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命の反乱

まあ、ただの逆張り野郎ですよ。

このどうしようもない奴の罪が、どう精算されるか見届けてもらいたいです。

まだ、続きます。

 現在、過去、未来はどうやら別々に存在しているらしい。まあ、あくまで一つの意見だが。

 でも、そうだとしたら俺は今、どれを生きているのだろうか。

「おい、お前がやれよ」

「は?!前もおr」

 もう少し反論しておきたかったのに、俺は上司に殴られた。

「お前は、俺に反抗するのか?」

 まあ、合理的な判断に基づけば、俺は反乱すべきではない。おっと、反抗だった。

 だがまあ、もしこの戦争に勝ったなら、後悔するのはあんたの方だけどね、と思いつつも、まあこれは明らかな負け戦だ。

 合理的な判断は、集団からは失われてしまうものだ。それは多分、俺みたいな人間が集まってできた集団だとしても無理だろう。

「早く、行ってこい」

「はいはい」

 俺は、もっと優秀なのだ。だが、優秀であるほど他人に恨まれる可能性が高い、と判断して、テストでは手を抜いた。のが、まあ裏目に出てしまった。

 それは、生存率が高い場合のみだ。新聞やらのウソ情報を信じてしまったがゆえに、こんな末端の一番死に役をやらされるハメになるとは。許しがたい。

 そもそも、「この国は勝ってる」みたいなことを堂々と流すのって、少し怪しいかもな、と思っていてもよかったはずだ。俺なのだから。

 まあ、無能な上司に囲まれて、それに、あんまり他人と仲良くするのは得意じゃないのだ。

 こんな、知らない土地まで来て俺は何をしているんだ。というか、無能すぎるにも程があるだろ、と思ってしまう。

 もう、何日くらい経ってるんだろうな。時間の感覚がおろそかになりつつある。

 未来は、明るいのだろうか。明るかったとしても、そこにたどり着けるのか?過去に囚われていたかった。

 俺は、もともと繋がれてあった線を辿る。

 身をかがめて、肌に泥を塗ってバレないようにして。それが効果があるのかどうかは知らないが、合理的だと判断した。まあ、今のところ無傷なのだから、きっとこれが最善なのだろう。まあ、戦争なんて行っても、合理的な判断さえ続けていたら生きながらえられると思っていたが、考えが甘かったと認めざるを得ない。

 まあ、日中はバンバンバンバンうるさいし、上司もいちいち怒鳴ってくるし。

 うるさいのって、単純に迷惑なんだよな。黙れ、の一言で解決できる問題なはずなのに。

 なんか、中世らへんのときは、煙を使ってコミュニケーションをとってただとか、教わった気がするけど、それに、なんかもっと便利なものを知っているような、知らないような。

 ていうか、そもそもそんなことをどこで教わったのだ?

 まあ、今はそんな暇はない。

 ああ、あそこか。大丈夫か?スナイパーとかがいたりしないよな?線が切れてるけど、普通こんな場所は切れないよな。切れないというか、爆発に巻き込まれたとかじゃなさそうだな。伏兵か?それともスナイパーか。スナイパーは、さすがに無理か?

 俺は、銃に弾を装填した。

 なんで、こんな大事な役割を俺なんかに押し付けるのだ。そんなだから、勝てないんだ。ついこの前までは、我が国の戦闘機は世界で最強だとか言っていた気がするんだけどな。

 これだから、集団は信用ならないんだ。

 ああ、死にたくなんてないのに。

 何度も俺は周囲を見渡す。体勢を低くしていると周りが見えないので仕方なく俺は、立ち上がった。今思うと、あまりにも自殺行為だったけれど、当時は冷静さを失っていたのだ。本当に、運がよくてよかった。たまたま、俺の周りの草丈が高かったのだ。おそらく、それのお陰で近くに居た敵兵にもなんとかバレずに済んだ。

「いないんか?」

 言語が通じなかっただけかも知れないが、まあまあ大きな声でそう言ったが特に返答がない。

 俺は、仕方なく震える手で電話線の修理を開始する。

 一応、身を屈めて敵に見えないようにはしているつもりだが、まあ、これで撃たれたらそれはもう仕方がない。こんな役目を俺に負わせる方が悪いに違いない。もう、どうなっても知らないぞ、という気持ちで、俺は修理をしていたが、まあ、なんとか無事にできてよかった。

