺達に向かい合ったのかと思いきや、一瞬俺達を見るような仕草を見せたが、それはフェイントであり、後ろで支援魔法を唱える二人の下へと駆け出したのだ。

「俺が行く!!魔法の設置を頼む!!」

 まあなんでだかわからないが、俺はそんなことを口走っていた。そして、すぐに俺はボスのいる方へと向かった。近づくことでよりはっきりとボスの姿が見えたのだが、ボスはおそらく俺達と同じ人間なのだろう。が、身長は俺よりも頭一つ大きく、体格もかなりある。鎧などは身につけておらず、マントをなびかせながら剣一本でこちらに迫ってきているわけだ。

 俺は、なんとかボスと二人との間に割って入った。

「魔法を頼む。攻撃もできたら、隙を見て頼む」

 俺は剣を低く構えて、敵の動きを見ることにした。ボスは、慎重にこちらの様子を伺っている。その奥の方では、リーダーが部屋中に魔法を設置している。

 ていうか、その魔法でちゃんとこいつを倒せるんだよな?

 まあ、ボスっていうより魔王って言ったほうが似合ってるよな、と関係の無いことを考えていた。

 ら、ボスが俺に切りかかってきた。俺は、刀でその攻撃を受ける。めちゃくちゃ、重い!

 なんとかその剣を受け流して距離を取る。そして、俺の耳のすぐ横をなにか熱いものが通っていき、ボスに命中するのだが、ダメージが入っているようには見えない。

 と、ここでリーダーがボスの背後からボスに攻撃を入れる。ボスは振り返り、その攻撃を受ける。

 あれ、これってめちゃくちゃチャンスじゃない?

 俺は後ろからボスに剣を突き刺す。と、すっかり刺さらないものかと思っていたのだが、普通に深くまで刺さった。

 そこで、ボスが大きく飛び退いて部屋の奥の方まで下がった。剣を突き刺したままボスが下がってしまったため、俺はもう一つの予備の剣を取り出した。

 それにしても、なんだかデジャヴ、というか。前にも、こんなことがあったような気がするのだ。いや、あった。が、記憶はない。

 曖昧ですまないね。

「これ、行けるぞ」

 あれ、危ないんじゃない?と思ったが、調子に乗っていたのは俺も同じだ。リーダーがそういってボスに突撃していったのに合わせて俺も走り出す。

 また、力が湧き上がってくるような感覚がある。なんだか、体が軽く感じるのだ。命が軽い、というか、なんだかずっと重苦しいと思っていたものが軽く感じる、というのは不思議な話だ。でも、なにか興味深い話を聞いて「面白い」と思うような感覚と似ている気がする。

 リーダーは鎧を着ていない分俺よりも素早いみたいだ。

 ボスは腹に刺さった俺の剣を捨てるがてらにこちらに投げつけたあと、腹の部分を抑えながらこちらに剣を構え直す。

 そして、ボスの口の部分が動くのが見えたのだ。

「気をつけろ」

 俺が言うよりも早くリーダーが俺達にそう伝えた。なので、俺は速度を遅めて少し様子を覗う。リーダーはそのままの速度でボスに向かっていく。

 結局、こいつは人間なのか?

「テレポート!?」

 俺は反射的に振り返った。本当に、たまたまだった。たまたま、というよりは賭けに勝ったような感じだ。予想外の攻撃を予想した結果、当たったようだ。

 リーダーが大きく剣を振りかぶってボスに攻撃を加えようとした瞬間に、ボスはテレポートの呪文を唱えて俺の背後に移動したのだ。

 ボスはちょっと顔をほころばせながら俺に何か話しかけてきた。

「もっかい言ってくれよ」

 俺はつい、そんなことを言ってしまった。特に他意はないのだが、ボスはそれで結構腹がたったようで、明らかに顔を歪めていた。

「お前は、いつまで生きてるつもりなんだ」

 ボスがそう言い直したところで、リーダーがボスの背後に現れた。

 そして、ボスが振り返り思い切り剣を横に振ったのだ。

 リーダーは、その瞬間無防備だった。

 そして、それは見事にリーダーの体を引き裂いた。

「ハハハハハハハハ」

 ヤバい。

 俺はとりあえず攻撃を加えた。ボスが、片方の手でそれを防ぐ。

「おい、呪文頼む!!!」

 俺は後方の魔法使い二人に向かって叫んだ。

「おい、さっきの意味を教えろよ」

 なんとか、注意を引こうと思ったのだ。

 ボスはそれ以上喋ることはなかったが、今度は完全に俺の方に注意を割いている。俺は、当初の予定の通りヒットアンドアウェイを繰り返した。俺の剣の刺さったところからは血が少しずつ、でも確実にボスを弱らせている。

