兄弟の確執6
会話が長くて読みにくいかもですが、広い心でお読みいただけますと幸いです。
「顔をあげて座ってくれクロード」
久しぶりに愛称で名を呼ばれ、おずおずと顔をあげるとそこには口元には笑みを浮かべながらも目元は今にも泣き出しそうな初めて見る兄の顔があり、クロフォードは思わずギョっとした。
「兄上…」
「いや、すまない。成長したなと思って」
言いながらレナフォードは指で目元を拭っている。
その様子にクロフォードは細く体に溜まった息を吐いた。
自分の理不尽な気持ちを知っても、決して怒ってはいない兄の様子にようやく安堵した。
「さっきの俺の話を聞いてわかってもらえていると思うが、お前に対して怒っているなんて気持ちは微塵もない」
「僕も兄上のお話を聞いて、国を離れた理由がわかりましたので…少し安心しました」
レナフォードは弟が察することがないよう、表情を崩さずに奥歯をギリリと食いしばった。
自分に責任があるのではないかと弟に思わせ続けていたことには後悔が滲む。
しかし、ようやく弟に自分の言葉で話をすることで、彼の重荷を1つ下ろすことができたこと、そして自分の心の重荷が1つ下りたことにレナフォードは胸をなでおろしていた。
文字通り胸をなでおろした時、自分が上服の中ポケットに忍ばせていた小瓶の存在を思い出す。
ニヤリといつものレナフォードらしい、いたずらめいた表情を見てクロフォードはキョトンとした幼い頃のような表情で兄の手の先の行方を目で追った。
「仲直り記念に乾杯でもしますか」
「兄上…どこにそんなもの忍ばせる空間があるんですか」
レナフォードはぶどう酒の小瓶の栓を抜くと侍女達が置いていったグラスの中からやや小振りなワイングラスを2つ選び、赤い液体を注いでいく。
苦笑するクロフォードの目の前にグラスを置くと、速く持つように促した。
「では、これからのグリンフィールド王国の発展と少し速いが若き王太子の立志を祝して」
「王国の安寧と兄の旅路の無事を祈って」
すっかり生温くなったぶどう酒は思った以上にまろやかな味わいで、長年の澱やぎこちなさを溶かしていくにはまさにちょうどいい代物だった。
〜・〜・〜・〜・〜
「クロード、もうきのこは食べれるようになった?」
「…僕ももうあの時のような子どもではありません」
乾杯をきっかけとしてレナフォードは甲斐甲斐しくクロフォードになべをよそってやり、年少者へのからかいも忘れずに会話を進めていく。
まるで昔から仲のよい男兄弟のようだ。
こういう切り替えの速さは見習わなくては、とだ少しぎこちなさの残るクロフォードは考える。
「そうだな、かわいい婚約者様もいることだし、いつまでも子ども扱いするのもよくないな」
そこでクロフォードの動きがピタリと止まった。
「…兄上はなぜ執拗にフェリスティアと2人で会いたがるんですか」
「かわいいこちゃんがいれば、お茶の1杯でも、お話の一つでもご一緒願いたいと思うのは男の性じゃないか」
「兄上!」
ジトッとした真面目な目でこちらを見る弟が見れて、思わず笑みが深くなる。
こういう所がまだ子どもなのだ。
兄として弟をまだ少しはかわいがれる余地が残っていたことに思わず嬉しくなった。
「まぁ半分は冗談だけどさ、実際に自分の目で、神託の巫女兼お前の婚約者殿を確認してみたかったんだ」
「確認?ですか」
「長年神託の巫女を勤めてきたお祖母様に代わって現れた新しい巫女。しかも身元がよくわからない上にお前と出会う以前の記憶もないと聞く。その上周囲から見ればわずか1年足らずで突然の婚約。クロードやフェリスティアちゃんと会ったことがない人間や周囲から見れば、まるで出来すぎたような話に思えないか?」
「そうかもしれませんが…」
「もちろん、王国内でフェリスティアちゃんが慕われていることは知っているし、2人がひじょーーーうに劇的な恋におち、情熱的な求婚の上、深く愛し合っていることは母上の本を読んで理解してる」
母上。
まさか、兄上にまであの本を配っていたのか…。
経緯を知らない身内に自分の恋愛事情を一から十まで暴露されることほど恥ずかしいことはない。
「まぁただ、自国は良くてもフェリスティアちゃんのことをまだよく知らない他国の政治筋達が何をどう思うかわからない。特にお前が王太子として立志すればその勘ぐりは今よりも深くなるし、悪意を向けられることもありうるだろう。俺だってかわいい弟の婚約者がそんな悪意に晒されるのはできる限り避けたい」
「兄上、すみません。僕が浅慮でした」
「まぁお前への罪滅ぼしの1つとして、できればそういう外の悪意の芽を摘んでおこうと思ってさ。ただ身内かわいさに事実と異なる情報を流したとなると、俺や王国の信頼にも関わってくる。そのためにも1度フェリスティアちゃんと2人だけでじっくり話して人となりを確かめたかったんだ」
「…始めから意図を話していただければ」
「昼間までのお前にそんなこと言ったって信じてくれなかっただろう?というか話しを聞いてもくれなかっただろう」
「…それは申し訳ございません」
「いや、お互い様だから構わない。俺もお前に説明する義務を怠ったわけだし。まぁ愛する婚約者にちょっかい出されて苛立つかわいい弟を見れただけでも良しとしよう。あとで母上にも報告しておくよ。第2巻も出そうと息巻いてるらしいから」
「兄上!その暴挙を止めてください!」
「お前達の結婚式の引き出物として仲のいい王家に配るつもりらしいぞ」
「またあの人は勝手なことを!」
真っ赤な顔で憤る弟の姿を肴に飲むぶどう酒はうまい。
仲直りできたからと言ってすぐに心の距離を縮められるものかと内心心配していたが一安心だ。
「まぁその話は置いておいても、フェリスティアちゃんには悪いことしたかな。こちらの事情で振り回してしまって」
またしてもクロフォードの動きが固まる。
そう、レナフォードはまだしもクロフォードとフェリスティアは今や冷戦状態となっている。
兄の件で冷静さを失い、彼女の話に耳を傾ける余裕を失ったせいで、フェリスティアをひどく傷つけてしまった。
クロフォードは猛烈にフェリスティアに会って話をしたいような、それでいて会うのがひどく恐ろしいような気持ちに苛まれはじめた。
「まぁ勇気がいるかもしれないけど、ちゃんと話して仲直りしておいでよ。仲睦まじい夫婦への第一歩じゃない?」
「そんな簡単に言わないでください」
「まぁ、今回俺とお前が仲直りできた件は俺が父上に報告して、兄弟冷戦が長引いた罪についてはお前の分までこってりしぼられてきてやるからさ」
「兄上…」
「なんだい弟よ」
「できれば仲直りについてご助言などいただければ…」
「助言ってほどのことじゃないけどさ」
「はい」
「やっぱり正攻法が1番じゃない」
「正攻法、ですか?」
「しっかり目を見て誠心誠意謝る」
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