 俺は、とりあえずその場からすぐに離れた。

 そして、一〇〇メートルくらい離れたところで振り返り、俺が居た場所のすぐ近くの茂みで敵が寝ているのが見えた。

 俺は、走って逃げた。

 それにしても、俺みたいなお気楽な奴がいるもんだな。本当に、助かった。いや、殺してくるべきだっただろうか。

 まあ、いい。銃弾だってもっと殺意の高い敵に使うのが効率的、というものだろう。あ、合理的だった。

 俺は、普通に全力疾走した。なんだかんだ言って、無駄に身を屈めて隠れながら移動するよりは、走った方が敵だって狙いにくいものだろう。まあ、地雷だって頑張れば爆発に巻き込まれずに済みそうな気さえする。

 先ほど確認したばかりではあるが、一応帰るときも走りながら電話線が切れていないかを確認した。

 もちろん、そんなすぐには切れることはない。

 仲間たちの潜伏している洞窟が見えてきた。

「あ、隊長!!俺、直してきました」

 俺は大きな声で隊長に俺の手柄を誇示した。「敵に見つかって、こいつ死なねえかな」という思いも多少は混ざっていたと思う。

「黙れ!!」

 俺よりも大きな声で隊長が叫ぶ。塹壕を掘っている仲間に緊張が走った。何人かの隊員が俺の方を睨んだけれども、俺は「おい、お前ら俺と同じ気持ちなんじゃないのかよ」と純粋に疑問に思った。

 人間というのは、同じ考えとか価値観の人同士で固まるものだ。

 なんだか、以前も同じ考えを持った誰かとなにかあった気がするが、思い出せない。し、至極当たり前のことだったので、俺は特に気に止めなかった。

「お前も、早く働け」

 隊長が俺の頬をぶった後、俺にスコップを渡してきた。

 どっかの宗教では、「右の頬をぶたれたら、左の頬を差し出しなさい」という言葉があるっていうのを聞いた気がするが、そいつらは、今何をしているんだよ。そりゃ、実際にそんなことしたらどうかと思うけど、お前ら信じてるんじゃないのかよ、と言いたくなる。

 戦争が話し合いだったら、俺負けないと思うんだけどな。

 話し合いの結果、犠牲が出るなら特になにも思わないし。

 俺はすでに作業をしていた仲間の横に並んで、作業に参加した。

「おい、お前少しは空気読めよ」

「いやいや、それはこっちのセリフだよ。おんなじ気持ちなんだからさ、なんでそんなこと言うんだよ。結束を乱す発言だぞ」

「は?お前のせいであいつの機嫌が悪くなったら、こっちまで怒られるんだぞ」

「そんなの、どうでもいいじゃないかよ。怒られたら、認めろよ。なんにもないのに怒るなんてことないだろ?」

 俺はすっかり「戦争が終わったら、真っ先に隊長殺そうな!!」とかいう熱い展開になるとばかり思っていたのだが。

「それに、敵に見つかったらどうするんだよ!とりあえず、お前は黙ってろよ」

 俺の唯一の武器を封じられたら、もうどうしようもない。それに、さっき「うるさいのは、黙れの一言で解決できる」と言ってしまったのだから、俺はその自分で言ったことを守るしかないし。

 結局は、自分に正直でいたいんだよな。

 塹壕は、深ければ深いほどいい、というわけではないし、最近は上空を一日に何回も戦闘機が飛んでいるし、どうせ役に立たないことをやるのはあまり気が向かないが、ある意味、意味のないことをやることは合理的なはずだ。結束を強める、という点においては。いや、反抗する気力を削ぐ、という点においてか。

 栄養も足りないから頭が回らない。

 やはり、そこら辺の草や葉っぱは、かなりリスクが高いと思うのだ。もちろん、それを躊躇無く食べる仲間もいるが、俺はできれば植物は避けたい。食料も、上が勝つつもりでいるから、こっちがケチらなきゃいけなくなっているのだ。

 カエルとかを焼いて食べるのは別にいいんだけどな。

「おい!!本部からの伝令だ。明日、敵に突撃する。準備しとけ」

 仲間たちの、諦めの「ハッ」という声が重なる。

 俺も、ここまでかな?