 そうでないと、きっと俺なんかじゃ太刀打ちできないのだろう。

「フレア!」

 ようやくだ。

 ああ、これは俺のせいか?すまなかったな。本当に。

「テレポート!!!」

 今度は味方の声だ。ほぼ同時に二つの呪文が作動した結果、俺はいつの間にか先程の場所まで戻っていた。



 ダンジョンから帰ってきて、実に空虚な気分だ。

 ああ、俺は生きていていいのだろうか。

 まあ、俺のその感情に真実味があるのかどうかはわからないが、でも、何かモヤモヤとした感情が俺にしつこくまとわりついている。

 ギルド的なところに行くと、俺達は多額の報奨金をもらった上に、リーダーの生命保険のようなものが下りて、更に多額の金をもらってしまった。

 俺は、自分の家がどこにあるかわからなかったので、仕方なく仲間の魔法使い(男)の家に泊めてもらった。もちろん、「家がわかんねえんだよ」とは言わずになんとか頼み込んだのだ。

 お互い傷心中だったからなのか、のに、なのかわからないが、今日は彼の家に泊まることになった。

 彼の家は立派なものだった。

 まあ、自分で言うのもあれかもしれないが、俺達はきっと実力のあるパーティーだったんだろう。

「はあ、飯、食うか?」

「いいよ、無理しなくていい」

 テレポートで脱出したあと、部屋の中から轟音が聞こえてきた。それも、何回も聞こえたのだ。そして、テレポートでリーダーの死体も一緒に戻ってきたわけだ。

 さすがに、ショックだった。

 言葉にするほど、落ち着いてはいない。

 いや、いつでも落ち着いているのが俺なのだろう。

 なかなか、お互いに話し出せなかった。

「あのさ、」

 先に話し始めたのは彼の方だった。

 まあ、俺も思い出をめくるが、どうもその色々な思い出に実感が湧かないのだ。もしかすると、彼が死んでしまったからなのかもしれない。

「あいつは、俺が前のパーティで、まあ結構いじめられてたんだよ。で、まああいつが助けてくれたんだよな」

 ああ、そうか。

「・・・なんだよ、その話は」

「・・・・・すまん、」

「まあ、いいんだよ」

 ・・・

 やはり、わからないのだ。金をもらって、でも、大事な仲間が死んで。俺自身は、そこまでどちらにも思い入れはないものだと思っていた。

 わからない。

 彼と話せば、少しはまぎれるものだろうか。でも、生まれてきた限りは人は死んでしまうものだ。

 でも、死ぬのが彼であってはいけなかった気がするのだ。

 俺は、・・・

 ・・・・・・・・・

 そうだよ、俺こそ別に死んでもよかったはずじゃないか。

 きっと、どこかで死ぬことを求めていた気がするのだ。

 色々あった。そして、沢山の人を、

 ・・・・・・・・・・・・・・

 人を、、、、、、、、、、、?

「あいつはさ、・・・すまんが、話したいんだよ。もう、自分勝手なことだと思うけどさ、」

 彼は泣き出した。

「俺が、もっと強ければあそこであいつを助けられる魔法を使えたと思うし、それに、俺だけがあそこに入る前に弱音なんか吐いちゃってさ、」

「大丈夫だって」

「お前って、いつでも冷静だよな」

 そんな、急に俺に

「まあ、そんなつもりは無いけどな」

「お前は、今本当に悲しんでるのか?」

 ああ、

「人が死んで感じることって色々あるだろ?」

「お前は、なんか感じてるのか?」

「・・・・・そんなの、わかんねえよ」

 彼は俺の方をまっすぐと見てくる。

 俺は目を合わせたくなかったので目を逸らした。

 まあ、こいつも面倒くさいやつだ。俺の記憶に挟まっている栞にもそう書かれていた。

「どうだ。お前は、あいつが死んでどうしようもない思いを俺にぶつけるのか?」

 でも、俺もこうやって他人を煽って、どうしようも無い気持ちをぶつけているに過ぎないんだよな。

「・・・ハア。俺達、まだ冒険するか?」

 さあ、どうするべきか。

 冒険をするのが償いになるのか、それとも、やめるのが償いになるのか。

 なんだか、人間は罪を償いたがるよな?

