脚本草案
破裂音と打撃音が聞こえる。金属特有の金切り声が舞台に響く。
机に向かう学生たち。彼らは無機的な数学用語や化学用語でコミュニケーションをしていた。
「サイン2シータをここで使って円を比で内積する。それと三角関数でここを表してフィビナッチ数列が出る。」
静謐。しばらくペンの音だけが聞こえる。
扉が開かれた。
「こ、これ。」
小さな声でポツリと一言。誰も気にかけない。ただそばにいた理系が尋ねた。
「なんだ?今はみんな数学の論文で忙しいんだ。」
「見つけたんだ。ついに。僕は9組に行ったんだ。」
「…馬鹿なことを言うな。そんなお伽話もう誰も信じていない。」
静まり返るクラス。ペンの音は止まり、皆が訪問者を睨む。
「これをみてくれ。」
大きな音で音楽が流れた。キャッチーなフレーズでメロディカルな音階。皆が聞き惚れた。
「9組。本当か?」
「…ああ。」
「でも今はもうない。見失った。」
静かに一番奥の席の男が席を立つ。
「俺は認めないぞ。」
その一言でまたクラスの雰囲気が静まり返る。
「今、俺らは数学論文を書いている。それで良いじゃないか。」
顔数人がを背く。J訪問者は静かな声で何か呟いてから去った。
ボスは静かに不機嫌を足音で表して別の扉から去った。それから教室で再び喧騒が始まる。
「なぁ、どうする?」
最初は静かだった。けれど一気に勢いは盛る。
「俺は認める。知的なことだけをするのであればAIに任せれば良い。」
「人間は生物だ。美的感覚を否定するのは本能を否定することと同義だ。」
「そうだ、あの音楽を認めるべきだ。」
「ボスになんと言われようとも、俺はあいつ(訪問者)を迎え入れたい。」
ボスが再び扉からやってきた。
「お前ら、何してる?論文を書くんだ。早く。」
「…」
「なんだ?お前ら。」
静かな抵抗。一人が口を開く。皆がその一人を注視する。
「俺はあの音楽に惚れた。もうやめよう、全部。」
「…何が言いたい。」
「あんたは芸術を認めないのか?ただの機械のままで良いのか?」
「だから…認めようって言ってるんだ。あの(訪問者)を。」
扉からまた訪問者がやってきた。今度は大勢だった。
「9組の連中だ。皆、あの日のままの美的センスを持っている。あんたらはどうする?俺に乗るか?」
「ああ。」
無言で頷く。
ボスはだんまり俯いたまま。
しばらくしてボスが口を開く。
「どうしてここにきた?俺にあれだけ叱責されたのに。」
「それは、俺らが。」
「お前らが?」
「俺らが文系だからだ。」
「それで?理系の方が役にたつ。」
「それは、機械としての能力だ。人間としての能力は関係ないだろ?」
「お前は何を言っている?」
にらむボス。見上げる訪問者たち。
「人間らしさをこの社会は失った。効率と技術を求めすぎた。さもともとそれらは人々の生活を豊かにするためのものであったはずだ。なのに今は。」
「時代を進める。できることが増える。知らないことが分かるようになる。これ以上ない進歩だ。」
「…その進歩が人間と共に成長しなければならないんだ。機械に魂を売っても人の心はそ豊かにならない。」
静かな音楽が流れる。幻想的な音楽。ボスの肩が震える。
「だったらどうすればいいんだ?もう俺らはき魂を機械に売ってしまった。」
「この世界にはPL法というものがある。」
「なんだそれは?」
「勉強ばかりしているのに知らないのか?PL法っていうのは、払い戻しが公的にできる法律だ。」
「どういうことだ?」
「機械に魂を売ったのなら、その契約を無かったことにできる。」
「それはでも…ただの比喩だろ?」
「比喩じゃない。人の心は消えない。長い間使わなかっただけで、何万年もの人の本能が消え失せることはない。この音楽を聴け。」
無言。静かに音楽が流れる。
「確かに。俺は間違っていたようだな。」
その言葉と共に照明が消える。真っ暗。
しばらくして、証明が再びつ点灯する。大音量の音楽と共に最後の山場。大規模ダンス。
理系が皆踊る。
そして幕を閉じる。




