パーティー 5
イメリードは良い人。ロゼールはヤバい人。
中央塔の壁際によりかかって宙を仰ぐ。何度と聞き間違いかと思い反芻するがどんな捉え方をしてもあれは愛の告白だという事実がラスティークの中に大きな跡を残した
(どうして、無視をしたりノートを破り捨てたり、恥をかかせた相手なのに好きになれるの?それがお母様の言っていた真実の愛というものなの?あの人とは違い、ナニカに怯えることなく私を見据えて愛を語っているのはなぜ?)
考えても考えても答えなど出てこない。ラスティークは考えるのをやめてそっと瞼を閉じてからホールの真ん中へと視線を移した。人混みの中心にはシャラナーダが名家の令嬢達に囲まれて苦笑いを零し、隣にいるガスティンもまたどうしようかとオロオロしていた
告白され、心が揺れ動く以前のラスティークならばきっと直ぐにでもあの人混みの中に飛び込み、シャラナーダへとダンスを誘っていただろう。けれど、そんなことをする気なんておきなかった
「あ、さっきぶりですね」
不意に声をかけられ、そちら側へと視線だけを移すとイメリードがグラス片手に立っていた
「えぇ、そうね。ところで愚弟の姿が見えないのだけれど……」
「愚弟って……フィリオス先輩なら終わり次第群がってきた令嬢達から逃げるために外にいるはずですよ〜。あの姿は普段の姿とは全くもって違うから見ものでした」
くつくつと笑いながらグラスの飲み物を空にするとラスティークの隣によりかかる
「……ところで貴方は周りに令嬢が近寄らないのね?」
「まさか、そんなわけないじゃないですか〜。あの御二方と令嬢の弟に群がっているので俺が見向きされないみたいになってますけどそれなりにモテるんですからね」
イメリードの言葉から2人の間に沈黙が降りる。少し伺うようにイメリードがラスティークの顔を覗き込むと口を開いた
「……ところで先輩はシャラナーダ様のところに行かないんですか〜?少し前まで筆頭でしたよね?」
「……えぇ、まあ少しあったから私は今回は最後に踊ろうかと思っているの」
少し肩を揺らして視線を泳がせる。その仕草にイメリードが何らかの確信を持って問いかけた
「……もしかして、何かあったんですか?例えば……告白とか?」
「……っ〜!な、何を言っているのかしら?わ、私はいつも通りですわ。ただ今回は他の者にチャンスを譲ろうということでですわね……!」
必死になって反論するその姿にイメリードは内心ニヤリと笑う
「……ほ〜ん。そうですか。それじゃあ1つ。言わせて貰いましょうか。……Shall we dance?」
少しカッコつけたようにウインクして手を差し伸ばす。その仕草がなんだかいつぞやの弟に重なった
挑発的に微笑みながら彼女は手を取る
「あら、それじゃあ可愛い紳士さんは私を最初にエスコートしてくださるのね?完璧に、私の機嫌を損ねないようにしてくださる?」
「ごめんなさい。少し迷ってしまって……」
クリュッセルはテーブルに着くと2人に謝った。内心、嘘をつくのは気が引けたがここで告白のことを言ってしまうのはなんだか恥ずかしかったからだ
「そうなのですね!まぁ人も多いですし仕方ありませんわ!」
「……いいえ、お疲れ様です。とりあえずもうひと段落してから中央塔を見に行きませんか?」
ロゼールは一切疑わず、ウィーナは何か気付いたような、察したような素振りを見せつつも次の行動を提案する
「そうね……まぁ、人もごちゃごちゃしなくなっているみたいだしそれもいいかもしれないわね」
プリアのジュースを飲みながらゆっくりと食事を摂る。最初の頃よりもゆっくりとなってきたペースを見て3人はその場を後にした
ちらりと中央塔の入り口から中を見ると中心部にはシャラナーダとガスティンがもみくちゃにされるかのように令嬢たちに群がられていた
「うわぁ……」
「大変そうね……」
「あの中に混ざりたくありませんし、巻き込まれるのも嫌ですね」
3人でドン引きながら様子を伺っていると声が掛けられた
「あ、先輩!」
振り向くとフィリオスの姿がそこにあった。後ろの方に追いかけっこをしていた令嬢軍団が居ないことを確認すると問いかける
「どうしたのかしら?」
「……あの、先輩ってダンスの相手いない……ですよね?」
モジモジとしながら上目遣いでクリュッセルを見つめるのでクリュッセルが縦に頷くと少し明るい顔になる
「な、なら僕が先輩と踊ってもいいですよ」
素直になれないその誘いに思わず頬を緩めると隣に居たロゼールが鬼の形相でフィリオスを見る
「なんなんですの!?いくら公爵令息と言ってもその態度、クリュッセル様に失礼ですわよ!」
「ま、まぁまぁ。フィリオス君はどうして私を誘ったのかしら?沢山の令嬢と追いかけっこをしていたような……」
「ひっ……そ、それはやめてください!僕、彼女たちから逃げるために追いかけっこみたいなことをする羽目になったんですから!あと呼び捨てで良いって言いましたよね!?」
顔を青ざめながら早口で言いきるとロゼールは口を開く
「……ふ〜ん。つまり貴方はその令嬢方から逃げるための盾にクリュッセル様を誘ったということかしら?」
怒りのあまり後ろに見えた気がする火山がグラグラと音を立て始める
「ち、違います!僕は元か……っ、とにかく僕と踊って下さい!お願いします!」
途中まで言いかけて今度は顔を赤くすると頼み込むように頭を下げた
「この……頭を下げれば……」
「ロゼール、良いのよ。フィリオス……君。私、ちょうど踊る相手が居ないの。だからそのお誘い、お受け致しますわ」
ロゼールが襲いかかろうとするのをウィーナが物理で止め、クリュッセルが言葉で止めるとクリュッセルはフィリオスの手をそっと取り、微笑む
「あ、ありがとう、ございます!」
一礼して手を繋ぐと中央塔へとエスコートされる。その様子を後ろから恨めしそうにロゼールが見つめ、ウィーナがぽんぽんと慰めながら塔に入っていく姿はとても不思議なものだった
段々とロゼールのヤバさが浮き彫りになる今日この頃、冬の足音が聞こえてきそうなほど寒いです