 俺の罪って、償われるのか?

「やあ」

 なんだ

 急に周りが暗くなった。

 俺は、今どういう状態なんだ。全身の感覚がぼんやりとしている。

「キミは覚えていなかったと思うけど、キミは前世で人を殺したんだ」

 何の話だ?

 ポワンポワンとした音の中に、解読可能な言語が潜んでいるのがわかる。

「それで、なんでか知らないけど、キミはそれに耐えかねて自殺をしたんだ。よくわかんない人だよね、キミって」

 なんだそれは。

 そんな記憶は、一つもないぞ。

 俺は、・・・・・

 というか、そもそも今まで仲間と冒険した記憶も曖昧だし、親の顔だってよく思い出せない。

「それでね、そういう人たちを転生させてるんだよ。僕たちは」

 女性の声だ。そういえば、聞き覚えがある。

「自殺されちゃうとね、キミの中にある罪というものが消えずに、やがて世界中に広まっていくんだ。キミは、罪を償うことが可能だと思っているかもしれないけれどね、償いってさ、キミたちの世界の定義でも、曖昧なものでしょ?加害者が、法律によって裁かれたら十分なのかな?」

 俺は、なんなんだ。

 一回、黙っていてほしい。ゆっくり考えたいんだ。

「だからまあ、キミみたいなやつには、一応サービスとして、キミが内包している罪が消えるまで人生をやり直させてあげようと思ったんだけどね」

 どういうことなんだ。

 ・・・・・

 なんだろうか。

 記憶という本は、普通は一冊だと思うのだ。本というより、ノートというべきだろうか。

 今、何冊ものノートが俺の目の前にあらわれている。

 めくってみる。実感こそないけれども、これは確かに俺の記憶だ。

 何回も、人を殺してきた。らしい。

「このまま、キミがダンジョンの中にいたあの魔王を倒したら、またやり直しだなって思ってたところだったんだよ。いやあ、キミが死ななくて本当によかった」

 確かに、今回の記憶のノートには俺が人を殺した、というメモはまだ書き込まれていない。

「僕は一応神様をやってるんだけどさ、僕でも色々わからないことってあるんだよ。ただ、僕はね、きっと罪は人になすりつけるしかないと思うんだ。つまり、キミが救われるには人に殺されるしかないってこと」

 何を言っているんだ。

「そのまままた死んじゃったら、またやり直しだよ」

 それは、嫌という程ではない。俺からすれば、きっと、ずっと生きるほうが辛いはずだし、罪の償いにはきっと生きるしかないと思うわけだ。

「キミたちは、罪深い生き物だ。それは、生まれたときからそうなんだよ。キミたちの先祖は、沢山の命を犠牲にしてきたんだ」

 そんなのは、関係ないじゃないか。

「キミは何人も人を殺した。最初は、ただの嫉妬だった。次とその次は、まあ色々事情はあったみたいだけどね。その次は、単純に怒りで殺した。次は、集落を存続させるためという大義名分のために。キミは今、その殺してきた人の罪の分も背負って生きている」

 漠然と、自分の生に疑問を持っていた。

「僕も、キミを殺すための人間を何人か派遣したんだけど、キミが全部返り討ちにしちゃうからさ。それに、まあ思い通りに動いてくれないし」

 記憶のノートをめくると、全てのノートの最後のページは俺が人を殺したところで終わっている。

 俺は、どうやらかなり罪深い人間らしい。

「まあ、無責任なことを言うようだけど、キミはきっと人殺しになる運命なんだと思うよ。運命とは言っても、キミの性格だって運命に関係してるんだから」

 ハハ

 俺が悪いってことか?

