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知らなかった事実

精霊の間での報告を終えて2日後、私は国王陛下の許可を得て、兵士の案内のもと地下の牢に向かっていた。


今回臨んだ裁判にあたり、気にかかっていたことが2つある。

1つは減刑を乞う嘆願書を集めることが、世界樹様達を嫌なお気持ちにさせないか。

そしてもう1つ、エレーナ様のことだった。


彼女と2度対峙した際、彼女は自分がクロフォード様と結ばれるのは決定事項だと、そしてこの世界では聞いたことのない、“シナリオ”や“ザコキャラ”といった私の元の世界の言葉を使っていた。


エレーナ様はもしかして私と同じようにこの世界に転生した存在で、なにか私の知らないこの世界のことを知っているのではないかという気がするのだ。


当初は裁判でこれらの疑問が明らかになるのではないかと淡い期待をしていたのだが、解決はしなかった。

かくなる上はエレーナ様とお話し自らその疑問を明らかにするしかない。


牢へと赴き、エレーナ様と面会するためには、国王陛下に面会許可をいただかなくてはならない。

陛下にエレーナ様とお話したい旨をお願いした際、「貴女を亡き者にしようとした罪人に会いにいくなんて」とシェリル妃殿下やクロフォード様にまでとても心配され、許可については難色をしめされた。

皆様のお気持ちもわかるし、心配していただけたことはとてもありがたかったが、エレーナ様の秘密がどうしても知りたかったし、知らなければならないような気がしたのだ。


絶対に無理はしないということと面会時間は15分だけというお約束して、私はようやく面会の許可をいただいた。


「エレーナ・アナスタシア、面会だ」


幾重にも施された錠を解き連れてこられたのは、2畳ほどの面会室だった。

部屋は扉を入った手前と奥の2つに仕切られており、手前側にはカウンターと椅子が1脚備え付けられている。

面会に来た者が使う分だ。

その椅子に座るとちょうど目線の高さの壁が格子状になっており、その奥が収監されている罪人の牢となっていた。

牢といっても私が以前過ごしていたような場所ではなく、8畳ほどのスペースに簡素なベッドと机、そして洗面スペースなど生活するにあたっての最低限の設備が備えられている。


食事も3食、決まった時間に支給されると聞いている。

しかしメニューは毎食同じで、パン、豆と野菜のスープ、小さなクッキーと決まっており、日の光が射さないことと相まって、時間や日にちの感覚を徐々に奪われていくらしい。

いつ終わるともしれない悠久にも似た時を小さな部屋で過ごすという苦しい罰だった。


エレーナ様は「面会」という単語に一瞬目を輝かせたが、私の姿を見るなりその光は明らかに怨嗟の炎に変わり、全身で私の来訪が不愉快だと言っていた。


兵士が視線だけで、「同席しましょうか?」と問い掛けてくる。

しかし内容が内容なだけに、ここでの話を聞かれるのは困る。

私は小さく首を横に振り、予定通り部屋の外で待ってもらうことにした。


「エレーナ様、突然の訪問申し訳ありません」

「なにそれイヤミ?もうあんたのせいで様付けされる身分ですらないんだけど」


以前のかわいらしいエレーナ様の面影はない、刺々しい荒んだ態度だった。


「貴女にお伺いしたいことがあって参りました。少しだけお時間をいただけますか」

「…いいわよ、私もあんたに文句の1つも言いたいところだし、時間は腐らせるほどあるから」


エレーナ様はそう言うと自分の牢にあった椅子を格子の前に持ってきて腰かけた。

私も面会室側の椅子に腰かける。

以前は学友として同じ学舎で過ごしていたはずなのに、今は格子に隔てられて座っているのがなんとも複雑な気分だった。


「以前、王城でクロフォード様が自分の攻略対象でシナリオ通りに進んでいないと仰っていましたよね?それはどういう意味ですか?」

「意味もなにもその言葉の通りよ。あんたも転生者なんでしょ?あのポンヌパイとかいうお菓子、そのまんまアップルパイじゃない。元々知らないとあんなのいきなり作れるわけないわ。同じ時代からの転生者なら意味わかるでしょ」

「いえ…あの、シナリオだとか攻略…つまりご自身がお慕いする方と恋仲になるためにがんばる…といった意味ですよね?そういった言葉の意味自体はわかっているつもりなのですが、具体的にそのシナリオの内容は一体なんなんでしょうか?」