 まあ、そこまで生き延びたいか、と言われるとどうもそうでもないような気がするのだが。

 でも、いざ死が近づいてくると、本能的に生を求めてしまう。まあ、合理的ではあるよな。

「おい、内田」

「どうしたんだ」

 この小隊には十数人の兵隊がいる。正直、名前はわからないし、なんとなく互いに名前を教え合うことを躊躇している節もある。まあ、死にゆく仲間に情が湧いてしまうと、戦闘に支障が出るからな。実に、合理的な判断だ。

「お前、これ持っててくれないか?」

 俺は、仲間の一人から細長く折りたたまれた紙を受け取った。

 彼の顔を見て、彼の情報が急に頭の中に入ってくる。思い出のようなものも流れ込んでくるが、どうも、臨場感がない。なんなのだろうか。彼とは、他の隊員に比べると喋っていた方らしいが、その割には、俺の彼への情というのもかなり控えめだ。

 過ぎ去ったはずの時間が、どこかへ消えてしまったみたいだ。

「お前、自殺するなよ」

「違うわ。・・・わかるだろ」

 彼は、諦めているんだな。まあ、諦めないことが合理的とは言わないけれども、キミの遺言状を見る人なんているの?と思ってしまう。

 俺が書いたとして、無名の役立たず兵士の残す遺言状なんて世間から非難の対象にされるだけだろう。

 言ってあげるべきだろうか。

「お前が生き残ったら、俺の家族に頼むよ。今は汽車で遠くに引っ越したけんど、きっといつか戻ってくる」

「そうか?」

 こういうときに、普通の感性というものがあまりわからない俺は、彼の家族の気持ちを上手く想像することができない。

 でも、動物には帰巣本能というのがあるらしいしな。

 金はかかるにしても、合理的なことなのかもしれない。

 いや、そんなことはないか。

 少なくとも、俺なら戻ってこないな。

「家族に、なに言うんだよ」

「・・・ごめんって謝るんだよ。陛下の役に立てそうにもないしな」

「・・・・・みんな、書いてるのか?」

「多分」

 じゃあ、俺だけ書いていないのはよくないじゃないか。

 あれ、そういえば入隊のときに書いたか?

 書いたけど、・・・なんだか夢の中の出来事のようにも思える。つまんない夢だ。でも、夢で見るってことはそのくらい普段から意識していたってことか?

「じゃあ、俺、今から書くから持っててくれよ」

「なんでだよ」

「だって、俺だけはおかしいだろ」

 だいたい、人に頼む時は合理性を求めないのが俺だ。

 普通に、自分で持っているのが一番いいに決まっている。

 だがまあ、仕方がない。そういうもんだ。コミュニケーションっていうやつだろう。まあ、口には出せないけれども。

「とりあえず、お前のは俺がふんどしに挟んでおく」

「胸元とかにしてくれよ」

「それで、俺が撃たれたらどうするんだよ!!」

「ああ、・・・じゃあ、そこでいいよ」

「な?まあ、ちょっと待ってろ。俺も、今から書く」

 いつの間にか、見張りの隊員以外は眠りについていた。

 俺はポケットから鉛筆を取り出した。

 鉛筆の木の部分は、ぐるぐると回すと非常に不均等であることがわかる、不格好なものだ。

 俺は、気になったので、ナイフで削った。

 俺は削ったカスを口に含みながら、丁寧に削った。

 こういうのは、合理的というよりは、非合理的と言うんだろうな。そして、格好良くなった鉛筆で、俺は遺言状を書き始めた。

「「内田です。以前から、本当にお世話になりました。おそらく、私はここで勇敢に銃弾に撃たれて死ぬか、無様に爆撃に巻き込まれて死ぬと思います。しかし、万が一私が生き残ってしまった場合は、もう一度遺言状を書く機会を下さい。寿命を全うして死ぬ場合は、もっと書きたい事があるので、もしよければ、紙を用意してもらえると嬉しいです」っと」

 一人でブツブツと書いた内容と言っていることを照らし合わせながら書いた。

「あ〜、なんかな〜」

 書きたいことが、無い。いや、自分に書きたいことがあるだけで、他人はどうでもいい。

 あ〜、やっぱり死ぬんだな、と感じた。

 できれば、敵兵の目の前まで言って、嫌味を言ってから死にたい。

「あのさ、お前は・・・死にたい?」

「死にたいわけないだろ」

「いや、その、死に近い俺たちだからこそ、そういうことが話せるんだろ。ぶっちゃけ、どうなんだよ?」

「・・・死にたくないよ」

「え、本気で言ってんの?その、死ぬ間際くらい、自分に素直になったらどうなの?」

「いや、本当に死にたくないって」

 どうも腑に落ちないが、これは俺の勘違いだったのかもしれない。人間という生き物は、死にたがりだと思っていたのだが。まあ、普通に考えればそんなわけないじゃないか。それに、さっきも極限の状態に陥ると生を求めてしまうものだ、と自分で言っていたではないか。