「そういえば、最初に言ってあったけれど、キミの能力っていうのは、その人生において人を殺してしまったら、生まれ変わってやり直す能力だから」

 なんだよ、その意味わかんない能力は。

「結局、キミが自分の背負った罪を誰かに代わりに背負ってもらいたかったら、頑張って誰かに殺されることだね。キミ自身の記憶は能力のお陰でリセットされるから、そんなに辛いとは思わないけれども、これ以上人を殺したくなかったら、そうするしかないからね」

 意味がわかんないっつうの。

 俺の背負っている罪、か。

 なんで、いっつも人を殺す人生になってしまうんだ。

「罪は、流転するんだよ」

 たまたま、俺が罪深い人間だったからってことなのか?

「どうせ、キミはまた人を殺すよ。それは、運命なのかもしれないけれども、せっかくあげたチャンスなんだから、僕としては活かしてほしいけどね」

 そうですか。

 そんな、慈悲なのかはわからないけれども、そんなものはいらない。求めていない。

 だからといって、死にたいと素直に言うことはできないけれども。

「だからまあ、気長に自分の罪を反省することだね。それが、この流転から逃れることに繋がるわけじゃないけど」

 これからも、俺は繰り返すことになるのか。

 殺人さえしていなければ、俺だってきっと周りにまぎれて生きることができたはずなんだけどな。

「あ、自分から殺されるようなことするのは反則だからね。まあ、キミはまた同じように記憶を失くしてコンティニューすることになるわけだけど」

 ああ、そうですか。

 まあ、これはきっと罰ではなさそうだし。

 俺の背負った罪が誰かに渡ることになるのなら、俺が罪を重ね続けるのもいいことなのかもしれない。

「じゃ、バイバイ」

 結局、わからないよ。

「あ、ごめん。最後に、キミが一番最初に殺した男の子から伝言を預かってるから、それだけ」

 ああ、

 彼は、確か同級生だったか。

 なんでだったか。

 確か、事故だったよな。

 まあ、彼はモテていたから嫉妬は確かにしてて、で、俺は自殺でもしようとしてたのか、確か、俺の好きだった女の子が彼のことを好きだったんだよな。

 言葉にするうちに、情景が浮かんできた。

 そうだ、

 まあ、自分でもベタで恥ずかしくなってくるけど、俺は歩道橋から飛び降りようとして、彼に止められて、それで、ムカついていたから俺は彼を落としたんだった。

 で、俺もすぐにその後を追ったわけだ。

 運が悪かったのかな。

 いや、きっと俺が悪かったんだ。心で分かれないときは、頭で理解するしかない。

 さっき、言っていたじゃないか。運命なんて、神でも知らないってよ。

 科学も、哲学も、神を超えたことを自覚しなかったからこそ生まれたんだろう。

 神は、もう俺達を見捨てている。神こそ、自分たちの罪から上手く逃げているだけなんだろう。

 まあ、気に食わないけど、だからといって殺すのは楽をさせるだけなんだろう。

 殺せるかどうかもわからないし。

 じゃあ、俺はこの神の無慈悲な慈悲を、そして逃れられない罪の輪廻を使って遠回りな意地悪をするしかないようだ。

「逃げるなって言ってましたよ。彼が死ぬ前にですけどね。もしかしたら、聞いていたのかもしれないですけど。まあ、あなたに似て意地悪な人ですよね」


「別に、・・・もうやめだ。・・・やめて、ゆっくりと暮らせばいいさ」

「そうだな」

 互いに目を合わせることはない。

 彼は、もういないけれども、目的は達成されたのだ。

