兄弟の確執4
「やっほーフェリスティア!ひさしぶり~」
1人で読書に勤しんでいると、後ろから明るい声が聞こえてくる。
「ハロさんお久しぶりです」
そこにいたのは、精霊のハロさんだった。
ハロさんに会うのは本当に久しぶりだ。
基本的に決まったら公務で精霊の間に行く以外、私から精霊にコンタクトをとることはできないので、会えるかどうかはハロさんの気まぐれまかせである。
ただ、いくら私が忙しくしていたからといって、こんなにも来訪の間が空くのは珍しい。
とりあえずハロさん用にストックしているお茶とお菓子を用意して、もてなしの準備をすることにした。
「フェリスティア、さいきんいそがしかったでしょ~?じつはぼくもいそがしかったんだ~」
用意したクッキーをいっぱいに頬張りながら、どこかドヤ顔気味にハロさんは喋り始める。
これは前世で言う忙しい自慢マウントのようなものであろうか。
だが、ハロさんにかかれば可愛らしいとしか思わせないところが、彼らしい。
「精霊さん達の世界でなにかあったんですか?」
「もうすぐ年がかわるでしょ?ぼくたち、年がかわるときおまつりをするの!」
「お祭りですか?」
「うん、おいしいものいーっぱいよういして、母様の根元の広場をかざりつけて、ふるい年の夜からあたらしい年の朝までおどったりうたったりするんだよ。それであたらしい年の朝のお日さまに母様とみんなで感謝の祈りをするんだよ」
どうやら母様ーこの世界を見守り続けてくださる世界樹様ーが作った行事らしい。
なんでもこのグリンフィールド王国の初代国王、バート・グリンフィールドに人間界の祭なる行事の存在を聞き、精霊達の世界でも再現したのだそうだ。
人間の世界でも、新年王家の方々が城のバルコニーから、神託の巫女が精霊の間で新年の日の出と共に、大地と国の安寧を願う行事がある。
この行事も建国時から続く伝統あるものだの聞いていたが、どうやら精霊さん達の行事と繋がっているようだ。
「ハロさんはお祭りに向けてなんのお仕事をなさっているんですか?」
「ぼくはね、食べ物あつめるかかり!木の実とか果物とか」
基本的に食事はとらなくても構わない、口にするのは嗜好品としてまれに、という精霊達もお祭りとあれば話は別なのだろう。
「ほかに花の蜜をあつめる子とか、朝露で飲み物つくる子とか、花飾りをつくる子とかいろいろしごとがあるんだよ」
「ぼくらもなかなかいそがしいでしょ?」と胸を張るハロさんの頭を撫でつつ、ふと思いつき提案してみる。
「ハロさん、もしもクッキーをご用意したら、お祭りのお食事に加えていただけますか?ちょうどさっき焼き上がったところなんです」
「もちろん!もちろん!!だいかんげい!!みんなきっとよろこぶよ!」
部屋にこもりきりではよくないから、とミリーに促されクッキーを焼いていたのだが、ちょうどよかった。
私はクッキーの準備をお願いしたい旨をメモし、部屋の外、ドアの前に置いた。
基本的に私以外の人の前に姿を現したがらない精霊さん達への配慮で、私がハロさんと話している時は他の者が入室しないようにしている。
ハロさんがやって来たら私はベルで屋敷に知らせ、帰った際もベルで知らせる。
なにか用事がある時はベルと共にこうして用件を紙に書いて外に置いておけば、顔を合わせずとも誰かが用事を済ませてくれる仕組みだ。
「よかったです。楽しいものになるといいですね、お祭り」
「フェリスティアもね」
言っている意味がわからず、きょとんとしていると、ハロさんの目が急に真剣なものになった。
「フェリスティアの毎日が、たのしいものであるといいな」
どうやらハロさんは世界樹様を通じてお見通しのようだ。
レナフォード様とクロフォード様の確執に心を痛めていることも。
クロフォード様と仲違いしてしまい、心が沈んでいることも。
「まぁぼくからいえる助言はただひとつだね」
急にニヤリと笑ったかと思うと、ハロさんは私のおでこを撫でつつこう言った。
「女は度胸!」
~・~・~・~・~
まるでどこかの名言のようなセリフを残し、クッキーを受け取ったハロさんは満面の笑みで帰っていった。
賑やかなハロさんがいなくなってしまうと部屋の静けさが急に際立つようだった。
思えば、こんなにも静かな年末年始を過ごすのは初めてかもしれない。
前世の年末年始、特に12月も後半となると目の回るような忙しさだった。
実家の神社の仕事はもちろんのこと、国内有数の神社であった元婚約者の神社の仕事の手伝いもあった。
年始の参拝を受け入れる準備や、懇意にしている有力者への挨拶、歓待などいくら手があっても追い付かないほど。
「あけましておめでとう」を言うことすらできずじまいの年もあった気がする。
それに比べると今世の年末は静かなものだ。
前世の忙しなさを思えばありがたい限りだが、忙しさは考え事をする隙を奪ってくれる。
決して戻りたいとは思わないが、今だけはあの忙しさの中にいたい気がした。
そして前世の除夜の鐘と新年の夜明けは私にとって特別だった。
年末の夜は毎年、参拝客でごった返す元婚約者の神社の社務所で雑事をこなしながら過ごしていた。
そこで遠くにある、どこかのお寺から聞こえる除夜の鐘。
忙しなく手を動かしながらも、鐘の音が1つ聞こえる
ごとに1年の自分を振り替える。
勉強は?