「え、じゃあ、国のためなら、死にたい?」

「それは、まあそうだな。国の役に立てるなら、死んでもいい」

「できれば、死にたくないってこと?」

「そんなことはない。国のために死ねと言われたら、死ねる」

「でも、言われなければ死なないでしょ」

「いつ、言われるかわからないじゃないか」

 それは、そうだな。確かに、適切なタイミングもとい一番役に立てるときに死にたいもんな。なるほど。

「じゃあ、例えば、戦争で撃ち殺した敵兵が今亡霊となって現れて、「罪を償え」って耳元でしつこく言われたら、どう?」

「そんなんじゃ、死なん」

「まあ、敵兵だとそうなるか。じゃあ、間違えて味方を撃ってしまって、同じような状況になったら?」

「それでも、別に死にたくはならん」

「結局、国のためなら死ねるってことでいいの?」

「・・・まあ、そうだよ」

「このまま、味方とはぐれてずっとここで隠れてなきゃいけないってことになっても?」

「もちろん、国のために俺は隠れ続ける」

「あ、そう」

 国のためなんて、俺は思えないな。だって、そうやって死んでいく人間が沢山いるわけだろ。死んだとしても、せいぜいその数千人のうちの一人だぜ?全然じゃん。それって、本当に役に立ってるのか?

「敵に拷問されても、死にたくならないか?」

「ならない。国のためだ」

 まあ、この国は本当によく洗脳が行き届いている。まあ、そんなことをいいつつも、俺だって拷問されたくらいじゃ死にたいなんて思わないと思うな。まあ、実際どうなるかはわからないが。

「・・・・・・お前は、怖くないのか?」

「何が?死ぬことか?」

「それもそうだけど、その、国のために死ぬことがだ」

「・・・同じじゃないのか?」

「ただ殺されるんじゃなくて、国のために死ぬ、つまりこの国に殺されるってことだと思うんだよ。いくら、死ねるとは言っても、」

「信じているものに、信じ切れないまま殺されるのが怖いってことか?」

「・・・まあ、そうかもしれない。お前は、どうなんだよ」

「死にたくはないけど、・・・別にな〜、よくわからないんだ」

 心に、なぜだかもやもやとしたものがつっかえているのだ。

「なんか、死ぬっていう実感がないんだよ。なんなら、早く死にたいくらいだ。いや、そんなことはないか?まあ、なんだか、理由もわからないのに辛いんだ」

「お前って、辛かったのか?」

「そんなに辛くはないぞ」

 でも、いっつもスッキリとしない。なんだろうか。記憶の奥底に、なにかが眠っているような気がするが、思い出せない。それどころか、もっと手前にある記憶すらもよく思い出せないのだ。

 そもそも、俺は本当に生きているのか?もしかすると、死んでいるんじゃないか?

「結局、お前も死ぬことは怖いのか?」

「死ぬなら、何か遺したい。お前も、男なら分かると思うけどな、戦争に行く前って、なぜだか勃起するだろ?子孫を残したくなるんだよ。それと同じさ。やってることは、逆だけどな。俺も、俺を殺したやつが死にたくなるくらいの呪いを残していきたいんだよ。それは、恨みとかじゃなくて、生存本能だと思うんだ」

「それは、当たり前だと思うぞ」

 思わず「え、そうなの」と素っ頓狂な声が出てしまった。すっかり、俺だけかと思っていた。

「いや、でもよ、俺がもし特攻隊に選ばれてたら、全然関係ないところに墜落してやろうって思ってたんだよ。それか、普通にサボろうと思ってたんだ」

「明日はちゃんと働いてくれよ」

「まあ、俺にとっての敵は隊長だから」

「みんな我慢してるんだからやめてくれよ。どうせ、明日死ぬさ。俺達も、隊長も」

 冗談めかして、彼は言った。

 それにしても、上も、なんで地上でまで俺たちを特攻させようとするんだ。どうにもならんぞ。そもそも、舟で来てるやつらなんか、もっと前に撃退できたと思うのだが。なんで、ここまで寄せ付けちゃったんだよ。島国だぜ。

