世界樹との邂逅1
少々長めになっております
まばゆい光の後に目を開けると、そこは精霊さん達の世界。
私達は世界樹様の根元に立っていた。
「フェリスティア~~~!!!」
ドン!という衝撃と共に何かが肩にぶつかる。
「ハロさん!!」
「バカバカバカバカ!フェリスティア!どうしてあんなあぶないことするのっ!?しんじゃったかもしれないじゃん!!」
「申し訳ございません。あぁするより他に思い付かなかったんです」
「ぼくすごく心配したんだよ!!ケガはない?」
「はい、大丈夫です。心配かけて申し訳ございません」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を肩口に押し付けて泣くハロさんの頭を撫でる。
泣かせてしまったことは反省しているが、自分のことをこんなに気遣ってくれる存在がいることに、心の底がじんわりと温かくなった。
「フェリスティア…やりきったようだな」
そう声をかけてきたのは、世界樹様だった。
女性の姿で幹に浮き出た顔はホッとしたような、煮え切らないような複雑な表情を浮かべている。
「貴方が世界樹…様、なんですね」
それまで初めて見る精霊や彼らの世界に、驚いた様子で事態を見守っていたクロフォード様が緊張した面持ちで世界樹様に最上級の礼をした。
私も慌ててそれに倣う。
「グリンフィールドの末裔だな?」
「はい、クロフォード・グリンフィールドと申します。初めてお目にかかります。世界樹様、この度は私達が至らなかったために、このようなことになってしまい、大変申し訳ございませんでした」
クロフォード様の謝罪と共に、揃って頭を下げる。
「…頭を上げなさい」
ゆっくりと顔をあげると、世界樹様は厳しい表情でこちらを―クロフォード様を見つめていた。
「クロフォードよ、そなたは王国の始祖となったバート・グリンフィールドについて知っておるか?」
「はい、すべてかどうかはわかりません。ですが、現国王である父の知りうる限りは聞いております」
「では、我とバートの間に交わされた約束も知っているのだな」
「はい、世界樹様とのお約束、そしてそれによってもたらされた、この国を支える礎については存じ上げております」
「では此度、なぜこのような―約束を、我を裏切るようなことになった」
それまでしっかりとお話になっていたクロフォード様は少し言い淀んだ。
世界樹様も唇を噛み、忌々しげにクロフォード様を睨み付けている。
精霊さん達が世界樹様に寄り添うに集まっている。
きっといつもと様子の違う母を心配してのことだろう。
私はそっと隣に立つクロフォード様の手を握った。
驚いたようにこちらを振り返る。
きっと大丈夫。
そう気持ちを込めてもう一度手を握ると、珍しく見せていた不安気な瞳は、すぐにいつもの強い眼差しを取り戻した。
「すべては私を含む王族の管理不行き届き…世界樹様からお預かりする大地の大切さを、この土地に住む者に根付かせることができなかったためであります」
今回、大地を汚した理由は色々ある。
しかし真に大地を大切にする心があれば、クロフォード様の仰るとおり、このように大地を汚すような方法は取られなかっただろう。
アナスタシア家はともかく、薬草に詳しいルモンド家が薬草が土地に及ぼす影響について知らないはずはないのだから。
「民は我の、世界樹のことを知っているのか?」
「いいえ存じ上げません。この国は先王が精霊と共に作り上げた国。それゆえに精霊の守る大地を我々も大切にしなければならない。精霊と巫女との関わりはその象徴だ、と国の始まりを語る伝承として、そのように国民達には言い伝えております」
「もしもその大地に危害を加えるならば、我はそなたら人間に同じように危害を加え、国を滅ぼす。その事を民は知っていたのか?」
「いいえ、知らせておりません」
「なぜだ?そここそが人間達にとって大切な部分だろう」
クロフォード様は握っていた手に少し力を込めた。
そっとお顔を拝見すると、優しい笑顔を返してくださる。
「先王よりあえてそれを国民には知らせないように、と代々伝えられております」
「なぜだ」
「先王は国民に世界樹様の寛大さを理解してほしい。国民達が世界樹様を恐れることのないよう、あえてこの約束の罪と罰の側面を伝えず、世界樹様が人を真に信じられるようになったその時に国民が世界樹様の存在を知らせるように、と。ただ、これを知る王族達はなんとしても世界樹様との約束を守り続けること。これが先王の願いでした」
世界樹様の目が、思いを馳せるように遠くを見る。
急速に彼の人の記憶がよみがえってきたのだ。
そうかバート、お前はわかっていたのか。
まだ人に傷つけられた小さな1本の木だった我に「君は私にとって大切な存在だ」と言い、人間の弱さや醜さ、素晴らしさを説くお前に対し、「お前のことは信頼する。人間も信頼に値する部分があるのかもしれない」などと口では言いながら、実のところ真に信じきれていなかったこと。
珍しい魔力を持つ石や、我が抱える大地を与えたり、巫女を通して、人間ではわからない知恵を授けることで、お前やお前の血筋の者との親交が切れないように、人間嫌いであるとわかり、お前に愛想を尽かされないように振る舞っていたこと。
お前はそれをお見通しで、人間が我のことを不必要に怖れることがないよう、我が人間を信じられるようになるよう、配慮してくれたというのか?