「明日、みんなで集まろう。それで、終わりにしよう」

 そうか。

「ああ、今までありがとうな」

「・・・ああ、ありがとう」

 一応、半分くらいは冗談のつもりだったのだが、

 まあ、笑えねえよ。

「やっぱり、どこかに飲みに行かないか?」

「そうするか。・・・金も、あるしな」

 俺はようやく鎧を脱ぎ捨て、一応、武器だけは持っておくことにしたが、彼の家を出て、近くの酒場に向かった。

 酒で紛れる程度の傷じゃないけれども、きっと、こういうことの繰り返しが結局、傷口が癒えることに繋がるのだろう。

「いくら、あるんだっけ?」

「もう、人生何回分なんだろうな。なんにもしなくても、遊び放題だ」

「あいつは、なんのために戦っていたんだ?」

「それは、知らないけど、・・・でも、」

 死ぬために戦ってたんじゃないか、と思えてくる。

 リーダーだけが、この辛さを知らずに死んでいったんだ。

 でも、これは死者の冒涜だろう。

「・・・まあ、どうせ俺達があいつのためにやれることなんて、何一つないさ」

 彼は、もう死んでしまった。

 彼の置き土産は、まあ大層なものだけれども。

「彼は、いいヤツだったんだから、俺達に彼を恨む権利はないさ。現実を受け入れることしか出来ないんだ。ある意味、あいつは罪深い人間だ」

「ハっ、・・・そうなのかもな」

 時折彼と話しながら、近くの酒場まで歩いた。

 酒場は、空席はまだあれど、かなり人がいた。

 まあ、みんな楽しそうで実に羨ましい。俺達も、冒険を続けていればいつか、こんな風に忘れられる日が来るのだろうか。

「あっち、座ろう」

 彼が指さす方の席に座った。

 まあ、歌声が聞こえたり笑い合う声が聞こえたり、そんな雰囲気が昔は嫌いだったと思うのだが、今は羨ましいと思ってしまう。

「あの、ビールを二つ下さい」

 彼は元気無く、ウエイターに注文した。

 こういうときこそ、きっと元気を出すべきなんだろうけれども。さすがに、無理があった。彼は、いいヤツすぎた。だから、俺達に大きな罪を残したわけだ。

「いっつも、四人で来てたのにな、」

 ああ、そうだったな。

 もう、泣く気力も起きない。誰かが死んだって、それは仕方のないことだと思っていた。そう、ずっと言い聞かせてきたけれども、それを受け入れなきゃいけないのは、想像していたよりも遥かに難しいことだ。

「どうせ、明日も来るだろ、」

「まあ、そうだろうけどな」

 彼と俺は力なく笑う。

「ビール二つです」

 ウエイターは、別に大事な仲間を失うなんてことないから、いいよな。

「どうも、」

 俺達は、乾杯なんてせずに、そのまま一気に飲んだ。飲んだ後に出るのは、ため息だ。

「・・・・・・」

 彼は、何かを喋ろうとしてやめた。そして、なぜだか周りを見回している。

「まあ、墓参りくらいは、来てやろうよ」

「それは、そのつもりだって。それで、いつか笑って話せるようになるさ、」

 そんな未来は、まったく浮かばないけれども。

「そうだな。死ぬって、結局そういうことなんだろうな」

「ああ、あんないいヤツだったんだから、いつかは、俺達だって笑えるようになるさ」

 そうか、そうかもしれない。

 でも、彼だからこそ俺達も、こう落ち込んでいるわけだ。

「あいつは、いいヤツすぎたよ」

「そうだな。あんないいヤツ、見たことねえよ。絶対に、困ってる人を見捨てないし。誰にでも、優しいし、ダンジョンでだっていつでも俺達のことを気にかけてくれてたからな。ホント、・・・情けねえよ、」