「ハハ、まあわかったよ。あいつも、どうせ死ぬもんな。でも、ああいうやつに限って生き残ったりするもんだぜ」

「隊長だって、ここまでは来ているんだ。それなりの覚悟くらいはあるよ」

 確かに、隊長の心情に慮ったことはなかったな。本当にずる賢いやつは、こんなところまで来ないか。

「まあ、所詮は人間の命だしな。たった一つしかないんだから、それが大切なわけがない」

「いや、逆だろ」

「お前は、金が大事か?」

「もちろん」

「金は、一つだけか?」

「一つっていうわけではないけど、替えが効かないから大事だ」

「いいか。大事なもんっていうのは、だいたい替えが効くだろ。陛下だって、代わりがいるし、隊長だって、死んだら別の隊長が送られてくるんだぞ。金だって、また稼げば良い。つまりな、本当に大事なものには代わりがいるんだ」

「それは、物によるだろ」

「いやいや、じゃあ、家族だ。家族って大事だろ?」

「そりゃそうだ」

「家族は、替えが効くだろ?子供がいなくなったら、もう一人産めばいいし、奥さんが居なくなったら、違うのを連れてくれば良い。親だって、まあおんなじようなもんだろ。それに、なんか親しいだけのおっさんを「親父」って呼んだりするじゃねえか。だから、替えが効くんだよ」

「そんなことはないだろ。替えは効かないし、一つしかないから大切にしないといけないんだ」

「大切じゃないものに限って、替えが効かないもんだろ」

「だから、それは物によるじゃねえか」

 なんでだ。

 やっぱり、俺には彼らの気持ちがわからない。世界で自分が特別だと思うから、命に価値を付けたがるんだ。俺は、大切な人間か?冷めた物の見方しか出来ない人間が、必要か、と言われれば、必要ではない。戦争では、優秀な人材となるのかもしれないが、少なくとも、日常生活において、そんなやつに横にいてほしくはない。俺でさえ、そう思う。

「まあ、いいんだよ。どうせ、死ぬんだし。そうだな、誰かが俺の代わりをやってくれれば、俺はなんにも考えずに死ねると思うんだけどな」

「お前の代わりはいないと思うけど、別にいてもほしくはない」

「ハハ、そうだろ」

 なんとなく肯定してしまったが、今のこの会話でそう思われたのか?記憶が無いのだが、俺は嫌われていたのか?記憶、というよりは俺の脳内にきっちりと整理された情報をパラパラとめくる。

