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婚約破棄のち、奥手な魔王様に溺愛されています  作者: 来須みかん


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20 あなたを信じます

 マーガレットはフワフワの金髪をメイドキャップの中に押し込め隠しているが、彼女の庇護欲を掻き立てる可愛らしさは隠せていない。


「マーガレット、ぜんぜん変装になっていないけど大丈夫なの?」


 それでなくても、学園ではモテすぎて困っていたのに。


 レイナが不安になって尋ねると、マーガレットは少し驚いたあとにクスッと笑う。


「今のこの状況で私の心配をするなんて……。レイナは相変わらずね。そういうところが好きなんだけど」


 その言葉で、レイナはマーガレットにも告白されていたことを思い出した。今の今まで忘れていた自分の無神経さを後悔してしまう。


(マーガレットは、今の私のことをどう思っているのかしら?)


 アルベルト王子のように『諦めきれない』と思っていたらどうしようかと不安に思っていると、マーガレットは、「そんなに警戒しないで」と悲しそうに微笑んだ。


「今でもレイナのことは大好きだけど、それは恋愛感情ではないから。実はね」


 マーガレットが言うには、レイナが卒業パーティーの場から魔王の元に行ったあと、その付近にいた先生、王子の護衛騎士とマーガレットの三人で「どうしたらいいんだ!?」と大慌てしたそうだ。


 とっさに三人で連携を取って、各方面に連絡している途中で、ヴァエティ家の神獣経由でレイナが無事だと分かったらしい。


「そのときのことがきっかけで仲良くなったのよ。そもそも三人ともレイナを好きになって振られたからね。意気投合したというか」


 レイナはなんと言っていいのか分からず黙って聞いていた。


「あ、もちろん、誰もレイナのことは恨んでないよ! むしろ、三人ともレイナには感謝してるの。だって、四大公爵令嬢のレイナは、本当なら私達の告白なんて鼻で笑って無視しても良いくらいなのに、きちんと受け止めて、きっぱりと振ってくれたからね」


 ニコリと微笑むマーガレットは、ウソを言っているようには思えない。


「でも、殿下の護衛騎士は、私のことを恨んでいるわ。だって、ヴァエティ家に来たときに私のことを暗い目で睨みつけていたってココ様が言っていたもの」


「ああ、あれね」


 マーガレットはため息をついた。


「殿下が謹慎中にもかかわらず、レイナに会いに行くのを止められなかったって、ものすごく落ち込んでいたから、レイナに謝罪でもしたかったんじゃない?」


「そうかしら……」


 狂気じみた選択をしたアルベルト王子を見たあとでは、誰を信じて良いのか分からない。


「今ね、殿下を呼び出してくれているのは、その護衛騎士なの。レイナ、私たちは大丈夫。苦しかったけど、ちゃんと失恋したという現実を受け止めたから。先生なんて、失恋で落ち込んでいたときに慰めてくれた同期の先生とちょっと良い感じになっているもの」


 マーガレットは「でも、殿下は超えてはいけない一線を越えてしまったわ」と無感情に呟いた。


「あなた、殿下が何をしたのか知っているの?」


 アルベルトはレイナを手に入れるためだけに、戦争を望む魔族を城内に引き入れた。それをマーガレットは、知っているようで小さく頷く。


「私と違って、彼は全てを持っていたのにね」


 そう言ったマーガレットは、メイド服を着ているのになぜか男性に見えた。そして、この冷たい表情にレイナは見覚えがあった。


(アルベルト殿下に、似ている?)


 婚約破棄のときにアルベルトから向けられた軽蔑の眼差しや、さきほどメイドに向けていた冷たい視線とそっくりだった。よくよく見れば、マーガレットとアルベルトは、瞳の色も髪の色もそっくりだ。もちろん、金髪碧眼は王族だけのものではないが、どうしてもアルベルトとマーガレットが重なってしまう。


「マーガレット、あなた、もしかして……王族なの?」


 クスッと微笑むマーガレットは、いつものマーガレットに戻っていた。冷たさが消え、可憐に微笑むマーガレットにアルベルトの面影はもうない。


「よく気がついたわね。さすがレイナ。そう、私、残念ながら王家の血を引いているの。あ、陛下が浮気したんじゃないわよ? 今は亡き先王が、先代王妃様が亡くなったあとに子爵令嬢とできちゃってね。『老いらくの恋』ってやつよ。私の存在はほんの一部の人間しか知らないの。私も一生素性を隠して生きていくつもりだったけど、王太子がご乱心だから無理そうね」


 この国の王子は正式にはアルベルトしかいない。そのアルベルトが国を裏切ったのだから、あとを継ぐのは先王が残した自分になるだろうということをマーガレットは言っている。


「そこでね、レイナ。私たちフラれ三人組で貴女を助けるわ」


「どうして、私を助けてくれるの?」


 レイナは彼らの愛を拒絶したのだから、恨んでいないとしても、危険をおかしてまで助ける義理はないはずだ。


「助ける理由はあるわ。バカ王太子が暴走したせいで、この国は魔王に灰にされても文句がいえない状況よ。でも、レイナから魔王様にこの国を滅ぼさないようにお願いしてほしいの。私が国王になった初めての仕事が『魔王に灰にされた国を復興する』だなんて嫌だもの。それに……」


 マーガレットは、頬を少し赤く染める。


「私たち、友達でしょう? 友達がつらい目にあうのは嫌。これが私が貴女を助ける一番の理由よ」


「マーガレット……」


 マーガレットのことを信じようとレイナは思った。


(例え、これが全てウソでも、ウソを見抜けなかった私が悪いわ。それに、私はマーガレットを信じたい)


 レイナは、マーガレットの手をとった。


「あなたを信じます。私を助けて」


 マーガレットは、花が開くように可憐に微笑んだ。

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