主人公の憤懣4
ようやく最終章のスタートラインに立つことができました。
これも遅々と進まぬ本作に辛抱強く付き合ってくださる皆様のお陰です。
感謝の極みです!
もうしばらくお付き合いいただけますと光栄です。
どうぞ宜しくお願い致します。
今回、次回プロローグ的、投獄済み本来の主人公、悪役転落のエレーナ・アナスタシアについてのお話です。
「おい、交代の時間だ」
「あぁ、いつも通り異常なしだ」
分厚い石の扉の前で2人の衛兵が鍵の束を引き継ぐ。
ここは王城の奥にある王家直々の裁判により裁かれた貴族が入れられる牢獄に続く場所である。
長きに渡り使われなかった場所であるが数ヶ月前、ここで一生を終えることが決まった3人の罪人が収監され、牢前扉の門番兼見張りという新たな仕事ができた。
門番とはいえこんな場所に訪ねてくる者がいるわけもなく、見張りとはいえ堅固な牢から出てくる者などいるわけもなく。
その上城の奥深くという立地も相まってただでさえひっそりとした場所で1人、形ばかりの仕事をこなさなければならないこのお役目は衛兵達の間で決して人気のある仕事とは到底言えなかった。
「つーかこんな門番兼見張りなんて仕事ほんとにいるのかね?」
次の当番の衛兵が胸元から2本手のひらサイズの瓶が取り出される。
1本を交代の衛兵に手渡すと1本の蓋は自分で開けた。
濃い酒精の香りがあたりに霧散する。
2人の衛兵はそれぞれ瓶からそのまま中身をあおった。
「まぁ中にいるのは重罪人だぜ?いくら出てくることなんかないとはいえお役目自体は必要なんじゃないか?」
「それにしても人っ子1人廊下を通らないし本当に退屈な仕事だよ」
「なぁ、今度扉の中、試しに入ってみないか?元貴族の罪人様でも話し相手くらいにはなるかもしれないぞ」
「そんなもん兵長にバレたら懲戒ものだぞ?」
「じゃランドの奴にやらせてみるってのはどうだ?」
「あの子だくさん子爵家のへっぴり腰五男坊か?いいな、話のネタにやってみるか。ただアイツ元貴族様とはいえ罪人相手にも自慢のへっぴり腰を発揮して会いにいけないんじゃないか」
「よし、なら俺はランドが牢に行くに3銅貨賭けよう」
「へぇ、なら俺は怖気づいて行けないに賭ける」
就業時間中にも関わらず、酒の気配を漂わせた男達の楽しげな会話は続く。
そう、この仕事は人気も危険もない故、隊内でも無気力、実力なしなどといった爪弾き者達に回ってくることが多いのだ。
その結果がこの仕事ぶりなのである。
〜・〜・〜・〜・〜
「じぁあしっかりやれよ!へっぴり腰」
先輩衛兵達の下卑た笑い声と共に背後の石の扉が閉まる。
その迫力ある音に思わず「ひっ」という引きつった悲鳴が出た。
どうしてこんなことになったのか。
ランド・フォルスタは真っ暗な階段を頼りないランタンの灯りと震える足で少しずつ降りていく。
フォルスタ家はグリンフィールド王国の子爵家だ。
庶民の出ながら先祖たちの5代に渡り騎士として長きに渡る活躍と国への献身によって、先々代の国王陛下から爵位を賜りランドの世代で3代目となる。
3代目とは言ってもランドが家を継ぐ可能性など絶対にない。
家によっては次男、三男ならば長男の状況によっては家督を継ぐこともあり得るがランドは男7人、女4人の大家族の中の五男。
しかも騎士とは思えぬほどの胆の小ささといつまでたっても上達しない剣術の腕から、城内騎士団の中でついたあだ名は「へっぴり腰のランド」。
万が一に長男から四男までいずれも家督を継げないという奇跡が起きたとしても、次のお鉢は六男か七男に回るだろうことは本人にもわかっていた。
そもそも自身の運動神経の悪さと臆病さを少年時代から十分に理解していたランドは騎士になどなりたくなかった。
できれば文官や研究者として静かに粛々と仕事をしたいたいたいと願っていたほどだ。
しかしその希望は父親であるフォルスタ家当主に真っ向から叩き潰された。
フォルスタ家は武勲によって爵位を賜った。
故にさらなる高みを目指す功も武功でなければならない、というのが厳格な父親の考えだった。
そのためランドの兄達も騎士として城に出仕しているし、姉達も皆、騎士同士の関係を深めるために騎士貴族に嫁いでいる。
気の弱いランドが「文官になりたい」などと強面の父親に言えるわけもない。
もはや騎士になるのは既定路線だった。
騎士として芽が出る要素など1つもないのに。
ランドは恐る恐る歩を進めながら盛大にため息をついた。
自分のため息が狭い空間に反響して、その音にすらビクリとしてしまう。
どうして自分はこうなのか。
兄達は騎士団の中で着実に実績を積んでいる。
自分はといえば、近衛の味噌っかすばかりが集められたこの「罪人の見張りと門番」という仕事に飛ばされて戻れる様子もない。
来年入団予定のランドより遥かに運動神経がいい弟もすぐに自分を追い抜いていくだろう。
屋敷でたまにすれ違う父にあの迫力のある声で小言を言われると思うと身震いが起きた。
ランドはその恐ろしい想像を振り払うように首を振る。
父親云々の前にまずはこの罪人に話しかけるという「任務」をなんとか達成しなくては、先輩達からどんな折檻を受けるかわからない。
ランドは細く長く息を吐き、汗ばむ手でそっと罪人達の居室に繋がる鉄の扉を開いた。
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