 やっぱり、自分を客観的に見るって難しいんだよな。

「俺と隊長なら、どっちが嫌い?」

「同じくらいだ」

「じゃあ、俺と隊長の両方がいなくなったら、お前たちはどうなるんだよ」

 他の兵隊は皆寝ている。もちろん、中には極度のストレスで眠れなくて、寝たフリをしているやつもいるとは思うが。彼らは、俺がいなくなったらどうなるんだ。

「平和になるさ」

「なんでだよ。今は、俺とか隊長のお陰で平和が保たれてるってことだろ?」

 もしかすると、隊長がみんなを洗脳したのか?故意ではないにしても、俺に怒りの矛先を向けるのは、きっと合理的なはずだ。

 合理的なら、俺がとやかくいう筋合いはないのだが。

「そんなことはない。お前らがいなくなったあと、いずれ俺たちは死ぬにしても、国のために心置き無く死ねるさ」

「・・・・・そうか。じゃあ、俺は寝る」

 俺は、一方的に会話を打ち切り、その場に横になった。彼の遺言は、俺の胸ポケットに大事にしまわれている。

 俺は、特にストレスを感じることもないので、そのままスルリと眠りに入った。

 翌朝、隊長の殴打で俺は起きた。

 まあ、他の兵隊も同じように、最悪な目覚めを経験した。

 普段は他人には腹を立てないようにする俺でも、今回ばかりは腹が立った。それに、俺と隊長がおんなじような扱いを受けているのか?仲間のなかでは。

「集合!!」

 十数人の兵士が隊長の前に隊列を作って並ぶ。隣から、ガタガタと歯がぶつかり合う音が聞こえてくる。俺の隣にいる兵士なんかは、手があからさまに震えていた。

 俺は、ただただ不機嫌だった。眠いし、このまま戦地に赴かされるなんて信じられない。非常に、腹立たしい。

「これから、敵に先制攻撃を仕掛ける!」

 どうせ使わないんだろうとは思っていたが、塹壕なんて掘らせて、(まあ、どうせ一日暇なら掘っておくに越したことはないが)一日体力を削らせやがって。

「ついて来い!」

 あんたは、俺らしいぞ、と言いたいのをこらえる。みんな、ついていきたいなんて一寸も思っていない。まあ、俺が言えることではないが。

 俺達は、二列に並んで、敵陣に向けて出発した。食料もろくになければ、水や、弾薬や手榴弾ですら足りていないくらいだ。

 敵うはずもない。

 だからといって、死ぬことにはそれほど躊躇はない。

 いや、どうなんだろうか。

 それにしても、敵国は国家総動員なんかしてないんだろ?実に、羨ましい。こっちがどんだけ削ってこの戦争にかけているのかわかっているのか?それなりの誠意というものを見せてもらいたいものだ。

 まあ、敵国にしてみれば、そんなのは全く合理的ではないが。

 俺たちは、地雷もろくに確認せずに、歩きながら敵兵のいる場所に向かった。向かう場所がどの程度のものなのか、わからない。

 できれば、捕虜になって、劣悪な環境で働かされて、国際問題に発展させてほしいものだ。まあ、負けてなおそんなことが言える状況かどうかはわからないが。

 俺の中にある考えが、浮かび上がる。

 隊長を殺しても、いいんじゃないか?どうせ、替えは効く。大切な役目なのだから。まあ、大切な役目だなんて心の底から思ったことは、一度も無いけれども。

 記憶をめくっても、そんなことは一切書かれていない。

 この俺の考えが合理的かどうかはわからないけれども、なんだか、それが運命なんじゃないか、と思えてきたのだ。

 俺は、何かの罪を償っているのかもしれない。それで、いつの間にか感情を失ったのかもしれない。なんでかわからないけれども、そう思った。いや、思ったと言うよりは、そう感じたのだ。

 俺みたいな空っぽの人間には、運命が入る隙間が沢山ある。

「隊長!!」

 俺は、叫んだ。

 隊長は、めんどくさそうにこちらを振り向く。やけに、汗をかいていた。隊長も、死ぬのが怖いのだろうか。まあ、怖いなら、怖いでこちらからすると、都合がいい。それに、死を怖いと思うことは、非常に合理的なはずだ。

「なんか、足元に変な感触があります!!」

 俺の周りにいた兵士が、一気に遠ざかった。

「おい!!動くな。あとで助けてやるから、そこで待ってろ」

 と言った後、

「行くぞ!」

 と、隊長は他の隊員に命令を出した。そして、俺がその場に留まっているうちに、彼らは見えなくなった。もちろん、俺だって今の状況はわかっている。それに、感触があるなんてウソだし。

 正直、俺の踏んだものがなにかくらいは確認しにくると思っていたのだがな。

 まあ、いい。じゃあ、俺は先回りするまでだ。

 俺は走った。

 気温はやけに暑いし、体力もほとんど残っていないけれども、どうせ死ぬんだ、と思うと結構力が出た。

 それにしても、やっぱり死が近づくと人間って思いもしないような力が出るよな、と思った。

 彼から昨日もらった遺言状をどうすべきか、とも思ったが、きっと誰かが見つけてくれるだろう。

 でこぼこな道を走る。体力が無いので、何回も躓きそうになるけど、なんとか立ち上がって走る。そのまま転がっていく方が早いな、と思った。

 が、仲間の足跡を辿った。全力で走ったので、仲間たちの列はすぐに見えた。

 どうせなら、全員殺してしまおうか。いくらなんでも、あんなところで俺を見捨てるのか?俺を見捨てる、ということは、見捨てる責任を隊長に押し付けて、自分は罪から逃れている、ということなんだぞ、と全員に言ってやりたい。遺言状だって、いいのかよ。まあ、「あんなやつに預けるんじゃなかった」と思っていてくれればそれでいいけれども。

 俺は、体勢を低くして味方を尾行した。彼らは、周りを警戒しながら進んでいるとはいえ、実際には監視に集中力は割かれていないはずだ。俺ならば、すぐに気付けるというのに。こんな極限状態でも。

 それにしても、彼らは本当に敵のいる場所に向かって歩いているのだろうか。もう、とっくに蟻地獄の中にいるんだから、ここから合理を求めるならば、俺は敵の罪悪感を煽ることにシフトするというのに。いや失礼、目的を移行させると言うのに。

