文香の誕生日(七月十三日)
悩んでいるね、って言われた。もうすぐ、文香の誕生日だ。今年も手渡し出来そうなので、何が良いか考えている。流石に毎年同じものって言うわけにはいかないので困る。香水じゃないものがいいね。
「イラストでも、描けば喜ぶんじゃないの」
「え、なんか、母の日や父の日みたいだ」
「あはは、そんな感じはあるね。でも、贈り物って気持ちでしょ」
「そうだね。ケーキでも買って行こうかな。嘉くんも行く?」
「二人で楽しんで来てよ」
珍しく嘉くんには、断られた。いつもなら、一緒に行くって言うのにね。絵美も通話で一緒に入るから遠慮したのかもしれない。
* * *
文香の部屋に来るのは十回を超えた。結構、頻繁に通っている気がする。変装はしているし、嘉くんが一緒じゃないのでバレないのは助かるね。
今日は、珍しく白のロングスカートにグレーのジャケットを合わせた。暑いこともあって、帽子と日傘は必須だ。
「文香、こんにちは」
「麻衣、いらっしゃい。今日は嘉くんはお仕事?」
「いや、部屋にいるよ」
「一緒じゃないんだね」
「うん、きっと、絵美も一緒に通話するんじゃ無いかって思ってる」
「ああ、なる」
「はい、これ。誕生日おめでとう」
「ありがとう、ケーキだ」
ホールはやめた。だって、二人じゃ食べきれないからね。期間限定のマンゴーのケーキにしたら喜んでくれたようだ。そして、サプライズの意味を込めて、プレゼントはここで描くことにした。
100均に寄って、色紙を買った。なんでも売っていて助かるよね。これに、頑張って、文香も好きなミキくんを描くことにした。タブレットに練習してきたんだ。嘉くんでも良かったんだけど、文香なら、隣りに私もいたら良いのにって言ってくるのを回避した。遥くんは、嘉くんが嫌な顔するからやめた。
「お、描いてくれるんだ」
「うん、でも、リクエストは禁止」
「え、なんで?」
「一人で我慢して」
「なるほど」
私が一枚の色紙に複数人を描くのが苦手だと思われたようだ。何も言わないよ。そう思わせておこうと思う。
『やっほー、文香さん、同い年おめでとう』
「おう、ありがとう」
絵美は、私にいつも言う言葉と同じ台詞を文香にも言っている。二人で話しているので、その間に描いてしまおうと思う。
『麻衣、いるんだよね。静かだけど?』
「うん、イラスト描いてもらってる」
『おお、いいね!』
「リクエストは受け付けてもらえなかった」
『うん、分かった。文香が何をリクエストするか分かったよ』
どうせ、遥×嘉隆なんでしょう、って言っている。それ、嘉くん、機嫌悪くするよ。今日は、突っ込んでくれる学くんはいないようだ。私は聞こえないふりを決め込んで、イラストを完成させた。あ、色鉛筆忘れた。
「文香、色鉛筆貸して」
「うん、良いよ。ちょっと待ってね」
プレゼントを渡す人に、借りてなにやってるの、って絵美には笑われた。良いじゃん、流石に下書きとペンで描いただけって言うわけにはいかないでしょう。
『あのさ、なんで、イラストにしようと思ったの?』
「うん、いつも一緒だとつまらないかなって」
『そっか、珍しいねって思ったんだよ』
「嘉くんが、イラストにしたら、って言うから」
『ああ、よっちゃんの案か』
私なんて思い付きもしなかったよ。だから、素直に嘉くんの案って言ったら笑われた。
直ぐに文香は色鉛筆を持って来てくれたんだけど、その量に驚いた。いや、これ何色あるの。
「うん、百色あるよ」
『あ、それ、うちにもある』
絵美のところにもあるのか。百色って使うのか? そう思っていたこともありました。いや、楽しいな。これだけあると使うのが楽しい。
「いいな、これ」
「麻衣の誕生日これにしようか」
普段、タブレットで描くので、今回は本当に久しぶりに色紙に描いた。なので、次も使うか謎なんだよな。
「自分で、買わないものだから、プレゼントでもらうんだよ」
「そう言うものか」
なんだろ、文香の誕生日なのに、私の誕生日の話をしている。不思議だ。絵美も爆笑している。絵美、流石にペンはいらんよ。
文香とケーキを食べていたんだけど、絵美もケーキを用意していて笑った。大好きなモンブランにしたらしい。私は、桃が乗った季節のフルーツタルトだ。
三人(?)で、懐かしい話に花を咲かせたんだけど、やっぱり、二人の話にはついていけそうになかった。
2026/07/13 活動報告掲載