 彼は顔を背ける。

 俺も、涙腺が少し緩むのを感じた。もしかしたら、酔っ払ったからなのかもしれない。

「大丈夫だって。・・・もともと、設置魔法でどうにか倒そうって話だったじゃん。それに、俺だってさ、」

 後悔なんて、してもしきれないよな。

 でも、俺達はずっと苦しむんだろう。それは、リーダーの望んでいるものでは無いだろうけど。

 でも、それがきっと、彼の犯した唯一の罪だ。

 俺みたいな人間とは、全然違うのだ。

 誰だって、きっと罪深い。

 生きているだけで、罪深いんだ。

「・・・すまん。まあ、一旦気の滅入るような話は無しにしよう」

 そういって、彼はもう一度ウエイターを呼び寄せてビールを頼んだ。

 注文を受けたウエイターはすぐに戻ってきて、机の上にビールを二つ置いた。

「乾杯!」

「ああ、そうだな。乾杯」

 なんだかんだ、俺達であの、難攻不落のダンジョンを攻略したんじゃないか。

 こんなことさえなければ、もっと誇ってよかったはずだ。

「おい、お前らか?」

 後ろから、やけにデカい男の声がした。

 俺達二人は、同時に振り返った。

「おい、お前らのリーダー死んだらしいなww」

 デリカシーのないやつだ。まあ、かなり顔が赤くなっている。無理もないのかもしれない。それに、男の子分と思われるやつが三人、男の後ろに隠れてニヤニヤしている。

「お前ら、金持ってるんだろ?奢れよww」

 人の気持ちも考えずに。

「金はない。近寄んな、ゴミが」

 俺は、感情のこもらない声で男に言い返す。

「仲間が死んで、悲しんでるんだろ?ざまあみろ。お前らのリーダーは、その程度だったんだwww」

 あいつは、強い。俺や、お前の何倍も強い。

「死んだやつを、悪く言うなよ。卑怯者が」

「なんだ、いいだろ?死んでるんだからよww」

 子分が男のことを囃し立てる。

「いいな。お前のその、ゴミ見てえな汚い脳みそで考えてみろよ。人の気持ちも考えられない人間未満のくせに、酒飲んで、現実忘れて、それで自分の言う事聞く子分集めて、で、家帰ったら夜な夜なシコってんだろ?羨ましいよ。お前は、生まれたときから、色々と足りなくて大変だったんだろ?俺には、分かるよ。お前と違って想像力があるからな。それに、金がないなら、やるよ。俺達が大事な仲間を失う悲しみよりも、お前らがいっつも他人からの視線にビビっていっつも馬鹿にされてるんじゃないかってビクビクしながら生き続けることに比べたらよっぽどマシだからな。でもな、ここまで現実から逃げ続けていることにも、俺、尊敬しているんだよ。すごいよね。本当に、頭が悪く生まれてよかったじゃん!!ホントに、羨ましいよ。そうやって、現実を見ないふりができるから、こんなに恥ずかしいこともできるんだもんね」

「黙れ!!!」

 毅然とした対応だったと思う。

 この怒りが、本物かどうかわからないけれども、それでも、この男は許しがたい。

 俺と、隣にいた彼は戦闘態勢をとった。もちろん、武器はないけれども、魔法だって杖が無くても簡単なもんなら使えるし、俺だってリーダーの隣でずっと戦ってきたんだ。

 子分どもが彼の方に向かってきたので、俺は男に殴りかかった。男は、ナイフを取り出してきた。

 ・・・

 どうも、見覚えがある。

 俺は、普通に男の顔面を思い切り殴った。男は、ナイフを握ったまま倒れた。俺は、馬乗りになって何度も殴った。

 ・・・ 

 すこしして、俺が振り返ると、彼も子分三人を片付け終わったところだった。

「お前はお前で、言い過ぎだろww」

「ハハ、・・・すっきりしたよ、俺」

 どうせ、酔っぱらいなんてこんなもんだ。

 俺達は、この男たちを店の外に放り投げて、二人で飲み直した。

 二人とも、かなり酔っ払ってきたところで、俺達はそれぞれ自分の家に戻った。

 そして、家に帰って俺は死ぬほど泣いた。

 結局、これからも苦しみながら生きるしかないんだろう。

 彼の犯した罪を、俺は恨むことはできないし。

「死んだら、楽になれるのかな、」

 きっと、そうなんだろうけど、それは俺が罪を重ねるということに繋がってしまう。

 きっと、俺達が救われることなんて、未来永劫ないのだ。

 いいことをしても、それは、ある意味罪深いことなんだ。

 悪いことをすることは、もちろん、罪深いことだ。

 リーダーがいなくなったからなのだろうか。どうも、部屋が広く感じる。

 コンッ、コンッ 

 客か?珍しい。

 玄関に向かう。彼が来たのだろうか?でも、結構酔っ払っていたと思うのだが。

 頭が痛い。

 酒を飲みすぎたようだ。

 俺は、扉を開ける。

 そして、目を見開いた。

「逃げるなよ」

 すまんな。

 まあ、これでもう苦しむこともない。

 こうやってまた、罪は流転していくのだろう。


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