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機能美から始まる江東区政ラブ・マッチング ~私を『女神』と呼ぶ最強エリートは、重度の筋肉フェチでした~  作者: あおきつばさ


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第25章:【結末】ハッピー・マッスル・ウェディング

第25章:【結末】ハッピー・マッスル・ウェディング

「……いよいよ、この日が来たのね」


3月、大安。江東区の空は、雲一つない快晴だった。

私は、江東区役所二階の恋愛成就課(RAJ)の窓口の前に立っていた。けれど、今日はカウンターの「内側」ではない。「外側」――すなわち、一人の区民として、ここにいる。


隣には、紺色のオーダーメイドスーツを完璧に着こなした瀬戸慎治。

彼の手には、一通の書類。私たちがこれまで積み上げてきたスクワットの回数よりも、プロテインをシェイクした回数よりも、ずっと重みのある一枚の紙。

『婚姻届』。


「……斉藤さん。……いや、美緒。心拍数は安定しているか。震えで署名を乱すことは、行政手続きの効率を著しく低下させるぞ」


慎治さんは、真面目な顔で私の指先を見つめた。

相変わらずのデリカシーのなさ。けれど、その瞳の奥には、一年前のあの日、東陽町駅前で私を冷たくあしらっていた男の面影はもうどこにもなかった。そこにあるのは、世界で一番信頼できる、私の「生涯の補助スポット」の熱量だけだ。


「……大丈夫よ。……見てなさい、私のこの一年の集大成、完璧な筆圧で証明してやるわ!」


私は、13号のセットアップに包まれた背筋をピンと伸ばし、ペンを走らせた。


斉藤美緒。そして、瀬戸慎治。


二人の名前が並んだ瞬間、私の心の中で、11号のスカートに縛られていた過去の自分が、ふわりと空へ溶けていくような気がした。


「はい! 確かに受理いたしましたぁぁぁ!」


カウンターの向こうで、青山愛が鼻水を垂らしながら絶叫した。

江頭課長は、満足げにハンコを捺すと、眼鏡の奥の鋭い目を少しだけ和ませた。


「……実績第1号、正式に確定ね。斉藤さん、いえ、瀬戸さん。……江東区の未来、貴方たちのその『健康的な家庭』にかかっているわよ。……お幸せに」


「……ありがとうございます、課長!」


窓口を後にする時、RAJの同僚たちが一斉に拍手を送ってくれた。

四年間の公務員生活。

苦しいことも、スカートが破れたことも、理不尽なクレームに泣いた夜もあった。

けれど、そのすべてが、この「最強のパートナー」に出会うためのトレーニングだったのだと、今なら心から思える。



午後。披露宴会場は、豊洲のウォーターフロントを見渡せる開放的なゲストハウス。

参列列者たちが息を呑む中、私は慎治さんのエスコートでバージンロードを歩いていた。


今日の私のウェディングドレスは、慎治さんがデザイナーと数ヶ月にわたって「機能美」を議論し尽くした特注品だ。

 前面は、シルクの光沢が美しい正統派のプリンセスライン。

 けれど、背中バックは腰のあたりまで大胆に開いた、バックレススタイル。


「……見て、あの新婦の背中……!」

「なんて美しい広背筋なの……。肩甲骨の可動域が、まるで翼みたい……」


招待客から漏れる、一般的ではない称賛。


慎治さんに鍛え上げられ、アーチェリーの特訓で研ぎ澄まされた私の背中は、白磁のような肌の下で、意志を持つ彫刻のように躍動していた。


13号のサイズ。それは「太った」ことの証拠ではなく、私が私らしく、力強く生きるための「自由の翼」のサイズだったのだ。


披露宴のメインディッシュが運ばれてくると、会場にどよめきが起きた。

「……え、これ、ウェディングメニュー……?」

 

皿の上に鎮座していたのは、最高級地鶏の胸肉を、慎治さん直伝の「60℃2時間」で仕上げた低温調理、および、栄養価を最大化した1分45秒ボイルのブロッコリー。

味付けは、ヒマラヤ産岩塩と最高級オリーブオイルのみ。

 

「……皆様、本日のメニューは、新郎新婦が『真の健康と末永いバルクアップ』を願って厳選したものです!」


司会の青山の絶叫が響く中、商社マンの同僚たちは苦笑いし、私の実家の両親は「美緒らしいわね……」と涙ぐみながら鶏肉を噛みしめていた。



披露宴のクライマックス。

キャンドルサービスの代わりに、私たちは会場の中央に設置されたアーチェリーの的に向かった。


 二人で一つの弓を支える、共同作業。


「……準備はいいか、美緒」


「……ええ。……外したら、新婚旅行はシルバーマンジム合宿よ」


「望むところだ。……いくぞ」


二人の呼吸を合わせる。

慎治さんの大きな手が、私の手を包み込む。

背後に感じる、彼の圧倒的な体幹の安定感。

私たちは同時に、弦を放した。


パァン!


放たれた矢は、虹を描くように空を飛び、標的にぶら下がっていた大きな風船を射抜いた。

中から舞い散ったのは、無数のピンク色のリボン。


会場から、地鳴りのような拍手が巻き起こる。

かつてのライバル、香坂麗奈様も、5号サイズのドレスを凛と着こなし、誰よりも優雅に、そして力強く拍手を送ってくれていた。


「……美緒。……世界一、綺麗だぞ」


慎治さんが、私の耳元で囁いた。

それは、どんなスペックの羅列よりも、私の心拍数を跳ね上げる魔法の言葉だった。



ー結婚式から数日後の、早朝ー

江東区、荒川河川敷

 

まだ冷たさの残る春の風を切り裂いて、走る二人の姿があった。

私は、お揃いのランニングウェアに身を包み、アスファルトを力強く蹴っていた。


「……慎治さん、遅いですよ! 心拍数、まだ余裕があるんじゃないの?」


私は、少し先を走りながら振り返った。

後ろを走る慎治さんは、余裕の表情を崩さないまま、けれどその瞳に熱い愛着を湛えて私を見つめている。


「……フン。……美緒。……君の大臀筋の躍動が、朝日を浴びてあまりにも完璧なアーチを描いている。……それに見惚れて、俺のストライドがわずかに乱れただけだ」


「……もう。……一生、それ言ってるつもり?」


「一生どころか、来世まで語り継ぐつもりだ。……待て、美緒! 今、右の肩甲骨がわずかに下がったぞ! フォームの修正が必要だ!」


「うるさーい! ……追いつけるもんなら、やってみなさいよ!」


私は、さらにスピードを上げた。

11号という小さな檻を飛び出し、13号という広い世界へ。

 

幸せの号数は、誰かが決める数字じゃない。

愛する人と共に流した汗の数。

共に乗り越えた重みの数。

そして、自分を信じて踏み出した、一歩一歩の足跡の数で決まるのだ。


江東区の空の下。

私たちの愛のロードワークは、新しい太陽に向かって、どこまでも、どこまでも続いていく。


「……大好きよ、筋肉バカ!」


「……ああ。……俺もだ、俺の女神ヴァルキリー


二人の笑い声が、オレンジ色の河川敷に響き渡り、新しい一日が幕を開けた。




(完)


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