「世界樹よ、ゆっくりでいいんだ。偉大なる世界樹として、君には人々から愛されるこの国の母なる世界樹になってほしんだ。人には見えない君のことは僕や僕の子孫達が必ず守るから。どうかずっとずっと、この国の人間を見守ってくれ」
いつか、国王として立派になり、同じだけの年月を背負ったバートが、夕日を背に我に語りかけたことがある。
そうだあれはお前との最後の一時だった。
あれから幾星霜、精霊と巫女を通してバートの国を見守ってきた。
種まき前となれば豊作を我に祈り、降雨を憂い我に伺いをたて、豊穣を喜び我に報告する。
四季折々に巫女と精霊を通じ、語りかけてきた。
弱いながらも懸命に苦しみ、笑い、儚い生を繋いでいく小さな人間達。
我は確かに見守ってきた。
我を信じ、崇め続けたこの国の人間達を。
全てが良い者ではなかった。だが、全てが悪い者でもなかった。
それ故に人間は愛しいのだ。
バート、今ならわかる。
お前を真に信じられる。
世界樹様の瞳からは一筋の涙が流れていた。
「我は国を守る世界樹という立場にありながら、人間を信じられなかった」
世界樹様は遠くを見つめる目はそのままに、静かに語り始めた。
「幼気なる時の記憶が頭から離れず、人の悪い面ばかりを気にしすぎていたようだ。しかし、バートの言うとおりだった。そればかりではないのだな」
その目がふいにクロフォードとフェリスティアをとらえる。
「クロフォードはグリンフィールドの末裔として、長きに渡りバートと我の約束を守ろうとし続けてきた。フェリスティアは我と人、双方を想い、架け橋となるべく命をかけた」
そして微笑む。
「グリンフィールド王国の民達も、決して皆が大地を蔑ろにしているわけではない。全く…国の民の心の内など見ようと思えば、いつでも見れたものを。我は見たくないものを恐れ、真に見るべきものを見ていなかったのだな」
「お前達にも我が見ているものを見せてやろう」、そう世界樹様が仰ると、私達の脳内に直接、目で見ているものとは別の景色が飛び込んできた。
地面に跪き、森に向かって祈りを捧げる家族。
神殿を訪れ、大地の浄化に役立ててほしいと寄付をする男性。
金色の雨にうたれながら、大地の汚れを憂い泣く女性。
大地の大切さを幼い子供達に説く老婆。
大地の事をそれぞれに大切を思っている姿だった。
「君が城を飛び出していった後、家臣や集まっていた貴族たちに、嵐からの避難と一緒に今回の騒動の顛末を国民に伝えるよう頼んでおいたんだ。今のはきっとそれを聞いた者達だ」
クロフォード様がそっと教えてくださった。
「クロフォード、フェリスティア」
世界樹様が優しく呼びかける。
「長きに渡り、すまなかった。今回の件を赦そう」
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