習い事は?
花嫁修行は?
残念ながらあの時の振り返りは、自身の幸せではなく、元婚約者にふさわしい自分であるかどうかがゴールであったが、年の最後に1年を振り替える一時は、旧い年の自分を反省して憑物のような不安を落とし、次の年を新しく清々しい気持ちで迎えるために大切なものだった。
今の重たい気持ちを抱えたまま年を越すのかと思うと、心はさらに重たくなった。
~・~・~・~・~
翌日はアーリア家として、国王陛下に1年のご報告と感謝の言葉を申し上げるため登城する日だった。
ルーベン様は公務で先に登城しているため、城内、控え室として利用できる部屋で待ち合わせする手はずになっている。
アメリアとミリー、ルチアを伴い部屋に向かって歩いていると後ろから声をかけられる。
「フェリスティアちゃん、久しぶり!」
振り返るとそこにいらっしゃったのは、笑顔でヒラヒラと手を振るレナフォード様だった。
思わず身構ええつつも、御挨拶を返す。
「レナフォード様、御機嫌麗しゅうございます」
「今日は陛下に御挨拶?」
「はい、養父と共に年納めの御挨拶に参上致しました」
「それ終わったら時間ある?この前招待状送った異国の話でもしながらお茶でもどう?」
「兄上」
実際、陛下への御挨拶が終わった後はアーリア家の屋敷に帰るのみで予定らしい予定はない。
しかしなんとかお断りしたく、頭をフル回転させていると背後から冷えた声が聞こえる。
「やぁ、クロフォード」
「謁見の間の前ですよ。立ち話などお止めください。フェリスティアも今日は陛下への御挨拶に来たのではないのか?」
「俺が声をかけたんだよ。せっかく綺麗な巫女様に出会えたんだからぜひお茶をしたいなと思ってね」
レナフォード様もなぜそのような誤解を招くような真似をなさるのか。
クロフォード様の気分を害するとわかっているはずなのに。
「そうでしたか、フェリスティアもその気のようですし、どうぞお2人で楽しんできてください」
クロフォード様も勝手に私の気持ちを決めつけないでいただきたい。
そんなこと微塵も考えていない。
「え、そうなの?前回断られちゃったからフラれちゃったかと思ったんだけど、じゃあこの後どうかな?婚約者殿の許可もいただいたことだし」
ニコニコと笑顔を崩さないレナフォード様と冷えた怒りを隠しもなしないクロフォード様、対照的な2人が私を間に挟んでお互いを睨みあっている。
「あっ、そこにいるのはこの前フェリスティアちゃんと一緒にいた侍女ちゃんじゃない?ほら、乗り気らしいご主人に進言するチャンスだよ」
レナフォード様が急にうしろに控えていたルチアに話を振る。
ルチアを確認すると、その後のアメリアの指導もあり、表情を崩さず軽くお辞儀をするような姿勢に変化はないものの、前で重ねていた手が微かに震えている。
それを見た瞬間、フェリスティアは2度の人生で初めて頭に血が昇るのを感じた。
「お2人ともいい加減になさってください!!!」
突如あがった大声にあたりがしんと静まりかえる。
クロフォード様もレナフォード様も侍女達も目を見開いて固まっているし、声を聞き、何事かと出てきた近衛兵すらも呆気にとられていた。
皆の視線は全て大声をあげたフェリスティアに注がれていた。
「クロフォード様もレナフォード様もいい加減になさってください!なぜ私を挟んで言い合ってらっしゃるんですか?大人げないにも程があります!」
見たこともないフェリスティアの鋭い視線を向けられたクロフォードとレナフォードは返事もできずに固まったままだ。
「レナフォード様はこの後お時間ありますね。クロフォード様はこの後のご予定はどうなってらっしゃいますか?」
「特に今日は予定はないけど…」
「ミリー、ルチア、2人はすぐに屋敷に戻って今から私が言うものを料理長に用意してもらって。材料と調理用具さえ準備してもらえればあとは私がするから、調理場も貸してもらえるように伝えてちょうだい」
てきぱきと侍女に指示をすると、フェリスティアは改めて鋭い眼差しで2人を見る。
「お2人をアーリア家にご招待致します。精一杯の歓迎を致しますので夕方、必ずお越しください」
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