「は?」

「え?」

「…あんた、まさかここがあの人気乙女ゲームの“世界樹のたもとで真実の愛を誓う”だってわかってない

の!?」

「へっ!?なんですかそれは?」


エレーナ様は椅子を倒さんばかりの勢いで、立ち上がると格子越しに血相変えて叫んだ。

しかし、私が本当によく事態を飲み込めていないことがわかると空気が抜けたように再び椅子に座り込み、深いため息をついた。


「いい?“たも愛”はね、正統派純愛系乙女ゲームとして、他とは一線をかくす人気ゲームだったのよ?主人公は私、エレーナ・アナスタシア。私が学院に入学するところから物語が始まるの。そこで学園生活や貴族社会での社交を通じて出会うキャラクター達と話をして好感度をあげたり、授業や淑女教育なんかを通して魅力値だとかの能力をあげたりなんだりして、目当てのキャラクターと恋人になっていくのよ。攻略対象は主に5人、正統派王子様キャラの王太子クロフォード、強気なオラオラ系騎士リューク、育てると開花する地味貴族のピカサに、どこか陰のある年上公爵のルーベン、堅物だけど付き合うと甘い執事のジェラルド。中でもクロフォードはメインの攻略キャラで1番人気だったし、私もクロフォード推し。話が進んで攻略対象との仲が深まると見られるビジュアルとキャラボイスが最高に甘くてときめくのよ…ねぇ、少しはピンときた?」

「…すみません…」


熱く語るエレーナ様には申し訳ないが、前世はそういったものと全く無縁の人生だった。


「私は前世、このゲームをプレイしまくったの。時間もお金も注ぎ込みまくったわ。全キャラ攻略はもちろん、全攻略後にプレイできるようになる、ほんわか系国王と弟系精霊も攻略したし、とにかくやりこんできた。それぐらいこのゲーム、なかでもクロフォード様が本当に大好きだった。だからこのゲームの中に転生したってわかったときすごくうれしかったし、なんとしてもゲームのシナリオ通りクロフォード様と結ばれたかった」


そこでキッとエレーナ様に睨まれる。


「なのにあんたが横から出てきて話がおかしくなっていった。いい?あんたは名前こそあれど、ストーリーに深く絡んでくるキャラじゃなかったのよ。いわばモブ。クロフォードルートでは3度登場するだけだったし、クロフォード様との直接の絡みはなかった。なのに分岐となるあちこちのポイントでなぜかあんたが絡んできて、私の計画は台無し。あんたさえいなければ、私がクロフォード様の隣でゲームのシナリオ通り、幸せなエンディングを迎えるはずだったの。全部あんたのせいなのよ!!」


私は言葉を失った。

あんな行動を起こすまでにエレーナ様を駆り立てのは私だったのだ。


「あんた、なにがきっかけでこの世界に転生してきたの?」

「…井戸に身投げして自殺しようとしたんです。…婚約破棄されたり、親との関係に悩んだり、今までの人生について考えてしまったり色々あって…」

「ふーん、なんかつまんなそうな前世だったのね。私は前世もまぁまぁ充実してわ。自分で言うなって思われるかもしれないけど、かわいいエレーナとは違うタイプの美人で黙ってても男達が勝手にチヤホヤしてくれた。色々買ったりおごったりしてくれたわ。でも20代後半になって不安はあったのよ。こういう生活は若い時だけ、あと数年たてば今みたいにうまくはいかなくなる。そんな時に見つけたのがこのゲームだった。たまたまCMかなにかで見かけて主人公が私と似たような名前でちょっと興味がわいたの。それで始めてみたら本当にはまったのよ。たも愛のキャラは現実の男達みたいに下心まるだしで近づいてこない。私が本当にほしい言葉や純粋な愛ををくれるのよ。特にクロフォード様は私の理想そのものだった。彼の言葉を、新しい表情を見るためならなんでも注ぎ込んだ。前世で最後にカモにしてた男はそのために付き合ってたわ。いつもみたいに搾れるだけもらってあと腐れなく別れするつもりだったのに、結婚が~だの、神社の跡継ぎが~だの騒ぎ始めてね。ウザったくなったからいただけるものいただいてその男との関係を切ろうと思ってそいつの家を出てマンションに向かう途中で交通事故にあったのよ」


神社…後継ぎ…似ている名前…

自分の心臓が激しく音をたてていた。


「こうして話してみると私もなかなかかわいそうな最期ね。あら?顔色悪いわよ。ようやく私にしたコト、理解してくれた?」


エレーナ様が蠱惑的な顔で微笑む。

その顔はどこかで見覚えがあって、目の前が徐々に暗くなっていった。


コンコン


後ろから聞こえた控えめなノックの音に思わず肩が跳ねる。

見張りの兵士が面会時間の終了を伝えているのだ。


「あら、もう終わりなの?もっとあんたの罪をしっかりとわからせてやりたー」

「エレーナ様」


私はもう彼女の顔を直視することもできなくなっていた。


「最後に1つ教えてください。貴女の…前世のお名前はなんですか?」

「そんなもん聞いてどうすんの?エレナよ。サギリエレナ。さっきもいったでしょ、エレーナと似た名前だって」

「…そうでしたね…教えていただいてありがとうございました」


やっとの思いでそれだけ絞りだすと、私は牢を後にした。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] この手の物語は良い風になってるけど結局のところ現実でも問題になっている社会病質者の物語だよね?現実を見れず妄想の中で生きる哀れな人間として。
2022/02/05 09:26 退会済み
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