 俺でも、命がいくら大事じゃないからといって、ただ何もせずに死ぬのは、あまりにももったいないと思うのだ。

 それなのに、彼らは何もせずに死ぬことを目標としている。国のためといっても、俺たちが死んだところで、敵に許してくれるわけでもないのだ。なんで、あんなことをしてしまうんだ。先制攻撃なんて、無理にしやがったせいだ。全部は。

 ということで、俺は先程のものを先制攻撃とみなす。

 敵に会うまえに、味方に接近しなければならない。

 俺は、味方の見える位置ギリギリを大きく回って、先頭を歩く隊長がギリギリ射程内に入る距離まで接近した。味方は、おそらくまだこちらに気づいていない。

 彼らの歩くスピードよりも少し早めに歩き、彼らと適切な距離を保つ。高低差も、さほどないので、俺が不利になることもないだろう。こうやって、はっきりとした自分の意思で人を殺そうと思ったのは初めてかもしれない。

 ・・・・・以前に、俺は誰か殺したことがあったか?戦場でも、特になんの成果も上げてなかったはずなのだが。

 まあ、今はそんなことを気にしている暇はない。

 俺は、最後の嫌がらせとして、彼からもらった遺言状を、針と糸で服の腹の部分に縫い付けた。

 これでいい。後悔しやがれ。俺は、正直敵よりもお前らが嫌いだ。死ぬのだって、大して怖くはない。

 あとは、チャンスを伺って、確実に隊長だけでも殺す!

 俺は、草で身を隠しながら彼らに近づいた。射程内ではあるが、もう少し近づきたい。大した訓練も受けていない俺が銃弾を命中させるには、かなりの至近距離まで近づく必要がある。

 それにしても、せっかく仲間のために隊長を撃ち殺してやろうかと思ったのに、置いてくなんて。

 怒りが湧いている実感はないけれども、なんだか怒っていなければ人間としておかしい、という感情が俺に怒っているかのように思わせてくる。

 そうだ。きっと、俺は怒っている。そうに違いない。あんまり、わからないけれど。

「全体、止まれっ!!!!」

 仲間の何人かが、止まる。

 残念、それは俺の声だ。

 隊長も、困惑しているようだ?

「おい、今誰が言ったんだ!!!お前ら、非国民か!!」

 非国民って、便利な言葉ですね。頭を使わずに人を叱ってるから、こんなことになるんですよ。

「すいまっせん〜。俺ですよ。俺」

 結構、大きな声で俺がアピールする。おっと、訴える。まあ、もう気にする必要もないな。

「さっき、地雷が爆発して死んだんですよ。そしたら、幽霊になっちゃったので、助けに来てくれなかった皆さんのことを祟りに来ました」

 何人かの仲間は、そこから走って逃げ去った。

 まあ、こんなこといえば「なに馬鹿なこと言ってるんだよ」と近寄ってくるもんだと思っていたが、こんなに効果絶大とは思っていなかった。それにしても、皆さん俺を置いていった割には罪悪感を抱えていたようで、満足です。

「おい、お前ら、あああああ、撃て!!撃て!早く!」

 隊長も、腰を抜かしてその場に縮こまっていた。

 何人かの兵士は、震える手で銃に弾を装填している。が、うまくはいっていなさそうだ。

 なんだか、やっぱり俺は怒ってなんかいなかったな、と思った。まあ、こんなもんだ。どうせ。人の怒りなんて。それなのに、みんな過剰に怖がりすぎているからこんなことになるんだ。「亡霊一匹のせいで、隊員が散り散りになって壊滅した」となれば、それこそ末代までの恥になってしまうぞ。

 俺は、ゆっくりと彼らに向かって歩き出した。

 引くに引けない状況ではあるが、まあ俺はそういうのは気にしないのだ。まあ、このくらいでいいだろう。

 両手に銃を持ちながら、俺は彼らの方へと一歩、また一歩と歩を進める。

 バンッ

 音が聞こえた。一瞬敵兵かとも思ったが、どうやら違う。

 隊長だ。縮こまりながら、俺を撃ってきたのだ。弾は思い切り外れていたのだが、それは問題ではない。

「おい、てめえ、撃ちやがって。死んだら、どうするんだよ!!!殺すぞ!!」

 俺は、そのあとはもうなにも考えていなかった。

 ただ、銃を構えて隊長を撃った。

 そして、隊長は死んだ。

 いいよな、代わりがいるから。


また見てね

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